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野上武志が『ガルパン』などのキャラ原案画を一挙公開【前編】

『ガルパン劇場版』の後はスピンオフが熱い!! 野上武志が『ガールズ&パンツァー』『リボンの武者』のキャラ原案画を一挙公開!!【前編】

 現在絶賛公開中の『ガールズ&パンツァー 劇場版』。その面白さは本物で、劇場に繰り返し足を運ぶ人も続出しています。
 それだけに、劇場版が終わった後には深刻な「ガルパンロス」に陥りそう……。
 でもご安心あれ! アニメでガルパン世界を満喫した後は、より深くガルパン世界を味わえるスピンオフ作品の世界への扉を開ければいいのです!
 いくつかの作品が連載中ですが、その中から今回取り上げるのが、「月刊コミックフラッパー」で連載中の『ガールズ&パンツァー リボンの武者』。

 作者は『ガールズ&パンツァー』にキャラクター原案協力として参加し、歴女チーム、バレー部チーム、ネット戦車ゲームチームなどのキャラクターデザイン原案を手掛けた漫画家・野上武志先生と、同じく考証・スーパーバイザーを務めた鈴木貴昭さん。オリジナルキャラをメインに添え、戦車道をより先鋭化させた「強襲戦車競技(タンカスロン)」の世界を描く意欲作です。アニメ未登場の学校が続々登場したり、もちろんアニメでおなじみのキャラとも交流したりと、TVシリーズやOVAを観てから読めば、ハマること間違いなしの作品になっています。

 今回は野上先生の仕事場を訪れ、『ガルパン』『リボンの武者』の制作秘話をたっぷりと伺ってきました。
 さらに、秘蔵のキャラクターデザイン原案画を大公開!
 大ボリュームなので、前・中・後編の3回に分けてお届けしますが、まずは『ガールズ&パンツァー 劇場版』について、漫画家の視点で気になる部分を語っていただきます!

▲侍娘・鶴姫しずかと相棒・松風鈴が、豆戦車テケを駆ってなんでもアリの戦車野仕合“強襲戦車競技”にいざ出陣!「我らがするのは戦車道にあらず!」
MFコミックス フラッパーシリーズ『ガールズ&パンツァー リボンの武者』第1~3巻好評発売中
(C)Takeshi Nogami , Takaaki Suzuki 2015
(C)GIRLS und PANZER Projekt
 

▲野上先生が原案を担当したキャラクターがズラリ!「まるで私向けのサービスカットですね(笑)(野上)」
『ガールズ&パンツァー 劇場版』ロングラン上映中。2月20日からは<動く座席>で楽しめる4DX(R)デジタルシアター上映も全国劇場で開始。
(C)GIRLS und PANZER Film Projekt

■劇場版軍事監修ウラ話

――劇場版のほうでもキャラクター原案を担当されたのでしょうか?
野上武志先生(以下、野上):実は劇場版にはまったく関わっていないんですよ。だから試写会の時などは、完全に「いちガルパンおじさん」として楽しませていただきました(笑)。唯一関わったと言えるのは、アフレコ直前のタイミングで軍事監修の偉い先生方を集めて、ラッシュチェックをしながらセリフなどに問題がないかを調べ、直していくという場に、面白そうだからと参加したことくらいです。

――そこで修正されたセリフなどは実際にあったのですか?
野上:継続高校のミカが「Tulta(トゥータ)」と言うシーンがありますが、あれはフィンランド軍の監修をされた斎木伸生先生から「フィンランド語で『撃て』という言葉がありますよ」との提案があって、その場で脚本に修正が入ったんです。

――その結果、ミカ役の能登麻美子さんがフィンランド語でセリフを喋ることになったわけですね。
野上:ところがですね。斎木先生をはじめとした権威ある先生方が、「今回登場する継続高校の新キャラクターの声優は能登さんです」と聞いた瞬間に、全員が「なんだとぅ!?」と立ち上がったんですよ! それを見て、私は「日本のミリタリー業界は終わったな」と思いましたね(笑)。知識人ぶっていたくせに、揃いも揃って能登さんに反応する声ヲタかと(笑)。

――いや、能登さんならそうなってしまうのも仕方ないです(笑)。
野上:ほかにも、最初にアクタスの制作デスクの真庭さんから「いいですかみなさん。絵は金輪際変えられませんから!」と固く注意されていたにも関わらず、KV-2の中でニーナが砲弾を抱えて持っていたシーンに斎木先生が噛みついたんですよ。「あれは有り得ない!」と。

