日本ナレーション演技研究所

日本ナレーション演技研究所出身 斎藤千和さんインタビュー 後編

2007-04-16 11:47:57

PROFILE

斎藤千和(さいとう ちわ)

3月12日生まれ。アイムエンタープライズ所属。主な出演作は『ケロロ軍曹』(日向夏美 役)、『魔法少女リリカルなのはStrikerS』(スバル・ナカジマ 役)、『ONE PIECE-ワンピース-』(チムニー 役)、『劇場版BLEACH』(茜雫 役)、『ブレイブ ストーリー』(ミーナ 役)など。

林原めぐみさん、鈴村健一さん、中原麻衣さんなど、現在各所で活躍中の声優陣を多く輩出している「日本ナレーション演技研究所」(以下「日ナレ」)。アーツビジョン・アイムエンタープライズをはじめとしたプロダクション直結という大きな魅力を持ち、働きながら、学びながら、週1回3時間から演技レッスンを受けられるシステムを採用している。 前回に引き続き、東京校出身で現在、アイムエンタープライズに所属する斎藤千和さんにお話をうかがった。 (2007年4月掲出)

●きっかけは、母親が間違えて買ってきた雑誌

――斎藤さんが声優を目指したきっかけを聞かせていただけますか?

斎藤さん:  それについてはいろいろなところで話しているんですが「小さい頃から声優になりたかったんです!」とか、もっといいことを言っておけばよかったとちょっと後悔しているんです(笑)。

――最初から声優やアニメに興味があったわけではなかったんですね。

斎藤さん:  でも初恋は『ドラゴンボール』の悟空でした!(笑)

――他に見ていたアニメは?

斎藤さん:  『スプーンおばさん』と『キン肉マン』くらいかな。同じ年くらいのいとこがみんな男の子だったので一緒に見ていたのは『ドラゴンボール』とか『キン肉マン』なんですよね。『スプーンおばさん』は母が好きで一緒に見てました。あとはアニメじゃないけど子どもの頃は戦隊モノもよく見てましたね。

――では、あらためて声優の道へ進むきっかけを教えてください。

斎藤さん:  高校3年生の時、母にファッション誌を買ってきてと頼んだら、間違って声優誌を買ってきたんです。ファッション誌が積まれていたのを見つけたまではよかったんですけど、「きれいな本を」と気を遣って下の本を持ってレジに行ったら、違ったんですね(笑)。今にして思えば、積まれたファッション誌の下になんで声優誌があったのかも疑問ですけど…。

――初めて声優誌を読んでどう思われましたか?

斎藤さん:  最初はアーティストの雑誌かなと思っていたんですが、読んでみたら出ているのは声優さんで。私、ハリソン・フォードが好きなんですけど、その雑誌に吹き替えに関する記事が載っていて、「これならハリソン・フォードと共演できる!」と思ったんです。実際に共演するのは無理だけど、ハリソン・フォードの映画の相手役の吹き替えをするのは可能性があるじゃないですか(笑)。そう思ってすぐ、日ナレの入所面接を受けたんです。

●高校・大学に通いながら日ナレへ

――高校3年生だと進路について考えていたと思いますが、もし声優を目指していなかったらどうするつもりだったんですか?

斎藤さん:  留学するつもりでした。高校も外国語学科に通っていて、エクスチェンジで留学も経験していたので。

――日ナレに入ったのはいつですか?

斎藤さん:  高校3年の7月に途中入所の形で入りました。行ったら厳しくレッスンしてたので「これはヤバイかも」と思ってたら、母から「(授業料)振り込んでおいたから」と言われて。はじめは「ああ、怖そう」とおびえていたんですが通い始めるとすごく楽しくて。年齢層もバラバラでいろいろな人と出会えて。年齢も一番下のほうだったので、年上の方からはかわいがってもらいました。学校の他にまた違ったところに通うのは新鮮でしたね。制服のままでレッスンに行って、講師の徳丸完さんに「スカートが短い」と怒られたり(笑)。クラスのみんなと公園に集まって芝居の稽古をしたり、市民体育館を借りて練習したりして、本当に楽しかったです。

――学業との両立は大変だったんじゃないですか?

斎藤さん:  だから夕方からのレッスンで週1回のコースに通っていました。でも週1回のコースに通う人達はみんな事情がある中でレッスンを受けているから、週1回のレッスンのためにちゃんと予習もしてくるし、それ以外でも自分達で時間をやりくりしながら練習をしているんです。私もみんなのそういう姿勢を見て、「しっかりしなくちゃいけない」と思いました。

――基礎科で学んだ後は?

斎藤さん:  その年の1月頃に所内オーディションがあって、事務所に所属となりました。

――事務所のオーディションに受かった時の感想は?

