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梶浦由記の思い描くアニメ『SAO』音楽のセカイ

ライブはなによりの「ご褒美」──梶浦由記の思い描くアニメ『ソードアート・オンライン』音楽のセカイ

 2017年には劇場映画の公開も控える、アニメ『ソードアート・オンライン』(通称、SAO)。そのTVアニメ第1期・Extra Edition・第2期の劇伴音楽集(サントラ)『ソードアート・オンライン ミュージックコレクション』が今年1月にリリースされました。劇伴制作は、TVアニメや映画のサウンドトラック、Kalafinaのプロデュースなどで知られる音楽家・梶浦由記さん。未収録・未発表楽曲含む全131曲に加え、初回盤にはイベント<ソードアート・オンラインSing All Overtures>の中で披露した梶浦さんの劇伴ライブを完全収録という、名曲揃いの大作です。

 長年に渡り音楽シーンの第一線で活躍し、サウンド・クリエイターとして圧倒的な存在感を放つ梶浦さん。本作をテーマとした梶浦さんのライブ<Yuki Kajiura LIVE vol.#13 "~featuring SWORD ART ONLINE~/3月21日(月・祝) 東京国際フォーラム ホールA~2016年3月26日(土)・27日(日) NHK大阪ホール>を目前に控えているなか、貴重なお時間をいただき、『SAO』について、音作りについて、そしてライブに向かう気持ちについてお伺いしました。本稿では、その内容を1万文字越えの大ボリュームにてお届けします。


■ 「キリトくんのカッコ良さを全面に押し出したい」

――全131曲というこの大作を聴いてまず思ったのが、梶浦さんは年間何曲くらい作っているんだろうということなんです。

梶浦由記さん(以下、梶浦):アニメ1作で最低でも50曲位ありますので、それを何本やるかによるんですよね。サウンドトラックの場合は、もしアニメが年間4作品入ると最低200曲くらいにはなります。歌モノなんて、単に数の問題だと書いてもたかが知れていて、アルバム1枚出しても10何曲じゃないですか。だからアルバム2枚作っても30曲くらいなんですよね。長さが違うので、1曲に掛かる時間は違うんですけど。だから年によって曲数は全然違いますね。リリースが重なって、すごくいっぱい作ってるように見えるけど、実は作ってたのは3年前だったみたいなこともありますので。200曲を作ってるときもありますが、今はそんなに……って感じですね。


――(曲数的には)歌モノなんてたかがしれてて、っておっしゃってたんですけど、そこに使うエネルギーは凄いものがありますよね。

梶浦:そうですね。歌モノの場合は歌詞も書きますし、作曲、アレンジ、いろいろなことを考えながら作るので、サウンドトラックを10曲作るくらいの労力が掛かりますね。


――『ソードアート・オンライン』の場合は、どんな気持ちで挑まれたんでしょうか。

梶浦:最初に本を読ませていただいて。イラストを見て、可愛らしい少女と少年の冒険譚なのかなと思って読み始めたら、思ったよりヘヴィで骨のあるがっしりしたお話で、すごく面白いなと。ただダークなところを押し出すよりかは……このお話の根本は、主人公のキリトくんがどんなにカッコいいかだと思うんです。だから最後はそのカタルシスというか、お話を切り開いていくキリトくんのカッコ良さを全面に押し出したいなと思ったんですね」


――キリトくんはホントにカッコいいヒーローで。

梶浦:うん、カッコいいですよね。絶対にカッコよくいてほしいというか、キリトくんカッコいいと思わせてというか(笑)。読んでいてもそれがすごく爽快で、音楽の中心には“キリトくんカッコいい!”ってところに持っていきたいなと。脚本の監督もそういう風に作られていると思ったので。あとは(シーズンごとに)すごく世界観が変わって、ある意味パラレルものみたいな面白さがあると思ったので、その舞台に合った音楽を作りたいなと。


――とてもバラエティ豊かで、その多彩さとクリエイティビティに圧倒されるばかりです。

梶浦:世界がガラっと変わる分、書きやすさはあるんですよ。同じ舞台の場合、シリーズごとに違う音楽と言っても世界観の幹となる部分が一緒になるので、いろいろと考えなければいけないんですけど、この間まで妖精王国でキラキラしてたかと思ったら、今度はメタルの世界みたいになると、音楽がつけやすくなるんです。その分、いろいろな曲が作れて楽しかったですね。


――これだけたくさんのジャンルの曲を作るにあたって、梶浦さんの中で曲によってモードの切り替えのようなものはあるんですか?

