ニッポン放送アナウンサー・吉田尚記さんインタビュー<後編>

煩わしさのない日常に寄り添う新しいラジオの形──ニッポン放送アナウンサー・吉田尚記さんインタビュー<後編>

 アニメイベントに参加しているとよく見かけるあの人。楽し気に声優さんと会話のキャッチボールを繰り広げているのは、ニッポン放送アナウンサー・吉田尚記さん。アナウンサーの仕事をしっかりとこなしながらも、アニメにも詳しく、対象者の意外な発言を引き出す様は流石の一言に尽きます。

 よくよく調べてみれば、アナウンサーだけでなく、アニメイベントMC、ラジオパーソナリティ、書籍の出版、DJ、その他にも様々な活動をしている様子。「一体、この人何者なんだろう?」そんな疑問を持った読者のみなさんもいらっしゃるのではないでしょうか?

 そこで今回は、幅広く活躍する吉田さんにインタビューを実施。自身が出版している『コミュ障は治らなくても大丈夫 コミックエッセイでわかるマイナスからの会話力』の話題から、もとはコミュニケーションが苦手だったと語る吉田さんがアナウンサーとして確かな地位を築くに至った経緯や、ラジオ屋として本気で考え開発に取り組んでいる「Hint(ヒント)」についてのお話しなどを、<前編><後編>に分けてお届けします。

 <前編>では人とのコミュニケーションの面白さについて伺いましたが、<後編>となる本稿では、次世代のラジオ「Hint」について語っていただきました。吉田さんの集大成とも言える「Hint」は、新しいラジオの形を生み出す引き金となるのか……!

 <前編>は見逃した方はこちらから!
>>コミュニケーションのための便利な道具が欲しかった──ニッポン放送アナウンサー・吉田尚記さんインタビュー<前編>


──この「Hint(ヒント)」はどういった経緯で生まれたんでしょうか?

吉田:前の話で(前編)とも繋がってるんですが、こいつ(「Hint」)は僕が欲しいと思った道具そのものなんですよ。僕はラジオを専門にしている人間なので、ラジオを意味のあるものだと思ってますし、リスナーの方々も大切なモノだと考えてくれているんです。そういう人たちがいざ良いラジオを探そうとすると、全然見つからないんですよ。音が良いとか受信感度が良いというスペック的な部分もそうですが、それ以上にラジオが本来求められている価値を正しく表現したらどうなるのかな、と考えた結果が「Hint」なわけです。


──吉田さんの考えているラジオの価値とはどういうものでしょうか?

吉田:これは僕の考えですけど、ラジオを聞いてる方って基本的に寂しいのが嫌なんですよ。ただ、それと同時に煩わしいのも嫌なんです。一人っきりでいるのは寂しいけど、別にずっと付き添っていてもらいたいわけじゃないって感じですかね。丁度そのニーズを満たしてるのがラジオなんです。ひとり暮らしのしーんとした部屋でも、そこにちょっとした音が流れてたら安心するじゃないですか。


──なんとなく音がすると落ち着くというのはわかる気がします。

吉田:しかもラジオっていちいちリアクションを取らなくても機嫌を損ねたりしないから面倒くさくない。とある方が言ってたんですが、人間って反応しなきゃいけない話を聞くのは辛いけど、聞き流せる話を聞くのは好きみたいなんですよね。ちょうどファミレスに居るときに、隣の席の会話に耳を傾けたくなるのに近いかもしれません。ラジオってそれなんですよ。大半が自分に関係ない話だから聞き逃がせるけど、そこに人の気配を感じることが出来るんです。


──確かに、気を使う必要がない以上に楽なことはないですからね。

吉田:音楽を聴くにしても、CDの音源だとなんか寂しいんですよね。自分一人で聞いてるっていうのが。でもラジオで自分の知ってる曲がかかるとめちゃくちゃ嬉しいですよ。


──テレビを見ているときに、地元が映ってテンションが上がるに近いですね。

吉田:そんな感じです。やっぱり人間って一人で居るのは良くないんですよ。誰かと何かで繋がってるのが一番嬉しいんです。ラジオで音楽がかかると、それをパーソナリティや他のリスナーと共有できるじゃないですか。それがラジオの肝なんですよ。

人を一番自由にするのって“見ててあげるから楽にして良いよ”ではなくて、“何かあった時だけ教えてあげるね”という状態なんです。それを実現するためには、ラジオを出来るだけ聞き流していい状態にする必要があるわけですよ。ただスピーカーだとそれに対して自分が一番いい位置にいかなきゃ行けないじゃないですか。それって手間なんですよ。

──確かに……煩わしいですね。

吉田:その点「Hint」は無指向性スピーカーで360度に同じ音が広がるように出来ているんです。つまり自分とラジオの位置関係を完全に無視できるわけです。それって凄く自由じゃないですか。そんなラジオないかなって探してみても全然見つからなかったので“じゃあ作るか”となったわけです。


