2.5次元

2024-02-04 12:00

史実に基づいたオリジナルのプロローグを分かりやすく伝えるためにーー木戸孝允役・北園涼さん×西郷隆盛役・spiさん×桐野利秋役・坪倉康晴さんの新政府軍による三者鼎談｜明治モダン歌劇「恋花幕明録～前日譚～」稽古秘話を語る

オリジナル脚本の“前日譚”で、キャラクターの過去を演じる

ーーどのようなことを意識しながら、役を演じられていますか？

spi：ゲームの西郷は優しく、おっとりとした喋り方ですが、今回の舞台は“前日譚”で、ゲームとは世界観が少し違うので、戦時中の漢らしく、あまりゲームの声優さんの雰囲気に囚われすぎずに自分らしくやろうと思います。

全体的には、単語は難しいですが、芝居のキャッチボールはシンプルなので、丁寧に、声色や心拍がお客さんに伝わるように役を作るようにしています。

ーー人当たりが良いと言われる木戸孝允役は？

北園：僕はずっと“嘘つき”みたいな感じだと思っています。嘘つきというのは言葉で嘘をつく、騙すのではなくて、自分の感情や本心を出さずに殺すという嘘つきです。

ーー嘘つきはどのように演技に反映させていますか？

北園：取り繕っていますね。今は稽古段階なので感情的になってしまうこともあって、「普通にやったらこうなっちゃうんだ」と確かめています。これからその感情をどう隠していこうかなと探っているところです。

笑顔で人当たりが良くて、ニコニコと話してるけど腹の底では「違うけどね」と思ってるんです（笑）。作られた笑顔をぜひご覧ください（笑）。

ーー細かな表情にも注目ですね。西郷を慕う桐野利秋役はどう演じられてますか？

坪倉：桐野の台詞は本当に2、3割「西郷さん」です（笑）。西郷さんに対しては「この人のためなら！」という強い意志があり、何を取っても自分の命よりも西郷さんが一番なキャラクターだと思っています。

涼くんの木戸とは真逆で感情を表に出すタイプで、好き嫌いもはっきりしています。僕としては「木戸に西郷さんが取られるんじゃないか」という気持ちでいます。

ーー木戸と桐野といえば、やはりふたりの言い争いも見どころですよね。

北園＆坪倉：（深く頷きながら）そうです。

坪倉：ほさかさんも面白く作ろうとしてくださっています。バチバチとしたシーンでも桐野は唯一その雰囲気をぶっ壊せるキャラクターなので、ここから稽古して頑張っていきます。

北園：混沌とした世界の中で些細なことで怒るよね（笑）。もう良いだろうそれは、って思うようなことで（笑）。

ーー（笑）。掛け合いをした感想はどうですか？

北園：僕は、あえて雰囲気を壊すとき、お笑いに全部任せたくなくて。桐野とだったら遊べるなと感じているので、一緒になにかを作れたらなと思っていますね。

子ども相手にムキになったら大人ではないじゃないですか。一緒に遊んであげるよという余裕があった方が良いですし、自分も遊べるシーンを作りたいなと思っています。

坪倉：涼くんにウザいと思われることを目指して頑張ってます（笑）。作中では、桐野は最初、木戸を嫌っていますが、徐々に感情を動かしていけたら良いなと。途中経過での感情の動きを大事にしていこうと思っています。

ーーでは、演じているから感じる、新政府軍の見どころはどこですか？

北園：今まだ稽古で作っている段階ですが、あるシーンで3人の過去の話が出てきます。僕らは「さつまいも」って呼んでいるんですけど。

それぞれが何を大切にしているのか、どういう関係があるのかが見えるシーンで、演じていてとても素敵だなと思いました。木戸的には「昔の西郷はそうだったのね。西郷っぽいな」と思っていて、このシーンをきっかけに距離がグッと縮まりますし、熱いなと感じています。

ーーそのシーンには歌があると伺いましたが、すでに歌いましたか？

坪倉：歌唱稽古をしたところです。桐野が西郷さんと出会った頃の思い出を歌にしていて、曲調もアップテンポで、この作品の中で他とは違う雰囲気の曲になっています。全力で「さつまいも」も楽しんで「さつまいも」に浸れたらと（笑）。

