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鈴村健一さんが『WUG!』早坂相に込めたこだわりとは?

行間から呼吸を読み取るのが声優の仕事。鈴村健一さんが『Wake Up, Girls!』早坂相に込めたこだわりとは?

 続・劇場版 後篇『Wake Up, Girls! Beyond the Bottom』が2015年12月11日(金)から2週間限定で公開中です。WUGちゃんを取り巻く魅力的な大人たちを演じるキャスト陣に行なってきたインタビューも第3弾。ラストはなんと早坂相役としては初のインタビューとなります! 早坂相役の鈴村健一さんにお話を伺いました。

 ノウハウもない仙台の弱小事務所・グリーンリーヴスに集まったWUGの七人に、アイドルとしての気持ち、技術、体力の基礎を叩きこんだのが早坂相でした。I-1clubをはじめとする多くのトップアイドルに楽曲を提供し、WUGの岐路に常に関わってきた気まぐれな天才を、鈴村さんがどのような気持ちと意志で演じてきたのか。演技論や仕事論を含めてじっくりと語っていただきました。


■ WUGに関わることは、自分が緊張感を持ってモノを作るためでもあるんじゃないか。

――早坂役としてのインタビューは今までにありましたか?

早坂相 役・鈴村健一さん(以下、鈴村):初めてなんです。早坂という役は本当にいい役を頂いたと思っていて、すごく光栄なんですが。役のことを話すのは初めてです。


――貴重な機会を本当にありがとうございます! では入口から、早坂役との出会いから教えて下さい。

鈴村:早坂に関しては指名でお話を頂きましたね。


――山本寛監督が指名でキャスティングする時は、監督の過去作品に出演して信頼できる役者さんのことが多いと思います。山本監督の作品への出演経験は?

鈴村:前の年に『戦勇。』という作品に出演させて頂いて、それ以来ですね。


――フォイフォイ役でしたね。では『戦勇。』つながりということで、早坂役に決まって山本監督と何かお話されたりは?

鈴村:実は、監督とはあまり話してないんですよ(笑)。わりと僕は放置状態だったので、早坂に関しては好き放題にやらせて頂いてます。最初に一言だけ監督から言われたのが「ヒャダインさんと小室哲哉さんを足して二で割った感じでお願いします」ということでした。


――天才肌で、ちょっと軽薄な感じでしょうか。

鈴村:そういう感じだということで、すごく難しいなと思いながら演じました。最初に初期のキャラクター表をもらったんですが、その時はシルクハットをかぶった、黒いスーツみたいなのを着ていて。 そのイメージで「ちょっとエキセントリックな感じのキャラなのかなー」と思ってスタジオに行ったら、帽子かぶってるキャラいねーなーと思って。オンエア見たら「あ、全然違う!」となりましたね(笑)。


――テレビシリーズの最初の頃は、ちょっとそのシルクハットのイメージが残ってたんでしょうか?

鈴村:しばらくやって、あ、これはもう帽子はかぶらないなと(笑)。アフレコの時は絵が完成していない分、演出の指示を聞きながらそれに合わせていく感じなので。あ、ビジュアルがここまでスタイリッシュな感じなんだ、というのは映像を見てわかりましたけど、演技自体は演出の指示通りに演じたので、絵にも合ったかなとは思います。


――監督からの指示は「ヒャダインで小室哲哉で」と伺いましたが、そこから鈴村さんはどんなイメージで役を作って行ったんでしょうか。

鈴村:そうですね、なんていうのかな。「距離感がちょっと変な人」って感じでしょうか。全体として思うんですけど、自分から寄って行って「こうしよう」「こうしたら」とアドバイスをする時と、一切もう「関わらないでくれ」っていう時のギャップがすごく激しい人なんですね。なんかこう、自分のタイミングによって人との距離感ががらっと変わる人。基本になる人との距離感は遠いタイプなので、単純に「天才肌」というか、天才すぎるが故にあまり周りを信用してないタイプの人間なのかなとイメージしていました。


――極端ですよね。無料で曲書いてレッスンまでやってって業界人としてはダメですよね(笑)。

鈴村:なんかブラックジャックみたいですよね。一千万円取る時もあるけど、ラーメン一杯で手術してやる時もある、みたいな。


――ブラックジャックはわかりやすいですね! 『Wake Up, Girls!』は物語のクライマックスの続・劇場版 前後篇まで来たわけですが、早坂の視点でこれまでの物語をご覧になっていかがですか?

