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安彦良和先生サイン会&トークショウレポート

アニメ『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では、一年戦争本編も描かれる!? 『原点 THE ORIGIN-戦争を描く,人間を描く』安彦良和先生サイン会&トークショウレポート

2017年4月11日、芳林堂書店 高田馬場店にて書籍『原点 THE ORIGIN-戦争を描く,人間を描く』(岩波書店)発売を記念した、安彦良和先生のサイン会&トークショウが行われました。

『機動戦士ガンダム』をはじめとした数々のアニメ作品、『虹色のトロツキー』など歴史・神話的な題材をテーマとした漫画作品を生み出してきたクリエイター・安彦良和先生(※1)。

今回発売された『原点 THE ORIGIN-戦争を描く,人間を描く』は、「東奥日報」に連載されていた斉藤光政さん(※2)の連載をベースに、学生運動に参加した経緯、アニメーターから漫画家の道を志すまで、これまでの安彦先生の歩みを、自身の書き下ろしと共に振り返った自伝的な書籍で、その政治観やクリエイターとしての下地がどのようにして作られ今日に至っているかを窺い知ることができる内容となっています。

【イベントDATA】
イベント名:安彦良和さん『原点 THE ORIGIN』(岩波書店刊)発売記念トーク&サイン会
開催日時:2017年4月11日(火)19:00‐21:00/開場18:30
開催場所:芳林堂書店 高田馬場店 8階イベントスペース
出演:安彦良和先生


※1 漫画家・アニメーター。アニメーターとして『機動戦士ガンダム』を筆頭に、数々のアニメでキャラクターデザインや作画監督を務め、監督として『巨神ゴーグ』『クラッシャージョウ』などの作品を手がける。その後漫画家に専念し、『ナムジ』『虹色のトロツキー』といった、歴史や神話を題材とした作品を数多く生み出した。

※2 東奥日報社の記者、ジャーナリスト。『米軍「秘密」基地ミサワ 核と情報戦の真実』、『偽書「東日流外三郡誌」事件』など、政治・歴史に関わる書籍を多数執筆している。安彦良和氏とも親交があり、『原点 THE ORIGIN-戦争を描く,人間を描く』のベースとなった「ガンダム作家の見た戦争」の連載を東奥日報にてスタートさせ、共著者として名前を連ねている。

 

気になる「ルウム編」の先の映像化について、驚きの発言も……!?
トークショウがスタートし、安彦良和先生と、本書の担当編集を務めた岩波書店の大山さんが登壇すると、割れんばかりの拍手喝采が沸き起こります。

当日の天候が非常に悪かったにも関わらず、会場には満員のお客さんが来場しており、質疑応答の時間を設ける余裕あまりないという理由から、最初にいくつかのお題を客席に募り、それに沿った形で安彦先生がトークを展開するという、やや変則的な構成で進行されていました。

真っ先に質問としてあげられたのが、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(※3)に関連した話題。

現在、配信されているアニメ版『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では初代『機動戦士ガンダム』の前日譚にあたるシャア・セイラ編とルウム編の2つのエピソードが描かれていますが、やはりファンにとって気がかりなのは、その後に控える一年戦争の本編が描かれるのかどうかという点。

これまでのトークショウでも同じ質問が何度も上がっており、「いずれサンライズから使者が来る」という言い回しで、明言が避けられていたようなのですが、今回はその質問に対して、安彦先生の口から「結論を言うと、“本編をやる”ということです」という、驚愕の発言が飛び出すことに。これには会場も騒然となり、TVなのか映画なのか、どういった形で映像化が行われるかについてまでは明かされなかったものの、多くのガンダムファンが待ち望んでいたであろう展開がついに実現することに、会場中から歓喜の声が上がっていました。


現在は安彦先生が手がける『ヤマトタケル』(※4)の連載も大詰めを迎えていますが、「それ以降の日本の歴史を描く予定はあるのか」という質問も。

これに対して先生は「ヤマトタケル以降は考えていません。おもしろく想像をはたらかせて描けるのは古墳時代くらいまで。

それ以降は間違ったこと書くと怒られるんです(笑)」と、冗談交じりの回答。

数々の歴史を題材とした漫画を手がけてきた安彦先生をもってしても、歴史上の人物を描くのは難しく、かなりの勉強が必要となるそうで、「神話を歴史化する」のが目的ということもあり、当初から日本神話で描くのはヤマトタケルまでにするのだと決めていたようです。

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※3 2001年~2011年にかけて、『ガンダムエース』にて連載されていた安彦良和氏による漫画作品(単行本:全23巻+1、KADOKAWA)。キャラクターデザイン・作画監督として自身も制作に関わったTVアニメ『機動戦士ガンダム』のコミカライズ的な位置づけでありながら、TVアニメ版とは異なる、新たな解釈が多数盛り込まれている。2015年からは本作を原作としたOVAシリーズが展開中で、25年ぶりにアニメ業界に復帰した安彦良和氏が自ら総監督を務めている。

