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『僕の心のヤバイやつ(僕ヤバ)』完結記念 桜井のりお先生インタビュー

「これからも二人の日常は続いていく」──『僕の心のヤバイやつ』完結! 桜井のりお先生が語る市川京太郎&山田杏奈の成長と最終回に込めた想い【インタビュー】

2026年秋、約8年半にわたって描かれてきた、市川京太郎と山田杏奈の物語がついに完結を迎えた。

2026年11月6日(金)には、最終巻となるコミックス『僕の心のヤバイやつ』第14巻が発売。通常版に加え、画集「第十二中学校卒業アルバム」が付属する特装版も登場し、完結を記念したさまざまな企画も展開されている。

そんな節目に、最終回を描き終えたばかりの桜井のりお先生にインタビュー。連載を終えた今の心境や、市川京太郎と山田杏奈それぞれの成長、最終回に込めた想い、そして作品を通して得たものまで。桜井先生自身の言葉から8年半の歩みを振り返った。

また、この日は長年にわたり作品をともに作り上げてきた担当編集の福田裕子さんも同席。最終回の原稿を受け取ったときの胸の内を語ってくれた。

「ちゃんと終われてほっとしている」8年半の連載を振り返って

──まずは約8年半にわたる連載、本当にお疲れ様でした。最終回が掲載されて間もないタイミングでお話を伺えることを嬉しく思います。今、率直にどのような気持ちですか?

桜井のりお先生(以下、桜井):まずは、ほっとしています。連載は長く続けば続くほど終わり方が難しいところもあるのかなと思いますし、だんだん体力的にきつくなってくることもあります。ちゃんと終われてほっとしている、というのが率直な気持ちですね。

──前回お話を伺ったときには、すでに最終回までの構想を考えていらっしゃるとおっしゃっていました。実際に、その構想通りの結末になったのでしょうか?

桜井:そうですね。大きく違うことはなく、ふんわりと軟着陸(ソフトランディング)することができました。

──連載の締め切りから解放されるのも、相当久しぶりなのではないでしょうか。

桜井:そうですね。『僕ヤバ』(の準備)がはじまった時期に、まだ『ロロッロ!』をちょっとやっていたので……実感としては8年半以上です。

──物語を中学校の卒業で締めくくるというのは、いつごろから決めていらっしゃったのですか?

桜井:連載初期には、そこまではっきりとは考えていませんでした。決定したのは物語が中盤に入って、山田と市川がお互いを想い合うようになってからですね。ラブコメ作品としては、恋愛が成就したところで終わるという形もあると思いますが、『僕ヤバ』はラブコメであると同時に一人の中学生が成長していく物語でもあります。なので卒業という区切りが一番ふさわしいのかなと思っていました。

最初から考えていたのは「中学生としての恋愛を描きたい」ということでした。中学校を卒業して、高校生や大人になってからの二人に関しては、最後まで考えていなかったんです。

──桜井先生が考える「中学生の恋愛ならではの魅力」とは?

桜井:やっぱり、あのころならではの距離の縮め方やスピード感があって、これは高校生とは全然違うと思うんです。そこをじっくりと描いていきたくて。そういう意味でも、中学校の卒業が良い区切りなのかなと思いました。

──第1巻の巻末にあった「“距離”“変化”“気づき”を丁寧に描いていきたい」という言葉も、今振り返ると、物語を通して大切にされてきたものだったのかなと思います。

桜井:中学生って、まだ何もわからない状態の子どもだと思うんです。そんな子どもが、初めて芽生える感情に気づいていくということが、ならではだと思うんです。最後まで大事に描けたのかなと思います。

──物語の中で京太郎も本当に成長しましたよね。最初は友達がいなかったところから始まって、周囲との関係や家族との向き合い方も変わっていきました。改めて、京太郎の成長をどのように捉えていますか?

桜井:成長しましたが、変わらない部分は変わらない部分として、大切にしたかったんです。京太郎は昔から優しい人間でしたが、人を思いやることに対しては「恥ずかしい」「ちょっと嫌だな」と思ってしまうところがあったんです。

でも、そんな優しさも自分の性格なんだと受け止めて、認めてあげられるようになった。それが一番の成長なのかなと思います。性格そのものが変わったというよりも、自分の内面をちゃんと見つめられるようになったという部分で、成長できたのかなと思いますね。

──そんな京太郎にとって、受験も一つの大きな挑戦だったと思います。受験期を描くにあたって、大切にされたことはありますか?