ーー（笑）。おふたりも歌唱稽古はスタートしましたか？

北園：spiさんは歌の練習をしなくて良いでしょ。

spi：練習していますよ。難しいです。これは、かなり技量が高くないと歌えないです。すごく難しいことをやろうとしています。

ーーspiさんでも難しいと感じられている楽曲なのですね。先ほども少しお話が出ましたが、役作りについてはほさかようさんからは何かアドバイスを受けましたか？

北園：「本音を話すのはひとりの時と最後の最後に取っておいて。後は受け流す感じでやっていこう」と言っていただいたので、その方向性で作っています。

坪倉：「空気をぶっ壊せる、ひっくり返せるようなキャラクターであってほしい」と言われました。

ーー桐野のぶっ壊すとはどのような意味なのでしょうか？

坪倉：桐野は我儘ですが一本芯があって、西郷さんの邪魔になるものは全部排除するというくらい、西郷さんのためにずっと動いているキャラクターなので、本当になんでもできると思っています。

例えば初めの方のシーンでは、言葉遣いなどの小さいことで木戸にたくさん怒ります。脚本に入れなくてもいいくらいどうでもいいことで怒ることができるキャラクターは桐野くらいだと思います。

北園：“さん”を付けろって言うんだよね（笑）。

坪倉：そういう空気を変える、和むシーンを作れたらなと思っています。

ーーspiさんは、西郷役についてほさかさんと何かお話はされましたか？

spi：お話したというより、稽古の中で察知したことがありました。ほさかさんは音楽家だし理系で、ロジカルに組み立てているので（脚本のシーンごとの出来事とテンションが時系列で事細かに描かれたホワイトボートを指しながら）こういうことになっています。

盛り上がりと落ち着く場面の中で、どういう仕組みでどう感情に訴えかけるのか、何が面白いのかをほさかさんは論理的に考えていると思うんです。脚本の中で、桐野が「いつもの西郷さんではない」と感じる場面があるんですが、ほさかさんから「ここで西郷が変わった感じが好きなので」と言われたことがありました。

ということは、最初はこの質感ではない西郷で進めた方が、この場面でほさかさんの求めている楽器の音色になるんだなと。西郷の持つ、優しさや包容力を感じる音を台詞で出してほしいんだろうなと察知しました。

ーー物語の着地点から逆算されて役を作られているのですね。

spi：ほさかさん、頭の回転が早いよね。

（坪倉＆北園：頷く）

spi：伝えるのも上手なのでわかりやすいです。

北園：タイミングというか、人によって言い方を変えていたり。

spi：察するようにしている感じがありますね。坪倉さんは、他の作品で作ってきた関係性がありますが、俺ははじめましてなので丁寧に関係性を紡いでくれています。その中で何を言ったらどうなるのかまで考えてくれていると思います。

ーー役者ひとりひとりを見てくれる方なんですね。

spi：そうですね。あと、めちゃくちゃ物知りです。

北園：歴史だけでなく現代のことも全部ご存知です。最初の顔合わせが終わって稽古に入る前に、自己紹介でそれぞれ自分の好きな作品を2つ挙げていったんですが、その時も、漫画やアニメ、映画、皆が言ったのを全部知っていました。

むしろ僕らの方が知らないことが多くて。ほさかさんだけ全部知っていて、一体いつ見てるの？って思いましたね（笑）。

稽古中もそれぞれの好きな作品で例えてくれたりするので、とてもイメージしやすくて、そのために聞いてくれたのか、と。色々な伝え方をしてくださっています。

ーー難易度の高い舞台ですが、楽しそうな稽古場ですね。今は新政府軍と旧幕府軍に分かれて稽古されていますか？

北園：途中までシーンが交わらずに交互に出てくるので、新政府軍と旧幕府軍で分かれて稽古していました。僕たちだけのシーンを作って、次の日は旧幕府軍が作って、といった感じです。それが出来てきたら、今度は全員が関わっているところをやろうという流れになっています。

