冬アニメ『ハイキュー!! TO THE TOP』佐藤雅子監督＆シリーズ構成・岸本卓さんインタビュー｜日向の主人公らしさ、影山の成長。今までの積み重ねから“頂点へ”！

日向の成長をしっかりと描くために追加した1話分

――本作で、監督がこだわった部分を教えてください。

佐藤：最初、岸本さんから出していただいた構成案では、合宿編が1話数分少なかったんです。でも、私はもう少し長くやりたかったので、1話分延ばしていただきました。

合宿編は連載中から漫画を読んでいてすごく印象に残っていましたが、あとでコミックスを読み返してみると、意外と早く日向が落ち込みから立ち直っていて“早いな～！”と思ったんです（笑）。

一同：（笑）。

――1話分増やしたのは、何か理由があったのでしょうか？

佐藤：合宿編でしっかり描くことで、そのあとの日向の成長にもっと説得力が出てくると思ったからです。

岸本：冒頭に少し言いましたが、“ここでしっかりやっておかないと日向がどういう壁にぶつかっているのか印象が薄くなってしまう”ということだと思います。

佐藤さんからは、1番最後に日向が百沢に言う「楽してこうぜ」のセリフに重みが出なくなってしまうのではないか、との指摘をいただきました。それまでの日向の悪戦苦闘があるからこそ、最後にその言葉が出た時にドンッと心に響くものがある。

しっかりやっておけばやっておくほど後半に全部が効いてくるから、というのが佐藤さんの意見で、僕も納得して構成案を1度やり直しました。

――「楽してこうぜ」のセリフは本当に心に残っています。『ハイキュー!!』は名言がたくさん出てきますが、『TO THE TOP』を象徴しているセリフは何だと思いますか？

佐藤：まさに、「楽してこうぜ」が本作で象徴的なセリフになると思います。

岸本：僕は、田中のセリフです。やっぱり田中に感情移入しちゃうところがあります。

――いつも元気な田中ですね！どのような部分に感情移入されるのでしょうか？

岸本：モテないところです（笑）。

一同：（笑）。

岸本：僕の人生の目標はモテることなので、田中にはとてもシンパシーを感じます。でも、田中は……原作のほうで、その将来について話題になりましたよね。そのときは少し田中から心が離れました……。

――（笑）。

岸本：もしかしたら、意外と田中がモテている部分に夢をもらっているのかな。なので、田中のシーンになると筆が走ります（笑）。

佐藤：（笑）。

岸本：でも、これはシリーズ構成にとってはあまり良くないことなんです。全体を見なくちゃいけないのに、田中の回だけ熱くなっちゃう。なので、“ここだけ熱血度が違いませんか？”ってみんなからツッコミを入れられました（笑）。

――田中を愛していらっしゃるんですね（笑）。

岸本：原作コミックス30巻263話の「ところで平凡な俺よ。下を向いている暇はあるのか」というセリフは泣きました。

だいたいの人は平凡で、平凡だからこそ日向や影山を含めたすごい人たちに憧れる一方で、『ハイキュー!!』では田中という平凡な人にも光を当てているので僕たちも感情移入できます。

憧れと感情移入の両方を描いていくところがこの漫画のすごいところだと思います。

ファーストシーズンでの青葉城西戦があるからこそ、今の烏野がある

――烏野高校は“落ちた強豪、飛べない烏”と言われながら、ずっと勝ち続けていますよね。

佐藤：そうなんです。セカンドシーズンからこれまで負け知らずで、ずっと勝ち続けます。負けたのはファーストシーズンでの青葉城西戦だけですね。

岸本：最初に青葉城西高校との試合で負けているから、その後に勝っていたとしても“また負けるかもしれない”という恐怖が張りついた状態で試合ができる。

青城に負けた時、体育館を走り回ったときの気持ちが常にあるから主人公たちもその気持ちを思い出せるんじゃないかな、と。

――ほかの高校ではインターハイや春高予選敗退後、先輩方が引退していますね。

岸本：そうですね。先輩から受け継ぐスピリッツみたいなものはじっくりと描かれていると思います。

自分はかえって、そっちのほうがシナリオを描いていて盛り上がってしまうことがあります。基本的には烏野高校の物語ではありつつ、つい感情移入しちゃうのは負けたほうなので、そのバランスが難しいですね。