梶浦:でも基本はそのシーンで私が何を聴きたいかですね。例えば世界樹を昇っていくシーンとか、この曲はこのシーンで流したいっていう気持ちがありますので、脚本や原作を読んで、ここでどんな音楽が掛かったら私はワクワクするかなぁっていうのが基本で、そこから始まります。


――サウンドトラックの場合は、伝わりやすい、分かりやすいというのも大事になってきますよね。

梶浦:そうですね。分かりやすさはすごく大切だと思ってて。そんなに長く掛かる曲ではないので、悲しい曲は3秒で悲しくならないといけないし、楽しい曲は3秒で楽しくならなければいけないし、不穏な曲は不穏だと一瞬で分からせなきゃいけない。逆に不穏なのか、悲しいのか分からない謎の曲というのもあって、その場合はいかに謎であるかというのが分からないといけない。悪い意味じゃなく、世界観、必要とされている感情を説明しなきゃいけないし、逆に説明しちゃいけない曲もある。場面を作るために必要とされたものなので、その役割は果たさなきゃいけないかなって思って作ってます。


――制作自体はだいぶ前のことになりますが、制作中のエピソードなどございましたら、教えて下さい。

梶浦:そう、結構前なんですよね(笑)。プロモーションビデオ用の曲をはじめに作らせてもらったんですけど、その時にちょっと悩みまして……。キャラクターの可愛らしさに合わせると、もっとデジタルでビートの効いた、スカッとした音楽のほうが合うのかな、でも話はヘヴィだしそっちにしたほうがいいのかな……とか。どっちでもいけるなと思ったんですよ。で、悩んだあげく少しだけシンフォニック寄りに作ってみたんです。ただPVの絵だけだと、ストーリーの重さはそんなに出てきてなくて。みんなが闘ってるところが出てきただけだったので、ちょっと重く作りすぎたかなとすごく悩んで、監督に相談させていただいたところ、“あのくらいで全然いいです”と。

『swordland』というキリトくんのテーマがあるんですけど(ディスク1・1曲目/バージョン違いの楽曲を他ディスクに収録)、あの曲はシリーズでずっと掛かる曲になるので、作るときにどこまでシンフォニックにするのか、どこまでカッコよさ、軽さを持っていくのか、ポップにするのか、そのあたりの寄り方に悩んで。


――『swordland』は“梶浦語”が使われているメインテーマで、とても重厚感がありますよね。

梶浦:そうなんです。どちらかというと重めの曲なんです。それを決めてからは全体のバランスがとりやすかったですね。それまでが一番悩みました。


――ではその後は、順調に制作が進んでいったのでしょうか。

梶浦:そうですね。それが中心にあったので、この曲はこっちより、この曲はあっちより、みたいな感じでバランスがとりやすくなりました。中心に置くテーマが決まれば……すんなりとは言わないですけど(笑)、バランスはとりやすいですね。


――今お話を聞いて、物語とキャラクターの本質を見抜いた上で音楽を作らなければいけないんだなと思いました。

梶浦:本や音楽を作る人は皆さんそうだと思うんですけど、自分なりの本に対する解釈や、キャラクターの色や定義をしっかり把握しないと作り始めることができないので。だから本はすごく読みます。原作と脚本は悩むと読むし。でも読み込まないうちのファースト・インプレッションも大事なんです。始めに読んだときに出てくるものって……自分のなかでは正しかったりするんです。初対面の印象で、なんとなく曲のイメージを作っておいて、そこから悩んだらまた何度か読むという感じですね。でもともかく本は大事で。原作がある場合は、あらゆる資料より前に原作がいただけるので、すごくありがたいです。


――本を読む中で、例えばメモを取られてたりするんですか?

