多くのメディアミックスを手掛けてきた名編集者・井上伸一郎さんによる著書『メディアミックスの悪魔 井上伸一郎のおたく文化史』発売！　アニメイトで行われた記念トークショーレポート&インタビュー

1985年にアニメ界に衝撃を与えた『月刊ニュータイプ』や数多くの連載作品がアニメ化した『少年エース』などを手掛けて、ＫＡＤＯＫＡＷＡの代表取締役副社長も務めた名編集者の井上伸一郎さんの著書『メディアミックスの悪魔 井上伸一郎のおたく文化史』が2025年3月18日に発売！

井上さんの幼少期から現在までを振り返りつつ、80年代から2020年代までのアニメや特撮などのカルチャーを、カルチャーシーンの最前線に立ち続ける井上さんにしか書けない観点から紐解いていく本書。聞き手には評論家の宇野常寛さんを迎えて、各章末に宇野さんによる解説が付されるというオリジナリティある新書の形式で振り返っていきます。

また、カバーイラストをＣＬＡＭＰが担当。『仮面ライダー』と『ウルトラマン』、『ガンダム』が一堂に会す奇跡的なイラストに。さらに、帯の推薦コメントをデザイナーの永野護さんが寄稿されています。

今回、業界の内外から注目を集めている本書の発売を記念して、井上伸一郎さんと、本書の担当編集である太田克史さん（星海社）によるトークショーが行われました。その模様と終了後のインタビューをお届けします。

「発売前だからこそできる話をしましょう」と太田さん

トークショーには井上伸一郎さんがステージに登場し、本書の担当編集の太田克史さん（星海社）も聞き手として登壇しました。

開演早々、井上さんは、前日に発売された人気ソフトを引き合いに出して「『モンスターハンターワイルズ』をやらなくていいんでしょうか？」と会場に笑いを誘います。

太田さんからの「発売前でまだ1行も読んでいただいていないのに、これだけ大勢の方を招いて刊行記念イベントをするなんて、僕も初めてです！　逆に刊行前だからできる話をしていきたいと思います！」という言葉に会場の期待感も高まります。

表紙カバーを飾るイラストの許諾は井上さんご自身で!?

まず本書を刊行することになったきっかけのお話から。井上さんと太田さんのあいだで具体的な話が動き出したのは、2022年の年末の打ち合わせだったとのこと。しかしその前にＣＬＡＭＰの大川七瀬さんから「井上さんは回顧録を書くべき」と言われたのがはじまりだったそう。

ただ「自分の所属する会社（ＫＡＤＯＫＡＷＡ）から出すのはカッコ悪いと思い、懇意にしている太田さんの星海社から刊行することになった」と明かします。太田さんいわく「出版界では自著を自分の会社から出すことを潔しとはしない風潮があるので、この形があるべき姿なんです」とのこと。

また、カバーイラストの話題では「出版関係者、映像関係者の方は驚かれたと思います。一つの画面にこのような形で『仮面ライダー』『ウルトラマン』『ガンダム』描画されることは通常ありえません」と、業界が騒然のカバーイラストであることを太田さんがアピール。

幼少期に大きな影響を受けたという『仮面ライダー』『ウルトラマン』『ガンダム』をカバーイラストとしてＣＬＡＭＰさんに描いてほしいと発案したのは井上さん自身だったとのこと。それを聞いた太田さんは「いくらなんでも不可能だろう」と思っていたところ、井上さん自ら各権利元に連絡を取って実現したという驚きの経緯が明らかに。井上さんは「久しぶりに編集者らしい仕事ができて楽しかった」と明るく振り返りました。

そして話題は永野護さんによる帯の推薦文へ。なんと永野護さんからは依頼した当日に推薦文が送られてきたそう。「80年代といえば、私が永野さんと出会ったころ。本書には当時の懐かしいエピソードが書かれていて、そのお話が楽しかったからかな？」と井上さんも楽しそうな様子。

批評家の宇野常寛さんによる解説が各章に付されている形式になったのも井上さんによる要望で「読んだ方に自慢話みたいだと思われるといやなので、人からどう見えるかという視点もほしかった」からとのこと。本書には1970年代から2020年代のアニメ・特撮や業界のことが綴られていますが、宇野さんの解説が入ることでより広い読者にとって分かりやすい視野がひらかれています。

「宇野さんとの対談の中で忘れていたことを思い出したり、自分では重要じゃないと思っていたことも人から見ればおもしろいことなんだとわかった」と井上さん。宇野さんの解説も相まって「自分で読んでもおもしろいなと思った笑！」と書籍の出来を振り返りました。

本書には幼少期のエピソードがふんだんに収められていますが、それでも書き切れなかったことも多いそう。『ウルトラマン』の怪獣ペスターを自作するために家のシーツを切りたいと親に話したところ怒られて、「死んでやる！」と練炭式のコタツにもぐりこんで危うくほんとうに死にかけた話が披露されました。「もちろん自殺はしてはいけませんよ」と井上さんは釘をさしました。

続く話題は井上さんと太田さんの関係性。太田さんがまだ20代の新人だったころ大塚英志さんの担当になり、打ち合わせのために大塚さんの事務所の近所の喫茶店に向かうと、井上さんが先に大塚さんと打ち合わせをしていたりと、ばったりと出会うことが多かったそう。そんな二人が時を経て一緒に本を作ることになるとは、と、井上さんも太田さんも感慨深く語りました。