鈴村:早坂は最初は、なんのためにこんなことしてるんだろうっていう謎のキャラクターだと思っていましたね。作劇のパターンで言うと、冒頭にこれだけ主人公たちを追い詰める展開があると、ここからは「実はいい人だった」的な展開が待ってるんじゃないかと思ったら、そういうお約束的な展開はあまりなかった。でもそこがリアルでいいなと思ったんです。最後のシーンで、早坂と白木(徹)さんと二人で話すシーンがあって、そこに早坂らしさがかなり集約されている気がするんです。やっぱりそれでも、こういうエンタメの仕事が好きだよね俺たちっていう感じに。作品全体の空気感がすごくリアルなところを狙っていると思うんですよね。早坂にはわかりやすい浪花節はなかったんですけど、だからこそ、この作品にすごくフィットしていたし、作品に貢献していたキャラクターかなぁと思いますね。


――物語のために動くというよりは、早坂がイラッとして助けたいから助けるし、突き放したいから突き放すし、みたいな感じはありましたね。キャラクターがそれぞれに動いている。

鈴村:そうですね、うん。「いそうだな、こういう人」って感じでしたね、早坂は。職人気質というか天才肌過ぎちゃって。仕事はできるんだけど、周りからは「この仕事ができてなかったら大変だよねあの人」って思われちゃうような人。エンタメ業界っていうのはそういう人も、そういう人だからこそ生きられる場所というか、一風変わった人間に寛容な世界だと思うんです。


――駄目なところもあるけど、専門分野ではすごいパワーを発揮する。

鈴村:そうですね。でも、どの業界もそういうところってあると思うんです。ドラマの『下町ロケット』なんか見ても、人付き合い下手だけど鉄削らせりゃ世界一みたいな人いるじゃないですか。そういう職人の世界に通じる部分は感じますね。


――早坂は言動からは内心が読めない、つかませないことも多いですが、演じる上ではニュアンスを乗せていかないといけないですよね。早坂の内心に関するディレクションはあるものなんですか?

鈴村:基本的にはなかったですね。


――では鈴村さんの感覚で。たとえば劇場版でいうと、前篇のラストでWUGちゃんに手を差し伸べるじゃないですか。いつから様子見てたんだよって感じで。

鈴村:ああいうところ見るとちょっとストーカーなんだよね、早坂ね。あいつらは必ずあきらめないぞって張ってたのかなって思うとね、「お、早坂いいやつじゃん」とか思うんですけどね(笑)。

――あそこで助けるのは、早坂はどういう心理なんでしょうね。

鈴村:うーん、これはいろんな捉え方があるなぁと思っていて、逆にいうとこれは見る人に自由に捉えてもらった方がいいなぁと思うんですよね。いろんな捉え方がある中で、本当に心配して、情がわいてというがまずひとつあるとは思うんですけど。もうひとつはね、なんとなく「自分のためなのかな」って気もするんですよ。早坂のようにモノを作ることをやっていくと、この人もすごく売れっ子の作家さんなので、絶対にこう、ものづくりってルーティーン(慣習)化していくんですよね。そういうルーティーン化していく中でモノを作るのってすごくしんどいんですよ。ルーティーン化、パターン化しないように新しいものを作りたいって気持ちが、ものを作りたい人には必ずあるはずなんです。

僕も実際そうですし。そうやってものを作るときに「次、同じことをやりたくない」と考えると、I-1clubに代表されるすごく売れてるアイドルたちに曲を書いたりするのは彼にとってすごくルーティーンで、そこから外れたことに絶対興味があるはずなんですよ。かといって、マイナーなことだけに絞ってものを作るのもそれはそれで違う。メジャーでもマイナーでも「刺激を求める」ということが、彼が創作活動するために必要で、それがあっての行動でもあったのかな、と思います。


