TAF2012・山本寛監督ショートアニメ『blossom』を発表

「東京国際アニメフェア2012」で山本寛監督がショートアニメーション『blossom』を初公開。東日本大震災のチャリティプロジェクト『Project blossom』を発表!

 『かんなぎ』や『フラクタル』などのアニメーション監督のほか、『私の優しくない先輩』といった実写映画でも監督として活躍する山本寛氏が、ショートアニメーション『blossom』を3月24日、東京国際アニメフェア2012のステージイベントで初公開した。

 東日本大震災以降、『かんなぎ』の舞台となった仙台を訪れ、その後も名前を伏せて9回程炊き出しなどボランティアとして活動した山本監督。その山本監督と映像監督のグレゴリー・ルード氏が震災から1年経ち、世界中の人々に改めて被災地に目を向けてもらうことを目的として、世界に向けて発信する東日本大震災のチャリティプロジェクト『Project blossom』の第1弾企画が今回のアニメ『blossom』だ。

 ちなみに『blossom』は、震災で荒廃した大地に種を蒔く老人と背中に翼の生やした天使が描かれた約5分のショートアニメーションとなっている。さらに山本監督をはじめ国内のアニメーション作家と、海外のアーティストとのコラボレーションによって制作され、今回はアイスランドを代表するロックバンド「シガー・ロス」の楽曲とのコラボレートした作品が公開された。



左から、プロデューサー・竹内宏彰氏、司会・千葉麗子さん、原作/絵コンテ/演出・山本寛氏、海外プロデューサーのグレゴリー・ルード氏、スーパーバイザー:クランチロール日本代表のビンセント・ショーティノ氏。

左から、プロデューサー・竹内宏彰氏、司会・千葉麗子さん、原作/絵コンテ/演出・山本寛氏、海外プロデューサーのグレゴリー・ルード氏、スーパーバイザー:クランチロール日本代表のビンセント・ショーティノ氏。

発表当日は、山本監督のほか、司会を務め自身も福島県出身という千葉麗子さん、プロデュースを務める竹内宏彰氏、海外プロデューサー・映像監督のグレゴリー・ルード氏、クランチロール日本代表のビンセント・ショーティノ氏が登壇しプロジェクトについて説明。その中でグレゴリー氏は「今回のアニメをはじめとして、世界的に色々な形でアーティストに参加していただくプロジェクトの始まりにしたいと思います」と話した。

そして山本監督も「グレゴリーさんからのオファーがあって作らせていただくことになったのですが、東北に対してはまだお付き合いをしていない状態ですので、この作品が僕の東北へのラブレターだと個人的に思っています。悲劇として忘れてはいけないではなく、これから東北がどれだけ復興を遂げられるのかを世界中の人たちにアピールしたいと思っています」と作品へ込めた思いをコメントした。

なお、今回ステージ後に山本監督へインタビューを行うことができたので、山本監督のコメントをご紹介!




――TAFのステージでアニメーションを披露されましたが、今のお気持ちをお聞かせください

山本寛監督(以下、山本):間に合ってよかったです(笑)。厳密に言うと間に合っていないのですが、色がついたものがお見せできてよかったですね。たくさんのお客さんが来てくださって、こういうテーマに対して世界の方々が注目している証拠なんだなと思いました。

――震災当時は何をされていましたか?

山本:『フラクタル』を作っていて、大苦戦して打ちひしがれているなかで震災が起こって頭の中がパニックになりました。最終話の追い込みの段階で納品直前だったのですが、そこで色々な感情が渦巻いて、なぜか分からないのですがこの難局に立ち向かっていこうという勇気が沸いたんです。アニメという表現が社会に貢献できるか、コミットできるかは分からないのですが、そういう混乱状態だからこそとことんやってやろうじゃないかという一種の開き直りが生まれてそこからですね、東北に何度も足を運ぶようになったのは。

 そしてタイミングを同じくして以前監督をした『かんなぎ』のモデルとなった町も大打撃を受けていまして、偶然ツイッターを見かけて「何かお手伝いできませんか?」と名乗りでたんです。それから関わるようになって、表現者の自分にとってもこれは大きなテーマになるぞと確信を持ちました。

――ボランティアで実際に被災地に行かれたということですが、いかがでしたか?

山本:ずっとテレビの映像を見ていましたし、ネットでも動画を見続けていたので、情報としては知っていたのですが、やっぱり言葉にできないんですね。南相馬の観光課の人に案内をされて被災した場所を見て周ったのですが、「この辺は集落になっていて」と言われても見渡す限り更地なんです。全部流されてしまっているのでかつてここに町があったというのが想像できないんですよね。それを見たらそこに住んでいた方々に対して、安易に「お察しします」とは言えないと思っていて、僕らには想像できない大きな悲劇があるんだろうなと、その辺が僕と東北の距離感の取り方だと思っています。

――アニメーションについてお聞きします。絵のタッチが独特でしたが?

山本:そうですね。パステルに近いデルマという素材を使って主線を描いています。これは実はグレゴリーさんに「日本のアニメっぽいのは嫌だ」と言われて、「じゃあ、なんで日本で発注するんだ?」ということなんですけれども、それはひとつのチャレンジとしてやろうよということになったんです。ただデザインなどすべて海外ナイズするのもおかしな話しなので、日本で作る以上は日本風のキャラクターデザインを残しつつ、タッチの部分でどれだけ海外の人にも見やすい表現ができるかということを試した結果が現在の形です。

――制作の過程は普段のテレビアニメーションと一緒なのでしょうか?

