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『シン・ゴジラ』出演・マフィア梶田さんへインタビュー!

なぜ、マフィア梶田は『シン・ゴジラ』に出演していたのか? 本人に聞いてみた!

公開から2週連続で全国映画動員ランキングのトップに君臨し、2014年に公開されたハリウッド版を凌駕する興行収入46.7億円(8月23日時点)を突破した『シン・ゴジラ』。『エヴァンゲリオン』シリーズの庵野秀明さんが脚本・総監督を務めた本作は、多くの日本人の心を揺さぶり、次々に記録を塗り替える大ヒットを記録しています。

今回は、フリーライターという職業ながら作中の重要人物カヨコ・アン・パタースン(演:石原さとみさん)のSPとして出演を果たし、大の庵野監督ファンでもあるマフィア梶田さんへインタビューを実施! 出演の経緯や撮影時のエピソード、『シン・ゴジラ』が多くの日本人の心に響いたその理由を、ライターという確かな切り口から語りつくします!

[取材日:2016年8月12日]

※記事中にネタバレを含みます。まだ映画を観られていない人は、ご注意ください。


大ヒット公開中! 出演者としての心境は?


――まずは、『シン・ゴジラ』へのご出演おめでとうございます!

マフィア梶田さん(以下、梶田):いやいや、ありがとうございます。

――公開2週目にして興行収入が20億円を突破する大ヒットをしている本作ですが、出演者としてどのような心境ですか?

梶田:立場的にこういうのが正しいのかは分からないんですが、実は一安心してます(笑)。

一同:(笑)

梶田:自分は傑作になるという確信を持っていたのですが、内容的には決して万人向けとは言えないものじゃないですか。「この面白さが伝わるだろうか……」と、心配していたのですが、杞憂でしたね。映画館へ足を運ぶ人が決して多いとは言えない時代であるにも関わらず、『シン・ゴジラ』がちゃんと評価されたということに、ひとりの映画ファンとして大きな希望を感じています。なにせ撮影中は、どんな映画になるのやら全貌がまったく見えなかったので(笑)。

――カットごとに場面が切り替わることも多かったですからね。

梶田:しかも我々は撮影しているシーンにはゴジラが出てこないので、撮影中はゴジラの姿を一切見ていないんです(笑)。ゴジラの姿が見えない中で、ゴジラの脅威に対する緊張感を保たなければいけない。大半が政治的駆け引きを描いたシーンなものですから、地味すぎるんじゃないかという懸念もあったのですが……いざ映像に仕上がってみると、あの完成されたテンポ感とカメラワークですよ。専門用語だらけの会話が濁流のように押し寄せてくるのにも関わらず、まったく飽きない、中だるみしないのには驚愕しました。庵野監督が尊敬してやまないという、岡本喜八監督(※1)の画作りを彷彿とさせますよね。

※1:東宝の映画監督。監督を務めた『日本のいちばん長い日』(1967年)は、戦争を終わらせるための会議を中心に描く内容であり、『シン・ゴジラ』にも強い影響を与えたのではと思われる。岡本喜八さんご自身は、『シン・ゴジラ』に一部シーンで写真として登場。

――実際劇場で観ると、エンドロールが始まっても作品に圧倒されて席を立てない様子の方が多く見受けられました。

梶田:最近って、エンドロールになるとすぐに帰ってしまう方が多いんですよね。オレあれ苦手なんですよ。もちろん上映中に携帯を開いたり会話するのも論外で、実は映画鑑賞のマナーにうるさい、めんどくさいやつなんです(笑)。その作品に関わった人々にちゃんと敬意をはらって、エンドロールが終わるまで見届けたい。まぁ、やむを得ない事情で急いでるならしょうがないにしても……そうでないなら、劇場が明るくなるまでは黙って座っていてほしいですね。実は自分も初日に映画館で『シン・ゴジラ』を観たんですが、エンドロールでも席を立たない人の方が圧倒的に多くて。「みんな余韻に浸っているんだな……」と嬉しい一体感を感じていました。
また、エンドロールまで伊福部昭さん(※2)の曲で構成されているというのがね。とても現代的とは言えないメロディであるにもかかわらず、あの物語にしっくり当てはめちゃっている庵野監督のセンスは尋常じゃありませんよ。