――WUGが東京進出して書いてほしい、「少女交響曲」の次を書いてほしい、といった依頼を断るのは、WUGとの関係でも緊張感がなくなるのは嫌ってことなんでしょうか。

鈴村:そうやって緊張感を持っていかないと、ただの変な人だし、ただの嫌な人なんですよ。で、やっぱりもの作りは究極的には自分のためにやる。作品を作る、創作するということは「自分が何をしたいか」がまずコアにあって、それをお客さんがどう受け取るかは自由だと思うんですね。でもやっぱね、自分が何をやりたいかだけは自分が持ってなきゃいけない。そういうものが根っこにある人なのかなと思うと、「あ、いいな」って思いますよね、早坂。僕はそういう風に捉えているから早坂好きなんですよ。共感できるところもある。


――ものを作る立場での共感的な。早坂はWUGのメンバー(キャスト)にもすごく人気があって好かれてるんですよ。

鈴村:そうなんですか。早坂はただの嫌な人じゃないんですよね。筋が通っているように見えるというか、そこがさっき言ったものづくりに対する信念なのかなぁと思います。


――早坂も、WUGのことは気に入っているし認めてる感じはありますよね。

鈴村:おそらくね。この人もすさまじいプロですから、見どころがないとやらないし興味も持たない。原石というものをどうやって磨くかを考えている。その上で、やっぱ自分たちで頑張ってほしいっていうのもあるでしょうね。自分は頑張るし、みんなも頑張る。ものを作るって、一人の人が突出した「ワンマンなものづくり」って限界があるんですよ。

アニメとかもそうですけど、監督がすごくても絵を描く人がへにゃるとダメだし、役者もそれに追いつくように頑張らないといけない。みんなそれぞれのセクションですごく一生懸命働かないといいものってできないんですよ。だから「自分は頑張った。お前らも頑張って当然だろ」と思ってるアイレベルを、若い子に対してもぶつけてるってことだと思うんです。そのアイレベルを下げてあげない、下げないところが、逆にすさまじくかっこいい大人だなと思うんです。今の世の中の風潮って「若い子にはアイレベルを下げなきゃいけないよ、ついてこないよ」だと思うんですけど、やっぱりものを作るっていうのはそういうことじゃないなと思っていて、早坂はそれを実践できるかっこいい大人なんじゃないかなと思います。


――早坂は自分でWUGちゃんを鍛えあげて磨き上げる一方で、おいもちゃんのままでいてほしい、みたいな相反する印象も受けるんですけど、そのあたりってどう思われますか?

鈴村:そこは僕もずっと悩んでいて、売れてくれるなと思っているかのように見えることもあるんですけど、たぶんそうじゃないとは思うんですよね。早坂が望まないのは「スレる」とか「業界ズレ」するとかそういうことだと思うんですけど、それってさっき言った「ルーティーン」に近いと思うんですよ。いつも刺激がないといけないなと思っていて、新鮮味がないと、毎日同じ時間の電車に乗って同じ時間の電車に乗って帰る仕事のスタイルと一緒になってくるんですよね。

エンターテイメントの世界って外側から見ると刺激的に見えるし華やかに見えるんですけど、実際その中にいると、ルーティーンに偏っちゃうんです。人はルーティーン化した方が絶対楽だから。それがたぶん「スレていく」ってことだと思うんです。「こういう場合はこうしておけばいいですよね」という風に置きにいくような考えを話すようになったらたぶんダメなんです。そりゃね、常に求められたことには応えなきゃいけないんです。でも、セオリーに甘えないで、もっと新鮮に、本当に熱量もってやることだよ、っていうことが「芋のままでいろ」ってことなのかなと思います。「初心を忘れるな」みたいなことですかね。「常に新鮮にいなさい、この業界では」っていうことを言ってるんだと、僕は捉えて演じていました。

――鈴村さん的にWUGというユニットをどう捉えているかについても伺えますか?

