『黄泉のツガイ』作者・荒川弘先生の名作『鋼の錬金術師』の魅力

『黄泉のツガイ』が注目を集める今だからこそおすすめしたい! 荒川弘先生の名作『鋼の錬金術師』の魅力とは?

錬金術で亡き母を蘇らせようとするも失敗し、自身の左足と弟の身体を失ったエドワード・エルリックと、エドが右腕を引き換えに魂だけを錬成し鎧に定着させた弟アルフォンス・エルリックの兄弟が、自分達の身体を取り戻すため「賢者の石」を求める旅路を描いた『鋼の錬金術師(以下、『鋼錬』)』。

荒川弘先生により2001年から2010年にかけて「月刊少年ガンガン」で連載された作品で、その人気から2003年と2009年にアニメ化している他、アニメ映画化、実写映画化、舞台化、ゲーム化と様々な形で展開されています。

連載終了から15年以上が経過した今もなお、根強いファンに支持され続けている本作。筆者もかれこれ20年以上『鋼錬』を愛し続けているファンのひとりなのですが、荒川先生の最新作『黄泉のツガイ』のアニメ化に伴って『鋼錬』も再び注目を集めている気配を感じる今日この頃。

今から『鋼錬』に触れてみようという一見さんもいらっしゃるのでは? そこで本稿では、改めて『鋼の錬金術師』の良さをお伝えしていきたいと思います!

なぜ長年愛され続けているのか、なぜこんなにも根強いファンが多いのか。そんな視点で改めて読み返してみると、子供の頃にはわからなかった深い魅力が溢れていることに気が付きました。

※この記事には若干のネタバレ要素が含まれます。

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鋼の錬金術師
エドワードとその弟アルフォンスは、幼き日に亡くした母親を思うあまり、死んだ人間を蘇らせるという錬金術最大の禁忌、人体錬成を行ってしまう。しかし錬成は失敗し、エドワードは左足を、アルフォンスは体全てを失う。己の右腕と引き換えに、かろうじて弟の魂を錬成し、鎧に定着させることに成功したが、その代償はあまりにも大きすぎるものであった。エドワードはアルフォンスと共に、失った全てを取り戻すため、絶大な力をもつ「賢者の石」を探す旅に出る。右腕と左足を鋼の義肢「機械鎧(オートメイル)」に変えた彼を、人は「鋼の錬金術師」と呼ぶ・・・。作品名鋼の錬金術師放送形態TVアニメスケジュール2003年10月4日(土)~2004年10月2日(土)TBS系列ほか話数全51話キャストエドワード・エルリック:朴璐美アルフォンス・エルリック:釘宮理恵ウィンリィ・ロックベル:豊口めぐみロイ・マスタング:大川透リザ・ホークアイ:根谷美智子マース・ヒューズ:藤原啓治アレックス・ルイ・アームストロング:内海賢二ジャン・ハボック:松本保典ハイマンス・ブレダ:志村知幸ヴァトー・ファルマン:室園丈裕ケイン・フュリー:白鳥哲キング・ブラッドレイ:柴田秀勝バスク・グラン:青森伸スカー:置鮎...

『鋼の錬金術師』の魅力①:命の価値を問う物語

 
物語の発端は、まだ幼い兄弟が大好きな母・トリシャを病で亡くしてしまったこと。父・ホーエンハイムはすでに出奔してしまっており、兄弟2人だけになってしまったエドワード(以下、エド)とアルフォンス(以下、アル)は、「大好きなお母さんの笑顔をもう一度見たい」という純粋な思いで、禁忌とされる人体錬成に手を出してしまいました。

結果、兄弟が大きな代償を払うことになったように、人を蘇らせようという試みが大きな過ちであることは明白なのですが、大切な人と死別したときに「また会いたい」と思うことは多くの人が経験することではないでしょうか。

