千川リツが大崎イズモと出会ったエピソードとは？　「ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第26回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと音楽でお届けする連載です。

今回は、心優しく純真無垢な千川リツを中心とした物語です。幼馴染みの大崎イズモとの出会いのエピソードをお届けします。まったくタイプが異なる二人が、どのように知り合い、仲良くなったのか、ご注目ください！

劇団アルタイル『はじまりのうた』
【あらすじ】
千川リツと大崎イズモは幼馴染みだ。ふわふわマイペースなリツと、口は悪いものの何だかんだと世話焼きなイズモは、劇団アルタイルのなかでも良いコンビである。そんな二人の出会いのエピソードとは……？

【ストーリー】
「はい、カット！　……子役の、背のひくい子。一番端っこのキミ」
　自分のことだとわかって、リツは息を呑んだ。
「声がちいさいよ、もっと元気に。それから、隣の子と手をつないで走り出すタイミング。もう一歩、早くね」
「はい」
　ありったけ声を振り絞ったつもりだったのに、ちいさな声しか出ない。とたん、周りからヒソヒソした声が上がった。
「おんなじとこばっか何度もやるの飽きた～」
「あの子がいなきゃ全然早く終わるのに」
「はいはい、静かに」
　スタッフのひとりが手を叩く。
「ちょっと休憩しましょう。10分経ったら、もう一度集まってね」

　ロケ地である古い小学校。運動場は視界が開けていて、どこにも逃げ場がないから、すかさず校舎裏に潜り込んだ。柱のでっぱりに体を寄せて、周りに誰もいないことを確認してからしゃがみ込む。
（帰りたい……）
　くるくるした天然の髪、大きな目、色白の肌、細くてしなやかな手足。まるでお人形さんね、とちいさいころからよく褒められた。「ありがとうございます」と返事をするお母さんは、いつだってとても嬉しそうにニコニコ笑っていた。
（でも、お母さん。僕、全然上手にできない）
　膝を抱え込んでうつむく。下を向いたとたん、じわりと目許が濡れて、悲しさが押し寄せてきた。
「できないよ……」
　自分の声が弱々しくて、よけいに悲しくなる。そのときだった。
「オイお前、こんなとこでなにしてんだよ」
　ビックリして、リツは顔を上げた。
「そろそろ休憩終わりだぞ」
　セリフがたくさんある役をやっていて、とってもお芝居が上手だった子だ――そう思ったら、急に逃げ出したくなった。
「僕、行かない」
　いますぐどこかに隠れたい。自分がいやで、格好悪くて、恥ずかしい。
「僕がいると、みんなに迷惑かけちゃうから」
　ますます涙が出る。こんなの、ダメな子が言うことだ。きっと、この子だって呆れてる。
「僕、ぜったい行かない……」
「なんだ。お前、ちゃんと喋れるじゃん」
　思ってもみない返事があって、リツは大きくまばたいた。弾みでぽろりと大粒の涙がこぼれ落ちたけど、隠すことも忘れて男の子を見上げる。
「ダメなら練習すりゃいいだけじゃん。下手くそなんだからやり直すのなんか、当たり前だろ」
「あたりまえ……」
「うまくなる方法なんか、それしかねーもん」
　来いよ、と言って、少年が手を差し出した。
「練習つきあってやる。見返してやろうぜ、アイツら」
　目を擦ってから、もう一度、少年を見た。
　ちょっと、怒った顔をしていた。
「お前、せっかく顔は悪くないんだからさ。画面に映ったら、あんなヤツらよりぜってー目立つぜ。泣くほど悔しいなら、負けっぱなしでいんな！」

　――共有ルームのソファでアルバムをめくっていると「おっ、リツかわいー！」と後ろで声が上がった。振り返ると、もうひとりの幼馴染みの顔がある。
「ノブアキ」
　ソファの背の後ろから、ノブアキはリツの手許を覗き込む。
「あ！　それ、子役んときのだ」
「うん。そう」
「うっわ！　イズモとリツが並んで写ってるし！」
「うん、初めて共演したときの写真。……ちょっと恥ずかしいな」
「え、なんで？　リツ、むちゃくちゃ可愛いよ。それに比べて、このイズモ」
　そこまで言って、ノブアキは堪えきれない様子で吹き出した。
「これ、目つきわりぃ！　……痛っ！」
「黙れこのハゲ」
「うわ、イズモ！　聞いてたのかよっていうか、俺、ハゲてねーし！」
「うっせーむしるぞ」
　不機嫌そうに言って、イズモはひょいっとリツの持っていたアルバムを取り上げる。
「そういやこんなん撮ったっけ」
「うん。僕の宝物」
　イズモと初めて会った撮影現場。休憩中に練習して、やり直して挑んだ本番では監督に褒められた。オンエア後はお母さんにも褒められたし、ちょっとだけ子役として話題になった。だけど、直前まで泣いていたせいで少し目が腫れてる。そんな写真。
「にしてもリツ、最近変わったよなあ」
　ぶたれた頭をさすりながら、ノブアキが呟く。
「昔はいっつもイズモの後ろにくっついてたのに。最近はソロの仕事とか、Sargasの活動にも積極的になったよな」
「ま、いい加減親離れしたってことだろ」
「うん。あと、アル劇のみんなのおかげ」
　だけどね、とリツは続けた。
「僕が変わるときは、いつもイズモが側にいてくれる」

　手を取って、「負けるな」と言って、光のさす方へ連れ出してくれた。
　いまは、同じ光の中で隣に立ちたい。

「ありがと、イズモ」
「……意味わかんねー」
　そう言ってそっぽを向くイズモに、横からノブアキが肘でこづく。
「ちなみに子離れは？　できてんの？」
「オイ、もっかいぶつぞ」
「ちょっ、やめてやめて！」
　言い合うふたりに、リツは思わず声をあげて笑った。

今回登場した人物をご紹介！
◆千川リツ（CV：筆村栄心）
素直で純粋。体が弱く、やや天然なところもある。イズモとは子役時代からの長い付き合い。