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高梨康治さんが『フェアリーテイル』音楽制作で行った数々の挑戦とは

サウンドトラックを聴きながら読みたい――『FAIRY TAIL(フェアリーテイル)』のサウンド制作で行われた高梨康治さんのチャレンジの数々と音楽的ルーツ

『NARUTO -ナルト- 疾風伝』や『フレッシュプリキュア!』から『スマイルプリキュア!』までのプリキュアシリーズをはじめ、数々のアニメ音楽を手がける高梨康治さん。メタル畑出身の音楽家として、アニメーション音楽にもヘヴィメタル調のサウンドを取り入れる作風は、日本のみならず世界中のアニメファンからも支持されています。

そんな彼の代表作のひとつとなっている『FAIRY TAIL(フェアリーテイル)』の劇伴5作品が、アニメのサウンドトラックではまだ数少ないハイレゾ音源にて配信中です。

本稿ではハイレゾ配信を記念して、高梨さんにインタビューを実施! アニメ『FAIRY TAIL』の音楽制作についてのお話から、サウンドトラックの聴き所、そして自身を「作曲家じゃなくて、曲も書けるメタラー」と言い放つ高梨さんのメタルのルーツのお話もお伺いしました。


『FAIRY TAIL』の音楽は皆が楽しみながら作られた
――まずは、今年のJASRAC国際賞を『FAIRY TAIL』で受賞されましたが、お気持ちをお聞かせ下さい。

高梨康治さん(以下、高梨):要するに世界の皆様が最も聞いてくださった音楽が『FAIRY TAIL』だったということで、ありがたいですね。実はなんとなく予感はしていて、2015年のJapan Expoでライブを行った時に『FAIRY TAIL』の「ドラゴンフォース」(「VOL.3」収録)のイントロが流れた時の歓声が地鳴りの様で、人気を実感していたんです。でも、まさかJASRAC国際賞まで頂けるとは夢のようでした。『FAIRY TAIL』に誘って頂いた高取さんに感謝です。

――そして、今回のハイレゾ化の企画を聞いた時のお気持ちはいかがでしたか。

高梨:嬉しいの一言ですね。自分の人生の中でも最も重要な作品のひとつなので、ハイレゾ化して頂けるのは本当にポニーキャニオン万歳です!

――ハイレゾ化はどのような流れで決まったのでしょうか。

高取昌史さん(ポニーキャニオン 以下、高取):私は現在EC事業の方を担当しているんですが、「きゃにめ」というポニーキャニオンのECサイトにハイレゾの音源を出せるしくみがあって、せっかくそのしくみがあるので「売れる作品を増やしたい」という話になったんです。そこで、高梨さんにはポニーキャニオンのアニメ作品をいくつも担当して下さった経緯があるので、まずは『FAIRY TAIL』のサウンドトラックのハイレゾ化を決めました。

――高梨さんは今回のプロジェクトにはどのような形で関わられたのでしょうか。

高梨:僕は最後に完成品を聴かせて頂いて確認しました。出来上がってきたものがバッチリだったので、一発OKでしたよ。

――楽曲を制作された高梨さんが実際に聴いた時に、どのような所に変化が現れたと感じましたか。

高梨:CD化されるとレコーディングの時よりも音が圧縮された感じになるので、より録った時の状況に近い音をなったのは感じましたね。

――ちなみに、『FAIRY TAIL』の音楽のレコーディングはどのような環境で行われているのでしょうか。

高梨:まずPCでシミュレーションしたサウンドを作って、それをスタジオで生の楽器とパートを差し替えて行くんです。

高取:高梨さんはデモの段階で結構曲を作り込みますよね。

高梨:デモは作り込みますね。奏者の方々は皆プロフェッショナルなので、スタジオに入るまでの作り込みとかアレンジで9割勝負が決まっていると思います。

高取:『FAIRY TAIL』では管楽器とかも色々スタジオに持ち込みましたよね。

高梨:色々しましたね。回を追うごとに凝っていって、ギタリストの藤澤健至が最初はギターだけを演奏していたんですけど、「マンドリンやってみろよ」とか「ブズーキやってみろよ」とか、ケルト系の弦楽器を試させているうちにどんどん上達しちゃって(笑)。普通にレコーディングもプロ級です。だからアルバムを聴く毎に健至の進化の過程を感じられると思います。

