
入場者特典のイラストは“一歩前に踏み出したきり丸”の絵なんです――『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』再上映・ドルビーシネマ版上映記念、藤森雅也監督インタビュー|リマスター作業では作品が持つ“柔らかい優しさ”を意識した
入場者特典のイラストに描かれたきり丸は“一歩前に踏み出した姿”
――昨年配布された入場者プレゼント第四弾、第五弾、第八弾の描き下ろしイラストカードの脚本を新たにボイスドラマとして録り下ろし、週替わりボイスムービーとして上映されると伺いました。藤森監督はイラストのラフを担当されておられますが、脚本を読んだときのご感想を教えてください。
藤森:「見事にいつもの日常に戻ったな」という印象でした。特に六年生たちの土井先生への懐き方なんかは、「いや、これやりすぎじゃないの?」と思いましたが(笑)。でも、映画がハードさがあり、やや特殊な雰囲気を持っていたぶん、こういう寄り戻しがあってもいいのかなと思いました。
あと、第八弾で天鬼がいなくなって「のんびりできていいな」みたいなドクタケの話(「その後のドクタケ忍者たちの段」)には少し台詞の修正を入れてもらった記憶があります。基本的には“いつもの日常”なので、劇場版よりはやや緩めがいいなと思っていましたが、天鬼のキャラについては少しだけ口を出させてもらいました。
実は、(第二、三弾の)水彩画風のイラストもですが、最終パートの絵コンテが上がって、委員会チェックが出るまでのほんの数日の隙間しかないところで、脚本付きと脚本なしのイラスト計12枚を一気に仕上げなきゃいけなかったんです。同じ絵柄にならないように気をつけながら、一気呵成に仕上げました。レイアウトも似たようなものが1つも出ないようにバリエーションを意識して、もう勢いで描いて、「あとは誰かが何とかしてくれるだろう!」みたいな感じでした(笑)。
今回、自分が描いた絵を新山たちが後処理してくれたりすることがすごく多くて、そういう部分は本当に若いスタッフに甘えて、支えてもらいましたね。とりあえず、こっちは構図だけ作っておこうみたいな感じでやっています(笑)。
なので、脚本付きのイラストの方は、日常に戻った明朗な感じ、いつもの『忍たま乱太郎』感というのを特に意識してレイアウトしていったかなと思います。
――入場者プレゼントといえば、今回の再上映の二週目の入場者プレゼントは新山さんと藤森監督が描かれた、亜細亜堂のXにて投稿された「劇乱お疲れ様ポスト」のイラストとなっています。このイラストの気に入っているところや「なぜこの構図にしたのか」という点を教えてください。
藤森:先ほど少し話に出た、水彩画風の入場者プレゼントと実は繋がっている部分があるんです。松竹さんの方から、「劇場本編では描かれなかったけれど、もしかしたらあり得たかもしれないような光景を描いてほしい」と依頼を受けまして。
自分としてはその流れで、このお疲れ様ポストのイラストも考えたんです。孤児だった頃のきり丸の周りに、本人には見えていないけれど、先生や仲間たちが居たらどういうふうに寄り添っているのかなと。本編にはないけれど、もしかしたら“運命の導き”のようなものかもしれないよね、という気持ちで描きました。そういうふうにしたら、トリを飾るには良いかなと思って描いた絵ですね。
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— (株)亜細亜堂 (@ajiado_saitama) 2025年8月22日
劇乱お疲れ様ポスト🥚第𝟮𝟳回✍️
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ラストを飾るのは…
藤森 雅也さん(監督/絵コンテ/原画)です❗️
以上をもちまして、お疲れ様ポストは終了となります✨
毎週楽しみに見てくださりありがとうございました😊👍#劇乱お疲れ様 pic.twitter.com/YCRX1wXxPS
――このイラストのきり丸の表情からすごく覇気を感じました。作中ではやや不安そうな表情が印象的でしたが、このイラストでは大人びている印象です。きり丸の表情にもこだわりがあったのでしょうか?
