デンマーク発の海外ドラマ『BELOW THE SURFACE 深層の8日間』キャストインタビュー|神谷浩史さんが真摯に語る作品への多様なアプローチ法
デンマーク発のドラマ『BELOW THE SURFACE 深層の8日間』が、海外ドラマ専門チャンネル・スーパー!ドラマTVにて、10月4日(木)22:00より独占日本初放送!
本作は、近年ヨーロッパで頻発しているテロ事件を題材に、テロリストVS対テロ特殊部隊の攻防と、事件に絡む人々の心理や人間関係を描いたサスペンス・アクションで、全8話の構成に。
1つの事件が解決するまでの8日間を1日1話で描き、さらに1話の中で登場人物のうちの1人の過去が回想の形で語られるというスタイルになっています。
本稿では放送を記念して、日本語吹替版で主人公のフィリップ・ノアゴー役を演じている神谷浩史さんにインタビュー! キャラクターの魅力から、海外ドラマや映画についてのお話まで、いろいろとお聞きしました。
ストーリー
デンマークの首都コペンハーゲンで、地下鉄乗客を人質にしたテロ事件が発生。3人のテロリストたちは、乗客15人を人質にして、工事中の地下鉄に立てこもる。
対テロ特殊部隊の指揮を執るのはフィリップ・ノアゴー。彼は優秀な指揮官だが、1年ほど前に中東で捕虜となり、その時に受けた拷問で悪夢に悩まされていた。
テロリストたちは人質の命と引き換えに多額の金を要求するが、同時に女性ジャーナリストのナヤ・トフトに人質への独占インタビューをもちかける。
インタビューの最後に登場した覆面姿のテロリストのリーダー格、通称“アルファ”は、カメラに向かって警察と自分はパートナー関係になることを願うと語りかけるが、最後の「よう、パートナー?」という一言にフィリップは凍りつく。
それは、自分を拷問した男の言葉に酷似していた――。
主人公フィリップ・ノアゴーの第一印象は、あまり魅力的じゃない!?
――主人公のフィリップ・ノアゴー役に決まった時の率直なお気持ちをお聞かせください。
フィリップ・ノアゴー役の神谷浩史さん(以下、神谷):ありがたかったです。海外ドラマには憧れもあったのですが、なかなか機会に恵まれませんでした。今回、作品に出演させていただいて、なおかつメインキャストということでしたので、プレッシャーもありましたが、こういった機会を与えてくださったことに、感謝の気持ちでいっぱいでした。
――憧れといいますと?
神谷:例えば、NHKで放送されていたドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」もすごく好きで、子供の頃によく観ていたんです。ああいった海外ドラマに憧れを持って観ていたので、自分もこうしてチャレンジできるということはすごく嬉しかったですね。
――神谷さんが演じられる、フィリップ・ノアゴーという人物の印象をお聞かせください。
神谷:彼は感情移入しづらいタイプなんですよ。僕は、彼に対してプラスの印象はあまりなくて、とにかく暗い顔をした何かトラウマを抱えているような人物で、周囲の人に気を使わせるようなそぶりをずっとし続けているんです。だから「そういうんじゃなくてさ。もうちょっと現場の空気を明るくするために、努力しろよ」って思うんですけど……。
敵は武装しているし、命の危険にさらされている人質たちがいるし、そこに対して自分の指示で部下を向かわせて、ともすれば、命を落としかねないという状況。そこに対する責任感というものを自分の身に背負ってしまっているので、残念ながら冗談が通用するようなタイプに見えないんですよ。
彼は、誰かと一緒にいる時は隙を見せない人。同僚でもあるルイーセの前では、個人的な付き合いもあって、若干の隙を彼女に見つけられてしまうこともありますが、それ以外に関してはなかなか隙が見えないキャラクターです。
――そうですね。
神谷:隙のない人って、魅力的に見えないじゃないですか。やっぱり、どこか失敗だったり、完璧じゃないところがその人の魅力につながってくるんじゃないかと思うんです。
フィリップに関しては、そういうところがあんまりない人物に僕には見えたんですよ。僕の感性からすると、「あまり魅力的じゃないな」と……(笑)。より完璧なものが好きだったり、ちょっと影があるところが好きだったりという人ならば、彼を魅力的に感じるかもしれませんね。
ただ、作品が進むにつれて、彼がなぜそういう人間なのかというところが描かれてくるんです。ほとんどクライマックスに近いところですけど……。そういったところを見ることができて、「あ、よかった。彼もやっぱり人間なんだ」とちょっと安心して、感情移入できたんですよね。
慣れないデンマーク語に苦戦……
――フィリップ・ノアゴーという人物を演じるにあたって、難しかったところや悩んだところはありますか?