※2:映画『ゴジラ』(1954年)をはじめ、数多くのゴジラシリーズで音楽を担当した映画音楽の作曲家。

――映画のヒットに併せて、音楽集のCDもかなり売れているようですね。

梶田:チャートの上位にゴジラの音楽集が入るっていうのは驚きですよね。「みんな“宇宙大戦争”とか聞くの?」って(笑)。……まぁ、かく言う自分も、ちゃっかりiPhoneにサントラを取り込んでいるんですがね。今日はコレ聴きながらここまできました。

 

庵野監督との出会いと『シン・ゴジラ』への出演


――そんな大ヒット作『シン・ゴジラ』ですが、読者の方が一番気になっているのは、"そもそもどういった経緯でこの映画に出演することになったのか"ということだと思うのです。

梶田:そもそも庵野監督とは去年まで面識がなかったんですよ。それがある日、とあるアーティストさんのライブに招待されまして、歌を聴きながら食事したりお酒が飲めるクラブのような場所だったんですが、なんとそこに庵野監督夫妻も招待されていたんです。庵野監督といえばオレがオタクになる立脚点を作ってくれた憧れのクリエイターですし、ひいてはライターを目指すきっかけでもあったので、これは御礼も兼ねて御挨拶せねば一生後悔すると思い、覚悟を決めて話しかけに行きました。
奥様である安野モヨコさんとは共通の知り合いを通して少し面識があったんですよ。そしたらモヨコさんが「せっかくだから隣に座って話していきなよ」と言ってくれて……。

――大ファンで憧れてる方が横に座っている心境はどんなものでしたか?

梶田:これまでの人生で一番緊張しました。心臓が破裂するかと思いましたね(笑)。

一同:(笑)

梶田:話したいことなんて星の数ほどあるのに、何を話していいか分からない。初デートにのぼせ上がる童貞小僧のような気持ちでした。

――会話のきっかけとなった話題はなんだったんでしょう?

梶田:ちょうどその頃、軍艦島に興味があったんですよ。世界遺産に登録されてしまうということで、立ち入りが厳しくなる前に一度行ってみたいと思っていたんです。(※3)庵野監督は取材で軍艦島に行ったことがあるとのことだったので、色々とアドバイスをいただいたりしたんです。そこからはもう、会話が止まりませんでしたね。帝国海軍の軍艦の話で盛り上がり、宇宙の話、映画の話、果ては庵野監督の生い立ちから今に至るまでを根掘り葉掘り聞いていました。今思うと、完全にインタビューモードに入っていましたね(笑)。

※3:軍艦島は、「明治日本の産業革命遺産」のひとつとして、2015年7月5日に世界遺産に正式決定した。

――職業が活かされましたね。

梶田:それが結局2、3時間ずっと続いて。もう至福の時間でしたね。もちろん『ゴジラ』の話もしたのですが、「どのゴジラが一番好きか」という話題で、やはりお互いに初代ゴジラが至高であるという結論に至りまして。『シン・ゴジラ』についても、「初代に出来るだけ近づけるような作品を作りたい」と話していました。もう大興奮ですよね、一番好きな初代ゴジラみたいな作品を、一番好きなクリエイターである庵野監督が作ってくれるって言うんですから。その晩は家に帰っても気分が高揚して眠れませんでした。

――そこでは『シン・ゴジラ』出演の話はまだなかったんですね。実際のオファーはどんな感じだったんでしょうか?