ーーspiさんと北園さんは他の作品でも殺陣の経験があると思いますが、今回の稽古はいかがですか？

北園：僕はまだ刀を抜いてないんですよ。「最後まで刀を抜くのは取っておこう」と言われていて。僕も、脚本を読んだ時にその方が良いなと思っていました。なので、今稽古しているところでは銃で戦ってます。

spi：銃と足蹴りだよね。

ーーなぜ最後まで刀を取っておこうとなったのでしょうか？

北園：木戸は頭脳派の雰囲気がありますが、実はとても剣術が得意なんですよね、でもそういう感じに見えないじゃないですか。それなら、最後まで取っておこうと。
近藤勇や土方歳三が剣術に強いイメージで、木戸は指揮する側。でも実は剣術も強いチートキャラなので（笑）美味しい役をいただいてます（笑）。

spi：（笑）。俺も殺陣は経験がありますが、槍しか扱ったことがなくて、しかも左利きなんです。でも西郷は史実では右腕を怪我して刀を振れなくなっているので……殺陣師の方と相談しながら稽古をしています。桐野や新撰組、アンサンブルの皆は半端なくめちゃくちゃ戦ってます！

ーー戦闘シーンが多いようですが、坪倉さんはどのように殺陣稽古を進めていますか？

坪倉：桐野は最初に見た時はスピードタイプだと思いましたが、実は力技なんですよね。思いっきり叩いて刀を落とすとか、貫くような。

僕は、刀を持つのが久しぶりなので、顔合わせの前にあった殺陣のワークショップに参加したんです。やっぱり難しかったですけど、やっていて楽しいなと感じます。台詞と殺陣をどんな風に合わせていくのか、イメージするとワクワクが止まらないです。

乙女ゲーが原作ならではのイケメンたちが舞台上へ！

ーーすでにキャラクタービジュアルが公開されていますが、実際に衣裳を着て、ご自分の写真を見た感想はいかがでしたか？

spi：「これが西郷隆盛か？」と（笑）。皆イケメンで格好良いなと思いました。

北園：あの衣裳で撮影したのに、脚本はゲームの内容とは違うから「え？」と思いました（笑）。戊辰戦争の話なのに、格好はこれでやるのかなと。ゲームとは違う衣裳を着る人もいるようですね。

ーービジュアル以外の衣裳はまだご覧になっていないのでしょうか？

一同：見ていないです。

北園：違う衣裳も着たいな～。

spi：大変だよ、着替えるの。実際一着が一番良いよ。

北園：それはそう（笑）。でもテンション上がるじゃないですか、着替えると。

ーー“明治モダン歌劇”という新しい舞台になりますが、本作ならではの魅力や観客の皆さんに期待してほしいポイントをお願いします。

北園： 僕らの世代がこの時代の役柄を演じることは珍しいなと僕は思っていて。しかも歌劇として、歌と音楽を盛り込んで物語を創り上げているのが本作の見どころです。

あとは、“前日譚”となっていると、続きもあるんじゃないかと期待したくなりますよね。なので、皆さんが期待してくださるのであれば、たくさんの声援をいただけるように頑張りたいなと思っています！　絶対面白いものにするので、次に繋げられるように皆さんの力を貸してください！

坪倉：それぞれの思いを持った武士たちが集まって熱い戦いを繰り広げていて、そこに色々な歌が入るので、壮大な舞台になると思います。ひとりひとりの心情を察しながら「この人はこれからどうなるんだろう？」と予想しながら見ていただければなと。原作ゲームの“前日譚”なので結末は分かるとは思いますが、ゲームでは描かれていないオリジナルの脚本なので、過去にあったこととして楽しんでいただきたいです。

spi：歌劇はとてもとても大変なんですよ。楽曲のメロディーやテンポ、キーもかなりレベルが高くて、本当に難しいことをやろうとしています。台詞は現代らしくなっていますが、物語のスピード感がかなりあるので、お客様は「何の話？　さっきまで大阪にいたのにもう山梨にいるの？」となりやすいです。ですから、ほさかさんの演出と我々俳優の台詞で、そのシーンの状況を分かってもらえるようにすることが大事になります。ただそれには技量がかなり必要です。

アクションも飛び降りたり走り回ったり、剣も銃も使うし、着替えも多そうだし、音楽も凄まじいです、本当に。ウエスト・エンドやブロードウェイの作品とやろうとしていることは一緒です。歌の中で台詞を伝える難しさも加わっていて、凄くレベルの高いことに挑戦しています。どんな形に仕上がるかはまだ分かりませんが、頑張って作っているので是非観に来てください！

【インタビュー・文：杉村美奈】