梶浦:あ……そういえば、メモを取らないですね。ページを折ることもないですし。本を折るのはイヤなんですよ。


――ああ、すごく分かります(笑)。本を大切にされているからこそですよね。

梶浦:そうなんですよね、本を折るのはイヤなんです(笑)。


■ 「その作品の為にベストを尽くすことが大事」

――ディスク2の12曲目『fly, if you can.』を始め、“fly”という言葉の入っている曲が多いのは──。

梶浦:(第一期/第二部≪フェアリィ・ダンス≫編の)舞台が妖精の国だったので、敢えて空を飛ぶときの曲が多かったんです。人が空を飛ぶってファンタジーじゃないとありえないので、絵を見ていても気持ちがいいですし、みんなが空を飛ぶような曲を書けるとすごく楽しいです。


――梶浦さんの曲の中で、“fly”がキーワードになった曲は少ないように思うので、改めて音源で聴かせてもらってすごく新鮮でした。

梶浦:他のアニメではあんまり人が飛ばないので(笑)。だからこそ楽しかったです。みんなが爽快に飛び回る曲みたいな注文って、私には『ソードアート・オンライン』くらいでしかこないので。若い子たちの冒険譚ってあんまりこないんですよ。私のところにくる作品は、ありがたいんですが、記憶喪失だったり、人を殺してたりとか、そういう作品が多いので(笑)。楽しそうに空飛んでる!楽しいなぁ!って作ってました。


――梶浦さんらしさみたいなものもしっかり詰まってますよね。

梶浦:そういうのは出ちゃうんです。出さないって思ってても……そこは諦めてるわけじゃないんですけど、それも自分の味なのかなって。いつも思うんですけど、その作品と自分が出会うときって一対一で、他の作品は一切関係ないじゃないですか。その作品の為にベストを尽くすことが大事で、その前の作品はどうだったからこうしようみたいなことは考えちゃダメだと思ってるんです。それは前の作品にも、この作品にも失礼なので。今この作品にとっていちばんいい曲ってなんだろうってなったときに、それが自分にとって反復になってしまっても、それが一番この作品のこのシーンに一番いいのかなと思ったらやろうかなとは思ってます。


――気高くて、美しくて、荘厳で……とは言え、曲によって違うので一括りには言えないんですけど。

梶浦:そうですね。この作品にはひょうきんな曲もあったので。でも私、コミカルってジャンルがいちばん苦手で、最後になるんです(笑)。40曲くらい書いて、はじめにメインテーマを書いていくじゃないですか。“梶浦ちゃん曲できた?”“あと2曲残ってます”って場合は、大体コミカル(笑)。コミカルな曲を本当に楽しそうに、軽く作れる方って凄いなと思ってて。私がコミカルを作ろうとすると、どうしても重くなってしまったり、軽くしようとすると否たくなってしまったり、難しいです。だからコミカルのセンスを磨きたいなと思ってます。人様のサントラを聴かせていただいて、本当にコミカルな曲が入ってると“すごいなぁ、センスあるなぁ”って尊敬しちゃいますね。


――メインテーマに然り、コーラスワークが入っている曲は、どなたが歌われているんでしょうか。無知で申し訳ありません。

梶浦:いえいえ、ライブだと色々な方が歌われているので、混乱するのも無理はないかと。この作品で歌われているのは全部Remiさんという方なんです(ソロアーティスト/Sound Horizonの二期サポートメンバーとしても活躍中)。クラシックコーラスは混声合唱団を呼んでいます。Remiさんにはスタジオにいらしていただいて、作品のことを話して、歌っていただきました。Remiさんは巧い方なので速いんです。数日前に譜面をお渡ししていますけど、間に合わなくて当日って曲でも普通に歌っていただいて。リズミカルで、美しくて、軽やかなところもある声なので、『ソードアート・オンライン』に合うなぁと思ったんです。表情を作るのも巧い方なので、曲によっていろいろな表情も出してくださいますし、なによりクリーンでキレイなソプラノが本当にステキだなと。