斎藤さん:  あまり実感がなかったですね。事務所自体もまだ出来たばかりでしたし。

――その後、進学や留学は結局しなかったんですか?

斎藤さん:  一応、大学も受験して、高校卒業後も大学に通いながらレッスンを受けてました。

――すごい頑張り屋さんですね!

斎藤さん:  そうですか? でも今思うとそうかもしれない。でも本当に楽しかったから(笑)。

●恩師から教わった「謙虚な気持ち」

――日ナレでレッスンを受けてきた中で印象的な出来事を教えてください。

斎藤さん:  年末に発表会があって、その時の練習は記憶に残ってますね。ゲネ(本番直前の通しリハーサルのこと)で泣きましたから(笑)。みんな熱血でやっていて、ゲネの時、あまりにも自分ができなくて「わ~」って泣いているのをみんなになだめてもらって。今では仕事場で泣くことはないですけど、もともと打たれ弱い性格なので、レッスンでもトイレでよく泣いたなあ。「トイレ使いたいから早く出て」「もうちょっとまって!」とか(笑)。今ではいい想い出です。

――それだけレッスンは厳しいんですか?

斎藤さん:  そんなに厳しいとは思わなかったですけど、この業界に限らず競争社会ですからね。入所した人みんなが成功するわけではないのもわかっていたし、ある意味、みんながライバルだという認識は日ナレに通っている時から持っていました。私自身、めちゃめちゃ負けず嫌いで、一番じゃないと嫌なんですよね。自分がうまくできても、もっとうまい人がいると「来週は絶対負けないっ!」って(笑)。

――講師の方から言われたことで印象に残っていることはありますか?

斎藤さん:  徳丸さんに「謙虚でいなさい」と言っていただきました。仕事が入ったり、順調に流れると調子にのっちゃったりするんですよね。『ココロ図書館』をやっていた頃がまさにそう。自分の実力がなかったから、それから1年半後の『LAST EXILE』まで1本もレギュラーがなくて。「運があるのは大切だけど、その運をしっかりつかんで、次につなげるのは実力だから、自分の中で謙虚に受け止めて、ちゃんとしなくちゃいけないんだ」と最近わかりました。徳丸さんやアドバイスをくださった先輩たちが伝えたかったのはこのことなんだって。そんなことを報告するとニヤリとされます(笑)。

――結局、何年通われたんですか?

斎藤さん:  4年です。でも日ナレの在学中に現場に出られたことはよかったですね。現場で「ここ失敗したな」と思ったところをレッスンで練習できるし、レッスンで言われたことを現場に出て初めて実感できる部分もありましたから。
それに、改めて人のやっているところを見ることは大切だなって思いました。現場では違う役を演じている人しか見られないけど、レッスンでは自分と同じ役を他の人が演じることもあるので、自分のイメージとは別のものを出してきたりするのを見るのはとても勉強になります。それが引き出しを広げることになって、現場で自分のイメージしていたものと別のものを要求されても混乱せずに「あの人がやっていた、あれをやればいいのかも」とすぐに浮かぶといいですよね。レッスンはそういう勉強ができる場だと思います。

●夢は今もハリソン・フォードと“共演”

――自分がプロとしてやっていると意識するようになったのはいつですか?

斎藤さん:  最近なんです。自分がプロとしてどうなのかと考えたのは『LAST EXILE』の前あたりで、仕事が何もなかった状況だったので「今年いっぱいで本当に辞めよう」と思っていた年末に受けたオーディションで合格して。『ココロ図書館』で共演させていただいていた先輩に、「役者の顔をするようになったね」と言われて、そば屋で泣いた記憶があります(笑)。自分はそうやって周りの人に支えられているんだなと思いました。

――この仕事についてよかったことは?

斎藤さん:  ないと生きていけないです! 私、本当に仕事が好きなんですよね。うちの犬がいないと生きていけないのと同じくらい(笑)。仕事と犬、どちらをとるかと聞かれたらすごく悩みますが(笑)、うちの犬にちょっとガマンしてもらって仕事に行きます。仕事と男性だったら、「仕事!」と即答なんですけどね(笑)。

――もしも、声優になっていなかったら何になっていたと思いますか?