作中ではエドと縁のある軍部大佐 焔の錬金術師ロイ・マスタングが、親友を亡くした際に当然禁忌と知っていながらも「頭の中で人体錬成の理論を必死で組み立てている自分がいる」と発言するシーンが描かれ、死者蘇生が普遍的な思いであることが表現されています。

そうしたなかで効いてくるのが本作のキーワードである「等価交換」という言葉。これは錬金術の絶対原則として使われる言葉で「何かを得ようとする場合、それと同等の代価が必要」という意味です。

エドたちが数年かけて構築した人体錬成の理論も、人体を構成する物質も、きっと理論上は間違っていなかったのだと思います。それでも、母を錬成できなかったのは「等価交換」が成り立っていなかったから。

兄弟が重い代償を支払ったことからも、失った命は取り戻せるものではないこと、命はそんなに軽いものではないことが感じられるのです。

さらに、このこと以外にも本作では命の価値を問う描写がいくつも登場します。

エドたちの生まれた国・アメストリスは、国内に住む少数民族イシュヴァール人と宗教観の違いから7年にわたる激しい内乱を経験。その傷跡は人々の心に大きな傷跡や憎しみを残しており、物語にも大きく関わってきます。

それらのシーンから感じられるのは愛する人を奪われた悲しみや怒りであり、彼らの悲痛な叫びは読んでいるだけで心を穿たれるほど。それらは裏を返せばいかに命が尊いか、人と人との愛情がどれほどまでに重いものかということの証。

社会情勢やキャラクターの置かれた環境から一見複雑に見えるような描写も、その根っこにあるのはエルリック兄弟が「もう一度お母さんに会いたい」と願ったような純粋な愛情なのです。

いつの時代でも変わらない、誰もが抱く大切な人への愛情や命の尊さがテーマとなっているからこそ、強い共感を覚え『鋼の錬金術師』の物語に深く没頭することができるのだと思います。

『鋼の錬金術師』の魅力②:敵も味方も男も女もみんな魅力的

 
個性豊かなキャラクターが彩る『鋼錬』ですが、敵も味方も男も女も老人も子供も、全員が魅力的であることも多くの人が作品の虜になる要因だと思います。

例えば、敵・人造人間(ホムンクルス)であるグリードは、常に心が飢えており、何もかもを手にしたがる非常に強欲な人物。グリードはエドの仲間の1人の身体を乗っ取り、自分の物にしてしまいます。

この時の絶望感は非常に強いものなのですが、ストーリーが進むにつれてグリードと乗っ取られた人物の関係性が変化。物語のラストでは、グリードが本当に欲しかったものを手にし、読者に深く印象を残すこととなります。

また、本作に登場する女性キャラクターは全員がどこかしら強い一面を持っているのも特徴的。ヒロイン的立場であるエドとアルの幼馴染・ウィンリィは若くして腕の立つ機械鎧(オートメイル)技師であり、兄弟を心配して強い言葉で叱りつけたり、時には工具で殴りつけるほど気の強い女の子です。

さらに、兄弟の師匠であるイズミは、口では「ただの主婦」と言いながら、大男も投げ飛ばすほどの体術と錬金術を駆使する女性。他にも、屈強な男性軍人の部下を従える女王のようなキャラクターも登場します。とにかく女性たちが格好良いのです。

そして、私がぜひ取り上げておきたいのがヨキという貧弱なおじさんのキャラクター。彼は物語序盤でせこい役人として登場し、民衆を虐げていたところをエドにコテンパンにやられ、その後は失職してしまいます。

彼の出番はこれで終わりかと思いきや、その後のストーリーにもいい場面で絡み続けていくのです。初登場時はあんなに嫌なやつだったのに、物語が終わる頃には何だか憎めないキャラになっているから驚き。

嫌いなキャラクターがいないと言っていいほど、『鋼錬』は魅力的な人物ばかり。これから読もうと思っている方も、きっと惚れ込んでしまうほどのキャラクターと出会えるはずです!