野上:「砲弾を走行中に装填手が抱えるのは、規定違反なんだよ! 本当は人間が抱えていられるような重量ではないから、ちゃんとラックに入れておかないと危ないんだよ! そんなものを抱えさせてはいけないんだよ!」と大変な剣幕で、話を聞かないんですよ。「アニメですから」と言っても、「アニメでもダメだ!!」と。そこで「よし、ここは私の出番だな」と思い、「斎木先生、あれは抱き枕です」。

――抱き枕ですか!?(笑)
野上:そうやってスッと次の場面に進んだわけです。その瞬間、「今日は仕事した!」と思いましたね(笑)。あの日、なんの役にも立っていなかった自分が、これだけは役に立てたと思えた瞬間でした。


■ガルパンはいいぞ! 野上流劇場版見どころ解説

――さて、今回の劇場版はいかがでしたか?
野上:「ガルパンはいいぞ!」しかないですね(笑)。キャラクターもさることながら、戦車が凄すぎて、満漢全席を三日三晩食べた気分でした。最初に絵コンテを見た段階では、どう考えても2時間半かかるだろうというボリュームで、『バルジ大作戦』ばりに途中でトイレ休憩を挟むのかと思ったくらいです。それだけの分量があったものを縮めているから、情報量の凄さも桁違いで、体感では3時間の映画を観たような気がしましたね。あれなら何度も観に行く人が続出するわけですよ。

――画面の端々までネタだらけですからね。せっかくですので、場面写真を見ながらオーディオコメンタリー風に、気になったところを挙げていただければと思います。

野上:これなんて1秒にも満たないカットじゃないですか。それでこの描き込みですよ。
 

野上:そこら中に小ネタが散りばめられていますが、これは誰かが指示してコントロールできる域を超えているんですよ。背景さんが自発的にやらないと、これは無理です。『ガルパン』を作っているのは、みんなそういう人たちばかりなんですね。明らかに商売ではないレベルでネタを突っ込む、大喜利競争のようになっているんです。
 

――継続高校も、出番は僅かなのに、非常にキャラが立っていましたね。
野上:登場シーンと数セリフで「この子はこういうキャラなんだ」と観客に共有させる、短時間でキャラを認識させる技術というのが水島マジックだなと思います。
 

――知波単勢も、まるでTVシリーズの頃からいたかのような馴染み方でしたし。
野上:しれっと出ていますよね。実は、映画公開される前にイカロス出版から「西絹代を描いてほしい」と依頼があったんですよ。まだ公開前だから、西がどんなキャラなのかは、こちらも雑誌に発表された程度の情報しかないんです。その状態でピンナップイラストを描けというのは、無茶振りだと思いませんか!?(笑) もはや気分は考古学者でしたね。「“知波単”で“西”と来れば、潔いキャラに決まっている」という風に、僅かな情報から推測していくわけです。

――そうなると、劇場であのポンコツな西を観た時は、どんな印象でしたか?
野上:もっとポンコツにするのかなと思っていましたが、そこまでポンコツではなかったかな。
 

――この、とりあえず記念撮影してしまえというのも日本人らしくて、やはり知波単は日本のチームなんだなと思いました。
野上:このカメラの資料は、私の知り合いのイラストレーターが提供しているんですよ。スタッフロールに名前が載っていて、「あれ、あいつ何やったんだっけ?」と思ったら、これ(笑)。

――ちなみに、何という方なんですか?
野上:日野カツヒコさんというイラストレーターです。
 

――福田も今、人気がありますね。
野上:“知波単学園”と聞けば、“西”と“福田”はマストですからね。キャラ名が発表される前から、公開されたキャラデザインを見て「これが福田だよね!?」ってみんな言っていましたから。
 

野上:クラーラは杉本功さんが、声優のジェーニャさんの写真を机の前に置いてデザインしていますから、完全に声優さんアテ描きなんですね。ところが、ジェーニャさんに出演依頼が行ったのが、収録直前だったらしくて(笑)。