 あとシンセサイザープログラマーの高山くんというのがいるんですけど「シンセの音作りだけじゃなくて楽器もやりたい」と言って、ドゥドゥクという民族楽器を海外から輸入して、自分でこっそり練習して吹ける様になっていたんです。それでプレイヤーとしても参加することになって、その時に「なんなんだろうこの人達は」と思いました(笑)。

高取:皆で盛り上がりながら作っている感じが『FAIRY TAIL』の現場はありますよね。

高梨:演奏しているうちにプレイヤーさんから色々なアイデアを貰ったりして、これは長く続けられる作品ならではだと思います。こうやって何枚もアルバムを作らせて頂くと、前のアルバムで出たアイデアが活かされるんです。メンバーも変わらなかったので、バンドアルバムの1st、2nd、3rdの様に進化出来ました。

 あと、監督の石平信司さんが凄く自由にやらせて下さって、僕らのやることを楽しんでくれたという環境もやりやすかったです。

――『FAIRY TAIL』の楽曲を作る上で意識されている点などはありますか。

高梨:意識というよりも、ライフワークの様にノリノリで作っているんですよね。原作を読んだ時に世界観が音として頭の中で鳴って、最初の打ち合わせの時にいきなり「ケルティックメタルがやりたいんですけど」って石平さんに言ったらOKを貰えたんです。なので、作っていて楽しいと言うのが先行してあまり苦労した印象もなくて、新しい作品が決まっても「新しい『FAIRY TAIL』の作品が作れる」っていうワクワク感がずっと続いている作品です。

 あと、曲の制作にも時間がかかって無くて、意外と考え込んで作った曲って後で聞くと「普通だな」と思う事が多いんです。制作時に勢いがあると、短時間で作っているんだけどインパクトのある曲が出来る事が多くて、原作自体も好きだから早く曲が浮かぶんだと思います。「VOL.4」の時なんて、(音響監督の)はたさんから「原作のここまで読んでおいて。あとは好きに作って」という発注だけでした(笑)。

――ケルティックメタルを思いついた時に何か参考にされた物などはありましたか?

高梨:普通のケルトは聴きました。本当にベタなケルト音楽を聴いていて、どのような手法なのかという分析はしましたね。元々ケルトの音楽は好きで、なぜかと言うとリッチー・ブラックモアが好きだったからなんだけど、僕も当然影響受けて聴いていました。

 ただリッチーとかのケルトの表現の仕方じゃなくて、露骨なケルトの表現をするのもやってみたかったんです。友人に言われたんですけど、「ケルトの人だったら恥ずかしいくらいベタなフレーズをやったね」って言われた曲もあったんですけど、だからこそ分かりやすかったのかなと思います。

高梨康治のメタルスピリッツの起源はRainbowにあり
――楽曲制作の最初の段階から「ケルティックメタルで行きたい」とおっしゃったとのことですが、ケルトという民族音楽と高梨さんが得意とするメタルを合わせたのは何か理由があるのでしょうか。

高梨:皆勘違いしているのが、僕は作曲家じゃなくて曲も書くメタラーなんです(笑)。あと僕がバンドマンだった頃にプロの仕事に引き上げてくださったのも高取さんなんです。

――長らくのお付き合いなんですね。ではある程度、高梨さんに依頼が来るという事はメタル的な要素を求められているという認識のもとで制作されているのでしょうか。

高梨:僕が作家という立場で幸せだなと思っているのが、ほとんどの作品が「俺の芸風ってこういう事だよね」って理解した上で発注して下さる事が多いんです。俺にジャズサウンドを発注された事は未だに無いですしね。

