『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』スタッフインタビュー第2回 キャラクターデザイン＆総作画監督・田村里美さん｜保健室での咲太と花楓の言い合いは久保さんの演技を聴きながら仕上げた

2018年にTVアニメ化を果たし、2019年には劇場アニメ『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』が上映された鴨志田一氏の人気小説“青春ブタ野郎”シリーズ。

その4年ぶりの劇場アニメ最新作『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』が、2023年6月23日（金）より絶賛上映中！

今回、公開に際して制作スタッフ陣へのインタビューを実施しました。第2回はキャラクターデザイン＆総作画監督の田村里美さんです。

田村さんには『青ブタ』で初キャラクターデザインのお仕事が決まった経緯を改めてお話いただいたほか、『おでかけシスター』で花楓が登場するシーンの制作について伺いました。

また、キャラクターたちの繊細な表情芝居の作業についても話題に上っていますので、また違った視点から作品を楽しめること間違いなし！

特にデザインに苦労したのは……？

──『ゆめみる少女』から4年が経過したと思いますが、まずはアニメで『青ブタ』が続くと決まった際の心境を伺えますか。

田村里美さん（以下、田村）：決まった時は素直に嬉しかったです。ある程度前から知っていたので、時期がいつになるかまではわかっていなかったのですが、他作品の作画監督や原画をしつつ待ち遠しい気持ちでいましたね。

他の作品だと1期が終わったすぐ後に続編決定を発表しているものもあって、羨ましく思っていました。けれどTwitterにアニメ『青ブタ』の続編を作って欲しいというコメントが度々来ていたので、みなさん喜んでくれるだろうなという確信はありました。

──『青ブタ』が田村さんにとって初のキャラクターデザインのお仕事だったと思います。改めてその経緯や決まった時の経緯や心境を教えていただけますか。

田村：当時、『青ブタ』担当予定の制作デスクさんが私の机まで来て、「こういう作品をCloverWorksでやるんですけど、作監をしてもらえませんか？」と声をかけて下さったのがきっかけです。

その時、私の方から「キャラクターデザインは決まっていますか？」と質問したところ、コンペディション中とのことだったので参加したいとお願いしました。

プロデューサーさんとデスクさんに別室に呼ばれて受かったと聞かされた時は、いつかキャラクターデザインのお仕事をやってみたいと思っていたこともあって本当に嬉しかったです。

──『青ブタ』という作品の第一印象はいかがでしたか。

田村：まずタイトルを見て本当にビックリしました。『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』ってどんなハーレム物かな？　と思ったんです。

けれど実際に読んでみたらそういったお話ではなくて、見えなくなってしまった麻衣を助けるために、咲太が一生懸命に恥を捨てて告白するシーンは感動して鳥肌が立ちました。

──ヒロインが多いのでハーレム物っぽく感じられますが、それ以上に咲太が麻衣一筋なんですよね。ちなみに、田村さんから見た咲太という男の子の評価はどうでしょうか。

田村：カッコいいと思いますし、良い男ですよね。咲太がもし女の子で、ヒロインたちが全員男の子だったらこの作品は成り立たないと思います。

──原作イラストの溝口ケージ先生の絵をアニメに落とし込むうえで、どんなことを意識されたのでしょうか。

田村：いただいた資料が1巻から3巻中心だったので、その絵をよく観察して原作に似せるよう頑張りました。目が特徴的で、キャラクターごとにつり目やたれ目、普通の目に分かれていて、その中で違いを出しているように感じました。

麻衣と双葉は同じつり目なのですが、目尻の描き方が少し違っていたり。細かい部分の描き方が全キャラクター違うんです。

後は体型ですね。麻衣は『青ブタ』の世界観の中で一番等身が高くモデル体型なので、他のキャラクターが麻衣より等身が高くならないようデザインしました。

他のキャラクターだと、理央は胸が大きいけれど足は細いとか、朋絵は胸が小さいけれどお尻は大きく足は太いみたいに、みんな同じ体型にならないようにしています。

──特にデザインに苦労したキャラクターは誰ですか？

田村：麻衣ですね。1度鴨志田先生と溝口先生と顔合わせをした際に、「大人っぽくして欲しい」と言われたんです。それで表情を描き変えてみたのですが、コンペの絵とは全然違うものになってしまったんです。

そうしたらプロデューサーから「コンペの絵とだいぶ違うけど、大丈夫？」「大人っぽくするとしても、顔ではなく体型とかに留めておいた方がいいんじゃない？」みたいなアドバイスがあって、それで気づくことができました。

最終的に鴨志田先生と溝口先生からのリテイクはなかったので、「最初のコンペの田村さんの絵が良くて受かったんだから、それを変えない方がいい」というプロデューサーからのアドバイスが良かったんだと思います。

──麻衣の彼氏でもある主人公・咲太のデザインはどんなところに苦労されましたか？

田村：咲太は気だるい表情なのですが、だらしない感じまで行ってしまうと少し印象が悪くなってしまうので、「あまりシャツを全部出したり、服装をだらしなくしない方がいい」と言われました。なので姿勢を少し猫背にしたくらいで、服装はあまり着崩さないようにしています。

──溝口先生とやり取りなどはされたのでしょうか。

田村：顔合わせの時に少しありました。基本的には今のままお任せでとのことだったのですが、「咲太たちの制服の襟の部分が一般的なブレザーと違うので、そこは気を付けてください」と言われた事を覚えています。

──TVシリーズからアニメ『青ブタ』のキャラクターたちの表情のお芝居はかなり繊細な印象を受けます。特にこだわったシーンや印象に残っているシーンはありますか。

田村：『ゆめみる少女』の咲太が轢かれそうになるシーンです。翔子さんはいつもにこやかで優しい表情が多いのですが、時間が止まって欲しいという必死感を出したかったので、初めて目のハイライトをなくしました。あまり見ない表情なので、そのシーンに合った表情を描けたと思っています。

今回の『おでかけシスター』だと、咲太がパンツ一丁でいるシーンが印象に残っています。忙しくて毎日遅くまで作業していたのですが、そんな姿の咲太を描いていた時は「自分は何をやっているんだろう」と思いましたね(笑)

一同：（笑）。

田村：頑張って綺麗な身体にしようとネットで男性の海パン姿の資料を集めました。そうするとガタイの良い人が出てくるので、「こんな感じで筋肉がついているんだ」という発見もあって。ちょっと描いていて楽しくなりました。