──凄くいろいろなことを考えて上で生まれたんですね……。

吉田:単純にガジェッターとしてカッコいいラジオが欲しかったというのもありますけどね(笑)。

一同:(笑)。

吉田:だってないんですもん! 電気屋とか見に行っても、スピーカーだと7~8万するのがゴロゴロ置いてあるのに、ラジオって一番高いのでも1万円いかないんですよ? もっとお金払っても買うのに……。しかも、はっきり言ってどのラジオもみんな似通っててピンとこない物が多いんですよね。


──ラジオの形って箱型で、ラジカセのイメージがどうしてもありますよね。

吉田:伝統的な形ですからね。それを否定するつもりはないんですけど、もっとあっても良いはずなんです。「Hint」を作ってみて思ったんですけど、なにも箱形である必要はまったくないんですよ。要するに、電波を受信して音が出る仕組みさえあればラジオなんですから。残念なことに、1周間に5分以上ラジオを聞く人ってアメリカやイギリスが90%なのに比べて日本は38%とかなり少ない。それは日本がまだまだラジオを使いこなせてないからなんですよ。


──ラジオが聞かれなくなってしまった理由って何だと思いますか?

吉田:食わず嫌いされてしまってるからじゃないでしょうか。昔はテレビとラジオしかなかったから強制的にラジオに触れる機会があったけど、最近はそうじゃない。どの家にもテレビはあるけど、ラジオはないってところがかなり増えてますからね。カッコ良いラジオがないのもその理由の一つだと思うんです。


──2万円台で買えるBluetooth付き無指向性高音質スピーカーとしても使えると、確かに魅力的ですね。

吉田:現状でも、この値段でこのレベルの音が出るBluetoothスピーカーは他にないと自負できる仕上がりになってます。そしてラジオも聞ける! 脱線しかけましたが、ここが一番重要なところです! ただのBluetoothスピーカーだったらセッティングして音楽を流すところまでやらないといけませんが、「Hint」はラジオだからスイッチ押せば直ぐに何かしらの音が聞こえてくるんです。それって凄く重要なところで、デジタルテレビも映像がつくまでどうしても数秒かかるけど、あれって鬱陶しいでしょう。この清々しさはぜひとも体験してもらいたいですね。

■ ラジオを変える「BLEビーコン」

──「BLEビーコン」という画期的なシステムも搭載予定だと聞きました。

吉田:具体的な説明は省きますが、ラジオの音声を通じてURLを送れるようになる技術ですね。「Hint」をインターネットに繋げるようにするのはなんか違うと思ってたんですよ。今の世の中スマホを持ってる人が大半で、それって既にインターネットに繋がっているんだからもう一つ増える必要なんてないかなと。だったら“ラジオを受信することでスマホを動かせる仕組みを作れれば面白いんじゃね?”と思ったんですよ。それならさっき話した余計な手間をとることもなく、こいつはただ置いておくだけで良いんです。そうすることでラジオを通じて送られてくる情報を、勝手にスマホに表示することが出来る。ラジオを生活の一部にすることが出来るわけです。


──広告も表示させたり出来るんですか?

吉田:ばりばり出来ますよ。それだけの可能性が詰まっているんです「Hint」には。


──「Hint」でこれからやってみたいと考えていることはありますか?

吉田:アニメファン向けにあえて言うのであれば、声優さんモデルを作ろうと言う案が出ています。起動した瞬間に喋るというだけのものなんですが(笑)。“そういうこと出来ますか?”と開発に伺ったところ、ニヤニヤしながら“大丈夫です”と言っていただけたので、流通するようになったらいろんな声優さんのモデルを作れるようになるかもしれませんね。

■ まだ見ぬラジオブームに向けて!

──テレビとラジオの違いってなんなんでしょう?

吉田:ラジオで天下を取っても特に何もおきないんですけど、芸能界でトップに行くためにはラジオで勝ってる必要があるんですよ。ビートたけしさんも、タモリさんも、明石家さんまさんも、共に伝説的なラジオ番組を持ってますよね。俳優として活躍されてるアーティストさんって結構いますけど、その中でも福山雅治さんがなんか一味違うのは、やっぱりラジオを長年やっていたからだと思うんです。

ラジオって武器がない素手での戦いなんです。聞いてる人が“この人のラジオ良いな”と思ってもらうのを、喋りだけで勝ち取る必要がありますから。モデルさんがいくら作りこんだ絵でかっこ良く見せても、一対一で話したときに“この人面白くないな”と思われたらタレントとして何かが足りたいことですからね。漠然としてますけど、“素でこの人面白い”と思わせるゴリッとしたものが一番出せるのが、ラジオいう場なんです。


──吉田さんにとってラジオってどんなものなのでしょうか?

吉田:それはまだわからないですね。たぶん、墓の蓋が閉まるまでわからないと思います。今言えるのは面白いからやってるということだけですね。これ以上に面白い遊びってないですよ。こんなに飽きっぽい人間が、十何年やり続けても全く飽きないんですから。


──ラジオが自分の一部になっている感じでしょうか?