山本:いや、トライアンドエラーの連続で凄く大変でした。「これは上手くいかない、これは上手くいくんじゃないか? このカットでは上手くいったけど、このカットでは上手くいかない」というのが最後まで続きました。日本のアニメは大量生産しなくてはいけないので、線の引き方から色の塗り方まで様式を統一しなくてはいけないんです。今回はそういうことを一切取っ払って、色塗りのやり方からテクスチャーの貼り付け方から線の引き方まで徹底的にワンカットワンカット拘ってみようということで始めたので、その結果拘りすぎてまだ完全に完成とはいきませんでした。

――アニメーションの画は手で描かれているのでしょうか?

山本:はい、全部手で描いています。コンピュータでは出来ないと思いますね。仕上げ用語でいう色替えというものがあるのですが、今までも夜は夜の色、朝は朝の色というシーンごとの色替えはあったのですが、今回のように徹底してカットごとの色替えは初めてで、繋げてみてバラバラに見えないようにしなくてはいけないので大変でした。でもやりがいはありましたし、今まで時間的に拘りたかったけど拘れなかった部分でもありました。今後ももっともっと煮詰めていこうかなと思っています。

――天使とおじいちゃんが作中に登場しましたが、その関係性は?

山本:ひとつ言えるのは天使は結局なにもしていないんです。復興支援すればいいのに見ているだけなんですよ。結局ある意味部外者である僕らと当事者との距離感を一種のメタファーとしているのかもしれませんね。直接的にメッセージを送るというのは現時点ではできないような気がしたので、だから何もしない天使に託して表現できないか、おじいちゃんに代表される被災地の方々にどうやって接することができるか、というのを試した結果が『blossom』かなと思います。僕らが天使というのは上から目線で申し訳ないのですが……。

 おじいちゃんについては、実はモチーフとなっている実話があるんですよ。岩手県の大槌町というところで菜の花プロジェクトというものをやっていて、まさにこの作品と同じように、たったひとりのパワフルなおじいちゃんが、津波で逆流した川の瓦礫除去から始めて、そこに菜の花を植えるという壮大なプロジェクトを立てたんです。僕も去年現場に行って、実際にそのおじいちゃんに会ったのですが、まさに『blossom』のおじいちゃんみたく非常にパワフルでした。せめてあのおじいちゃんが大槌町の川原に蒔いた種ぐらいは芽吹いて欲しいと思っていて、だからちょっと実話とリンクしているんですよね。

 この辺は復興というテーマ全体に関わることで、本当に可能かどうかというのは僕らが軽々しく口にしてはいけないと思うので、その辺を含めたアプローチをしていかなくてはいけないなと思っています。できれば実際に大槌町で咲いている菜の花が見たいですね。

――それではスタッフについてお聞きしますが、海外のスタッフと一緒にしてみていかがでしたか?

山本:海外のイベントには行ったことがあるのですが、海外の方と一緒にもの作りをするのは初めてでした。こちらも手探りだったのですが、グレゴリーさんもアニメの経験がまったくなかったらしくお互い手探りの状態だったのですが、震災に向けて何が出来るか? ということを真剣に話し合った結果この作品を完成させることができました。

――5分のショートアニメーションとなった理由は?

山本:これはシガー・ロスの曲にあわせたからです。最初は違う曲だったのですが、グレゴリーさんの提案でこの曲にしようということで、シガー・ロスを持ってきていただきました。そのシガー・ロスの曲の尺に少しのアバンを付け加えて5分強としました。

――今後もコラボレーションをしていくということですが?

山本:まだプランニングの段階なのですが、グレゴリーさんが海外のアーティストを引っかき集めて『We are the world』状態にしようと計画をしているらしく、海外のアーティストと僕ら日本のアニメ作家、まあアニメ作家に限らないと思うのですが、映像作家たちがコラボレーションすることによって、日本と世界とを密接に結びつけてそれをすべて東北への思いという形で還元しようということになっています。『Project blossom』はさらに大きなプロジェクトのあくまでも第1弾なので、もっともっと大きなプロジェクトになるのではないかなと思います。

――このプロジェクトは山本監督の作品に限ったことではないのですね。

山本:そうです。アニメーションの『blossom』も包括する総合的なキャンペーンで、いま色々と準備をしています。まだ分からないのですが海外のアーティストが積極的に来日してくれたりとか、そこでライブをやりつつ後ろで映像を流したりとか、そういうことも可能性としてはあるかもしれません。

――『blossom』は今後どのような形で公開してくのでしょうか?

山本:ゆくゆくはビンセントさんが運営しているクランチロールというサイト他いろいろな所で配信する予定です。大々的に派手な宣伝を打って派手なメディアで公開するような作品ではないと思っているので、最初はイベントの範囲での上映会から始まって、最終的には世界配信をして、それをチャリティに繋げるという予定になっています。

――それでは最後に皆さんへメッセージをお願いします。

山本:説教をたれたり、何か強いメッセージを押し付けたりする作り方をしたら最後だと思っているので、どのように作品を捉えていただいてもいいですし、色々な解釈があっていいと思います。それとは別にアニメを通じて東北とどう関わっていくか?というのが僕の大きなテーマに既になっていますし、それがちょっとでも共有できたら嬉しいですね。「僕のことは無関心でも東北のことは無関心でいないでください」という思いです。作品をとおして何か東北を思い出す瞬間があっていただければ幸いです。

――ありがとうございました。


『Project blossom』公式サイト

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