――もしもスケジュールが合わなかったら、どうするつもりだったんでしょうね(笑)。
 

――大洗市街地の描き込みも凄かったですね。住民の方にとっては「ここ見たことある」どころか、「うちが映ってる!」というレベルではないかと。
野上:映画を観た人たちが、この場所を確かめに大洗に来るという、コンテンツツーリズムのお手本みたいな作り方ですよね。大勘荘は映画公開後、ここに「修復済み」って貼ったらしいじゃないですか。商売と趣味を、いい方向で両立させるというのが大洗の魅力だし、それがあるからこれが出来るんですよ。
 

野上:日本の風景って、アニメにすると意外と美しく立ち上がるんですよ。今回は改めてそれを強く思いましたね。大洗っていわゆる“国道16号線化”現象みたいな、日本全国どこでも同じような風景の街並みではない、もう少し前の風景が随所に残っているんです。その中を日常とは異質な戦車が走り回るのは、実に愉快ですね。
 

野上:これですよ! 戦車の照準眼鏡からの、無限遠望遠で見える風景って、パースをなくした画なんですよ。こういう実写映画ならではのカメラアングルの違いというのを、水島監督以下の演出陣がしっかり把握しているのが凄いですね。戦車の描き方に不慣れな人がやると、パースが無茶苦茶な「これじゃない戦車」になりがちなのは、日本の街中に戦車がある状況というのがないので、大きい自動車くらいの感覚で戦車を考えてしまうからなんです。戦車は大きいし、危険なので、映画でも遠くから望遠で撮るんですけど、それを十二分に理解して描いているのが流石ですね。
 

――この海岸線も笑いました。
野上:ロンメルのアスパラガスですね!(笑)

――『プライベート・ライアン』のオマハ・ビーチかよ!って(笑)。
 

――そしてこれです。大洗ホテルは最初から壊すつもりだったけど、大洗シーサイドホテルからも「うちにも1発くれないか」という話が来て、こうなったという。
野上:1発くれないかって、猪木のビンタじゃないんだから(笑)。ここはもう笑うしかないです。いや~、爆発って、ロマンですよね!(笑)

――しかもシーサイドホテルが昨年末の改修工事で、被弾箇所に当たるところにブルーシートをかけたとか(笑)。
野上:対応が最高ですよね(笑)。
 

野上:3、4フレームしか映らないものに、この情報量ですからね。劇場に20回足を運んだという人が出るのもわかるし、これなら作るのに3年かかるわけですよ。
 

野上:ここはおりょうががんばっているよね。超動いています(笑)。
 

野上:ネトゲチームはTVシリーズでは出オチな扱いでしたからね。劇場版でどうなるかと思っていましたが、こう来たかと。

――やはりデザイン原案を手掛けられたキャラについては、特別な思い入れを持って観てしまいますか?
野上:そうですね。どのように出演して、ちゃんとフレームの中に入ってくれるのか、活躍してくれるといいなという気持ちはあります。

――歴女チームには歴史知識を畳みかけるお約束シーンがありますが、バレー部やネトゲチームの見どころというと、どんなところに感じているのでしょうか?
野上:ネトゲチームに関しては、TVシリーズでは活躍できなかったというのがフックとして残っていたから、なんらかの形で活躍するだろうとは思っていました。それがどんどん成長して、頼もしくなっていったのは面白かったですね。
 

野上:この辺りは戦車道というものが作品世界内でどう捉えられているかが情報としてわかる、貴重なシーンですよね。

――蝶野以外で日本戦車道連盟のお偉方が登場したのも初めてですし、情報量も非常に多くて何気に重要ポイントかもしれませんね。
 

――みほの自室を見ると、意外と調度品などが高級そうで、けっこうお嬢様だったんだということがわかりますね。
野上:箱入り娘ですよね。この、パンツァーファウストにリボンが着いているのはなんなんだろうという(笑)。

――トロフィー的なものかなと思ったのですが。
野上:もしくは、この世界でやっている魔法少女アニメのアイテムか何かじゃないですか?(笑)

――変身ステッキですか!?(笑)
野上:基本的にガーリーな部屋じゃないですか。だからこの世界では女の子的なものなんですよ(笑)。
 

野上:作戦会議でのエリカの表情が凄いらしいですね。かなり面白いらしいです。私も今ちょうど『リボンの武者』でエリカを描いているので、気になってはいるのですが、劇場版はまだ2回しか観ていないので憶えていないんですよ。キャラクターを描く上でのお手本はここにしかないので、本来ならばムービーで全部欲しいくらいなのですが、さすがに貰えませんからね。大変な思いをしながら描いています。