神谷:まず、デンマーク語というのが謎の言語なんですよね。英語だったら、単語レベルで聞き取れて「今、ここの意味のことをしゃべっているんだな」と感じ取りながら当てることができるんです。でも、デンマーク語は全く分からないので、言葉のアプローチというのは非常に困難でした。
これは僕ら役者だけじゃなくて、翻訳される方もそうだったのではないかと思います。デンマーク語をまず日本語に翻訳される方がいて、その翻訳された日本語をアフレコ台本にセリフ化される方がいる。つまり、翻訳の方が2人いるんです。
翻訳家さんがデンマーク語を日本語に直訳して、それを尺に合わせてセリフ化する方がいて、それを僕がやるわけですよ。だから3人の伝言ゲームになってくるんですよね。そうなってくると、「果たして、これは本当に正しいんだろうか。だったら日本語的には、こっちのニュアンスの方が伝わりやすいんじゃないかしら」というところが、ところどころで見受けられました。
なので、音響監督と相談させてもらって、より分かりやすく伝わるようにセリフを変えることもありました。あとは、テストをやってみて、「ここのニュアンスはちょっと分かりにくいから、台本上はこうなっていますけど、こっちのセリフに変えましょう」とか、より日本語版として完成度を高めるために、日本語のニュアンスを少しずつ変えていく。
そういった現場では、反射神経が求められるんです。ともすれば、セリフが変わっていくことに対して、ちゃんと正しくアプローチしていかなくてはならないという苦労はありました。
もちろんアニメーションだって、アフレコ現場でセリフが変わることは当然出てくるので、そういうことに慣れていない訳ではないんですけど。基本的には原音に忠実に、ここからここまでの尺で収めなければいけないというものが課題として生まれてくるので、そこに対するアプローチというのは、アニメーションよりもプライオリティーが高いかもれしないですよね。
――作品の登場人物の中で、お気に入りのキャラクターはいますか?
神谷:ナヤ・トフトというキャラクターです。彼女は、デンマークではとても人気があって、有名なニュースキャスターというポジション。すごく鉄壁な自分の理想や思想があって、それに対して忠実がゆえにTV局をクビになるというエピソードがあるんですけど、そのわりにはちょろいなって……(笑)。そこが人間っぽくて、面白かったですよね。「いい役だなぁ」と思いました。
あとは、作品の中でナヤの自宅に、わりと普通に一般市民が訪ねてくるあたりが気になりました。「この人ニュースキャスターで、すごく人気がある人なのに、家がバレてるんだ」って……。有名人の家をみんなが知っているっていう……(笑)。そういうセキュリティーの雑さみたいなものが、ちょっと面白かったですね。
登場人物たちのエピソードを丁寧に描き、共感できるところが魅力の1つ!
――本作には、人質テロ事件、過去のトラウマ、人間ドラマ、SNSによる他者との関わり方など、多くのテーマが登場しますが、神谷さんが気になるものはありましたか?
神谷:まず、8日間で物語が完結するということですよね。そこがこの物語の一番の肝だと、僕は思っています。その中で描かれている人間ドラマだったりとか、主人公のドラマはもちろん、そのうちの1つの要素だと思っていて、「この物語が8日間でどういう結末にたどり着くのか」というのがポイントだと思っています。
――この作品ならではの面白さ、みたいなものはありますか?
神谷:デンマーク作品って、正直にいうと、あまりなじみがないじゃないですか。だから、「デンマークのコペンハーゲンで、15人の人質をとったテロ事件が発生しました」という設定がどの程度の規模の事件なのか、たぶん分かりにくいと思うんですよ。でも「東京・丸の内の地下鉄で、人質事件が起こりました」となったら、たぶん都市機能が麻痺するじゃないですか。「それぐらいの感覚なのかな」と思いました。
ただ、作中に都市機能が麻痺している感じがあまりなく、わりと牧歌的で「テロがあったんだね」というぐらいの雰囲気に見えなくもないんですよね。そこがちょっと面白いなとは思うんですけど……。
僕としては、作中の事件を日本に置き換えながら、そういった感覚でフィリップという人物が事件にアプローチしていく緊張度合いというものを測っていったんですけど、画面を通して観ると、意外とそんなふうに見えないというのが「デンマークのお国柄なのかな」という気はしているんですよね。
――そうなんですね。
神谷:あと、物語に多くの登場人物が出てきて、メインキャラクター以外のエピソードを丁寧に描くことがあるらしいんですよ。それがデンマーク作品の特徴の1つだと、スタッフの方がおっしゃっていました。
人質全員がエピソードを持っているわけではないんですけど、「そういえばそうだよな。この人のエピソードを紐解いていくんだ」と感じることが結構ありました。それを観ていると、その後のシーンで、その人がどういう行動をとり、どう語るのかというのが気になり、感情移入できるようになるんですよ。
そこの描き方が絶妙だなと思って、最初は「そのキャラクターのエピソードにあまり興味がないな。その話はいいから、フィリップの活躍を見せろ」と一瞬思うんですけど、でもやっぱり8日間の中で、そこにカメラを向けていくというものに対してのある程度の答えというものが、ちゃんと用意してあるんです。
それを観ているがゆえに、人質たちに感情移入できていくというのが、この作品の特徴かなと思いました。フィリップという人物自体があまり感情移入しづらいキャラクターなので、そうじゃないところでみんなに共感を得ていくというのは、この作品の特徴かもしれないですね。
神谷さんが憧れる海外作品とは?