――高梨さんは近年アニメーションの音楽を数多く制作されていますが、高梨さんが劇伴をやろうと思ったルーツを教えて頂けますか。

高梨:劇伴を始めて凄いなと思った事があって、メタルバンドをやっていた頃って、メタルバンドのレコーディングにオーケストラを入れるなんて予算が無くて出来ない事だったんです。でも劇伴ってオーケストラを入れて劇伴を取れるので「こんな素敵な仕事があるんだ」って思って嬉しかったんです(笑)。

――では、高梨さんの音楽的なルーツはどこになるのでしょうか。

高梨:音楽のルーツ的にはRainbow(※1)のリッチー・ブラックモアが大好きで、憧れてギターを初めたんです。本気でRainbowに入りたくて、18歳位までずっとギターをやっていたんですけど、ある時に「ギターをやっているとRainbowに入れないじゃん」っていうのに気がついて(笑)。

※1…「Smoke on the Water」「Burn」などでも知られるDeep Purpleのギタリスト、リッチー・ブラックモアを中心に結成されたハードロックバンド。バンドメンバーはギタリストのリッチー・ブラックモア以外目まぐるしく変わっている。

――リッチー・ブラックモアありきのバンドですからね。

高梨:それでキーボードを始めたんです。別にピアノとかをやっていたわけでも無かったんですけど、キーボードを始めてみたんです。

――最初に「Rainbowに入りたい」と思った衝動からギターを始め、キーボードを始めて、今仕事に繋がっているのは凄いですよね。

高梨:そういうルーツがあるので、曲を作る時もギタリスト的な発想になっていて、鍵盤でギターのリフを作っても実際に弾けるか弾けないかが分かるので、そういうのは強みですね。

――ちなみに、Rainbowだとどの時期が1番お好きなんですか。

高梨:賛否は分かれるんですけど、やっぱりロニー・ジェイムス・ディオ(※2)が1番好きです。ジョー・リン・ターナー(※3)も認めないって言う人がいるけれど、僕は認めます。今のヴォーカルのロニー・ロメロも全然OK。リッチーがいれば全部良いんですよ!

※2…Rainbowの初代ボーカリスト。パワフルかつ伸びやかな歌声が特徴で、2010年の没後もメタルファンから愛され続けている伝説的なボーカリストのひとり。

※3…2代目ボーカリストのグラハム・ボネットの後任として参加した3人目のボーカリスト。1980年に参加してから、Rainbowが解散する84年まで参加した。

アルバムを聴き進める毎に進化していくサウンド
――アルバムの聞き方として高梨さんがオススメする聞き方などありますか。

高梨:全部のアルバムの一押しは意図的に1曲目に入れています。大体僕が聴いてきたメタルのアルバムは1曲目と2曲目に一押しを置くんです。3曲目くらいでちょっと落ち着いた曲を入れるというのがメタルの王道の構成なので、このアルバムも1曲目と2曲目にあるのが僕の一押しの曲なんです。そして後半にまた盛り上がる曲を持ってくるという構成になっています。

――先ほどのアルバム制作の度に新たな試みが行われている話を聞くと、「VOL.1」から順番に聞いても面白いですよね。

高梨:確かに「こうやって変わっていったんだ」っていう進化の過程を聴けるかとは思います。

――他にも新たな試みとして行った事などあれば教えて下さい。

高梨:「VOL.2」のアルバムを作る時にアップテンポな曲が欲しくて、1曲目の「Fiesta」は僕的にはRainbowを意識して作ったんです。ヴァイオリンが入っているんですけど、開放弦を効果的に使っているのは「Burn」(※4)とかでリッチー・ブラックモアが使っているギターの手法なんです。「VOL.2」時はミドルテンポな曲からヘヴィなテンポな曲が多かったので、アップテンポなRainbowテイストなケルトがやってみたくて、そんな試みを行ったのを覚えています。

※4…Deep Purpleの8枚目のアルバム「Burn(邦題:紫の炎)」に収録された表題曲。日本でもたびたびCMなどで楽曲が使われているので、聞き馴染みのある方も多いはず。

