
「これからも二人の日常は続いていく」──『僕の心のヤバイやつ』完結! 桜井のりお先生が語る市川京太郎&山田杏奈の成長と最終回に込めた想い【インタビュー】
心に残る言葉はどう生まれたのか
──『僕ヤバ』では、中学生らしい季節の行事や学校のイベントとともに、物語も進んでいったように思います。そうした季節感も大切にされていたのでしょうか?
桜井:季節のイベントや学校行事は、中学生にとって本当に大きな存在なんです。それをどう過ごすか、どう乗り切るかということが、人生の中でも大きなウエイトを占めるわけなので、そこはちゃんと大事に描くようにしていました。
本来市川みたいな陰キャにとっては、学校行事も季節のイベントも本当に大嫌いなものなんですよね。でも、これから先の人生でもずっと付き合っていかなければならない。だからこそ「『こういうのも悪くない』と思えるような描き方ができたらいいな」という気持ちがありました。
──運動会も大きな出来事でしたよね。京太郎も頑張っていました。
桜井:陰キャにとって、運動会なんて良い思い出なんて何もないですから(笑)。でもそこで「あんなこともあったな」「ああいうのもいいな」と思えるような思い出になってくれたらいいなと思っていました。
──運動会では足立を中心に、生徒たちが活躍していました。そうした周囲のキャラクターを描く上で意識されていたことはありますか?
桜井:これは連載初期から変わらないことなのですが、基本的には山田と市川の物語なので、周りのキャラクターはちゃんと立っていながらも主張しすぎないようにしていました。ただ「もしこの子が主人公だったら、こういう物語になるんだろうな」という想像ができることは大切にしていたんです。単なる引き立て役にはならないけれど、かといって濃すぎるわけでもない。そのくらいのバランスを意識していましたね。
──以前お話を伺ったとき、ちょうど萌子と山田がぶつかっていた時期で、どちらか一方が悪者にならないように気をつけている、とおっしゃっていたのが印象に残っています。
桜井:悪者は悪者としているんですけど、その人にもその人なりの考えがあって、ちょっとわかる部分もあるよね、というラインを大切にしていました。
萌子と山田の喧嘩でもそうですが「私はこっちのほうが正しいと思う」でも「向こうの気持ちもわかる」みたいなことってあるじゃないですか。共感できる部分があるというか。そんな機微も大事にしていましたね。
──先ほど、山田杏奈のことを周りのみんなが愛している、というお話がありましたが、いろいろなことにつながっている気がします。山田だからこそ、つい許してしまうというか。
桜井:そう。でもそれが苛立ちにつながることもあるんですよね(笑)。「山田だからいいか」と思ってしまう自分に苛立つというか……。山田が悪いというよりも、そういう気持ちがみんなどこかにあるからこそ苛立ってしまうのだと思っています。
──先生ご自身も、山田だから許してしまった瞬間が?
桜井:ありました。でも私としては、もっと傍若無人な山田でもいいと思っているんです。初期の頃は本当にそんな感じでしたし、もともとそういう子が好きなので。ただそれだけではなくて、中学生から高校生へと成長していくにあたって、もう少し自分自身を振り返って、反省できる人間でもあってほしいな、という想いもあったのかなと思います。
──連載初期にお話を聞いた際、大きなコマを使うことにあまり自信がないとおっしゃっていたのを覚えています。全14巻を振り返ると、印象的な大ゴマもたくさんありました。先生ご自身の中で特に印象に残っている場面はありますか?
桜井:伏見稲荷での告白シーンですね。以前は大ゴマを使うと「ここが良いシーンですよ!」と自分で言っているような気がして、恥ずかしさがあったんです。でも、そういう気持ちは捨てて、私自身もちゃんと作品に向き合って「ここが一番いいシーンなんです」と読者の方に伝えるのも大事なんだな、と改めて気づかされた場面でしたね。
──先生ご自身も『僕ヤバ』とともに歩み、成長されてきたというか。
桜井:漫画の技術的な部分でも、いろいろなことに気づかされる作品でした。たとえば市川自身が大切なことに気づくシーンなどでは、モノローグで良いことを言わなきゃ、と思うんですよ(笑)。それがすごく難しくて。あまりポエムチックになっても良くないのかなとか、かといってただ言っているだけのセリフでは印象に残らないのかなとか。
それまではギャグ漫画しか描いてこなかったので、そういう“いい感じのセリフ”を考えることがなかったんです。言葉の文法だったり、ここは言葉の順番を逆にしたほうがいいんじゃないかとか。学びが多かったですね。
──『僕ヤバ』は絵も印象的ですが、言葉も心に残る作品だと思います。今のお話を聞いて、レトリックにも力を入れていらっしゃったんだなと改めて感じました。
桜井:最後まで悩んでいた部分でした。
──言葉という点では『僕の心のヤバイやつ』というタイトルも非常に印象的です。以前お話を伺った際には、“恋心なのか何なのかわからない感情”という意味が込められているとおっしゃっていましたが、改めてこのタイトルについて思うことはありますか?
桜井:恋をしたことがない中学生が、自分の中に芽生えた変な気持ちに気づいて、“この感情は何なんだろう?”と思う。そういう意味でのタイトルなんですけど、市川にとってはそれが恋心だったけれど、別の人にとっては違うものかもしれないじゃないですか。いろいろな捉え方ができるタイトルなんだなと、最近感じましたね。


