斎藤さん:  通訳になりたかったんです。ハリソン・フォードに会いたいから(笑)。英語も得意でしたから。うちの親が「英語をペラペラしゃべる子供はかっこいい」と思ったらしくて、子供の頃から英会話教室に通っていたし、海外にも何度か連れて行ってもらいました。ハリソン・フォードにしても、女優として会うというのはリアリティがないじゃないですか? でも通訳や吹き替えでの共演という方がリアリティがあったんですね。

――全部ハリソン・フォードにつながるのはある意味、筋が通っていて素晴らしいです(笑)。

斎藤さん:  これはファザコンから始まってるんですよね、たぶん(笑)。父はクリントン元大統領似で、ハリソン・フォードもわりとそういう路線(笑)。でもハリソン・フォードもそれなりの年になってきたので急がないといけませんね。どなたか、ハリソン・フォード出演作品の吹き替えのお仕事をいただけないでしょうか?(笑)

●自分が持っている引き出しの中で、その役に一番ぴったりのものを使うのが仕事


――声優の仕事をする上での理想像や目標は?

斎藤さん:  本職を極めたいなと思います。今は、一つの作品に歌とかイベントとかいろいろなお仕事が派生するケースが増えていますが、自分が勝負できるのは声や技術だと思うので、それを磨いていきたいです。今までは声優の仕事は趣味と実益の両方を満たしていたので「楽しい」と思いながらやっていましたが、さすがにこの年になると転進も難しいと思うんです。
仕事としてお金をもらう以上はそれに見合うものを提供しなくてはいけないと思うので、ちゃんとやらなくちゃいけないという思いが強くなりました。一生声優をやっていけるようにきちっと段階を踏みながらレベルアップしていきたいです。

――キャリアを積むごとに役柄の幅が広がっている感じがしますが。

斎藤さん:  そうですか?? 自分では「あたし、いつも同じ声だなー」と思ってるんですけど(笑)。
私達の仕事は声から入るかといえば、決してそれだけではないと思うんです。一時期悩んだことがあったんですけど、ある作品でAという役をやっていて、また違う作品でBという役をやる時、似たような設定や性格ということもありますよね。はじめは「これではかぶってしまうから違う声にしなきゃ」と思ったんですけど、でもそれってBという役や作品、スタッフの方に失礼なことなんですよね。
「私を呼んでくださったからには、私の持っている引き出しの中でその役に一番ぴったりのものをちゃんと使わなきゃ」と。 似たような引き出しになることもあるけど、その役が生きてきた環境もこれから進む道も違うから、絶対に一緒にはならないんですよね。それを一緒にしてしまうのは自分の怠慢です。演技が揺れてしまうので1話と10話が全然違うということも、私はたまにありますが(笑)、結果は必ず違うものになることがわかってからは、「違う声にしなきゃ」とは考えなくなりました。

●自分が特別と思わず、人より努力すること

――声優を目指す皆さんへアドバイスをいただけますか?

斎藤さん:  「あなたは特別な人ではないよ」ということかな。私はいつもそう思ってるんですけど、例えば何かの役をやった時に「あなたしかいないと思ってました」と言っていただくことがたまにありますが、きっとそんなことはないんです。もし私がその役をやっていなかったら他の人がそう言われるんです。そういう危機感を持っていなくちゃいけないと思います。声優業界にいる先輩達は天才の集まりで、持って生まれたものが人とは違うし、才能がある人ばかり。こういう仕事につくと「自分は特別に何かできる」と思いがちだけど決してそんなことはなくて、努力し続けないと置いていかれます。 先輩達は才能がある上に人一倍努力されているんですから。そういう人達を見るたび、自分の代わりなんかはいくらでもいるし、しっかり頑張らなきゃ残れないって思います。

声優のスタートはある意味、簡単なのかもしれません。運がかなり作用すると思うので、たまたま受けたキャラが自分に合っていたり、タイミングが合ったりすることもあります。でも続けることがとても難しいです。「デビューが目標です」という方もいると思いますが、そうではなくもっと先を見たほうがいいと思います。
養成所や専門学校ではたまに良くできると「ヤバイ、オレ天才!」とか思いがちだけど、現場とは全然レベルが違います。自分を特別だと思わず、常に謙虚な気持ちで努力を続けることが大切なことだと思います。

――最後になりましたが、日ナレに入ろうとされている方にメッセージをお願いします。

斎藤さん:  私は一般生として基礎科から普通に入所して、本科に上がって、研修科に上がって、卒業して、今でも運よく声優のお仕事をさせていただいています。日ナレには、関連プロダクションの特待生の方もいるので、一般生として入ることに抵抗感がある方もいらっしゃると思いますが、それはあんまり関係ないです。むしろ入った後、自分がどんな努力をして、どんなアプローチをしていくかが大事です。
そして、もし声優になることができて、私と現場で一緒になることがあった時は「私、一般組です」って言ってください。「じゃあ、飲みに行こうか!」ということになるかもしれませんね(笑)。皆さんと現場でお会いできるのを楽しみに待ってます。頑張ってください!

――ありがとうございました!

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