鈴村:作品の中でのWUGってのはすごく不思議な子たちだなって思いました。不思議っていうか、リアルって言ったらいいのかな。アイドル物的な作品ってやっぱりこう努力、根性、みたいな、ある種のスポ根みたいなとこがあって、「頑張る」ということにカタルシスを描くことが多かった気がするんですけど、『Wake Up, Girls!』って「ヘタれる」ことを描いていることも多くて、どんどん乗り越えるっていうよりは、乗り越えられなくても生きていくっていうことをやってる気がするんです。作劇的に言うのなら、なにかを乗り越えた瞬間に熱量が生まれるってことが基本だと思うんですけど、結構そのセオリーを外している感じがするのが、すごく面白いなと思っていました。

もちろんみんな頑張っているんだけど、「なんかもう、面倒くさくなっちゃった、やめようか」とか、そういうのもある感じを土台に描いている感じがして。そういうもんだよな、人って、と感じてます。でも、それに対して現実のWUGの子たちが現場で話しているのが聞こえてきたりすると、みんなすごく一生懸命ライブの話とか、踊りを覚える大変さとかを話してるんですね。彼女たちの振付、アニメと同じなんですよね? だから、アニメのアフレコの時、ダンスシーンの完成イメージとして、ワイプで彼女たちが踊っている映像がアフレコの画面に出ていたんですよ。

それを見たらものすごく一生懸命踊っていて、集中力もすごく高いから、「一生懸命やってるなぁ」と。今の世の中、アイドルもアイドルを描く作品もたくさんある中で、今目の前にあるこの作品だったり、このキャラクターっていうものをやりきろうという強い意識を感じたんですね。だから僕は、現実のWUGの子たちの方がアニメ以上に熱血を見せてくれていて、スポ根していて「現実とアニメが普通と逆じゃね?」と思いながら見ていました。


――オーディションで選ばれて、キャラクターに自分の名前がついてというコンセプト自体が特異ですよね。

鈴村:昔のアイドルアニメってそんな感じでしたよね。それをモチーフにしているところもあるのかな。そういう意味ではちょっと昭和の匂いがするんですよ。


――『アイドル伝説えり子』とか、中山美穂のゲームとかありましたよね。

鈴村:あれ、田村英里子さんでしたからね。江口洋介さんだって『湘南爆走族』(の江口洋助)からそのまま名前を取ってますからね。 あ、でもあれはたまたま一緒だったんでしたっけ…。


――それは初耳でした! ちょっとやわらかい話になりますが、鈴村さん的推しアイドルはいますか?

鈴村:おばあちゃんがいっぱい応援している子、 片山実波ちゃん。僕この子が好き。あと最近田中美海さんと最近レギュラーが一緒(『シュヴァルツェスマーケン』)だしね。ああいう下町的空気感が好きだったんですよ、見ていて。ああいう子がアイドルになるんだなとか思うと。なんかいつか売れて周りに恩返しするだろうなと思うんですけど、でも急に買い物しにパリ行ってきたんだけどみたいな風にならないで欲しい(笑)。実波ちゃんはいつまでも巣鴨とかにいてね、カレーうどんとか食ってて欲しい。そういうのがいい(笑)。


――続・劇場版にはいろいろユニットがあるんですが、早坂役である鈴村さん的にプロデュースしてみたいユニットとかありますか?

鈴村:そうねぇ。僕、こういう作品に参加していながらなんなんですけど、子どもの頃からアイドルというものに興味を持ったことがないんですよね(笑)。僕が子どもの頃もアイドルブームで、おニャン子クラブだったり、松田聖子とか、ピンクレディーとかもいたし……すごい時代だったはずなんですけど、全くわからないんですよ。


――特撮一筋で。

鈴村:そっちばっかりいっちゃったんだよね。だからどのアイドルが、とかはおこがましくて言えないんだけど(笑)、だからそんな僕がプロデュースするなら……うん、丹下社長とサファイヤ麗子さんにします。「またやる?」って言ってたでしょ。


――日髙のり子さんと佐久間レイさんは昔NHKでアイドルをやっていたお二人でもあります。

鈴村:あの二人を僕がやるよ、そうしよう(笑)。日高のり子さんは僕が子供の頃、アイドルでしたし、今でもなんでもできそうですし!僕にとっては『バトルフィーバーJ』に出てた方が印象的でした。


――『タミヤのRCカーグランプリ』とか懐かしいですね。

鈴村:そうそう、ナレーションが小倉智昭さんでね。好きだったなぁ。というわけで丹下社長とサファイヤ麗子さんのユニットをやりましょうね。昭和のフォークアイドルで。


――bvexからデビューということで(笑)。アフレコ現場で印象に残ったことがあれば伺えますか?

