映画
忍野メメを演じる櫻井孝宏さんだから感じ取れる映画『傷物語』の魅力

忍野メメの印象はドクター&ヤンキー!? 櫻井孝宏さんから見た映画『傷物語〈Ⅲ 冷血篇〉』の魅力と、阿良々木暦・羽川翼の関係性とは?

 遂に公開された『傷物語〈Ⅲ冷血篇〉』。『傷物語』三部作の完結となる本作の公開に際し、主人公・阿良々木暦やキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード、そして、彼らと対峙する吸血鬼ハンターたちの均衡を図る怪異の専門家・忍野メメを演じる櫻井孝宏さんにお話を伺いました!

 常に中立の立場を守りながら『傷物語』で起きる事件に関わってきた忍野メメ。そんな彼の〈Ⅲ冷血篇〉での役割とは!? また、今回はアフレコ現場でのエピソードや、好きなキャラクターについてもお話しいただきました。

 

お医者さんのような気持ちで話しました
――今回の『傷物語〈Ⅲ冷血篇〉』で忍野メメを演じられた感想をお願いします。また、どんなところを工夫されたのでしょうか?

忍野メメ役 櫻井孝宏さん(以下、櫻井): 3つに分かれたお話の最後なので、やはり答え合わせめいた展開があります。それで大どんでん返しみたいな、裏に這わせてあった色々な伏線が回収されていくんですが、結構「えっ!?」って思うようなシーンがあって、阿良々木くんやキスショットにしてみると、重くのしかかるような言葉を吐くんです。それが難しくて、あんまり文字面通りのニュアンスでやってしまうのは……と思いました。だから、お医者さんのような気分で話していましたね(笑)。

でも彼にしてみれば、脅してやろうとか絶望させてやろうなんて気持ちはさらさらないんです。「現状はこうで、そうなったのは全て君が起こした行動からであって」かつ、「今考えうる最上のまとめ方もあるよ」みたいな。歯医者さんで口のなかを見られて「治るのに大体これくらいお金がかかりますね」って言われるみたいな(笑)。そこがちょっとお医者さんっぽいなと。治療に近い感覚だったんですよ。やっぱり後半はシーンを支配するような役割を与えられているので、難しかったですね。思うままにやってみようとは考えていました。

――当事者たちを見守る立場ながら、実は……というところでしょうか?

櫻井:それを彼はずいぶん前から知っていたのですが、最初からひけらかさない理由もあるし、そんなことを言っても多分理解できないと思います。だからなんとなく自分も、阿良々木くんに同情しそうな気持ちでいました。

――先日、阿良々木暦役の神谷浩史さんとキスショット役の坂本真綾さんにお話を伺った際、メメの印象について坂本さんからは「格好いいんだか悪いんだかもよくわからないし、色っぽいんだか汚いんだかもよくわからないし、なんかズルいキャラ」。神谷さんからは「追い詰められて頼ると、最終的に何とかしちゃう。忍野っていう存在は、『〈物語〉シリーズ』において欠かせない」と、お伺いました。演じる櫻井さんから見たメメの魅力を教えてください。

櫻井:人間なんだろうなとは思います。吸血鬼ハンター3人の攻撃をいっぺんに止めちゃうあの最初の登場は人間離れしちゃっているんですが、人間臭さというかその辺りに興味を惹かれるんです。本人はバランスというか均衡を保つような役割だったり、いつもあの格好で着ているものは季節感がないので少し違和感があるんですが、それでも情緒と言いますか、話していることの立派さは、子供の頃に想像していた大人像みたいなんです。ただ説得力があるとか、正しいこと言っているというよりはカッコいいんですよね。そういうところが、いいなって思わせられるキャラクターですね。


誰もが幸せな結末を……しかし、そうは問屋が卸さない。

――では〈Ⅲ冷血篇〉のメメの登場シーンで、一番印象的なシーンは?

櫻井:やはり物語後半に語る真実というか、真相というか、そこは怖さを伴って印象的だと思います。結局、ややこしい状況にした原因は阿良々木くんで、そんなに都合良くはないんだよって。怪異の世界に足を踏み込んでしまって、そこは人間の常識が通用する世界じゃない。それこそ、漫画みたいな理想的な結末をイメージしているけれど、そうは問屋が卸さないっていう。

――みんながみんな幸せに、というのは……。

櫻井:難しいかと。本当に不幸というか、運悪いですし、可哀想だとは思います。でも片足を突っ込んじゃいましたからね。

――阿良々木が人間に戻るには、自分が助けた人と戦わないといけなくなると。

櫻井:それを選んでも、例えば友達がいたら「しょうがないよ」って言うと思うんです、「だって化け物じゃないか」って。でも阿良々木くんは、キスショットを吸血鬼っていう感覚で見ていないんです。ほとんど人間として捉えているので、割り切れない。そういうところも分かるので、複雑な気持ちでした。何か痛々しいというか。