――ボーカルと言えば、別媒体ではあるんですが、以前Kalafinaさんに取材させてもらった時に、梶浦さんが「めちゃくちゃキツいコーラスワークでもクールに歌って欲しい」という趣旨のお話をされた、と言うことを聞いて。それがすごく印象に残っているんです。

梶浦:演者や歌い手さんは、どちらかと言うとSのほうがカッコイイと思ってるんです。舞台で意気上がっちゃうとパフォーマスが乱れるので、意気あがってカッコよく歌ってるのも自分が演じているものでないと、いい演奏やパフォーマンスにならないと思うので、そういう意味で“どんな時にもクールに”って話をしてます。


――クールというのは、梶浦さんのサウンドのひとつのテーマになっているようにも思います。

梶浦:ふつふつと煮えたぎるものを作りたいとは思っているんですけど、本当に大声で叫ぶのではなく、黙っているのに内面ではふつふつしてる、みたいなものを作りたいんです。だからこそ分かりずらいところもあるし、そのままストレートに伝えているわけではないという。特に歌モノはですけど、どうとでも取れるというか。そういう意味でクールに感じられるのかもしれません。


――どうしてそういう表現に辿りつかれたんでしょうか。

梶浦:どうなんでしょう。昔から……どこか説明しすぎないものの方が好きなんです。その辺の按排は難しくて一言では説明できないんですけど、映画や物語でも、あんまり全部を話してしまうものは好きじゃなくて。どこか想像の余地を残してくれるものが昔から好きだったんです。歌詞や詞に関しても、そこから想像が膨らむものって全部言い切ってないものなんです。そうじゃない物語って忘れちゃうんです。


――確かにその場での爽快感はあるんですけど、詳細が記憶に残るかどうかというと微妙なところで。

梶浦:そうなんです。アメリカのアクションスパイ映画を観たようなもので、すっごく楽しんだけど、1か月経つと詳細を覚えてないみたいな。でも、それについてすごく考えさせられる物語は、やっぱり忘れないんです。本当に好きな物語の場合だと、本を閉じてからも、それについて1人で3日間くらい考えたくなる。この世界にいたいな、ここから連れ出さないで、みたいな余韻を残してくれるものが好きだったので、自分でも何か余韻を残したいなと思っているのかもしれないですね。


――「考えるな、感じろ」という名言がありますが、「感じたなら、考えろ」というか。そういうものに惹かれる梶浦さんだからこそ、音楽にもそういう要素があるように思います。

梶浦:感じたなら、考えろ……か。それ面白いですね。気にいっちゃった(笑)。正にそんな感じです。だからって“私の音楽を聴いて何かを考えて下さい”ってわけではないんですよ。


――分かります。

梶浦:ただ自分の中から出すものの……世界の出口が決まってて、そこからはみ出すものにはしたくないっていうものがあって。ちょっとでもはみ出すと許せないんです。自分の中での制限がすごく厳しいんだと思うんです。ある意味、そこからはみ出すものは作らないので、そういう意味では狭いんだろうなと。


――こだわりというか、美意識というか。その枠の基準みたいなものが気になりますね。

梶浦:自分でも分からないんです。はみ出したときにだけ分かるんですよ。“ああ許せない”って。それが歌詞の一言でも、弦の一音でも、自分で書いたときに“これは許せない”“いまのダメ!”ってなると、絶対に使えない。結果論になっちゃうんですけどね。メロディを作ってて、もうちょっと盛り上げようかなと思って、ちょっと派手にしたら “気持ち悪い!”ってなって、結局そこまで派手にできないみたいなところがあるので(苦笑)。窮屈な人間だと思う。


――そんなことないです。それが梶浦サウンドに繋がっていくんですね。もう少し具体的にお伺いしたいんですが、サウンドトラックの場合は、そういった括りのなかで、どうやって音をクリエイトしていくんでしょうか。

梶浦:そのシーンを頭に浮かべながら作っていきます。そこに至るヒントというのは作品によって色々で、例えば、脚本だけのこともあるし、原作だけのこともあるし、劇場モノだと絵がきていることもあるし。

