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声優・上坂すみれさんがロシア文学の権威と本気で対談!

声優・上坂すみれさんがロシア文学の権威と本気で対談!東洋文庫「わが心のロシア♡」トークショーレポート

 2017年1月29日(土)に、東京・東洋文庫にて、声優やアーティストとして活動する上坂すみれさんが『わが心のロシア♡』と題するトークショーに登壇しました。上坂さんといえば、出身大学ではロシア語を専攻し、自他ともに認める旧ソビエト連邦(ソ連)やロシアを愛するひとり。今回のイベントも、その「ロシア好き」を請われたことから出演されました。

 東洋文庫では2017年1月7日(土)から4月9日(日)まで、展覧会『ロマノフ王朝展―日本人の見たロシア、ロシア人の見た日本―』を開催。上坂さんは展覧会のオフィシャルサポーターを務めており、会期中の展示室内には上坂さんによる音声ガイドが流れています。

 今回はその活動の一環として、名古屋外国語大学学長でロシア文学や文化に関する著書多数の亀山郁夫先生とのトークショー開催の運びとなりました。ロシア愛を語り合うのにこれ以上ないほどの会場と座組で行われたイベントは、時間を変えて二部制で開かれました。今回はそのうち第一部をレポートします。

 ……しかしながら、旧ソ連や現在のロシアにも通ずるロマノフ王朝をテーマに置き、ロシアを愛するふたりだけに、トークでは人物名や歴史用語が頻発。ただ、今回はそんなイベントの雰囲気を味わっていただくべく、あえて補足は少なめにまとめてみました。

 

ふたりはソ連国歌を聞くと「気持ちが高まる」
 会場となった東洋文庫は、アジア全域の歴史や文化に関する東洋学の専門図書館・研究所であり、「世界5指の1つに数えられる」というほどに国内外からも評価の高い施設です。

 ソ連国歌が鳴り響く中、上坂さんと亀山郁夫先生が登場。早速、司会者から「ロシアの魅力は?」と尋ねられると、上坂さんは「ロマノフ王朝展ですけど、いきなりロシアの話で大丈夫ですか……?」と気遣いつつも、好きになったきっかけはソ連国歌にあったと話します。

「私はソ連の国歌をきっかけにハマったんです。イントロから勢いのある、そして自分たちの謳っていることを疑わない力強い歌声。レーニンは偉大だ!という一点のくもりもない歌声です。亀山先生も著作の中で、ソ連国歌を聞いたら気持ちが高まって、出勤中にエンドレスリピートしながら腕を振って歩いていたと書かれていて、私と同じ経験をした方がいるんだと感激しました」

 これには亀山先生も「あの歌は聞いていると、だんだん洗脳されていきますね(笑)」と返し、上坂さんとの“同志感”が観客にも伝わるワンシーンとなりました。

 
上坂すみれさんが好きなウォッカの銘柄は?
 ロシアといえば、お酒の「ウォッカ」が愛される土地。亀山先生から「上坂さんもウォッカは好きですか?」と話を振られると、上坂さんは好きな銘柄を挙げて答えます。

「イベントでもよくウォッカをお土産でいただくので、自動的に晩酌はウォッカになったりします。常温より凍らせて飲む方が美味しいですよね。フレーバー付きの『ヴァン ゴッホ』や、20歳の誕生日に飲んだという理由で一番思い入れもある『ストリチナヤ』も好きです」

 ここで会場に「みなさんの中でウォッカを飲んだことがある人は?」と、さすが上坂さんのファンと言うべきか、半数以上が手を挙げていました。

 ロシア事情に詳しい亀山先生は「かつては自家製のウォッカもありました。ゴルバチョフ時代の禁酒令のもとでは、靴墨やヘアトニックからウォッカを作ったそうです」と明かされると、上坂さんも観客も驚きの表情。

 
止まることないソ連トーク!「推し書記長」は誰?
 ゴルバチョフ書記長の名前が出たところで、まだまだ続くソ連トーク。亀山先生からの「上坂さんはどの書記長が好きですか?」と、まるで好きな芸能人やアニメの推しキャラを聞かれるかのごとき質問にも、上坂さんは嬉々として回答していきます。

上坂すみれさん:私は順位もよく入れ替わるので一概にはいえないのですけれども、最近は読んでいる本から発見する情報もあって、ブレジネフさんの株の上がりようがすごいです。

亀山先生:ブレジネフは悪の帝王みたいに言われていたけど、実はあの時代がもっともソビエト人にとっては気持ちが豊かであり、なおかつ幸せだった時代といわれているんですね。

上坂すみれさん:大学でロシア語を勉強している時にそういう資料を読みました。あとは亀山先生のご本を読んでいる時に、ブレジネフが地方を訪問して「暮らしはどうだ?」と聞いた話が好きです。「同志、肉が足りません」と言われると、「そうか!肉を食わんといかんなぁ」と言って、その直後だけ肉が食べれるようになるとか(笑)。

インテリで読書量もすごかったというスターリンに比べて、ブレジネフとフルシチョフって、そんなに「賢くない系」の書記長だと思うんです。でも、フルシチョフは本当に共産主義やスターリンを信じていて、まっすぐ一途な……「ガチ恋系」だったんですね、つまり。ブレジネフは、もうちょっとゆるい感じがあって。

亀山先生:たしかに、スターリンが厳しいお父さんで、それに対してブレジネフはやさしいお父さんというイメージですね。

 

