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- 藤崎萌恵
- 大阪府在住のライター。小説、漫画、アニメ、映画など“好き”を追い続ける。

すう先生の大人気BLコミック『キスは捜査のあとで』が、渡部 秀さん&齋藤璃佑さんW主演で実写ドラマ化。渡部さん演じる天然人たらしのアラフォー人情派刑事・多古井平助と、齋藤さん演じる毒舌エリート後輩・塩野 秀が織りなす、ノンストップ・ラブコメディです。
第3話では、多古井をかばった塩野が怪我をしてしまう事態に。自分のせいで塩野を傷つけたと落ち込む多古井は、彼のもとへと向かいます。
本稿では、ドラマ『キスは捜査のあとで』第3話「好きだと気付いて」をレビュー。部屋で本音を交わす2人……多古井は目が離せなくなり、塩野も呼応するように引き寄せられていきます。
※本稿はドラマ『キスは捜査のあとで』第3話までのネタバレを含みます。
塩野から「好きです」と告げられた多古井は、“嫌じゃない”自分の気持ちに戸惑いを隠せず。頭の中は塩野でいっぱいになり、意識し過ぎてつい彼から逃げてしまいます。
そんななか、馴染みのスナックのママ・みすず(演:菊川 怜さん)から連絡が入り、多古井は彼女の店に急行。そこではみすずの元カレが暴れて修羅場と化していました。みすずが多古井へ身を寄せて親密な素振りを見せると、逆上したみすずの元カレが凶器を手にして多古井に襲いかかります。
すると、瞬時に身を挺して多古井をかばった塩野。頭から血を流して殺気にも似たオーラを放ちながら、そのまま電光石火の速さで相手を取り押さえました。さすがハイスペック男子、ここへきてフィジカル面でも本領発揮。愛する人を守った塩野は、他の何者も寄せ付けず静かに立ち去ります。
原作のすう先生が塩野について、コミック『キスは捜査のあとで』の中で合気道の技、続編『キスは捜査のあとで アゲイン』の中で空手の後ろ回し蹴りを披露しており、さらに「柔道黒帯を持っているはず」とも明かされています。
頭脳明晰で、メンタルもフィジカルも強い男。好きな人を守り切る点においても、まさに“最強の攻め様”ですね。多古井も柔道黒帯を持っているとのことで、やはり自立した強い男同士のBLはいい。
一方で、多古井は誰にでもいい顔をしてきた自分のせいで、塩野に怪我をさせてしまったとひどく落ち込んでいました。
改めて第2話に少し言及しますが、「皆にいい顔をする」ことを元カノに指摘されたことのある多古井に、「多古井さんの一番になりたい人からすると、多古井さんの誰にでも優しいところが好きなのに、自分にだけじゃないからそれがムカつく」と塩野は語っていました。
多古井は“塩野がそう思っている”かのような言い方にドキっとしながら、すごく救われたのではないかなと思います。彼はずっとそうやって、人に優しくして生きてきただろうから。
多古井はこれまで知らなかった塩野の側面を少しずつ知り、塩野の想いは異性愛者を自認しているであろう多古井の心を掻き乱していきます。
そんななか多古井は、自分のせいで塩野に怪我を負わせてしまったと、自責の念に駆られていました。落ち込む多古井に、塩野は語りかけます。
誰にでも優しくして勘違いされるような態度をとるのは気に入らないけれど、「それで救われる人がいるんだし、それが多古井さんなんだからまぁいいんじゃないですか。俺はおもしろくないけど。競争率上がるし」と。この塩野の言葉もまた、多古井の心を軽くしてくれたはずです。
同時に、塩野が直球で好意を伝えるものだから多古井は照れてしまい、「困ってんだよ こっちは」と漏らします。
その言葉に反応する塩野の声と背中は少し寂しげ。だけど、「嫌われていると思っていた」という多古井の本音を聞いた塩野は、素直な気持ちを伝えます。
多古井にだけ嫌味を言ったり邪魔したり冷たくしたり……拗れた愛情表現の理由として「だって…むかついたから」と返す塩野。どこか年上の多古井に対する甘えがあって、年下らしさを実感した場面。とはいえ、塩野の本音を聞けば聞くほど胸が痛みます。
多古井が女性を好きなのは知っているし、自分は恋愛対象にならない。だから、悔しかった。
「俺に気付いてほしかった」
「“好きだ”って言いたい欲が出ました」
密かに焦がれていた人。付き合えるとは思っていないけど、せめて気づいてほしかったなんて……夕暮れ時の部屋の中で切実な想いを告げる塩野は、憂いを帯びていて、それでいてどこか穏やかな表情。
そんな塩野の姿を見ていると、「嫌じゃない」と言われたことがどれだけ希望となったのか、あの時どんな想いでどれだけドキドキして「好きです」と告げていたのか、考えずにはいられなくなります。