背景画を頂くと助かるんです。背景画ってアニメでもかなり前から用意されているんですよ。その背景画を見て、脚本を見ると……上が感情の高さで、横が空間の広さ、みたいな空間の基準が自分の中で生まれるんです。


――それはいわゆる座標軸みたいなものですよね。

梶浦:自分の心の中だけで考えている場面だったら、空間はこれくらいでいいなとか、静かなら高さはこれくらい、叫んでるときに上はこれくらい……みたいなイメージ空間があって、そこを満たせられればいいなと。色もあるじゃないですか。ここのシーンはブルー系だな、みたいな……そういう漠然とした音楽空間みたいなものが自分の中にあって、それが満たされれば、ピアノ1本でも、ノイズだけでもいいし、ある意味楽器はなんでもいいんです。

これはどれくらいの情感で言ってるのかな、とかで悩んでしまうと、何を作ってもフィットしないんです。主人公の気持ちをそのまま歌えばいいってわけじゃなくて、裏切ることもあるんですけど、自分の中で方向性さえ決まれば、あとはなんでもいける。

絵を描いているかたも、シナリオを書いているかたも、演じられるかたも、その場面の解釈ってめちゃくちゃされていると思うんです。だからこそ音楽も自分なりにそのシーンの意図を捉えた上で、物語全体を分析して曲を作らないと……1曲だけ良い曲を作ってもダメなんです。


――例えば、ディスク2に収録されている『last flight』はすごく盛り上がる曲ですよね。

梶浦:『last flight』みたいな曲は1曲で良かったりするんですよね。感動的な曲を10曲詰め込むとお腹いっぱいになってしまう。実は感動的な曲を書くのって、簡単なんです。……もちろん、別の意味の難しさはありますけど。そういう意味で全体のプランニングはすごく大切です。当たり前なんですけど、その物語に関わるからには自分もその世界を作る一旦なので、物語を理解した上で作っていきたいですね。自分なりに解釈したほうが楽しいですし、ワクワクするんですよ。キリトくんと一緒に“さぁ、ここから行くぞ!”みたいな気持ちになって作れるじゃないですか。そのほうは絶対に楽しい。

本を読んでてワクワクするページってあるじゃないですか。思わせぶりな言葉で終わっておいて、次の章でどーんと始まるんだろうな!みたいな。“さあ、行くぞ行くぞ!”みたいなその気持ちを音楽で表現したいんですよね。で、ページをめくって “うわ、きたー!”みたいな。読者としては騙されるのが大好きで、作者さんの手の上でコロコロされたいんです。“騙して”っていうか。物語が好きなひとってそういう人多いと思うんです。荒探しをするのではなく、“もっと揺すぶって、惑わせて~”みたいな。そのドキドキ、ワクワクした気持ちをそのままアニメーションとして観ている方にも味わってもらいたいなという気持ちはすごく大きいんです。


――本質を見抜くことももちろん大切なんですが、それ以前に梶浦さんの作品に対する愛情があるからこそ、このように素晴らしい音が生まれていくんですね。

梶浦:そう言われると照れますね(笑)。好きにならないと作れないタイプなんですよ。つまらない物語って実はこの世になくて、読んでみたら面白いところは絶対あるんです。正直、初対面では“合わないな”って思うことがあっても、面白いところ探しをしていくと、絶対にある。それは誤解でも深読みでもいいんです。自分にとってのその作品の魅力であれば、そこをとことん穿り返していくと絶対に愛せるので。私が初対面で、愛せる、愛せないは、作品の良し悪しではないんです。単なる相性というか。すごくそっけない人でも、1年付き合ったらすごく良い人だった、みたいな人もいるじゃないですか。色々な手段を使って好きになる。そのほうが楽しいので。


――ところで、先ほど“背景画をもらう”とおっしゃっていましたが、その理由についても教えていただいてもいいですか?