『鋼の錬金術師』の魅力③:知的好奇心をくすぐられる錬金術

 
本作の重要な要素である錬金術。錬成陣を用いたり、両手を合わせたりすることで、同じ構成物質であれば(等価交換の原則に従っていれば)形を変えたり硬度を変えたりすることができる技術です。

これが本作世界における特殊技術であることは言うまでもありませんが、実在する科学がモチーフとなっているため、現実世界からの地続き感があり興味をくすぐられます。

例えば、水35L、炭素20kg、アンモニア4L、石灰1.5kg、リン800g、塩分250g、硝石100g、硫黄80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素……これは大人一人分の人体の構成成分として作中でエドが説明している内容です。

人体の1/3を炭素が占めているなんて、私は本作を読むまで全く知らず、強い興味を引かれたことを今でも覚えています。

また、エドやアルが物語開始時から当たり前のように錬金術を使っているので、簡単に扱えるように捉えてしまいがちなのですが、兄弟を含めた錬金術師たちはこれらの科学的知識に精通した科学者であり、勉強に勉強を重ねた結果、「国家錬金術師」という地位を得ているのです。

エドや仲間の錬金術師たちが科学的知識をヒントに難敵や困難を打開していくシーンや、仮説や考察を立てながら目的に近づいていく学者らしい一面にワクワクさせられるところも本作の大きな魅力だと言えるでしょう。

黄泉のツガイとの共通点

ここからは荒川先生の最新作『黄泉のツガイ』と『鋼の錬金術師』の共通点について少しご紹介していきます。

まずは、主人公がスタート時から強いという点。エドは物語開始時で15歳、『黄泉のツガイ』の主人公・ユルは16歳で、少年が高い戦闘力で敵を蹴散らしていくシーンはとても爽快です。

さらに、彼らには悩みながらも足を止めないところや、弟や妹想いの優しい兄という特徴も共通しており、葛藤を抱えながらも弟妹のために奮闘する姿に読者は心を打たれるのだと思います。

また『黄泉のツガイ』も『鋼錬』同様、命の価値が大きなテーマです。『黄泉のツガイ』では、圧倒的な力を持つ資格がある双子の兄妹を中心に、彼らの力を利用したがる大人たちが争うさまが描かれています。

自分の利益のために他人、しかも子供の命を軽く捉える大人たちの醜悪さは、どんな恐ろしい姿をした化け物よりも不気味で悍ましく感じられ、人が失うべきではない命の重さや倫理観について深く考えさせられる物語となっています。

そして、当然のように全キャラクターが魅力的! きっと多くのファンがそう感じているように、私は『黄泉のツガイ』も『鋼の錬金術師』と同様に名作と呼ばれる作品になると確信しています。

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名作と出会うのに「今さら」なんてない!

もはや不朽の名作と言っても過言ではない『鋼の錬金術師』。あまりにも有名な作品であるがゆえか、「今さら読むの恥ずかしい」と感じている方もいらっしゃるようですが、そんな理由で名作との出会いを逃すのはもったいないと思うのです。

名作は時代が変わっても、自分がいくつになっても、いつどんな時に読んでも(観ても)面白いから「名作」と呼ばれるのだと思っています。「読んでみたい(観てみたい)」と思った今が出会うべき時! 作品のいちファンとして、尻込みなんてせずに『鋼の錬金術師』を存分に楽しんでいただきたいと思います。

1990年生まれ、福岡県出身。小学生の頃『シャーマンキング』でオタクになり、以降『鋼の錬金術師』『今日からマ王!』『おおきく振りかぶって』などの作品と共に青春時代を過ごす。結婚・出産を機にライターとなり、現在はアプリゲーム『アイドリッシュセブン』を中心に様々な作品を楽しみつつ、面白い記事とは……?を考える日々。BUMP OF CHICKENとUNISON SQUARE GARDENの熱烈なファン。

この記事をかいた人

わたなべみきこ
出産を機にライターになる。『シャーマンキング』『鋼の錬金術師』『アイドリッシュセブン』と好きなジャンルは様々。

担当記事

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