ロシアを愛する人はMっぽい?
 ロシア文学や歴史にも話題が移る中、「ロシアを愛する人はマゾヒストが多い」という亀山先生の発言には観客からも大きな笑いが起きます。上坂さんも「そうなんですか?!」とたまらず返しますが、亀山先生はロシア文学の傑作『カラマーゾフの兄弟』を書いたドストエフスキーの言葉を引きながら答えました。

「ドストエフスキーは絶対的な君主の支配のもとでこそ完全な自由が得られる、と言っているんです。絶対的な君主は民衆や市民を支配しようとして、いじめるわけです。そのいじめを受け入れる中にあって、彼らは何かしら自分の自由を感じてきた。どんなに皇帝が強くても彼らは限りなく自由で、その自由を支えてくれる処方箋がウォッカだったんです」

 この論には上坂さんも「たしかにその言葉は、どの時代のロシア人にも当てはまりますね……だからこそ禁酒されると暴れ出すんですね」と頷きます。

 亀山先生は「ゴルバチョフはそれが失敗だったんです。飲酒を制限した政策さえなければロシアは本当にいいところまでいっていたはず」と目を伏せると、上坂さんも「グラスノスチやペレストロイカよりも、それがまずかった可能性がありますね……」と、ソ連解体には実はウォッカが大きな役割を担っていた(かもしれない)という発見に、頭をめぐらせる様が見えました。


書記長だけじゃない! 「推しロマノフ王朝皇帝」は誰?
 トークショーは会場からの質問を受け付けながら、いよいよ展示とも関連するロマノフ王朝に関する話題へ。

 観客から「上坂さんが今回のロマノフ王朝展の中で、いちばん好きなものは何でしたか?」と問われると、「ロマノフ王朝歴代皇帝がイラスト付きでわかりやすく、ゆるめな文体で紹介されていたことですね。それをきっかけにロシア皇帝にもっと興味をもってくれる人が増えるのではと思って嬉しかったです」と答えます。

 また、東洋文庫の公式YouTubeにアップされた動画でも紹介された、今回の目玉展示である1855年に描かれた『プチャーチン来航図』も、上坂さんの心を射止めたそう。



「プチャーチン来航図は日本人とロシア人が描かれているのがかわいくて、日本で言う……なんというか、『まんがタイムきらら系』というんですか。ゆるタッチ文化があの時点で完成されていたかのような絵で、聞き取ったであろうロシア人のお名前も横に書いてあって。一緒に船を作って喜んでいるステキな交流の様子が伝わって、いいなぁ、と嬉しく思いました」

 さらに、歴代書記長だけでなく「ロマノフ王朝の歴代皇帝で好きな人は誰か?」という質問にも、上坂さんは軽やかに返答していきます。

「変動はあるのですが、私はアレクサンドル1世、2世、3世とみんな好きです。総合優勝は農奴解放などをしたのに、たくさんアンチがいて暗殺未遂もたくさんあって、なかなか恵まれないところにグッとくるアレクサンドル2世だと思います。そういえば最近は、歴史上では活躍しない方なんですけれども、アレクサンドル3世がすごくキュートだったという文章を読みました。大柄でよく笑うパワータイプの方で、火かき棒を素手で曲げて『曲げたぞー!』って自慢したり、コインを曲げて『曲げたぞー!』って自慢したりする人です。なんだかクマさんのようで可愛くて、抱きつきたい1位はアレクサンドル3世かなって」

 
 この答えに亀山先生は、ロマノフ王朝の血塗られた歴史を引き合いに出し、話を広げていきます。

亀山先生:アレクサンドル2世も殺されちゃいますし、歴史的には1867年以降、どこへいっても暗殺の可能性があった。改革をしたがゆえに恨まれるという結果ですね。私が「自由は恐ろしい」と思うのは、農奴は自由を与えられるとさらに欲しくなるわけです。だからこそ、中途半端な自由を与えた皇帝に対しては強い憎しみを抱いたんですね。

上坂すみれさん:ドラマチックでもある一方で、ロシアの特殊な民衆の心というか……土地の持つ力というか。他の国なら、自由を与えたら逆に反発してくるなんて考えにくいですから……。

亀山先生:そうですね。中途半端な自由を与えた皇帝に対して、知識人はそれを進めようと皇帝に反発、憎しみを抱きました。ほとんどの民衆はこの状況に安住していましたが、知識人は中途半端な改革というものに対して、自尊心が許さないんです。なにしろ民衆の代理でもある皇帝を民衆が一番愛していたので、知識人の言うことなんて聞きません。すると、ますます知識人の立場がなくなり、民衆を引き従える皇帝は愛されていきました。

上坂すみれさん:民衆と皇帝、という関係性がいいのですね。その間はない、というか。


 今回のトークショーは、ロマノフ王朝に秘められたドラマを紐解きながら、ソ連、ロシアへ結びつくトークは休むことなく続いていきました。観客の中には熱心にメモを取る人や、関心して頷く人の姿も見られ、多くの笑いも交えながら展開。あっという間に、予定の1時間は過ぎていきました。

 最後は亀山先生の著作に、亀山先生と上坂さんのサインを入れたものを座席番号のくじ引きでプレゼント。終始、和やかな雰囲気の中でトークショーは進行し、知的な熱気と登壇者のロシア愛で満ちた会場に、大きな拍手が響き渡りました。

 



[取材・文・写真=長谷川賢人]

>>東洋文庫公式サイト
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