※4 日本神話を題材とした安彦良和氏による漫画作品。古代日本を舞台に、青年オウス(ヤマトタケル)の活躍が描かれる。2012年から『サムライエース』にて連載がスタートした後、雑誌休刊に伴いKADOKAWAが運営するWEB漫画サイト『ComicWalker』で連載が再開された(単行本:現在4巻、KADOKAWA)。


政治・歴史にまつわる話題では、より熱のこもったトークが展開 
他に、「安彦漫画の女性の体がエロくて困っているが(笑)、女性を描く際のこだわりは?」という質問も。

しかしこれは「人前で披瀝できる問題ではないのでパスしたい(笑)」と、あっさり却下。

安彦先生が今回のトークショウのお題として取り上げたのは、「日本は負けるとわかっていながら、戦争につっこんでいった。日本はどこで、なぜ間違ったのか?」という質問でした。


まず、現在の政治情勢から。

高い支持率を維持する現在の安倍政権ですが、60年安保では打倒岸内閣、安彦先生らの70年全共闘時代には打倒佐藤内閣、と叫んできたと言います。

その後しばらく「“打倒”するに足るような総理大臣はなかなか出なかった」と前置きした上で、「私が“打倒”するに足ると感じたのは、最近では中曽根(康弘)さん、小泉(純一郎)さん、そして安倍(晋三)さん」と、現職である安倍総理についても言及。

その存在が、歴代の総理大臣の中でも大きな存在感を持つと評価する一方で、「世界の中心になって責任を負うということは、テロというリスクも引き受けること」だと、安倍政権が推し進める「アメリカと共に世界に対する影響力を持とうとする路線」を批判し、その危険性を説いていました。

展開されていたトークと同様に、本書『原点』では政治色が強い内容となっていますが、「共著になっていますが、斉藤さんと私では少しスタンスが違う。

古い言い方をすれば、僕は彼よりも右(保守)が入っているのかな」とその内容を解説。

日本近現代史を扱った漫画『王道の狗』(※5)を描く際に、異色の思想家として知られる故・松本健一さんに対し、自らラブコールを送って知見を乞い、交流が始まったというエピソードなども紹介されていました。

※5 1998年~2000年にかけて『ミスターマガジン』に連載されていた安彦良和氏による漫画作品(単行本:全6巻、講談社)。日清戦争や韓国併合の時代を、二人の青年の生き方を通し描く。安彦先生自身「一番愛着がある」作品とのこと。


ガンダム、歴史、政治と多岐にわたるトーク 
また今年はロシア革命から100年という節目ということもあり、ロシアに対する関心も強めているよう。

「ロシア革命というのは、レーニンの革命が勝利しただけのものと考えられているのですが、それはロシア革命の一つの側面しか見ていないと思います。そこに至るまでの過程、なぜ革命が勝利したのか、勝利しなかったのは誰なのか。ヨイショする訳ではないですが(笑)、最近岩波新書で発売された『ロシア革命――破局の8か月』(著:池田嘉郎氏)では、その敗者の側に焦点が当てられている。新書一冊ですが、ものすごく内容の濃い本だと思います」と、本書の出版元である岩波書店に関連させた話題で、その出来を賞賛する一幕も。


「日本がどこで間違ったか」――この質問に対する安彦先生の一つの答えは、「日清戦争から」。朝鮮半島支配のために清国と戦い、下関条約で中国の遼東半島や台湾を割譲させ、隣国の恨みを買った。

ロシア革命に関連してはシベリア出兵を行い、その先に控えるドイツを牽制。そうした姿勢の連鎖が、勝ち目のない戦争へとつながったと言います。

日清戦争頃を描く『王道の狗』も、またアニメ『機動戦士ガンダム』もそうなのだと思いますが、歴史の大きなうねりと一人ひとりの人間とのかかわりは、安彦先生の一貫したテーマに違いありません。

ガンダム、歴史、政治と多岐にわたるトークのひとつひとつに、来場者の誰もが真剣に耳を傾けていた様子でした。

 

和やかなムードで進むサイン会に、安彦先生も笑顔に 
トークショウ終了後にはサイン会も実施。

直筆のファンレターや先生への差し入れを持参する熱心なファンの姿や、先生の好意によりツーショット撮影ができたこともあり、サイン会は大盛況に。

集まった大勢のファン一人一人に対し、安彦先生が非常に丁寧に言葉を交わしている姿も印象的でした。

またトークショウの直前には、アニメイトタイムズとして安彦先生にインタビューさせていただくという、貴重な機会も頂いております。

本書の中でも語られている、全共闘の時代を経験した安彦先生ならではの政治・宗教観、『機動戦士ガンダム』におけるジオニズムがもつ危険性などを伺い知ることができる内容となっておりますので、是非そちらの記事もご一読ください。


[取材・文・写真/米澤崇史]

書籍紹介

「原点 THE ORIGIN」
著: 安彦 良和 、斉藤 光政
価格: 1,800円+税
発売日: 2017年3月10日
発行: 岩波書店

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