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【レビュー】中華BL小説『天官賜福』謝憐と花城が歩んだ道と、この世で最も誠実な言葉

【レビュー】心から愛する人を守るために──中華BL小説『天官賜福』日本語翻訳版がついに完結! 謝憐と花城が歩んだ道と、この世で最も誠実な言葉

中華BL小説『天官賜福』(著:墨香銅臭先生)の日本語翻訳版がついに完結。上天庭の神官である謝憐と、彼の最も忠実な信徒である花城の深い愛の物語。そこには2人の運命の出会いと歩んだ道、決して離れることのない永遠の愛が紡がれていました。

とある幼い信徒が苦しくて辛くて絶望の底にいたとき、“生きる意味”を授けてくれた神にどれほど救われたでしょうか。

私にとって『天官賜福』は、心のよりどころとなる御守りのような本。謝憐と花城が交わす言葉は愛に満ち溢れ、そこに宿る信念と誠実な想いが心を震わせてくれます。その言葉は、彼らが歩んできた道であり実行してきたことであり、謝憐は自身の過去から悟り、花城は事実を伝えているのです。

本稿では、愛の真髄を教えてくれた謝憐と花城の絆を深掘りしながら、特に思い入れのある師青玄と明儀、引玉と権一真、風信と慕情についても語っていきます。

※本稿は小説『天官賜福』日本語翻訳版最終巻までのネタバレを含みます。アニメ派の方や小説未読の方はご注意ください。

 

謝憐と花城の運命の出会い

 

物語の舞台は架空の古代中国。道教の思想で、この世界は天界・人界・鬼界の三つに分かれており、これらを「三界」と呼びます。天賦の才がある者や修行で道を極めた者などが飛昇して神官と呼ばれる神となり、人々の信仰が多いほどその法力は強いものに。

八百年前、仙楽国の太子であった謝憐は、伝統的な神事「祭天遊」で、神武大帝に扮していました。すると城楼から転落した子供を受け止めて仮面が剥がれ、謝憐の美貌があらわに。四名景のひとつ「太子悦神」と呼ばれ伝説となっていますが、それは謝憐と花城の運命の出会いでもありました。花城が一瞬で永遠の恋に落ちた瞬間です。

当時の謝憐は「衆生を救いたい」という信念を持ち、「身は無間、心は桃源」(この身が無間地獄に堕ちようとも、心は桃源郷の如く清くあれ)という言葉を口にしていました。

天の寵児である謝憐は17歳で飛昇。しかし、悲惨な状況のなかでは心を清いものに保つことができないと身をもって知ることになり、衆生を救うことが叶わなかった上に耐えがたい苦しみを経験します。

一方で、幼い頃に耐えがたい苦しみを味わいながら生きていた花城にとって、自分を救ってくれたのはこの世でたった1人……謝憐だけでした。謝憐は生きる意味を与えてくれた神様なのです。

謝憐の過去は想像を絶する過酷なものであり、心を抉られるほど読者にとっても試練に。しかし過去を辿ることで、2人の言葉と行動の全てに意味と理由があったのだと知ることができます。そして、謝憐の最も忠実な信徒である花城の、果てしなく深い愛に触れることができるのです。

 

心から愛する人を守るために

 

どんなことであっても謝憐のやることを否定せず反対もせず、「あなたはやりたいようにやればいいんだ」と伝え、いつも力になろうとしてきた花城。たとえ謝憐が道を踏み外しても彼のためにどんなことでもするけれど、同時に彼がそんなことはしないということも知っています。なぜなら、花城は謝憐をずっと見てきたから。

そんな花城が謝憐に唯一約束させるのは、自分を大切にすること。謝憐は全てを自分で引き受けようとする性格で、いつだって危険を承知で真っ先に飛び込もうとします。だけど花城は、謝憐が傷つくことは我慢できない。それは、彼が謝憐の受けた強烈な痛みを知っていて、自分は無力で守れなかったから。確かに謝憐は死なないけれど、傷つかないわけでも痛みを感じないわけでもないのです。

八百年間、花城の行動原理の全ては謝憐。そんな花城がこの世で最も苦しいのは、目の前で愛する人が踏みにじられ陵辱されているのに、自分にはどうすることもできず、何者でもなく何もできない自分は無力だと思い知らされること。

だからこそ花城は、愛する人を守るために長い間耐え忍び、ようやく謝憐に追いついて助ける力を身につけました。それだけに、守りきれず謝憐が傷ついたときには氷のごとく冷え切った感情があらわに。

人が死んだ後、魂魄がこの世に留まる理由は執念があるからだと言われています。絶境鬼王の執念となると、それは並々ならぬ深さと重さがあることは想像に難くありません。そして、世に出た絶境鬼王はいずれも揺るぎない意思と実行力を持ちます。花城は、これまで「心から愛する人を守りたい」一心で死んでは蘇り、諦めずに強い意志でやり遂げてきました。

彼の八百年の執念、信仰、狂愛。それは凄まじいものですが、謝憐を前にすると驚くほど純粋で柔らかく温かいものに。そして驚くほど繊細で、指先の微かな震え、体の強張り、緊張した面持ちに、八百年の想いが溢れ出ています。