――このシーンは美術設定でも、カチューシャがノンナに肩車されている状態で描かれているんですよ。そちらではカチューシャがもっと伸び上がっていましたが。
野上:ここではちゃんとフレームに収まるように屈んでいるのがカチューシャらしいですね(笑)。
 

野上:この辺りからの、戦車の1カット1カットのレイアウトが本当に素晴らしいんですよ! 自分が見たかったカットがすべてあるというのがもう悔しくて悔しくて。森の中の戦闘といい、構図的に完璧なんです。まるで宮崎駿のマンガやアニメのカット割り。『泥まみれの虎』も1カット1カットが絵として成立していますが、それと同じくらい、この序盤の戦闘シーンは1カット1カットが美しいんです。
 

野上:このシーンも、黒澤明の頃にはよくあった往年の日本映画の手法ですよ。超望遠カメラで完全にパースをなくした状態で、迫ってくる戦車を撮るというような、スペクタクル映画の文脈というのがここにはたくさんあるんですね。いいなぁ(笑)。
 

野上:爆撃機の銀河が2機編隊で飛んでいる映像なんて、初めてですよ。水島監督も演出家の方たちもミリオタなので、ここにこういうモノを突っ込んできて、「くそっ、うらやましいな!」と。

――あ、うらやましいという感覚なんですか?
野上:本当にうらやましいですよ。こちらが10年かけてやってきたことを、アニメで楽しくやっているわけじゃないですか。イタリア関係の監修をされた吉川和篤先生も仰っていましたが、日本の三式中戦車やチハ、九五式軽戦車などを走り回らせるなんて、この作品が初めてなんですよ。アニメでも、戦車が生きて動いているのを観られた時点で滂沱の涙なんです。
 

野上:これですよ! 圧倒的じゃないですか。私はこれを壁紙にしたいくらいです。
 

――アンツィオチームの、この使い方は上手いなと思いました。戦力的には微妙なぶん、戦場全体の観測を任せるという。
野上:軍事的にはこれが大事なんですよ。まさに殊勲甲ですよ!
 

野上:これこそ都市迷彩ですよね(笑)。

――TVシリーズの時から、III突といえば都市迷彩ですから(笑)。
野上:総勢約50人、戦車が60台登場しますが、各キャラクターが持っていた伏線を、約2時間の中でほぼすべて回収しているんですよね。精巧に作られた箱根の寄木細工を見ているような印象でした。
 

――おそらく戦車道では使えないであろう陸上戦艦ラーテが、遊園地のアトラクションとして使われたのも面白かったですね。
野上:実は私も『セーラー服と重戦車』(秋田書店チャンピオンREDコミックス/全9巻)のラスボスとして、ラーテを出したんですよ。だから出てきた時には「やりおったな!」と(笑)。
 

――ここはネトゲチームの見せ場でしたね。ぴよたんの砲弾空中キャッチ片手装填!
野上:かぁっこいい~っ!! どんだけの練度ですか!?(笑)
 

野上:ここはみほとまほの、姉妹としての関係性ですよね。西住流における長女と次女の立ち位置、流派の後継者として守る側と、攻める側というのがここに現れるという。


 といった辺りで野上流劇場版見どころ解説は終了。次回の【中編】では、いよいよ歴女チーム、バレー部チーム、ネトゲチームのキャラクターデザイン原案画などを交えながら、制作秘話を紹介します! とんでもないお宝画像も!?

野上武志(のがみたけし)●漫画家。現在『リボンの武者』のほか、『紫電改のマキ』(秋田書店チャンピオンREDコミックス/既刊5巻)、『まりんこゆみ』(星海社、最前線4PAGES/既刊4巻)、『萌えよ!戦車学校』(イカロス出版)を連載中。TVアニメ『SHIROBAKO』では、劇中劇『第三飛行少女隊』のキャラクター原案を手掛ける。

▲『SHIROBAKO』に登場したキャラクター、『第三飛行少女隊』の原作者・野亀武蔵。あくまでも他人の空似。

『SHIROBAKO』Blu-ray&DVD全8巻、ワーナー・ブラザース・ホームエンターテイメントより好評発売中。第7巻にはOVA「劇中劇アニメーション『第三飛行少女隊』第1話」を収録。(C)SHIROBAKO製作委員会

中編も公開中!




>>『ガールズ&パンツァー』公式サイト
>>月刊コミックフラッパー
>>TVアニメ『SHIROBAKO』公式サイト

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