――やっぱり櫻井さんは『〈物語〉シリーズ』のキャラクターのなかでは阿良々木に共感するのでしょうか。

櫻井:やっぱりそうなります。ただ、時々よくわからないことをするんですよね。例えば、胴体と顔しかない血まみれの人を見つけて血をあげるって、僕はできないんですよ、多分、警察に言いますね。あれは僕の想像を超えた行動で、ポイントごとにまったく自分と重ならないところがあります。だから、全て感情移入できるわけじゃないんです。そういう意味で言うと、頭だけで考えれば忍野が言っていることも理解はできるんです。でもやっぱり、寄り添いたくなるのは阿良々木くんだと思いますね。

――では、アフレコ現場での印象深い出来事を教えてください。

櫻井:出演キャストは多くても4人と少ないので、ちょっとした会話があるくらいで淡々と進みました。特に〈Ⅲ冷血篇〉は、どうしても羽川翼(CV:堀江由衣)の話で僕と神谷くんが盛り上がってしまいますよね(笑)。映像がすごいことになっていて、「羽川とのところ、作画の細かさ半端なくね?」みたいなやり取りをしていました(笑)。

――収録時には羽川のところだけ既に映像があったんですか!?

櫻井:比較的ありましたね。多分、イメージしやすかったのかなと思います。この作品における羽川のポジションは、確固たるものがあるじゃないですか。すごく華やかに描かれているので、それに意味はあると思っています。阿良々木くんもキスショットもどうなるか分からないなかで、羽川は明確にゴールが定めら れている。見ている人にとってもホッとできると言いますか。

――『傷物語』においての阿良々木の日常の象徴ですよね。

櫻井:そうですね、非常に潤いを与えていると思います。「なんで付き合わないんだよ!」ってツッコミを入れたくなるような。

――結局、戦場ヶ原ひたぎとお付き合いしていますしね。

櫻井:ええ(笑)。その辺の話は収録時に神谷くんとしましたね。ビジュアルに関しては、監督の描きたいお話、ひいてはキャラクターなので、それぞれのキャラクターへの思い入れがあるなかで、羽川に対しては愛情を感じました! でも愛情を注ぎやすいですよね、いいなって思います。男なら誰しもが思い描く理想みたいな。女の人は「チッ」って思うかもしれませんが(笑)。

――神谷さんは羽川が好きとのことですが、やっぱり櫻井さんも……!?

櫻井:いやぁそうですね! やっぱり羽川さん好きですし、堀江由衣さんの芝居がヤバいですね。(笑)。

――櫻井さんは彼女の登場シーンでどこが印象に残っていますか?

櫻井:阿良々木くんとのイチャイチャは、目の保養だなって思っていました。でも彼女の献身的なところがすごいなというか。阿良々木くんに対してどういう気持ちを持っているのか、愛情なのか博愛的な精神なのか僕には分からないです。でも、大胆な行動をとるところに「ああ、そこまでできちゃうんだ」という衝撃がありました。そこにちょっとした怖さもあって、人間らしい行動に怖気づいたり、そのイメージができていても行動には移せないじゃないですか。まったく躊躇わない……というのは、すごい印象的でした。

――では〈Ⅲ 冷血篇〉で印象的なシーンは?

櫻井:この作品は2WAYで、滅茶苦茶シリアスなところと、猛烈なお色気という両極端な要素があるんです。その両方とも印象的なんですが、分かりやすい部分で挙げると、お色気シーンがインパクトありましたね。

物語の本筋に触れる会話でのやり取りって、どこか切り取るのは難しく、そこには今まで伏せられていたものがあるんです。実は忍野が深く関わっていて、それが語られるシーンなんかも「えっ?」って引いちゃうような衝撃があります。ああいうところに、良い人なのか悪い人なのかよく分からないところが出ているのかなと。

――でも嘘は一切言ってないですよね。

櫻井:そうなんですよね、ああいう立ち回り方も大人と言えば大人なんですけど、結構ダーティで。それも、彼が思う一番良いであろう結末を迎える下ごしらえのような、そういう話になってきます。

それとまったく相反する、過剰なまでのドキドキする甘酸っぱいを越えちゃって、“どうなっているんだそのふたり”……っていうシーン(笑)。あのふたりは別に付き合っている訳ではないんですよね、でも付き合ってないからできることなのかとも思えて。だから、実際にそういう経験のないふたりが異常な経験をして互いに縋るような気持ちがあったり。そこに覚悟というか、死んでほしくないとか生きたいとか、そういう実感を得られる。自分にない気持ちをぶつけられるような相手が、異性として登場したってことだと思います。

阿良々木くんは「人間強度」が、みたいな論理を立てて生きてきたじゃないですか。そんな人がすごい感情的に、もう死んでもいいやと思った先に生きている実感を味わって、死にたくないと思う。生きる理由を見つける。色んな感情が混じり合って、膨らんで、固い決意へと変わる。色気のあるシーンに見えるけど、その裏には必死なふたりが見える気がします。


時間がかかったからこそ出せる、今の忍野メメの演技

――最初の『化物語』から大分経ち、メメが登場していない話も増えたとは思いますが、このシリーズに関わっての思い出深い話があれば教えてください。

櫻井:『化物語』が始まった7年前くらいは、自分の年齢に近い役を演じることはあまりなかったので、頑張らなきゃなと思っていました。

――それまではもっと若い役を?