鈴村:一番印象に残っているのは白木役の宮本充さんです。白木の役がいつも「面白いな」「あの役を自分が頂いたらどうやるんだろうな」と思ってみてました。宮本さんてね、声も二枚目だし、キアヌ・リーブスの声を演じたりする方だし、ご本人も男前じゃないですか。なのにあのおっちゃんかよって思うと面白かったですね(笑)。

でも、感情を殺しているのか、それとも表に出ないんだかわからない、それでいて感情的に聞こえるあの話し方はすごいなといつも思っているんです。最後のシーンで一緒に話すのはね、なんか感慨深いものがありましたね。


――早坂と白木ならではの通じ合う感じというか、お互いわかってることをわかってる感じがありますね。

鈴村:そうなんですよね。その感じが、演っていて楽しかったって気がします。早坂は本当においしい役っていうか素敵な役を頂いたなと思います。最初はこんなにフィーチャーされるキャラじゃないだろうと思っていたんですけど。


――下野さんも、大田よりWUGちゃんとI-1のこと描いてあげてと仰ってました。

鈴村:僕もそう思った。結構出てくるから、申し訳ない気持ちになっていた気がしますね(笑)。

――アフレコの中で、ご自身の演技で印象に残ったシーンってあります?

鈴村:あのー、早坂が足をスパって上げて組み直す動きをね、よくするんですよ。シュバって。台本のト書きに「足組み直す」みたいなのがたまに書いてあるんですけど、正確にどのタイミングで組み直すかは、アフレコのタイミングではわからないんですね。それで、ここの語尾に間があるから、ここで上がるかなと思って、なんとなく足を上げる感じでしゃべっていました。誰にも何も言われてないんで、本当に合ってるかどうかわからないけど(笑)。でも、こないだそのシーンを映像で見たら、ちゃんとそうなってました。だから足上げるとか、そういう細かい芝居を自分の中でイメージしてやっていました。

――そういう身体性を台本から読み取ってるのはすごいですね。絵で見て当たってたらちょっと気持ちいいですよね。

鈴村:そうなんです。でも、絵の側で当ててくれたのもあると思うんですけどね。コンテにちょっと矢印描いてあったりするんですよ。足こっち、みたいな。それで「ああ、ここ上がるんだな」とか、勝手に想定してました。


――そういう時、音響監督さんとかにタイミングを確認したりしないんですか?

鈴村:台詞の構造上そうなってるな、と思って。長いの場合、セリフとセリフの間に説明できない謎の間があったりするんですよ。口パクっていうのは基本的に意味があるもののはずなので、なんでここに間があるんだろう?ってなったら、やっぱり監督だったり作画の人の意図があるんですよ。自由なタイミングではしゃべれない僕ら声優の仕事で大切なことは、行間を読むってことなんです。だから、この間はなんなんだろうってのを考えてト書きを読むと「あ、足を上げるんだ、なるほどね。じゃあ、ここで足を上げるから、その手前の呼吸は……となるんです。


――足を上げながらの話し方ってどんな芝居になるんでしょう。

鈴村:足を上げるって、お腹の周りの筋肉を使うんですよ。だから声の出し方自体が微妙に変わるはずなんですね。そういう意識をもってしゃべる。それで、ここにそういう動きがあれば間が埋まるはずって。この作品に限らず、基本的にはそうやって仕事をしてるんです。台本から読み取るっていうのはそういうことですね。


――それが出来上がった作品できちんとつながるということは、脚本からコンテ、声優の芝居、その後の作画までに共通した意識があるんですね。

鈴村:役者も作品を作る同じピースのひとつなので、それを感じ取れるかどうかが役者の仕事かなぁといつも思ってやっています。そのあたりについては「シーンの意味を聞いたら野暮」みたいなとこがあるんですよ、僕の世代は(笑)。若い子は結構聞くんですけどね。聞いたら負けな気がしていて、僕に関しては基本的に聞かないようにしています。それは僕が読み取るものなので、プロとしてお金を頂いている以上、そこでお手を煩わせるわけにはいかないと思うんです。もちろん、それでもわかんないときは聞きますけどね。でも基本的に、こっちから必要以上に聞いたり意見を述べたりはないようには心掛けてるんです。それは役者として。