梶田:お話した日から2日くらい経った頃、モヨコさんを通してメールが来たんです。「カントクが梶田くんに映画に出て欲しいって言ってるんだけど」と、最初はドッキリかと思いました(笑)。監督曰く「その存在感が欲しい」とのことで、そりゃもう尊敬する庵野監督の作品ですから……「自分でよければぜひ」と伝えました。しかし、役者として自己紹介したわけでもないのに映画への出演オファーがくるとは思いませんでしたね。なにが監督の琴線に引っかかったのか、いまだに謎です。

――確かにセリフはなかったですが、強烈な存在感を画面から感じました。

梶田:台本を受け取るまで、どんな役なのかほとんど分からなかったんです。ただ台詞はないと聞いていました。蓋を開けてみると「カヨコの私設ボディーガード(日系人の大男)」という、ヒロインに付き従う役で(笑)。わざわざカッコで日系人という注釈が入っているように、実はカヨコ同様にアメリカ人なんですよね。ちゃんと設定上の理由もあって、日本国内で活動するからこそ目立たないように日系人のSPを雇っているんです。……まぁ、映画を観た人達の感想からすると、むしろ目立っちゃっていたようなんですが。

一同:(笑)

梶田:劇中では一切喋らないんですけど、そもそもSPってそういうものですし。自分でも映画が出来上がってから気付けたんですが、常に仏頂面で黙っているからこそ意味があるキャラクターなんですよね。

――エンドロールにはメインキャスト以外の役名は明記されていませんでしたが、そんな役名だったんですね。

梶田:台本上にはみんな役名が書いてあるんですよ。キャストの数が多すぎるので、しかたなくエンドロールでは役名を割愛することになったんじゃないかと思います。実は注意深く見てみると、驚きのキャスティングがあったりするんですよね。おんぶされて避難する老婆の役を原知佐子さん(実相寺昭雄さん(※4)の妻)が演じていたり、1回観ただけじゃ小ネタを把握しきれない映画です。

※4:映画監督。『ウルトラマン』『ウルトラセブン』では演出を担当し、独特の世界観を作り上げ、特撮の世界を大きく広げた一人。

――すべてはクラブでの偶然の出会いから始まっているんですね。

梶田:一応、自分もちょくちょく役者として活動はしていますが、あくまで本業はライターなので。監督は会うまでマフィア梶田のことなんて知らなかったでしょうし、よくこんな目立つ役でオファーしてくれたなと思いますよね……。(台本を眺めながら)ただ、改めて見ると自分以外にも役者でない方々が結構出ているんですよ。(※5)

※5:映画監督・犬童一心さん(古代生物学者役)、歌手・KREVAさん(自衛隊・第2戦車中隊長役)など、他にも多数の異業種の方々が参加されています。

 

引き締まった撮影現場だから生まれた緊迫感あるドラマ


――梶田さんは自分の役についてどのような印象を感じていますか?

梶田:石原さとみさんにそっと寄り添う役です(笑)。

――羨ましいです(笑)。撮影中にお話しされるようなことはありましたか?

梶田:まったく無かったわけではないのですが、そんなに和気藹々と談笑するような雰囲気ではありませんでした。なぜかって、『シン・ゴジラ』はかなり緊張感のある現場だったんですよ。シリアスなシーンばかりなので、みなさん役が抜けないんですよね。出番待ちの時間でもリラックスするより、常に自分の動きとセリフを確認していたりするんです。だから自分もその空気感に引っ張られて、現場では映画の役柄そのままの仏頂面を保っていました。
なので、映画公開直前にレッドカーペットセレモニーを取材したLINE LIVEのレポーターをやらせていただいた時は、来てくださったキャストさん全員に「そんなに笑う人だったんですね!」と驚かれました(笑)。石原さとみさんなんか、特に笑っていましたね。現場では徹底してムスッとしたボディーガードになりきっていたんですよ。

――映画本編の緊張感がそのまま現場の空気になっていたんですね

梶田:唯一自分から話しかけたのは、塚本晋也さん(※6)ですね。自分は『鉄男』(1989年)とか、塚本監督の作品の大ファンなんですよ。ライターという職業柄、ミーハーな部分を出すのはあまり良くないので我慢していたのですが、さすがに御挨拶せずにはいられませんでした。