――高梨さんが作るケルティックメタルの中にも進化と遊びが増えていくんですね。

高梨:「VOL.3」の時ははたさんがプログレの要素も入れたいって言ってて、ちょっと変拍子があったりするんです。「VOL.4」になると新世代のドラゴンスレイヤーが出てくるので「デジロックの要素を入れたい」ってはたさんが言って、シンセをメインに持ってきてケルト楽器を抑えた形の曲を作りました。

 だから「VOL.1」はわりと泥臭い感じのサウンドになっていて、段々とデジタル化していく過程もありますね。

――ケルティックメタルを軸にプログレの要素やデジロックの要素が入っていると思うと、良い意味でマニアックなアルバムに見えてきますね。

高梨:そうなんですよね。でもケルティックメタルという軸を作らせて頂いたおかげでブレずに新しい要素を取り込めたのが面白かったね。

――様々な楽曲の中でもメインテーマは何度もアレンジバージョンが制作されていますが、それはなぜなのでしょうか。

高梨:これははたさんの発注で、メインテーマの色んなバリエーションを作って重要な所で使うんです。同じメロディを使うことで、観てる人にメロディを印象付けていって、ここ一番でメインテーマをかけるという、ある意味映画的な作り方なんです。これは、はたさんという音響監督さんの成せる技ですね。

――なるほど。では、サウンドトラック制作の中で高梨さんが特に印象に残っている出来事はありますか。

高梨:今でも録画して大切にもっている映像があるんですけど、『FAIRY TAIL』のサントラの2枚目を作った時にポニーキャニオンさんがCMを作ってくれたんです。サントラのCMって普通だとあり得ない事なんですけど、ディレクターさんたちが手作りで作ってくれたCMなんです。それをテレビの放送の枠で流してくれて、すごく愛を感じました。

――最後に『FAIRY TAIL』の音楽を愛すファンの方々へ向けてメッセージをお願いします。

高梨:愛して下さる方がいるからこそ僕らはやっていけるので、僕の方からは感謝の気持ちしかありません。ありがとうございます。そして楽しんで下さい。本当に世界中の方が聴いてくれているので、あなたの国にも必ずいきます。あとライブにも来て下さい!

[取材・文/イソベアラタ]

>>きゃにめ ハイレゾ配信ページ


ライブ情報
タイトル:高梨康治 & 刃-yaiba- LIVE 2017
出演:高梨康治(Keyboard)、茂戸藤浩司(Taiko)、藤澤健至(Guitar)、
-KIJI-(三味線)、元永拓(尺八)、満園庄太郎(Bass)、
市川義久(Drums)&Ray (Vocal)
ゲスト:水谷美月(Violin)、田野アサミ(Vocal)、ますだみき(Vocal) 他
日時:2017年9月24日(日) OPEN 16:15 / START 17:00
会場:新宿ReNY
>>新宿ReNY ホームページ

料金:前売 ¥6,500(税込)/1ドリンク別(全自由 整理番号順入場)
一般発売:2017年7月1日(土)10:00~
プレイガイド:チケットぴあ 0570-02-9999 (Pコード:330-203)
>>チケットぴあ

ローソンチケット 0570-084-003 (Lコード:73773)
>>ローソンチケット

e+(イープラス)
>>e+(イープラス)

問い合わせ:オデッセー 03-5444-6966(平日11:00~18:00)

PROFILE
【高梨康治(たかなし やすはる)】
ロックを音楽的原点とし、ハードロックとオーケストラを融合した重厚かつ華麗なサウンドを得意とする音楽家。代表作に、格闘技『PRIDE』テーマ曲(2000)、『NARUTO-ナルト-疾風伝』(2007~)、『プリキュア』シリーズ(2009~2012)、『FAIRY TAIL』(2009~)、『美少女戦士セーラームーンCrystal』(2014~)、など。2013年、2014年につづき2017年と「JASRAC国際賞」を受賞。

>>高梨康治 オフィシャルサイト
>>高梨 刃-yaiba- のライブインフォメーション

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