――WUGの歌はTwinkle、そして早坂が作ってきましたが、サファイヤ麗子さんが作ることについて早坂はどう思っているんでしょうね。

鈴村:誰が作ったとかはあんまり気にしてないんじゃないかな。それ以上に、WUGに頑張ってほしいというか、WUGらしくいてほしいってことな気がしますね、早坂に関しては。そうじゃないとやってられそうにないと思う。早坂は他を気にするタイプではなくて、 そういう普通の人が引っかかるであろうところから、まったく外れている。浮世離れしてる気がします。そんなことはどうでもいいよ、と。自分が作る作品はこうあるべきだということに注力していて、他人のものは他人のもの。それをどうするかは自由だから頑張りたまえよ、って感じですね。そういう無関心と寛容さはあると思います。


――ちょっと劇場版からは離れるんですが、せっかくの機会なので。テレビシリーズで早坂が「林田藍里を切り捨てる」と言ったのって、早坂絡みではすごく大きな出来事だったと思ういます。あの時早坂ってどう考えていたんだと思いますか?

鈴村:普通のことだと思って言ってると思いますね。常識的というか。どんな仕事でもそうですけど、やっぱりこう、合わない人っていうのはハマらないし、だからみんな転職したりするんだと思います。そういう風に世の中できていて、だからハマるところをみんな一生懸命探して仕事しようとしているし、ハマるところがあれば一生懸命頑張れるし。僕は仕事って好きじゃなきゃやっていけないなって思ってます。僕がこの仕事を二十何年もやれてるのは、本当に毎日、楽しいからやれてるんですよね。

世の中仕事がつらいつらいって話を聞くと、「ハマってないんだな、大変だな」って思っちゃうんですよ。そういう風に考えていくと、早坂の言葉って、逆に言えば優しさというか。やめろと言ったけど、自分で乗り越えてでも頑張っていくならやればいいと思うし。だから僕は早坂めちゃくちゃ優しいなと思いましたね。


――早坂の行動には色々な見方があって、一回かき混ぜて突き放すことで奮起を期待しているんだ、という人もいると思います。どちらかというと、切り捨てる優しさも本気だし、乗り越えて食らいついてきて伸びるならそれもよし、という感じなんですかね。

鈴村:そういうことな気がしますね。あきらめるために背中を押すことも、時には優しさなんじゃないかってつもりで演ってました。他人の人生を簡単に手のひらで転がすなんて、かっこわるい大人がやることなんです。一回切り捨てるポーズを取って、這い上がってこいなんて漫画みたいなことをやる作品ではない気がするんです。アニメですけど(笑)! そう考えると、やっぱり現実っていうものは時に残酷で、他人から見ると厳しく見えても、後になって考えると、すげぇ優しいことしてくれてたんだなって思うこといっぱいあると思うですよ。早坂はそういうイメージでした。


――続・劇場版 後篇ではアイドルの祭典の激闘が描かれましたが、彼女たちの物語はこれからも続きます。もし続きが描かれるとしたら、WUGちゃんたちにこんな風になっていってほしい、というイメージはありますか?

鈴村:やるからには、ここから先もリアルにやってほしいですよね。アイドルって、何かしらの転機が必ず来るじゃないですか。結婚して引退しちゃう人もいるだろうし、独立して個人で大女優になった人もいるだろうし。なんかこう、人生にはいろんな選択肢や展開があると思うんすが、それってアイドルにはタブーじゃないですか。アイドルアニメでやることではないと思うんですけど、それをね、山本監督にやってほしいなぁ。その、アイドルが虚像じゃなくなる瞬間を。誰が見たいかはわからないですけど。あとリアル路線でなければ、魔界から来たアイドルと戦ってほしいですね。魔界アイドルトーナメント編をやってほしいですよ(笑)。

――次は「宇宙アイドル対決だ」みたいな。

鈴村:残虐アイドルがやってきてね、残虐アイドルってなんだよみたいな。そういうのと戦うんですよ。「ここは私に任せて先に行って」とかそういうやつをやってほしいと、それはもう、常に言ってますよ。自分で出てるアイドル物でもそれ言ってますよ、いつも(笑)。そうなったら、早坂は新シリーズ1話ですぐ殺されそうだな……。