梶浦:基本的にBGMって背景だと思ってるんです。主人公の心理的なものもありますけど、背景画寄りか、主人公寄りか、って言われたら、背景画寄りだと思うんです。背景の絵とBGMが後ろに一体としてあって、その前で物語の人物たちが動いてるっていう。だから背景画を見ると、暗さや色彩や明度が伝わってくる。例えば、一言に原っぱと言われても、見渡す限りの草原なのか、家の裏のブランコがあるような原っぱなのか、それでどういう曲を作りたくなるかが変わるので。


■ (レコーディングでは)「カッコよく弾いて下さい」「超カッコよく歌って下さい!」

――曲の尺によって違うのは承知の上なんですが、1曲にどれくらいの時間を掛けて作られるんですか?

梶浦:メインテーマみたいな楽器の多いもの──弦、ホルン、半分オーケストラくらいに入ってるようなものだと結構時間を掛けますけど、例えばピアノ1本のようなものは、シナリオを読みながら、ポロっと弾いてそのままというのもあります。


――制作期間としてはどれくらいだったんですか?

梶浦:何回にも分けて作っているんですよね。テレビシリーズ2本ものの場合は、大体2回に分けて録るんですよ。『ソードアート・オンライン』半年モノだったので、半年モノの場合は音楽的には1stセッション、2ndセッションといって、はじめのほうは前半部分を放映が始まる前に作っておいて、放映がはじまってから、今放映中の番組を観ながら、いま流れている音楽のなかで足りないのは何かみたいな感じで埋めながら、放映が始まったころに作っていきます。いっぺんに全部やることもあるんですけど、大体2回に分けて作ってます。今回は2作品で130曲だったから、30曲ずつ録ってたと思います。30曲の場合、制作期間としては1か月くらいですね。


――早い……! 1日1本ってことですよね。

梶浦:そうですね。でもサウンドトラックを作られるかたは、それくらいのペースだと思います。サウンドトラックの音楽って長すぎても使いにくいんです。どうせ30秒くらいしか使わないのに5分あっても使うほうも困ってしまいますから。だからわりと短めに作るんですけど、シーンによっては長いほうがいい場合もあるので、曲によっては敢えて長めに作ったりとか。


――そのあたりは製作側と密に話し合いながら作っていくんでしょうか。

梶浦:そうですね。はじめに “この曲はどうしましょう?”って打ち合わせをします。人によっては“お任せします!”って場合もありますけど、それは人によって。今回の場合は、伊藤(智彦)監督と初めてお仕事させていただくこともあって、1曲ごとに話したりしましたね。


――サントラのレコーディングはどれくらい掛かるんですか?

梶浦:1回のセッションだと弦は1日で録っちゃうんです。録れて20曲くらいなんですが、物凄い速さで録ります。で、バンドで1日です。同じ日ということもありますが。大体スタジオに入るのは、生楽器のダビングで多くて3日くらい。


――想像以上にスピーディです。これだけストリングスが多く入っていると、かなり密な時間になりそうですね。

梶浦:結構生音が入っているので、プレイヤーさんが入れ替わり立ち代わりで、エンジニアさんは朝から夜までご飯も食べられないです。トイレに行くのも大変なくらい。私もずっとつきっきりで、時々猛ダッシュしてトイレにいくくらい(笑)。


――現場ではどのように指示されているんですか?

梶浦:お願いしているプレイヤーさんがみなさんお上手なので、必要な感じであれば“この曲は優しいシーンで掛かります”みたいなことを説明します。こちらの意図が伝わりさえすれば、きちんと奏でてくれる方々ですし、無理な譜面も書いていないので、意図が伝われば早いです。それはこちらの表現力ですね。それをきちんと伝えられるかどうかっていうボキャブラリー。


――梶浦さんのボキャブラリーなら何も問題ないのでは……。

梶浦:いやいや、ヒドイもんですよ(笑)。「カッコよく弾いて下さい」「超カッコよく歌って下さい!」とか。ボキャブラリーが貧困すぎて。某作品の曲を録ってたときは「ひとが死ぬ曲です」「次もひとが死ぬ曲です」「次も……」みたいな感じで、どれだけ死ぬんだと(笑)。


■ 「どんな天国にいたって、こんなことはないと思います」

――『ソードアート・オンライン ミュージックコレクション』を通して聴かれたときの印象はいかがでしたか?