▲生物学准教授・間邦夫役の塚本晋也さんは、中央のタオルを下げている人物。

▲生物学准教授・間邦夫役の塚本晋也さんは、中央のタオルを下げている人物。

※6:映画監督であり役者。監督代表作である『鉄男』、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリを受賞。声優業としては、『メタルギアソリッド4』(2008年)で雷電のライバル「ヴァンプ」を担当。


実写監督としての庵野秀明さんの姿とは?


――庵野監督が現場で細かく指示を出されるという話を聞くのですが、実際に現場での様子はいかがでしたか?

梶田:庵野監督樋口さんに限らず、スタッフはみなさんモチベーションが高くてコチラも身が引き締まる思いでした。ワンシーンを様々なアングルから撮影しますし、両監督の画作りに対するこだわりもかなりのものでしたね。それこそ、立ち位置をミリ単位で調整するような。実はオレも、庵野監督から直々に演技指導をしてもらったんですよ!

――ちなみにどんな指導内容だったんですか?

梶田:カヨコ(演:石原さとみ)の動きに合わせて書類を渡すシーンですね。最初は恭しく両手で差し出していたんですが、「秘書じゃなくてSPだから、動きの無駄を少なく片手は必ず空けた方がいい」と言われまして、片手でサッと差し出す演技に変えたんです。

――タイミングも重要になるシーンですよね。

梶田:石原さんとも演技の打ち合わせをしました。ストーリー的にも非常に重要な書類を広げるシーンなんですが、カヨコの「ここからはpersonal service」というセリフに合わせて、ボディーガードがサッと前に出てくるところ。カヨコの望むことは全て把握しているかのように、阿吽の呼吸で動かなければいけないので細かくタイミングを詰めました。

――そのシーンを撮るのにも結構なリテイク数があったのでしょうか?

梶田:実のところ、リテイクというのはそんなになかったんですよ。しかし、先ほども話したようにカメラアングルを変えて何回も撮影するんですよね。ボディーガードは座ることが無いので、どのシーンも長いこと背筋を伸ばして立ちっぱなしでした。映像で観るとほとんど立っているだけで楽そうに思えるかもしれませんが、これが中々に大変だったんですよ……。

――噂に聞く角度を変えて何カットも撮影するというのを実際に体験されたんですね。

梶田:庵野監督の頭のなかでは映像が出来上がっているんですよ。的確に必要な素材を集めていく感じ。一方で役者さんの演技に対しては、ほとんど口出しをしていなかったと思います。

――演技に関しては全て役者さんに委ねているということなんでしょうか?

梶田:例えば、自分の動きに関しても台本にはほとんど何も書かれていないんですよ。現場で何か指示があるのかと思いきや、何も言われないまま撮影が始まってしまいまして。みなさん、自分なりに芝居を用意してきているわけです。監督によって異なるのかもしれないですが、庵野監督はほとんど口出ししないタイプだったように思います。いやはや、最初は戸惑いましたよ……いきなり石原さんが何の打ち合わせもなく手をバッと(資料を要求する動作)差し出してきて(笑)。

一同:(笑)

梶田:台本にはそういう流れでボディーガードが書類を渡すなんて、書いてないんですよ(笑)。現場で初めて知ったわけです。

――現場で変わるというのも多いみたいですね。

梶田:変わったところといえば、机に広げる資料も台本上では"カヨコが広げる"ことになっているんですよ。これも現場でいきなり渡されて、「えっ!?」となりました。勝手な憶測ですが、カヨコが自分で動くよりも誰かにやらせた方が“大物感”出ますし、それでボディーガードの役割に変更されたのかなと。