――早坂はプロデューサー四天王でも最弱。

鈴村:それそれ(笑)。


――では、最後に鈴村さん的な続・劇場版後篇の見どころとアピールをお願いします。

鈴村:WUGちゃんたちが「ついに何かを達成する」というところが見どころだと思います。WUGってずっと不遇だったからね。売れたかな、と思ったらダメだったり、それで一度仙台に戻るとかを繰り返してきた彼女たちが、ついに大舞台に立ってことを成す。そういう意味では、今まで応援してきた人たちがおそらく見たかった、すごく大きなカタルシスがある作品になっていると思います。そこが今回の見どころですよね。WUGちゃんのひとつの集大成を描くところをぜひ見てほしいなと思いますね。その中で早坂相という男も頑張ってますので。


[インタビュー&文・中里キリ]


★7分で分かる!Wake Up, Girls!&初期作品については特設ページをチェック!!


■ 公開情報
続・劇場版 後篇「Wake Up, Girls! Beyond the Bottom」
2015年12月11日(金)より2週間限定公開

【STAFF】
原作・脚本 /Green Leaves
原案・監督 /山本寛
キャラクターデザイン・総作画監督/ 近岡直
音楽 /神前暁 MONACA
アニメーション制作 /Ordet×ミルパンセ
製作 /Wake Up, Girls!2製作委員会
配給 /東宝映像事業部

【CAST】
[Wake Up, Girls!]
吉岡茉祐、永野愛理、田中美海、青山吉能、山下七海、奥野香耶、高木美佑 他

[I-1club]
大坪由佳、加藤英美里、津田美波、福原香織、山本希望、明坂聡美、上田麗奈 他

【ストーリー】
 東北代表として出場した「アイドルの祭典」での活躍が認められ、アイドル文化の中心地・東京に進出した「Wake Up, Girls!」。メジャーレコード会社bvexとの契約も決まり、活動は順風満帆に思えた。だがブレイクの立役者だったプロデューサー・早坂相が手を引き、7人が動きの早い東京の芸能界の中で「WUGらしさは何か」を見失った結果、苦い挫折を経験する。レコード会社や関係者たちが手のひらを返す中、それでもあきらめずに前に進もうとする「Wake Up, Girls!」の姿を見た早坂は、彼女たちが再び挑戦するための武器として、新曲「少女交響曲」を与えるのだった。「Wake Up, Girls!」は、心機一転して地元仙台から活動を再開。日常ライブの復活や全国行脚を通しての地道な努力は、少しずつだが、着実に全国のファンへと届き始める。

 一方、アイドル界の頂点である「I-1club」では、最新シングルの売上ミリオン割れを契機としたセンター争いが勃発。「I-1club」プロデューサー・白木の非情な采配は、意外な形で「Wake Up, Girls!」とアイドルたちを大きなうねりへと巻き込んでいく。敗れて尚あきらめられないもの。アイドルとは何か。その答を求めて、物語は再び「アイドルの祭典」へと収束する。

<楽曲情報>
■「Beyond the Bottom」
続・劇場版 後篇『Wake Up, Girls! Beyond the Bottom』主題歌

作詞:辛矢 凡
作曲・編曲:田中秀和(MONACA)

発売日:2015年12月9日(水)
形態・価格:CD+DVD 1,800円+税 / CDのみ 1,200円+税

[収録楽曲]
1.Beyond the Bottom
2.地下鉄ラビリンス
3.Beyond the Bottom (Instrumental)
4.地下鉄ラビリンス (Instrumental)


<パッケージ情報>
◆Wake Up, Girls! Beyond the Bottom シアター限定盤

発売日:2015年12月11日(金)
価格:8,640円(税込)
仕様:Blu-ray Disc+CD2枚組
DISC.1 本編Blu-ray DISC
DISC.2 特典CD Wake Up, Girls! bvex Nonstop MEGA Mix2
DISC.3 特典CD ちょっとだけ物語続きのドラマCD
    『やっぱ、このままじゃ終われないよね!2』


◆Wake Up, Girls! Beyond the Bottom 初回限定盤

発売日:2016年1月29日(金)
価格:7,560円(税込)
仕様:Blu-ray Disc+CD
DISC.1 本編Blu-ray DISC
DISC.2 特典CD Wake Up, Girls! bvex Nonstop MEGA Mix2


>>『Wake Up, Girls!』公式サイト
>>『Wake Up, Girls!』公式Twitter

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