梶浦:時間を置いて作っていたので、通しで聴いたことはなかったんです。世界がすごく飛ぶので、そこに行ったときの世界の違いはある程度書きわけられたなって安心しました。懐かしいというところもあるんですけど、改めて聴いてみると……またやりたいですね。この世界でまた遊びたいなって。サウンドトラックを作っている間って、どこか「そこ」に行ってる感じがして。やっているときはそれなりにつらいので、早く終りたいんですよ。でも作り終えちゃうと寂しくて。帰ってきたなぁ、洗濯しなきゃ、みたいな(苦笑)。


――それこそ、『ソードアート・オンライン』そのものというか。

梶浦:本当にそう思いますね。ある程度ダイブしてますから。本当にダイブしてしまうと冷静さに欠けてしまうので、半々ではあるんですけど、頭のなかはそっちのことばかり考えてます。自分の後ろの背景が変わってる気がしますね。


――これが3月21日から始まるライブ~Yuki Kajiura LIVE vol.#13 "~featuring SWORD ART ONLINE~でどう表現されるのか、楽しみですね。

梶浦:『ソードアート・オンライン』はメロディがハッキリしてるものが多いので、多分ライヴではやりやすいですね。『ソードアート・オンライン』の音楽は当時から“分かりやすさ”が大事だと思っていたので、キラキラしたところではキラキラとした曲を書けたいし、カッコいいところではカッコいいって曲を書きたいって思っていたので、わりとはっきり作ってるんです。


――どんなセットリストで挑まれる予定なんでしょうか?

梶浦:やって楽しい曲、とかそんな感じですね(笑)。ライブはわりと単純ですよ。バンドでやるので、バンドでやってみんなが楽しんでもらえそうな曲とか。メインテーマやよく掛かった曲をやりたいなとは思ってますけど、あとは長くしてギターソロ入れちゃおうぜ!みたいな遊びもしたいなって。今回はライブなので、聴いていただいて楽しい曲にしたいですね。華やかにもしたいですし。


――曲を作っているときは、おひとりでご自身や作品と対峙されていることが必然的に多いと思うんですが、ライブでバンドやヴォーカリストと一緒にやるというのは、全然違うものですか。

梶浦:全然違いますね。一人で曲を作るのは大好きなんですけど、自分と作品との勝負みたいになってて、ひとの評価は関係ないんです。それが他のかたが喜んでもらえるものだったっていう歓喜はおまけみたいなものではあるんですけど、降って湧いたとんでもない幸福みたいなものなんです。

変な話なんですけど、ライブは仕事してるって気がまったくしないんです。私の仕事は曲を作ることだと思うので、こんなことを言ったら怒られてしまうんですけど、仕事じゃなく、ある意味ご褒美だと思ってるんです。だからマジメにやらないってわけじゃないんですけど、これだけ作ったんだから、ご褒美でライブやらせてください、みたいな感じですね。

自分が作品のことを考えて作った曲を目の前にいる人たちが嬉しそうな顔をしてくれるって言うんですから、こんなにいいことってなくないですか。お金を払って来てくれて、おまけに拍手までしてくれる。どんな天国にいたって、こんなことはないと思います。幸せすぎておかしいですよね。


――『ソードアート・オンライン』という縛りを設けたのは、サントラの発売日が近かったということもあるんでしょうか。

梶浦:そうですね。今までいろいろな作品の曲を交ぜてライブをやってたんですけど、アンケートで“作品別にライブをやってください”と言われることが何度もあって。そういうのも面白いねって話を前々からしてたんですけど、タイミングをどうしようかって言ってたときに“『ソードアート・オンライン』のミュージックコレクションを出しませんか”と声をかけていただいて。

これを出すならちょうどいいんじゃないかなって。普通のアーティストさんのライブだと「アルバムを出したからライブをやります」ということが多いじゃないですか。私のライブの場合はそういうことがあまりなくて、やっとそれができるっていう。じゃあ初めての作品別ライブは、アルバムを出したばかりの『ソードアート・オンライン』でやらせてもらおうかと。