吉田:そう言えるようになったらカッコいいですけどね(笑)。僕からしたら“ラジオ様”ですから。やらせていただいている意識も、聞いていただいている意識も忘れていません。このご時世にラジオを聞いてくれるんですから、大事にしていきたいですよね。


──かなり多彩に活躍されていますが、これからやってみたいことはありますか?

吉田:どんなときでも自分の行動のベースにあるのは、ずっと公私混同を続けていきたいということです(笑)。土井武志さんという放送作家さんがいるんですが、録画した自分のデータと今まで買ったDVDの時間を合わせてみたら、平均余命を超えてらしたらしいんですね。僕も多分超えてるんですよ(笑)。これから先は新しい物が供給され続けるでしょうし、もう自分の面倒は見切ったと思ってます。この先何が起きようとも、自分の持ってる蔵書やデータにアクセスする権利さえあれば、一生退屈しないと思いますので。

もう自分のことは良いので、もっとラジオをどうにかしていきたいですよね。ラジオを好きな人たちが思っている気持ちをもっと全面に押し出して、ラジオブームを作りたいんですよ。あ、でもそれは結局、我田引水になりますね(笑)。アイドルだって、10年前にアイドルブームになるって言ってる人がいたら、“何を頭のおかしいことを”と絶対になったとはずなんですよ。でも今は大アイドル時代じゃないですか。てことはラジオブームが起きないとも限らないわけですよ。一度少しラジオが流行った時代があったけど、まだまだ盛り上げられるはずなんです。少なくとも僕はラジオ屋なんですから、“ラジオブームは起きます”と言い続けようと思っています。

[インタビュー/石橋悠・文/原直輝]


■「Hint」仕様情報

●Bluetooth 4.2搭載
●最大出力 3W
●ユニット 50mm x1
●サイズ 80 x 80x 287 mm
●重量 950g
●電源 ACアダプタまたはリチウムイオン充電池(同梱)
●バッテリー充電方法 同梱の充電器(本体に装着したままの充電はできません)
●バッテリー充電時間 約3時間
●バッテリー連続稼働時間 4~6時間(ラジオ連続聴取において)
充電・再生時間は、環境により異なります。
※仕様および外観は、改良のため予告なく変更される場合がありますのでご了承ください


■「コミュ障は治らなくても大丈夫 コミックエッセイでわかるマイナスからの会話力」作品情報

今日から人と話すのが楽になる!

価格:1,080円(税込)
著者:吉田尚記
イラスト:水谷緑
発売日:2016/06/23

■ポイント
●日本一多忙なラジオアナ・吉田尚記のコミュニケーションの極意がわかります
●吉田尚記さんの失敗談多数。読んで勇気がわくコミックエッセイです
●会話が苦手な人でも、今日から実践できる簡単なノウハウがたくさん詰まっています

■内容
入社してしばらくは原稿もろくに読めず、インタビューも苦手、ゲストに「絡みにくい」と言われ落ちこぼれアナウンサーだった、ニッポン放送の人気アナウンサー・吉田尚記。
そんな彼が、実践に実践を重ねてたどり着いた答え。それは、「コミュ障は治らないけど、コミュニケーションのルールを覚えれば、誰でも会話上手になれる」というものでした。

・初対面の人には先入観をぶつけても大丈夫
・質問はささいで具体的なことから始める
・「えっ!」というリアクションで会話の相手はぐっと話しやすくなる
・自分の弱点は強み(キャラ)になる
などなど、今日から使える実践的な方法が満載です。

初対面が苦手、うまく会話が続かない、話し相手に何を聞いていいかわからない…。
そんな、コミュニケーションが苦手なすべての人に贈る、今日から人との会話が少し楽になるコミックエッセイ!

■著者
●吉田尚記
1975年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。ニッポン放送アナウンサー。2012年に第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞。「マンガ大賞」発起人。ラジオ『ミュ~コミ+プラス』(ニッポン放送)、『ノイタミナラジオ』(フジテレビ)等のパーソナリティを務める。マンガ、アニメ、アイドル、デジタル関係に精通し、常に情報を発信し続けている。主な著書に『ツイッターってラジオだ』(講談社)、『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)がある。Twitterアカウント @yoshidahisanori

●水谷緑
神奈川県生まれ。第22回コミックエッセイプチ大賞・B賞を受賞。
好きなものはモチモチした食べ物。
著書は「まどか26歳、研修医やってます!」「あたふた研修医やってます。」「離島で研修医やってきました。」(KADOKAWA) 。
小学館「いぬまみれ」にて犬漫画「ワンジェーシー」、看護師のWebマガジン「看護roo!」にて「じたばたナース」連載。


>>コミックエッセイ劇場 コミュ障は治らなくても大丈夫
>>「Hint」公式サイト


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