藤森:そうですね。劇場で描いていた雪を見上げるきり丸から“一歩前に踏み出したきり丸”の絵なんですよね。
何度か(イベントなどで)お話しさせていただいたのですが、きり丸の生い立ちを考えると、本来なら「奪われる側から奪う側」になっていてもおかしくないような子なんだけど、そうではなく、「働いてお金を稼ぐ」という真っ当な道を進んでいる。その決意をした後のきり丸、というイメージでこの表情を描きました。そして、その周囲には乱太郎やしんべヱ、先輩たち、先生たちが見守っている、そんな想像上の光景ですね。
――三週目の入場者プレゼントは「スタッフトークふりかえりBOOK」となっていますが、立川で実施したスタッフトークの際にファンの方からの質問で印象的だった質問を教えてください。
藤森:「天鬼と六年生たちの戦いで、天鬼が冊子で跳ね返した石が全部伊作に当たるのは、遠距離攻撃をしている伊作を真っ先に仕留めるために狙ってやったんですか?」という質問があったんですよ。「そういう見え方もあったのか」と驚いたと言いますか、あれは自分的には伊作の不運が発動したっていうギャグ表現なんです。天鬼が意図してやったものではないんですよね。逆に、もしそうだとしたら「天鬼すげえな」って(笑)。
やっぱり『忍たま乱太郎』だから、シリアスな中でもシリアス一辺倒では押し切らず、どこかにギャグを入れたいという思いから入れたシーンなんですよね。でもその辺のシリアスの中にギャグを入れる、という感覚がスタッフからもちょっと不思議に見えるみたいで。伊作が顔当てを取ったら鼻血を流しているのも、こっちとしてはギャグとしてやっているんですが、新山とかは「よく分からない」と言っていました(笑)。
映画のカメラは、観客を作品世界に“立ち合わせるための位置”にある
――松竹DVD倶楽部限定の豪華版には580ページに及ぶ「絵コンテ集」が収録されています。新山さんのインタビューの際には、「絵コンテの表情がすごく良かった」と藤森監督の絵コンテを見て感動したことをお話しされていて。藤森監督が絵コンテを描かれる際に心掛けていることや、こだわっていることを教えてください。
藤森:自分の映画のカット進行の作法は古典的なんです。たとえば、カメラ目線のカットはほとんど使わない。必ず目線はずれていて、切り返しでもって表現するようにしている。映画のカメラは、観客を作品世界に“立ち合わせるための位置”にあるんだよと。そこを毎回毎回、こだわって作っています。
いろんな教室での会話シーンであったり、あるいは天鬼と六年生の乱戦の中であっても、“行われていることを最適解で観客に表現する位置”がどこなのかを考えています。カットを切り替えることによって、観客を混乱なんか絶対にさせない。激しいカット割りがあっても、どこで何が行われているのかが明確に分かるよう積んでいくというのは毎回こだわっているところで、今回もそういうところに注意しながら作っています。
あと、やはり長編映画のコンテを描くときは、テレビシリーズとやや違います。カットの繋ぎが、自分なりの言い方なので正しいのかは分からないですが、“and and”で繋ぐ場合と“but but”で繋ぐ場合があるんです。要するに、意味とかを完全に切り返していく場合と、近似の意味のまま流していく場合があって。
テレビだと“but but”で作る方が効率が良かったり、印象が強くなったりすることもあるんですが、劇場でそれを90分やってしまうと、観ている側が疲れてしまってどうしようもないので、むしろ“and and”で繋いでいった方が気持ちよくスルーっと観られる場合もあるよなと。切り返しはどういうふうな意味の展開になるのか、それともそれをやらずにスルッと見せるようにするのか、みたいな。そのバランスにはすごく気をつけています。
なので、コンテの絵が丁寧に描いてあるかどうかは本質ではなく、現場としてはレイアウト作業の手間を少しでも減らすという気持ちで描いているけれど、本来のコンテ作業の意味合いとしては、自分はいつもそういうところを気を遣って作業している感じですかね。
――たくさんお話しいただきありがとうございました! 最後に、今回のドルビーシネマ版と再上映を楽しみにしている皆さんへメッセージをお願いします。
藤森:ドルビーシネマ版は、一つのフィルムとして観た時に印象がガラッと変わっているので、結構新鮮な気持ちでご覧いただけるかなという気がしています。
一方で、先ほども言いましたが、『忍たま乱太郎』として画作りがパキパキになりすぎない、硬い画にならないように非常に気を遣っています。通常の公開版に比べて、本当に黒が締まっていて、色がすごく深い、良いところだけ取ったような絵になっていると思います。そして何より、音が全然違うので、全く新しい体験として楽しんでいただけるのかなと。ぜひとも鑑賞していただければと思っています。
[取材・文/笹本千尋]
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『劇場版 忍たま乱太郎 ドクタケ忍者隊最強の軍師』作品情報
あらすじ
『土井半助』失踪、『天鬼』襲来。
タソガレドキ忍者・諸泉尊奈門との決闘に向かった後、消息を絶ってしまった土井先生―
山田先生と六年生による土井先生の捜索が始まる中、担任不在の一年は組では、タソガレドキ忍軍の忍び組頭・雑渡昆奈門と、尊奈門が教壇に立つことに!
そんな中、きり丸は偶然、土井先生が置かれた状況を知ってしまうのだった。
一方、土井先生捜索中の六年生の前に突如現れたのは、ドクタケ忍者隊の冷徹な軍師・天鬼。
その顔は、土井先生と瓜二つで―
忍たま達に立ちはだかる最強の敵を前に、今、強き「絆」が試される。
果たして乱太郎、きり丸、しんべヱたちは、土井先生を取り戻すことができるのか―??
キャスト
乱太郎:高山みなみ
きり丸:田中真弓
しんべヱ:一龍斎貞友
土井半助:関俊彦
潮江文次郎:成田剣
立花仙蔵:保志総一朗
中在家長次:渋谷茂
七松小平太:神奈延年
善法寺伊作:置鮎龍太郎
食満留三郎:鈴木千尋
久々知兵助:小田敏充
尾浜勘右衛門:渋谷茂
不破雷蔵:金丸淳一
鉢屋三郎:山崎たくみ
竹谷八左ヱ門:東龍一
山田伝蔵:大塚明夫
山田利吉:岡野浩介
稗田八方斎:間宮康弘
雑渡昆奈門:森久保祥太郎
諸泉尊奈門:代永翼
桜⽊清右衛⾨:大西流星
若王寺勘兵衛:藤原丈一郎




















