――最初に「海外ドラマに憧れがあった」とおっしゃっていましたが、海外ドラマはよくご覧になりますか?
神谷:僕が観た海外ドラマは、そんなに多いわけじゃないんですよ。海外ドラマって、すごく本数があるじゃないですか。僕が過去に観たのは、NHK「シャーロック・ホームズの冒険」や「ビバリーヒルズ高校白書」や「ツイン・ピークス」などです。
あとは、最近ブルーレイを買って観た「ルーツ」という40年くらい前の作品で、黒人奴隷の話です。「24 -TWENTY FOUR-」も「ブレイキング・バッド」も観ましたけど、実は海外ドラマにすごくなじみがあるかといったら、そんなことはないんです。
でも、僕が観た海外ドラマの作品群は、とても印象が強いし、観ている本数がそこまでないがゆえに、憧れというのは僕の中で強いのかもしれないなと思っています。
――海外作品で好きなジャンルや、作品を観る基準はありますか?
神谷:何でもいいんですよ。僕は、コメディーというジャンルが1番好きではあるんですけど、海外作品のコメディーはその国の人の感性で作れていますよね。海外の人の感性と日本人の感性はやっぱり違うと思うので、海外作品のコメディーがすごく好きかといったら、実はそうでもないんです。
だから、そこは広く浅く、いろいろなものに対して興味があります。例えば、「1980年代のハリウッド映画の有名な作品を思ったよりも観てないな」と感じて、そういった作品にアプローチして、そこから「この監督はこういう作品も撮っているんだ。この役者さんはこっちの作品にも出ているんだ」と気づいて、いろいろな作品を観ることもありました。
また、「アメリカン・ニューシネマ、1970年代のハリウッド映画をまとめて観てみよう」と思い、映画『タクシードライバー』を観て、マーティン・スコセッシ監督の作品を片っ端から観ていったこともありました。
『タクシードライバー』の主演はロバート・デ・ニーロなんですけど、彼の役に対するアプローチの仕方がすごく面白いなと思って、同じマーティン・スコセッシ監督&ロバート・デ・ニーロ主演のコンビで作っている『キング・オブ・コメディ』という映画も観ました。
ほとんど内容は『タクシードライバー』と一緒なんですけど、かたやタクシードライバー、かたやコメディアンという違いで、「こんなに作品の色とか、作品のアプローチが違うんだな」と感じたことが面白かったですね。
題材やアプローチが違うと、面白いというものを並べてみたりとか。とにかく、少しでも興味があったら、手に取ってみるというやり方で作品を観ています。
――ありがとうございました。
ヘアメイク:NOBU(HAPP'S)
スタイリング:村田友哉(SMB International)
[取材・文/宋 莉淑(ソン・リスク)]
海外ドラマ『BELOW THE SURFACE 深層の8日間』
『BELOW THE SURFACE 深層の8日間』作品DATE
原題:BELOW THE SURFACE/Gidseltagningen
2017年/デンマーク/二カ国語(日本語・デンマーク語)
60分/HD作品/全8話
<スタッフ>
企画:カスパ・バーフォード
製作総指揮:アダム・プライス、ソーレン・スヴァイストゥルップ
<キャスト>
フィリップ・ノアゴー…ヨハネス・ラッセン(神谷浩史)
ルイーセ・ファルク…サーラ・ヨート・ディトレセン(安藤瞳)
ナヤ・トフト…パプリカ・スティン(松熊つる松)
『BELOW THE SURFACE 深層の8日間』
海外ドラマ専門チャンネル スーパー!ドラマTVにて
10月4日(木)22:00より、独占日本初放送!