■ 「“これが終わったら私は絶対に音楽をやめる!”とか思ったりします」

――実はこの取材時は東京国際フォーラムホールA本番の10日前なんですが、リハはもう始まっているんでしょうか。

梶浦:ライブアレンジは全部私が済ませて、譜面も全部書き終えてます。それはバンドさんのところに行ってるので、合わせるのが月曜日からです。バンドさんは慣れているのと、今回は難しい変拍子の曲というより、演奏して気持ちのいい曲が多いので、やるほうも楽しくできるんじゃないかなって。疲れるでしょうけど。楽器もすごく多いので、そういう意味でも演者さんは楽しいんじゃないかなって。私自身も本当に楽しみにしている場所なので、来て下さったら嬉しいですね。音楽楽しんでやるから遊びにきてって。


――音を楽しむ。まさに音楽ですね。

梶浦:音楽はいつだって楽しいです。音楽ができて幸せですね。いまも弦を録ってたんですけど、集団の弦って気持ちがよくて、アドレナリンが出まくってもう大変ですよ(笑)。音楽家になって良かった!って思いますね。醍醐味です。


――そのモチベーションってどこから生まれるんでしょう。

梶浦:さっきスタッフの中で、○○さんは毎日お酒飲んでる、みたいな話があったんですけど、好きだから飲むんでしょうね。音楽も好きだからとしか言えないんですけど……。


――ナンセンスな質問かもしれませんが、嫌になることはありませんか。

梶浦:しょっちゅうですよ。でも好きなひとでもイヤになったりするし、離れたら“やっぱり好きだったー”とかって思うじゃないですか(笑)。それと似てて、仕事で寝てないときは、“これが終わったら私は絶対に音楽をやめる!”とか思ったりしますよ。でも2、3日すると音楽を聴いてしまう。やっぱり、好きなんでしょうね。逆に好きじゃなきゃやっていけない仕事じゃないですか。普通の会社勤めをされているかたと話すと、労働時間の感覚が全然違いますよね。でもそれは好きだから無理もできるし、イヤな仕事だったら一日20時間もできないですから。


――ライブに関して言い残されたことなどありますか。

梶浦:大好きなプレイヤーさんと生で演奏できるのがすごく楽しみなんです。生の音楽ってCDに収めたものとは違う意味で心に伝わってくるものがあると思うんです。


――そうですよね。そのどっちがいいってわけではなく。

梶浦:そうなんです。ライブのほうがいいって言われると複雑なものがある(笑)。物語と一緒に楽しんでくださった音楽を生で聴くのは楽しいと思うので、楽しみにきてくださいって感じですね。

[インタビュー&文・逆井マリ]


<ライブ情報>
■ Yuki Kajiura LIVE vol.#13 “~featuring SWORD ART ONLINE~"

2016/03/21(月祝) 開場 16:00 開演17:00
at・ [東京国際フォーラムホールA]
2016/03/26(土) 開場 17:15 開演18:00
at・ [大阪 NHKホール]
2016/03/27(日) 開場 15:15 開演16:00
at・ [大阪 NHKホール]

[出演]
梶浦由記
Guitar:是永巧一
Drums:佐藤強一
Bass:高橋“Jr”知治
Flute:赤木りえ
Percussion:中島オバヲ

今野均 Strings
 Violin:今野均
 Violin:藤堂昌彦
 Viola:生野正樹
 Cello:西方正輝
Horn:岡本彬・丹羽裕樹
Manipurator:大平佳男

Vocal:Remi・KAORI・WAKANA・YURIKO KAIDA


<リリース情報>
■「ソードアート・オンライン ミュージックコレクション」
発売日:2016年1月27日(水)
価格:
[初回生産限定盤(CD4枚組+特典BD)] 4,500円+税
[通常盤(CD4枚組)] 3,800円+税




>>梶浦由記 公式サイト
>>梶浦由記 Twitterアカウント
>>ソードアート・オンライン 公式サイト
>>2017年公開 「劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-」特設サイト

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