櫻井:10〜20代が多いですね。忍野は30代半ばくらいの設定なので。還暦過ぎても高校生役ができる世界ではありますが、自分の年齢に近い役を任せてもらえることは多くありませんでした。だからこそ、ちょっと背伸びをするような気持ちで臨んでいましたね。でも6、7年経つと、昔できなかったことが、少しできるようになったり、お芝居で表現できるようになってきたんです。だから、『傷物語』をやりますよって発表から結構時間経っちゃいましたけど、それはそれで良かったのかなって(笑)。

当時、制作発表の時に流れた、阿良々木くんの首がスポーンと飛ぶ映像がすごい印象的だったので、いつかなと楽しみに待っていました。その結果、今の自分が出せるものは全て出せたかなと思っているので、この6、7年が上手く形になったんじゃないかなと思います。

――最後にこれから映画をご覧になるファンのみなさんへ、メッセージをお願いします。

櫻井:願わくば3つ通して観てもらいたいですね。ひとつひとつ切り取っても面白い作品ですが、ひとつづりの物語なので。もしかしたら分かりづらい感情や、飲み込めない情緒があるかもしれません。でも、この物語の核というか、その答えを導き出すに至る経緯や事実、原因。それと、終わりを迎えることがどういうことなのか、考えてもらえるといいのかなと思いますね。結局、丸く収まるとかキレイに終わるとか、そんなことばかりではない気がしていて。そこをどう過ごすか、そこで何を拾うかなど、自分のなかで答えを見つけてもらえたら嬉しいです。

――ありがとうございました。

[取材・文/胃の上心臓]

>>「傷物語」公式サイト
>>>西尾維新アニメプロジェクト公式ツイッター(@nisioisin_anime)

 

作品概要
■『傷物語〈III冷血篇〉』
2017年1月6日(金)より全国公開中
配給:東宝映像事業部
PG-12指定 上映時間:83分

第一部「鉄血篇」
主人公・阿良々木暦と吸血鬼キスショットとの衝撃的な出会い
第二部「熱血篇」
彼女のために過酷な戦いに足を踏み入れた暦の姿
はたして、三部作の終結部となるこの「冷血篇」で、
暦を待っているものとは……。
決して消えない青春の〈傷〉が今、スクリーンに刻みつけられる。

【STORY】
ドラマツルギー、エピソード、そしてギロチンカッター――怪異の専門家・忍野メメの助力も得て、3人の強敵との戦いに勝ち抜いた阿良々木暦。彼はついに、吸血鬼キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの四肢を奪い返すことに成功する。すべては、普通の人間に戻るため……。しかし再びキスショットのもとを訪れた暦は、吸血鬼という存在、その恐るべき本質を知ることになるのだった。決して取り返しのつかいない自分の行為を悔やみ、そしてその顛末に困惑する暦。後悔にさいなまれる彼の前に現れたのはほかでもない、暦の「友人」羽川翼だった。そして彼女が暦に告げた、ある提案とは……。

【解説/〈物語〉シリーズとは】
 2006年に講談社BOXより発表された第一作『化物語』から、2016年1月刊行の最新作『業物語』までで20巻に達し、またアニメ化作品も2009年の『化物語』を筆頭に、現在までで6作・全75話を数える人気シリーズである。吸血鬼体質となった高校生・阿良々木暦が、“怪異”に悩まされる少女たちを助けるべく奔走する本シリーズは、巻数を追うごとに、ヒロインそれぞれにスポットを当て、より深くキャラクターを掘り下げていく構成が採られている。ほぼすべての作品がシリーズの出発点であり、また阿良々木が“吸血鬼”になった経緯を描く『傷物語』から、わずか1年以内の出来事を描いているというのも、特筆すべきポイントである。

【スタッフ】
原作:西尾維新「傷物語」(講談社BOX)
総監督:新房昭之
監督:尾石達也
キャラクターデザイン:渡辺明夫 守岡英行
音響監督:鶴岡陽太
音楽:神前 暁
アニメーション制作:シャフト
製作:アニプレックス 講談社 シャフト

【キャスト】
阿良々木暦:神谷浩史
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード:坂本真綾
羽川翼:堀江由衣
忍野メメ:櫻井孝宏

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