花城は大胆だけど臆病で、傲慢だけど慎ましい。謝憐の反応がこわくて不安でたまらなくて、直視できなかったり判決を待つ囚人のようになったりと、とても絶境鬼王・血雨探花とは思えない姿も垣間見えます。

普段かっこつけている節があるだけに、そのギャップがたまらないのですが、動揺しているとき、余裕のないとき、冷静ではないときに「殿下」と呼んでいるのが、おそらく無意識なのも愛おしい。

万神窟にある膨大な数の神像は、見る者をゾッとさせるほどに情熱的で狂気じみていますが、同時に花城の長年の孤独を思わせるものでもあり、一途な美しい愛と信仰の結晶でもあります。その昔、「あなたのことを永遠に忘れたりなんかしない」と誓ったあの少年は、本当にずっと謝憐のことだけを想い続けて、彼の姿形まで鮮明に覚えていました。

同じ執着でも、宣姫の裴茗への愛情は花城と対照的。もしこんなやり方で会おうとする人がいても自分は会いたいなんて少しも思わないと謝憐は感じていましたが、花城の押しつけることのない愛情には好感を抱いています。

謝憐はこの上なく大切にされているようだと感じており、気がついたら花城のことを考えてしまうほどに、心は花城で埋め尽くされていきました。2人は親密になりつつも馴れ合うわけではなく、これ以上踏み込んではいけないという領域を尊重し、そっと寄り添う奥ゆかしい関係を築いています。

それでいて花城は惜しみなく心を捧げており、夜空に浮かんで流れる三千本もの長名灯にも胸が熱くなりました。

さらに、私が心酔してやまないのは、謝憐が「無名の黒衣の少年=花城」であると知ったシーン。

「殿下、俺はずっとあなたを見ていた」

あの頃の無名と同じように片膝をついて跪いた花城を見て、ようやく全てが繋がり、謝憐の内側からさまざまな感情が湧き上がります。花城は謝憐が苦しいときに力になりたいと切望し、ずっとそばにいて、ずっと見ていました。彼は自身の言葉通り、「永遠に謝憐の最も忠実な信徒」なのです。

謝憐は花城の生きる意味となり、花城は謝憐が生きてきた意味を肯定してくれたのだと思います。

好きな人が自分のことをほとんど覚えていなくても、それでも守りたかったなんて、謝憐は花城にとって紛れもなく唯一の神であり唯一の心から愛する人なんですよね。そして謝憐の心の中で、無名はずっと生きていました。

当時、謝憐は無名が自分の代わりに受けた恐ろしい痛みに共鳴していましたが、そのまま無名の魂魄は砕け散りました。八百年間、謝憐は呪枷で自身を戒めながら、最後の信徒であった無名のことをずっと心に留めていたのです。

 

白無相の孤独と果てしない闇

 

長年、謝憐を闇に誘い続けた白無相。彼は謝憐に自分を完全に理解してほしかったのです。孤独な白無相は、謝憐が同じ道を進むことで自分を肯定してほしかったのだと思います。だけど、謝憐はあと一歩のところで踏み止まり、いつも白無相の渇望が満たされることはありませんでした。

謝憐もどん底に陥り心が崩壊して復讐に走ろうとしたこともありましたが、それでも心に希望を灯していました。もうダメかもしれないというときに、たった1人、雨に打たれる謝憐に手を差し伸べて笠を被せてあげる人がいました。その“たった1人”の善意が謝憐を救ったのです。そして、この世で最後の信徒であった無名の黒衣の少年が、謝憐の痛みを引き受けました。

後に謝憐はこんな言葉を口にしています。「やっぱり人って本当に……時には誰かに手を差し伸べてもらわないと乗り越えられないことがあるんだよ」と。

仙楽国師・梅念卿が2人の類似点について言及していましたが、花城が主張しているように謝憐と白無相は全然違います。

謝憐が芳心国師(永安国の国師)として郎千秋のそばにいた頃。自分が散々味わった苦しみをもう誰にも味わってほしくなくて、謝憐は全ての罪をかぶりました。君吾からは「苦労した割に、感謝されるどころか、どちらからも恨まれてしまうことになった」と評されていますが、謝憐は迷わず正しい行いをすればいい結果になるのだと、たとえ偽りでも郎千秋に教えたことを信じさせたかったのです。

そう、結果はどうであっても謝憐は白無相とは違うし、白無相の思い通りの道には進みませんでした。とっくに答えは出ていたのです。それに、謝憐は口にしなくなっただけで、心の底では万人を救いたいと願っているはずです。笠を被せてもらったあの時、永安の全ての民を救おうとしたのだから。

謝憐と白無相に共通していることは確かに多い。苦しいときに誰にも本音で話すことができずにいたことも、彼らを追い詰めた一因です。白無相にはもともと彼を心腹する4人の侍徒がいましたが、孤独に身を置いた白無相にはもはや手を差し伸べる人もいなくなり、内側にある果てしない闇を増幅させていました。だけど本当は、彼にも心を寄せてくれる人がいたんですよね。

 

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