音楽
SFと音楽の融合、それは不思議な物語の始まりでした

最新作「不謌思戯モノユカシー」はいかにして構築されたのか? SF(ササクレ・フィクション)の創造主、sasakure.UKさんインタビュー

「*ハロー、プラネット。」や「ぼくらの16bit戦争」など、多くのボーカロイド楽曲をニコニコ動画などで公開してきた、sasakure.UK(ササクレ・ユーケイ)さん。2010年にアルバム「ボーカロイドは終末鳥の夢を見るか?」でU/M/A/Aよりメジャーデビューし、2015年12月2日に待望の最新作「不謌思戯モノユカシー」をリリースされました。

これまでにリリースされた「トンデモ未来空奏図」、「摩訶摩謌モノモノシー」の遺伝子を受け継ぐサウンドテラー仕立ての本アルバム。その独特な世界観はどのようにして構築されたのか。そしてその源流であるSF(ササクレ・フィクション)的世界観は、一体何に起因しているのか。最新アルバムの発売にあわせて、sasakure.UKさんに直接お伺いしてきました。やはり気になるのは見る者聞く者を独自の解釈へと引き込む特有の世界観ですが、果たしていかようにお考えなのでしょうか。

■楽曲作りの下地は世界観の構築から

━━━曲を作る際はどのようなところからスタートしますか?

sasakure.UKさん(以下、sasakure):基本的には世界観だったりコンセプトだったりするベースとなるものから作り始めますね。例えば「女の子が大きいロボットの手を引いて歩いている」だとか、そういうシーンが一つ浮かんだらそこから話を広げてオチまで考えて、一つの大きな流れを作ります。

━━━イメージボード的なものを頭の中で考えてから、それを音楽に変換するという感じでしょうか?

sasakure:そうですね。

━━━イメージを音楽に変換する際に気をつけている部分などはありますか?

sasakure:わかりやすさと難しい部分のバランスは気をつけています。イメージを「わかりやすく伝えたいとき」は音楽的にもわかりやすく、逆に「いろいろな解釈をしてほしい部分」はあえてわかりにくくしています。変拍子や和音を濁らせたりという感じですね。どっちも表現したいことので、一つの曲の中にその二つの要素を上手く織り込んでいきたいなと。

━━━その「いろいろな解釈をしてほしい」という部分は、sasakureさんの中では答えがあるんですか?

sasakure:答えとして持っているものもありますし、「ここは自由に考えて欲しい」というのが答えという時もあります。あえて含みを持たせた単語を置いてみたり、いろいろな解釈ができるストーリーを作ったりという感じですね。

━━━sasakureさんからの投げ掛け(音楽)に対してファンが自由に楽しむ(解釈)というサイクルが既にでき上がっているようにも見えますね。

sasakure:そうですね。そういった部分は感じています。

■アルバムごとの世界観を楽しむ、妄想する

━━━今作「不謌思戯モノユカシー」はどのような内容、というかお話なんでしょうか?

sasakure:日本のとある町を舞台としていて、アルバムの中でそれがどんどん語られていくという流れです。アルバムの中で登場するいろんなキャラクターがそれぞれ動くことで、ストーリーが語られていくという感じですね。今までのアルバムとは少し変わった構成になっています。

━━━そういった世界観やストーリーは、常日頃から頭を捻って考えているんですか?

sasakure:昔は図書館で妄想してたんですが、最近は散策しながら考えています。最初に作る曲の中身や、物語の起承転結、どんな言葉を使うかなどを考えます。

━━━散策しながら妄想、オツですね。

sasakure:その町ならではの情報をランダムに取り入れて、それをイメージのヒントにしているという感じです。例えば、駅にある古めかしいチラシや看板など、そういうものを見て感じた妄想を膨らませて…という感じです。

━━━そういった、キャッチーさよりもコンセプトを重要視するという様式は自身のスタイルに反映されていますか?

sasakure:そうですね…。世相や今話題になっていることを反映した曲はあります。今作のアルバムからだと「クレイマーズ↑ハイ」という曲はクレーマーの事を歌っていて、「ゴースト・ライト」はゴーストライターの事を歌っています。

クレーマーやゴーストライターを妖禍子(アヤカシ)として捉えたら面白いんじゃないのか。そういったところから着想を得て曲を作っています。彼らももしかして彼らなりに正義を貫いていたりするのではないか、そういったことも考えたりしています。

━━━今作「不謌思戯モノユカシー」も何かをモチーフに?

sasakure:今作は自分が旅行した中で、動物や町のかたちなどからヒントをもらいました。今日みたいな神社も、見つけたらよく行ったりしますね。

━━━神社、似合いますね。

sasakure:ありがとうございます(笑)

■「考えさせられる」ものが、ササクレ・フィクションの根底にはある

━━━そういったsasakureさんなりのユニークな解釈が、ササクレ・フィクションというかたちで現れているのですね。

sasakure:やはり「考えさせられる作品」が好きなので、自分もそういったものを作りたいと思っています。音楽だとコードワークや編曲、歌詞が特殊なものが好きだし、映画や小説なども深く考えさせられるような作品の方が好みです。でも、深く考えず聞いて楽しむのも素敵なことだと思うので、その両方を満たせる音楽が自分の理想としているものなんだと思います。

■ジャンルレスな楽曲スタイルはどこから?

