多くのメディアミックスを手掛けてきた名編集者・井上伸一郎さんによる著書『メディアミックスの悪魔 井上伸一郎のおたく文化史』発売！　アニメイトで行われた記念トークショーレポート&インタビュー

「面倒くさいところは井上さんが全部やってくれました」

――本書を制作していく中で苦労された点や大変だったことは？

井上：ないです（笑）。

星海社 代表取締役社長・太田克史さん（以下、太田）：いえいえ、許諾取得など手がかかるところは井上さんが全部やってくれました（笑）。それに宇野さんを交えたインタビューをライターさんに書き起こしていただいた原稿を、井上さんご自身が改訂してくださりました。この本が読みやすいのは井上さんの力によるところが大きいと思っています。

井上：久しぶりに編集者らしいことができて楽しかったです（笑）。でもライターさんが書いてくれた元原稿がないとできませんからね。ライターさんにとても感謝しています。

太田：ゲラへの赤字などを見て、このようにして『アニメック』の記事を作ってらっしゃったんだなと感慨深いものがありました。井上さんをライターとして起用している、贅沢な本だと思います。そう考えると楽しかった話しかありませんね。

――ちなみにイベント中にも紙媒体が衰退しているという話題がありました。アニメやサブカルのネットメディアも誕生と消失の流れが早くなっていると日々感じていますが、どう思われていますか？

井上：そもそも私が現役として紙媒体の編集にあたっていた1980年代、1990年代くらいから、すでに「出版流通や出版システム自体が老朽化してきて、厳しい状況になる」という話はもう言われていたのです。そして1990年代のインターネットの普及を経て、それがわかりやすく表面化し、露呈したのが昨今だという印象です。

大手の印刷会社も業態をシフトしていますが、それも雑誌などの紙媒体が減っていくことを前提に、すでに1990年代あたりから新しいことに各社がチャレンジしつづけてきた延長線上にあります。

そして重要なのは書店の大幅な減少です。全国に約3万軒あった書店が今では7千軒台まで落ち込んで、約4分の1になりました。本好きとして率直に悲しいですし、しかしＡｍａｚｏｎなどで買うことが当たり前の環境に変化してきたことを踏まえれば、昔を懐かしんでかつての形を守ることだけではどうしようもないと思います。とにかくリアル書店を応援したい一心です。

そしてネットメディアの誕生と消失が早くなっていることについてのご質問に戻ると、ネットメディアにはまだまだやれることがあると思います。今は玉石混交ではありますが、だからこそどう責任を持ってやっていくのかが試される時代だと思います。ある意味、おもしろい時代ですし、ツライ時代でもありますね。でもいつの時代のどんな媒体も、そうですから。

夢は自分の原作でメディアミックス！

――今後やってみたいと思っていることや現在動いていることを、可能な範囲でお話しいただけますか？

井上：まずトークショーでも話しましたが、海外向けの発信を行うために、YouTubeを始めます。日本のアニメやカルチャーの魅力を正しい形で伝えたいという想いで、これからどんどんコンテンツを追加していければと思っています。

あと小説も今書いています。『カクヨム』で小説を発表します。そして映像の仕事もお話が進んでいますので、情報が公開されるときにはぜひ驚いてください！　今はすごく充実しているし、とても楽しいです。これまでは人の作品のメディアミックスばかりやってきましたから、今後は「自分の原作でメディアミックス」できたらいいなと思っています。

自分の中ではあと10年くらいと一応のタイムリミットは決めていますが、まだまだおもしそうなことがやれそうなので、やれる限りやろうと。やりたいことがどんどん浮かんでいます。観ていない配信ドラマがたくさんあるので、それも視聴しなきゃね（笑）。

――楽しみにさせていただきます（笑）。最後に楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

井上：80年代から現在までの話を書いていますので、親御さんからお子さんまで、どこかの年代でわかる話や共感できる部分がきっとあると思います。あくまで私、井上の主観ではありますが、おたく文化がどういう風にできたのかは明確にわかるし、他の方の本と照らし合わせてみるとより鮮明に見えてくると思います。

アニメやおたくを歴史として紐解いていく上でも、もっと気軽な業界裏話としても手に取っていただけたら幸いです。

『メディアミックスの悪魔　井上伸一郎のおたく文化史』（星海社新書）

1,650円（税込）
3月18日発売

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