桜井:私自身、難関校を受験した経験がなかったので、皆さんがどういう気持ちで受験に臨んでいるのかを知りたかったんです。周りの編集の方々にもいろいろお話を聞いて、情報を集めてもらいました。

──(同席していた)福田さんにもお話を聞かれたんですか?

桜井:そうですね。

担当編集・福田裕子さん(以下、福田):お子さんが難関校に通ってらっしゃるお母様を探して、お話を聞かせていただきました。東京の受験事情についてもいろいろ調べましたし、社内にも難関校を受験した経験のある人がいたので、話を聞いていましたね。

桜井:とにかくどういう心持ちなのかを知りたくて。受験って、ただ勉強すればいいというわけではないとのことで、メンタルの状態がそのまま成績に表れることもあるという話も聞きました。自分の知らない世界だったので、すごく勉強になりました。

それから、受験を通して市川が過去の失敗と向き合えるようにしたいという想いもありました。以前、受験に失敗した経験があるけれど、それも自分にとって必要なことだったんだと認めてあげられるような結果にしたい。これもずっと考えていましたね。

──編集部の皆さんから情報を集めることも多かったのですね。

桜井:受験関係は特に多かったと思います。

福田:基本的に物語はすべて桜井先生が考えていらっしゃいますが、先生が知らない情報を調べてくることはありました。

桜井:大学の学園祭のシーンも自分ではよくわからなかったので、取材に行ってもらいました。なかなか現場まで行く時間が取れないこともあるので、そういうときは急遽「明日までにこの写真が欲しいんです」とお願いすることも……。

 

性格が変わることだけが成長ではない

──山田も大きく成長した人物だと思います。山田の成長をどのように捉えていますか?

桜井:山田は市川とは逆で、昔からちょっと自分勝手な部分があるんですね。そこに自分自身で気づいて、ちゃんと向き合うという成長を描きたかった。市川と対になる存在として描いていたところもあります。

ただ、山田の自分勝手なところや、あまり人を思いやれていない部分は、彼女のいいところでもあるんです。そこも含めて、市川が好きになった山田。だから、自分勝手な部分を是正するわけではなく、市川と同じように、自分の本当の内面に気づいてあげるという見方で、山田なりの成長があったのかなと思います。

二人は性格的には正反対ですが、奥底では似ています。ちゃんと自分を見つめられる人間ということが、二人に共通しているのかなと思います。

──付き合い始めてからの二人を描く上で、付き合う前と後で意識的に変えた部分や、逆に変えなかったところはありますか?

桜井:付き合っていても中学生同士なので、いきなり距離が縮まるというわけではないんですよね。付き合う前と後で、そこまで距離感は変わっていないと思います。

お互いが生きている世界そのものを好きになっていく、という変化がありました。それは特に意識して描いていたわけではありませんが、好きな人が過ごしている世界というか、その人の家族や友だちのことも、もっと知りたいと思うようになる。そういう気持ちが芽生えたことが、一番大きな変化だったのかもしれません。

──お互いの家族、とりわけ京太郎が山田の家族と向き合う場面は印象的でした。

桜井:そうですね。山田の親族関係って、結構癖が強いじゃないですか。昔の京太郎だったら、いろいろな人がいる環境をただ「怖い」と感じるだけだったかもしれません。でも「こういう人たちとのつながりがあるから、山田という人間ができたんだ」ということに気づけるようになった。そんな考えも愛おしく感じられるようになってくれたらいいな、という想いがありました。

──京太郎は、山田のマネージャーである諏訪さんともきちんと向き合って話をしていましたよね。

桜井:どんな環境であっても、山田杏奈という人間を周りのみんなが愛しているんだ、ということに気づけたのが大きかったのかなと思います。

── 一方で、山田も京太郎の家族と向き合うようになりました。二人だけでなく、その周囲の人たちも丁寧に描かれていた印象があります。

桜井:昔から家族を描くのが好きなんです。その人がどういう歴史をたどって、今の人間になったのかということを想像するのが好きなので。そういうところも、描く上で大切にしていた部分ですね。

 

(C) 桜井のりお(秋田書店)2018
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