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『学マス』篠澤広を考えるため“脳を焼かれる前”に遡って思い出を語る【レビュー&考察】

『学園アイドルマスター』史上最も“趣味”を我欲にまみれさせた生徒・篠澤広は本当にアイドルに向いていなかったのか? そんなわけないので私が広を見つめる理由を極めて客観的に整理しようとした【担当アイドルへ愛を叫ぶレビュー&考察】

篠澤広は“アイドル”であって いわゆるアイドルではない

こうしていつの間にか広をプロデュースすることになっていた。「お前、この子好きだぜ」という直感は案外馬鹿にならず、結局運命からは逃れられないことを改めて認識している。

ちなみに筆者が広をプロデュースし始めた直後に思ったのは「なんで俺はこの子をプロデュースするって言っちゃったんだろう」だった。

『学マス』には各アイドルごとに「成長動画」というものがある。「アイドルマスターチャンネル」に投稿されているものなのだが、広のそれは他のアイドルとは一線を画すものであり、なんというか、その、死にそうなんだ。これ以上うまい言い方が見つからないぐらい死にそうなんだ。

足取りはおぼつかないどころか立っていられず、歌も途切れ途切れ。レッスン中に膝をついて、あるいは倒れ込んで動けなくなってしまうことなんて日常茶飯事である。彼女はそれを「運動不足」と言うが、それどころじゃないような気もする。

基本的に体力が資本であるアイドル業において、彼女の体力のなさは致命的である。事実、ゲームシステム的に見ても広の体力初期値は低く設定されており、すぐにスタミナが切れて特に初見時は普通にプレイに支障が出ていた。

たしかに篠澤広の身体はアイドルには向いていない。体力がないがゆえにレッスンは「高齢者用のリハビリ」みたいな特別メニューになって成長が遅くなるし、普通に立っていられないのでファンサービスも滞る。ままならないのだ。

しかし彼女は“やりたい”と言うし、“やる”と言う。そして実際、アイドルをやっている。ちょっと小突いたら命の灯火が消えてしまいそうな少女を無理やり(に見えてしまうぐらい)動かしていると、罪悪感のようなものも芽生えてくる。それでも彼女は、こちらの良心などお構いなしに踏んづけてアイドルを目指している。

なぜ彼女はアイドルを目指したいのか。曰く、趣味であるらしい。

これまでの人生すべてがトントン拍子で、周囲の人間は広に期待の眼差しを向けて止まなかった。眼の前の信号はすべて青で、雨など降らないし曇りもない。そんな日々に嫌気がさして行き着いたのがアイドルへの道であり「初星学園」だという。

彼女の境遇を可哀想とは微塵も思わない。誤解を恐れずに言えば変だと思う。なぜなら私は凡人だからだ。でも変態であり、生粋の天才である彼女の目は薄く光り、その光は自分には再現できないなとも思う。なぜなら私は凡人だからだ。

だから「なんで俺はこの子をプロデュースするって言っちゃったんだろう」に対する答えは、篠澤広の目が凡人たる私の目を覗き込んできたから、と表すほかない。

彼女を前にした光景があまりにも一方的なので、結局私は篠澤広を知ることはできても理解することはできなかった。でもそれが心地よいことに変わりはなく、今や彼女のプロデューサーとなった私は、広が塗らないままでいた日焼け止めをバッグに忍ばせることでいくらかの対等性を演出しているのかもしれない。

【文:西澤駿太郎】

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