――確かに、大統領を目指している強い女性、という印象にビッタリだったと思います。

梶田:自分は映画ライターもやってるので、そういった意味でも良い勉強になりました。以前に声優の浪川大輔さんが初監督をやられた作品(※7)に出演したこともあったのですが、やはり監督によって映画の撮り方は違うんだなと思いましたね。

※7:映画『Wonderful World』(2010年)。宮野真守、森久保祥太郎、杉田智和、関智一、小山力也、藤原啓治、山寺宏一と言った声優陣が参加の実写映画。マフィア梶田さんは、「龍興」という坊主役で出演。

――撮影日数的にはどれくらい参加されていたんですか。

梶田:かなりの強行軍だったと思います。なにせ、キャストさんのスケジュールを合わせるのが大変ですから……。自分が参加した撮影だけで言えば、2015年の10月からスタートして月内に終わっています。ほとんどが石原さんと同じシーンで、オールアップのタイミングも同時でしたね。実は、こちらが撮影日程を合わせることができずに泣く泣く出演を諦めたシーンもあるんですよ。

――差支えがなければどういったシーンか教えていただいてもいいでしょうか?

梶田:「石原さんが出ているのにボディーガードがいない」シーンの一部がそれに当たります。ただ、映画を観れば分かるように石原さんだけでも成立するっちゃするんですよね。そういえばカヨコと矢口蘭堂(演:長谷川博己)が二人きりで会話するシーンにボディーガードを配置するか否か、結構ギリギリまで検討していたようなんですが、結局は無しでOKということになっていましたね。そりゃ、画面端でボディーガードが“ぬ~ん”と立っていたら気が散りますわな(笑)。

――どうしても視線が移ってしまいそうですね(笑)

梶田:ただ、それでも実際に撮影したシーンの9割は使われてるんですよ。唯一自分の出番でカットされてしまったのが、立川の災害対策本部予備施設屋上での矢口とカヨコの会話に邪魔が入らないよう扉の前に立っているシーンです。珍しく自分をピンで映していたのですが、あれだけ情報がギュッと詰まった作品ですし、入れ込む余地がなかったんじゃないかと。実は画面に映っていない部分でもちゃんとカヨコを警護しているんですよと(笑)。

――ほとんどカットされずに使われているのは凄いですね。

梶田:まあ、ほとんどのシーンでメインヒロインである石原さんと一緒に映っているわけですから。そりゃカットされませんよね(笑)。

 

シン・ゴジラが、如何にヤバイ存在だったのか


――撮影期間で一番印象深かったことはありましたか?

梶田:なにもかもが濃ゆい体験だったので、一番というと悩みますね。強いてあげるなら樋口監督との会話でしょうか。実は、樋口監督とは庵野監督より以前に知り合っていたんですよ。1度だけ、飲みの席で御一緒したことがありまして。

――どのような話をされたのでしょうか?

梶田:それも立川の災害対策本部予備施設でのことですね。あそこって冷戦時代に作られたかなり古い施設らしいのですが、それについて樋口監督に質問したら「ここは、本当に日本がどうしようもなくなったときに使う場所なんだよね。使うことになった時点で、ほとんど詰んでると考えた方がいい」と、教えてもらいまして。そこで初めて、今回のゴジラが如何にヤバイかという片鱗を感じることができました。あの施設って、言わば「バックアップのバックアップ」なんですよ。そこに頼らなければならないくらい、本作ではゴジラに追い詰められてしまうわけです。

――映画でもあそこで日本の存亡に関わる瞬間だったので、撮影の雰囲気とかもそこに出ているんでしょうね。

梶田:他の印象は……庵野監督に見惚れていましたね(笑)

一同:(笑)

梶田:とても穏やかな方なんですが、現場にいるとオーラがあるんですよ。やっぱり。カッコよかったです。

――クラインクイン前打ち合わせの映像でも「面白い日本映画を目指してやっていきたいと思います」と語っていたのが印象的でしたね。

梶田:事前情報をほとんど出しませんでしたよね。内容を徹底的に隠しながら公開までこぎつけているので、その戦略があってこそ初見の衝撃は凄いものになったんじゃないかと。

――当日までどんな話なのが見るまで全然わからない状態でしたもんね。

梶田:なんたって出演している自分ですら、分からないところだらけでしたから。撮影中、一度もゴジラの姿を見ていない(笑)。ゴジラの形態変化に関しては少しだけ聞いていましたが、あんな姿をしているとは予想外でした。

 

ヒットを確信した瞬間に「これはとんでもない作品になるぞ!」


――「この映画はヒットする」という確信はありましたか?