塩野の想いを知って逃げ腰だった多古井。だけど今、彼は真っ直ぐ塩野のことを見て、目を離さないんですよね。その姿にもまたグッときてしまって、いいドラマだなとしみじみと浸りながら私も2人から目が離せなくなっていました。
多古井は基本的に、好意を寄せてくれる相手に応ようとする人なのかもしれませんが、理屈抜きで塩野に惹かれ始めているように見えます。この気持ちが何なのか、ぼんやりとしか自覚できていないけれど、本音を打ち明ける塩野を見つめながら一秒ごとに彼への愛しさが増しているようでもありました。
本作は原作の面白さはもちろん、ドラマ脚本や演出のセンスも抜群にいい。多古井を守って頭を怪我した塩野のもとへ見舞いに来て、塩野が開けたドアで多古井が頭をぶつける場面など、しんみりとしたシーンにコメディ色の濃い要素を差し込むバランスも絶妙です。
さらに、原作から台詞を大きく変えているわけではないのに、絶妙な“間”が爆誕したのがこちら。
「洗うよ」
「えっ?」
多古井のその言葉が、塩野と視聴者を震撼させました。多古井さんは何を洗ってくれるのか……? この一瞬、塩野の頭の中では忙しく思考が巡っていたことでしょう。
このドラマは隙あらば心をくすぐってくる神業の連続。ここで多古井が差し入れに「たこ焼き」を買ってきたのも粋な改編でした。多古井はちゃんと塩野の好きなものを選んだんですね。
私はもう、「たこ焼き」は塩野にとって好きな人の“概念”だと信じ込んでいますが、もしかしてたこ焼きに多古井との思い出があったりするのかなとも想いを馳せています。塩野って多古井とのひとつひとつの瞬間を大切にする人だと思うので、たこ焼きじゃなくとも塩野しか知らない宝物も何かしらあるのだろうと、勝手に妄想を膨らませて勝手に噛み締めています。
本作は刑事もの(現場ラブ)とはいえ、多古井と塩野が寮暮らしで隣同士ということもあり、家の中の場面も多め。夕陽を背景に、その光に照らされる部屋で交わす多古井と塩野の会話は息をのむ美しさ。どこかノスタルジックな雰囲気が2人を包みこみます。
多古井の髪に付いていた“かめきちのキャベツ”を取ってあげて、塩野がその状況に笑っていると、多古井が真剣な眼差しでふと塩野の手首を掴みます。そのまま多古井から近づくと、塩野もまた吸い寄せられるかのように顔を寄せていく。
焦らされながらも、あそこで終わったからこそ鮮やかなまま脳裏に焼きついているのかとも考えつつ、何度リピートしたことか。あまりにも綺麗な情景に釘付けになりました。
多古井は目が離せなくなり、塩野もそれに呼応するように求める。多古井の恋は走り出し、こうなったらもう塩野の想いはきっと止められない──。
漫画的表現にリアリティを織り交ぜた芝居は実写化作品の醍醐味。目で語る演技、仕草、声色……渡部さんと齋藤さんの演技力と相性により、ドラマは一層見応えのある仕上がりに。
時折挟まれる「えっ?」「はっ?」のような生っぽい掛け合いに、ふふっと笑いが溢れてしまうことも。多古井と塩野の想いが絡み合って、ここからまたどんな演技を見せてくれるのかという期待に心が躍ります。
そして脇を固める俳優陣の安定感。八木(演:ドロンズ石本さん)、長谷川(演:金井勇太さん)、江川(演:工藤 遥さん)が作り出す山ノ道警察署の雰囲気が良くて、彼らになら安心して多古井を任せられるとさえ思えてしまいます。
事情は知らずとも多古井の背中を押す長谷川と、全てを察して背中を押す江川。さらに、含みを持たせて背中を押してくれるみすずママや、いつも気にかけてくれている居酒屋の大将(演:矢柴俊博さん)もそう、人と人との繋がりがじんわり心を温かくしてくれます。
多古井を見守って応援する周りの人たちの優しさは、多古井がみんなに向けてきた優しさなんですよね。
このドラマは、これまでも視聴者の心を鷲掴みにしてきましたが、とっておきの見せ場をまだまだ隠し持っているだろうといった期待値の高さを更新していくのも凄さのひとつ。原作を読んでいる人はもちろん、読んでいない人も回を追うごとにトキメキが止まらなくなっているはずです。
| 作品名 | キスは捜査のあとで |
|---|---|
| 放送形態 | 実写ドラマ |
| スケジュール | 2026年7月26日(日)~ ABCテレビにて |
| キャスト | 多古井平助:渡部秀 塩野秀:齋藤璃佑 江川まり子:工藤遥 長谷川次郎:金井勇太 八木保:ドロンズ石本 大将:矢柴俊博 松雪みすず:菊川怜 |
| スタッフ | 原作:すう『キスは捜査のあとで』(Jパブリッシング) 脚本:村田こけし 演出:大内隆弘 浅見佳史 プロデューサー:藤田洋平 寺川真未 川西琢(ABCリブラ) 制作協力:ABCリブラ 制作著作:ABC |
| 主題歌 | 「なつめき」OCTPATH |