━━━今回はボーカロイド、肉声歌唱、インストゥルメントなど、1つのアルバム内でもバラバラなのはどうしてでしょうか?

sasakure:曲に合ってるかどうか、どういう雰囲気を表現するかで使い分けています。この曲は肉声の方が良いな、この曲はボーカロイドの方が良いな、という感じです。曲作りの段階からそれは考えています。

━━━最初にボーカロイドを使おうと思ったきっかけは?

sasakure:「人間が歌ってない」という背景がすごく面白いと思って。人間のかたちをしているのに人間ではない、人間のフリをしている。それに合った音楽って何かなと考えたらチップチューンが近かったので、「*ハロー、プラネット。」をはじめチップチューンを作り始めたのがきっかけです。生の音に近づけるために生まれたチップチューン、人の声に近づけるために生まれたボーカロイド。それぞれ背景が近いなと思ったのがはじまりかなと。

sasakure:もちろんインスト、ボーカロイド、肉声それぞれにも良さがあるので、それを伝えたいと思っています。今作はそのあたりをしっかり表現できた、情動的なアルバムに仕上がったなと思います。

■味わい深いのは音楽だけでは無く、周辺アイテムも

当日sasakure.UKさんがつけていたアクセサリー


━━━そういえば、今作「不謌思戯モノユカシー」は今までのアルバムとはやや毛色が異なりますね。

sasakure:そうですね。今まではどちらかというと未来感が強かったんですが、もう少し自分にとって身近なものを題材にしたいなと思ったんです。何が身近だろうと考えた時に、日本とか田舎の町とかがいちばん身近なんじゃないかと。なので登場するキャラクターも学生にしました。

━━━アルバムの初回盤の特典にノートが付いているのはそういうことだったんですね!

sasakure:このノートは主人公の男の子が使っているノートをイメージしたものです。ストラップはお守り、ステッカーはお札をモチーフにしていて、作中の中で大事なキーアイテムですね。

━━━こういった音楽的ではない部分でも世界観を表現する、ということですね。

sasakure:まさしくその通りですね。デザイン的な部分でもかなりこだわっているんですが、こだわった部分には全て意味が込められているので、手に取った人たちも色々考えを巡らせてくれたら嬉しいです。

━━━このインタビューでそのあたりの詳細を明かしすぎるとアレですね!

sasakure:そうですね(笑)。では…インタビュー用には「特典やカバーなど、色々なところをよーく見ると何か発見があるかもしれません」くらいにしておきましょう(笑)。


■世界観をより視覚的に伝えられる、MVについて

━━━アルバムのディスク2枚目に収録されるミュージックビデオについてお話を伺っても良いですか?

sasakure:「ネコソギマターバップ」は前回のミニアルバム「摩訶摩謌モノモノシー」に収録してあるものを映像化したんですが、これは猫又の女の子を主人公に添えて、コミカルに展開するMVです。「ポンコツディストーカー」は、バクの女の子を主人公に、昔のゲームを想起させるようなドット絵で展開するミステリアスなMVです。どのMVも見応え抜群です!

sasakure:ちなみに「ポンコツディストーカー」と「ネコソギマターバップ」と「tig-hug」には共通のキャラクターが登場していて、通しで見るとキャラクターの役割や意図などがわかってより面白いと思います。

━━━そういった繋がりがわかった瞬間って、とても気持ち良いですよね!



sasakure:そうですね。あとは「ガラテアの螺旋」と「閃鋼のブリューナク」はSEGAさんの音ゲー「CHUNITHM」と「maimai」に収録された際に作っていただいた映像を収録しています。ブリューナクは既に公開されてますが、ガラテアは今回が初ですね。

■色々な世界を見せてくれる、少し不思議な音楽たち

━━━最後に、ササクレ・フィクションの創造主たるsasakureさんですが、今後はどういったものを表現していきたいとお考えですか?

sasakure:自分で考案した世界の中に「少し不思議なもの」が要素として盛り込まれていて、そういったものと人との共存をテーマに、より大きな世界観を表現していきたいですね。今作でいうとアヤカシとの共存は大きなテーマで、アヤカシとは何かという根本的なところも考えられるように作っています。自分の作品は今まで共存をテーマとしたものが多く、今作は更にその部分に力を入れて作っています。

━━━音楽と世界観を結びつけた作品づくりは今後も継続していきますか?

sasakure:もちろん継続していきたいです。それぞれのジャンルを跨いで様々な人に作品を届けたいですね。例えばボーカロイドと人間の共存がテーマの作品では、今までそういったものに触れなかった人たちが「ボーカロイドも人の声もそれぞれ聞き応えがあるな」と感じてくれたら嬉しいなと思います。

━━━最後に改めて、今作「不謌思戯モノユカシー」について一言お願いします。

sasakureボーカロイド、肉声、インストなど、色んな音楽がこの1枚には込められています。特典もですが、本当に色んな角度からこだわって制作しました。ぜひ色んな人に楽しんでもらえればと思います!

━━━本日はありがとうございました。

壮大なSF(ササクレ・フィクション)が描かれたsasakure.UKの4thアルバム『不謌思戯モノユカシー』は現在発売中です。販売店舗別のオリジナル特典もあるので、詳しくは公式サイトをご確認ください!


[文=ヤマダユウス型 写真=Tesuro Sato]

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