梶田:“ヒットする”という確信を抱いたのは、試写会のときでした。開幕から徹底的にこだわり抜かれたテンポ感で、撮影中はまったく完成形が見えなかった会議シーンを緊張感と風刺タップリに描いているところで「この映画は間違いなく面白い」と期待は最高潮。ゴジラが出現してからは、スクリーンに見入りっぱなしの口開けっぱなし。人間などまったく気にしていなかったゴジラが、初めて攻撃の意思を露わにするシーンなんか恐ろしくて美しくて、全身鳥肌で涙まで出そうになりました。「コイツは歴代最強のゴジラや!」と思わざるを得ないくらいのインパクトがありましたね。そして終盤、官民連携しての“日本そのもの”を武器としたゴジラへの反撃なんかもう……ゲロ吐くかと思うくらい興奮しました。庵野監督は“現実 対 虚構”という難しいテーマを完璧に描き切っちゃったんだなと。改めて、「一生ついて行こう」と心に決めましたね。
▲ポスターにも「現実(ニッポン) 対 虚構(ゴジラ)」と書かれている。

▲ポスターにも「現実(ニッポン) 対 虚構(ゴジラ)」と書かれている。

 

「新」たなゴジラであり「神」のゴジラ


――今回の映画で"ゴジラしてるな"と感じたシーンはどこでしょうか?

梶田:自衛隊の総攻撃を受けてもピンピンしているところ(笑)。銃撃や砲撃で傷ひとつ付かないところは、実にゴジラらしいですよね。
あと、劇中では自衛隊の攻撃がメチャクチャ正確だったじゃないですか。あれって、フィクションだからというわけでなく本当なんですよ。ミリタリーに詳しくない人から見れば命中精度があまりにも高すぎるように思えるかもですが、自衛隊の練度の高さって世界的にも有名なんです。多少、流れ弾で周囲の建物をぶっ壊すような描き方をした方が派手には見えるはずなのに、あえてそこもリアルに描いているのが本作のスゴいところですよ。

――今作は今までゴジラが作ってきたイメージを覆しているようにも感じました。

梶田:今回のゴジラって、神々しいんですよね。人類のことを気にしている素振りなんて無いし、目的もハッキリしないのに通り道がただただ破壊されていく。『シン・ゴジラ』はそこが怖い。

――作中で“完全生物”と表現されてましたね。

梶田:虚構と現実の境目が曖昧になったこの時代に、“恐ろしい怪獣”を描けたのは本当に凄いと思います。ハリウッド版との違いが明確ですし、海外の人々にも早く観て欲しいですね。「世界よ、これがゴジラだ」と(笑)。

――『シン・ゴジラ』は怪獣が主役してましたからね。

梶田:ハリウッド版では核を使いましたが、『シン・ゴジラ』では日本が核を「使わせなかった」というのも大きなポイントです。……断っておきますが決してハリウッド版をこき下ろしているわけではなく、そこの“違い”が本当に大きな意味を持っているんですよ。

――そもそも核でゴジラを倒せたと思いますか?

梶田:核の熱量だったら滅却できる可能性はあったかもしれないですね。あの段階で国連が打てる最適手がそれだったのは理解できるし、立場を変えて見れば納得もできるんですよ。日本を飛び出て、自国にやってきたらシャレにならないわけで。劇中でも赤坂さん(演:竹野内豊)が“ここがニューヨークでも同じことをする”と言っていますし、その辺りはアメリカを悪者にするでもなくひたすら現実的に描いている。

 

周りの反応はどうだったのか?


