「ツキノ芸能プロダクション」所属『劇団アルタイル』ショートストーリー連載第33回！

2.5次元芸能プロダクション「ツキノ芸能プロダクション」に設立されたバラエティタレントユニット『劇団アルタイル』。歌もダンスもお芝居も……というマルチなタレント活動をする彼らの日々を、ショートストーリーと音楽でお届けする連載です。

今回は、チームのムードメーカーであり、メンバーのお兄ちゃん的存在でもある渋谷ヨウスケのストーリーをお届けします。自身が歌うソロ曲に対して、とある悩みを抱えているヨウスケ。彼がどのようにしてレコーディングに臨んだのか、そのエピソードと成果にご注目ください！

劇団アルタイル『Ride on』

【あらすじ】
ソロ企画でラブソングを歌うことになったヨウスケ。だが、愛や恋といった感情を乗せて歌うのが苦手な彼は、レコーディングを目前にして困り果てていた。そこで、メンバーに悩みを打ち明け、相談してみることに……。

【ストーリー】
　とある日の共有ルーム。
　ヨウスケは思い切って、メンバーに声をかけた。
「頼も～！　みんな、俺の相談にのってほしい！！」
　突然のことに、めいめいソファで寛いでいたメンバーたちは、驚いた表情で顔を上げた。
「……うっざ。パス」
　少し離れたところに座っていたサクヤが、ボソッとひと言、ため息みたいに吐き出した。
「そう言わずに、オネガイ！！」
「うるさい……」
「僕たちで力になれるなら。ね、トウマ」
　ユウリはおっとり笑んだが、しかし、隣のトウマは不審げな表情を隠そうともしない。
「ヨウスケさんのお願いって、今晩のおかず一品寄こせとか、そういうやつじゃ……」
「違うって！！　もっと全然マジなやつだって！！」
「えー。マジってじゃあ、恋バナとか？」
　トウマはあくまでからかう口調で言ったが……返事がない。
「え？」
「まさか……ええ？」
「ウソだろ」
「えええええ！？！？」
「あっ、待て、違う！！　……あれ？　そんなに違わないか？　いや、けど、違う！！」

「ラブソング！？」
　ひとしきり驚きの声が吹き出したあと、ようやくヨウスケは本題を切り出した。
「そう。ラブソング。全然上手く歌えないんだよ……ソロのレコーディングまであと三日なんだけどさ……」
　言葉が上滑りしてる、もっと情熱的に、繊細に、気持ちを込めて。頭ではわかっているが、いざ愛を歌おうとするとうまくいかないのだ。
（そういえば、板の上での演技も苦手で、よく言われたっけなぁ……）
　がんばればがんばるほど、『俺、恥ずかしいけど必死にがんばってます！』感が出てしまう。『恥ずかしさを堪えている』のがひしひしと伝わってきて、見ているこっちが恥ずかしい、とよく言われた。
（わかる……俺も自分の演技、死ぬほど恥ずかしかったもん）
　録画を観ても、分析や反省をするどころじゃなかった。

「でも、なんでそんなに恥ずかしいんです？」
　不思議そうに、トウマが首を傾げた。
「だってヨウスケさん、俺たちにも好きだーとか愛してるーとかしょっちゅう言うでしょ」
「そりゃな。だって好きだし」
「あの。それを、そのまま歌えばいいだけだと思うんですけど……」
「そのまま……そのまま……？」
　みんなのことは好きだ。
　みんな可愛い弟みたいで、かっこいい仲間で、尊敬してる同志で。このメンバーでよかったと、なんなら道の真ん中で大声で叫んだっていい。
（でも、そんなの当たり前だろー？）
　愛って、もっと特別なんじゃないだろうか？
（……どう特別かって言われると困るけど）
　そう。なんだかぼんやりしていて、正体がはっきりしない。だから、迷ってしまうのだ。
「単純に考えろ」
　サクヤがため息混じりに言って、続けた。
「あんた馬鹿なんだから、細かいことを考えながら歌えるわけがないだろ」
「うっ……あの、サクヤ……お願いだからもうちょっと優しく……」
「想像しろ。お前の目の前はステージだ」
　サクヤがきっぱりと宣言した。
「ハコは満席、あんたを待ち望んでるファンがこっちを見てて、ステージには俺たち全員が揃ってる。
　スポットライトの下で、あんたはなにを思う？」
「なにって、それは……」
　嬉しい。
　楽しくてワクワクして……なにより。
（いとおしい）
　全部を抱きしめたい。
　ここに俺がいられるのはみんなのお陰だ。目の前のファン、それからメンバー。ありがとう。みんな、大好きだ。
　声が嗄れるほど叫んだって、きっと、全然足りない――。
「それでいい」
　サクヤの声で、我にかえった。
「その気分のまま歌ってこい」
「え……？　えええ？　いや、でも、いまのはさ……」
「昔、日本人は『LOVE』を訳すときに、とても困ったらしい、と聞いたことがあるよ」
　ユウリが、おっとりと口を開いた。
「昔、日本には『愛する』という概念がなかったんだ。西洋の『LOVE』を『愛』と訳したのは、明治時代になってからなんだって。
　でも『愛』という言葉自体はあった。誰かをいとおしいと思う気持ちは『愛（かな）し』と表現されていたんだよ」
　話が見えずに首をかしげると、ユウリは目を細めて続けた。
「日本人にとっての『愛』は、慈愛や情や思いやり……相手の魂を、大切だと思う気持ちのことなんじゃないかな」
「……大切に、思う」

（その気持ちなら、いつだって）
　嬉しくて、眩しくて、胸へ込み上げてくるもの。
（特別だけど……でも、すっごく当たり前の）
　いつも、自分の隣にあるものだ。

「ねえ。いっつも思うんだけど。ユウリさんて、いちいち日本のウンチクに詳しすぎない……？」
「ふふ。でしょう？」
　そう言ってユウリが笑い、こっちを見た。
「なにしろ僕は日本を愛してるからね」
「愛かーそっかー。……よーし！」
　譜面と歌詞をまとめて、ソファから立ち上がる。
「俺、ちょっと下のスタジオで練習してくるわ！」
「……単純」
　サクヤがぽつんと言った。
　けど、全然嫌な顔じゃなくて。面白そうに笑っていたから。
「だろー？」
　愛を、倍返しにしてやろう。
　そう思って、めいっぱい笑い返した。

今回登場した人物をご紹介！

◆渋谷ヨウスケ（CV：小松準弥）
タツヒコの親友にして、メンバー全員のお兄さん的ポジション。ノリは軽いが、面倒見が良く、頼りになる存在。