――すでに公開されて日が経ってますが、梶田さんの友人から感想は届いたりしてますか?

梶田:身近な方たちだと、声優の杉田智和さんが公開してすぐ観に行ってくれたようで。凄く感慨深げに「お前、本当にSPになっちまったんだな」と言われました(笑)。

一同:(笑)

梶田:自分はもともと、杉田さんのSPという役で映像デビューしているので。それが『シン・ゴジラ』でもSP役をやることになるとは、不思議な縁を感じますよね。あとは中村悠一さんからも一緒に観に行こうと誘われていまして、江口拓也さんや小野賢章さんもTwitterで感想を呟いてくれています。『マブラヴ』の吉宗鋼紀さんも、大興奮でLINEをくれましたね。
あとは、直接の知り合いよりもファンの皆さんから多くの感想が寄せられています。映画の感想とセットで、「マフィア梶田の存在感」というワードがとにかく多い(笑)。

――画面に映っていたら絶対に目が行きますね(笑)

梶田:「あ、庵野監督が自分を使おうとした理由って、こういうことだったんだ」と。皆さんから感想をいただいて、ようやく理解できました。それと同時に、伊達や酔狂ではなく本気で映画の一部として自分を必要としてくれたということも実感できて誇らしかったです。試写会の後に庵野監督へ感想を伝えたのですが、その際に「梶田くんに会った時に“この人だ”と感じ、キャストに入れて良かったです」と言ってもらえて、天にも昇る気持ちでした。

――ヒットはこれからも続いていきますし、まだまだ感想が寄せられてくることもあると思います。

梶田:ありがたいことですよね。驚くべきことにマフィア梶田が目当てで映画を観に行ったという人も多いんですけれども、そういう人たちも鑑賞後は「マフィア梶田はともかく、映画が面白すぎる」という風になるらしくて。最高の反応ですよね、それって。

――風刺的な話でしたが、娯楽としての楽しさも損なわれていない作品でしたね。

梶田:他に類を見ないくらい、現実的に日本という国の強さを描いていたと思います。スクラップ&ビルドで成長してきた日本の粘り強さが分かる映画でした。日本人って、とかくルールに縛られがちだ、という話もありますけど、いざとなったら全部ねじ伏せて動くことができる。矢口の「この国はまだまだやれる」というセリフの通りで、原爆の投下や幾度の災害を経験した日本人だからこそ響く、誇りを持たせてくれる映画だったと思います。

 

日本の全国民に観てもらいたい作品


――最後になりますが、映画をまだ見ていない人や、もう一度見ようと思っている方に向けたメッセージをお願いします。

梶田:マフィア梶田はカヨコのボディーガード役で『シン・ゴジラ』に出演しています。もしそれが観るきっかけになってくれれば嬉しいですし、観たら一生忘れられない映画になること間違い無しです。特撮に、邦画に、日本そのものに希望が持てる作品だと思います。自分はひねくれ者なので、「みんなで力を合わせて頑張ろうぜ!」という展開を素直に楽しめるタイプではなかったのですが、この映画には完敗しました。
ちなみに『シン・ゴジラ』に興味を持っている人からよく聞かれるのが「予習は必要ですか?」という質問なんですが、ほとんど必要ないです! だからゴジラを知らない世代にも、安心して観て欲しい。今はまだよく分からない幼い子供たちには、成長して中学生か高校生になったときにもう一度観て欲しいです。

――ありがとうございました。

[取材/岩崎航太 文/原直輝  撮影/佐田幸久 編集/内田幸二]

■『シン・ゴジラ』作品概要
出演:長谷川博己 竹野内豊 石原さとみ
脚本・総監督:庵野秀明
監督・特技監督:樋口真嗣
准監督・特技統括:尾上克郎
音楽:鷺巣詩郎

>>『シン・ゴジラ』公式サイト

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