
「いきなり『俺の花嫁』と言われるわけですから、戸惑うしかないですよね(笑)」監督が感じた本作のポイント──TVアニメ『鬼の花嫁』連載インタビュー第13回 監督・大宮一仁さん
シリーズ累計750万部を突破し、待望のTVアニメ化を果たした和風あやかしシンデレラストーリー『鬼の花嫁』。
本作は、人間と“あやかし”が共に暮らす日本を舞台に、家庭に居場所をなくしていた女子高生・東雲柚子と、あやかしの頂点に立つ鬼の次期当主・鬼龍院玲夜の運命の恋を描く物語です。
優れた能力と美しい容姿を持つあやかしたちは、社会の中核を担い、絶大な権力を誇る存在。そんな彼らが本能で見つけ出す、たったひとりの運命の相手が「花嫁」です。妖狐の花嫁である妹・花梨と比べられ続け、家庭の中で傷ついてきた柚子。ついに心が折れかけたその日、彼女の前に現れたのは玲夜でした。
「見つけた、俺の花嫁」
その出逢いをきっかけに、柚子の運命は大きく動き始めます。
スタッフ・キャスト陣にリレー形式でお話を伺っていく本連載。最終回となる第13回にご登場いただくのは、TVアニメ『鬼の花嫁』で監督を務める大宮一仁さんです。
柚子と玲夜の運命の出会いから、2人が心を通わせていくまでを、アニメではどのように描いていったのか。キャラクターの感情表現や、あやかしたちが生きる世界の描き方、そして最終話に込めた想いまで、作品づくりの裏側をたっぷりと語っていただきました。
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「この世界ではどうなっているのだろう」と想像する楽しさ
──最初に原作へ触れた際、どのような印象を持ちましたか?
大宮一仁監督(以下、大宮):まずコミカライズを拝見しました。僕自身、いわゆるラブロマンス作品にあまり触れてこなかったこともあり、すごく新鮮でしたね。
物語の軸にあるのは、王道のシンデレラストーリーだと思います。さまざまな作品や情報があふれ、コンテンツが複雑化している今、ここまでストレートな物語が届いたことが、かえって強く印象に残りました。
その後に小説も読ませていただいたのですが、小説では登場人物の心情がより丁寧に描かれていて、コミカライズとはまた違った角度から物語を知ることができました。それぞれの表現の違いも含めて、興味深く拝見しました。
──人間とあやかしが共存する本作ならではの世界観を、制作チームではどのように読み解いていったのでしょう?
大宮:あやかしの社会的地位は高いけれど、実際にはどのような役割を担っているのか。人間とあやかしが結ばれることがあるなら、あやかしの男性が人間の家へ婿入りする逆の形もあるのか……など、お話には直接出てこないことについても、制作チームでよく話していましたね。
あやかしは古今東西、さまざまな作品の題材になってきた存在です。ヨーロッパで鬼に匹敵するような存在を考えるなら、ドラキュラなどが近いのかもしれません。ただ、日本やアジア圏のあやかしには、完全に別世界の存在ではなく、普段は見えなくても、ときどき日常へ介入してくるような身近さがあると思います。
『鬼の花嫁』も、普通の女子高校生が突然あやかしと暮らすことになったら、どのようなことが起こるのかを描いています。視聴者の皆さんも、「この世界ではどうなっているのだろう」と想像することを楽しめる作品だと思っています。
──映像化した際に、特に印象的な場面になりそうだと感じたところはありますか?
大宮:やはり第1話は、かなりインパクトがありました。かなり怒濤の展開なので、物語のつかみとしてガツンと来る部分がありますし、大切にしなければならないと思いました。
家を出た柚子には行く当てもなく、腕にはやけどを負っている。そんな状況で、突然後ろから知らない男性に声をかけられ、いきなり「俺の花嫁」と言われるわけですから、戸惑うしかないですよね(笑)。
ただ、その戸惑いから始まることが、この作品の大きなポイントだと思います。そこから柚子が、玲夜や鬼龍院家の人々との暮らしを少しずつ受け入れていく。その過程に、柚子の心情の変化が表れています。
玲夜は最初から柚子を自分の花嫁として求めていますが、実際に人間と触れ合い、ともに暮らしていくなかでは、思っていたものとは違う部分もあったのではないでしょうか。玲夜は権力も財力も名声もすべて持っていますが、ごく普通の女子高校生を自分のもとへ迎え入れることは初めての経験です。玲夜の側にも、戸惑いや変化があったのだと思います。
──アニメ化にあたり、全体ではどのような方針を大切にしたのでしょう?
大宮:あやかしと人間の恋愛を描いたファンタジーではありますが、舞台はあくまで現代社会であるということ、ですかね。主人公も普通の女子高校生なので、現代社会から大きく離れた色使いや、極端に現実離れした画面にはしないようにしました。
普通の日常のなかに、あやかしという異質な存在がいる。その二つが交わったとき、どのようなことがドラマとして起こるのか。両者の距離感や、空気の違いを大切にしています。
柚子と玲夜が初めて出会った瞬間には、周囲の空気が変わり、色彩も変化して花びらが舞うような演出が入っています。日常のなかで一瞬だけ空気が変わったことを示す表現として、すごくいいと思いました。実際には短いカットですが、二人の出会いを印象づける場面になっています。
──そういった“現代”としての視点は、和風ファンタジーでもある本作の美術や空間づくりにどう活かされているのでしょうか?
大宮:ファンタジーだからといって、極端にきらびやかな画面へ振り切るのではなく、「現実にも存在するかもしれない」と感じられる範囲で絵づくりをしています。背景や和風の質感については、美術監督ともいろいろと話し合いながら調整しましたね。
例えば鬼龍院家の屋敷は非常に大きいのですが、いわゆるお城のような、極端に非現実的な建物ではありません。古い和風建築でありながら、現代の設備も取り入れられているはずなんですよね。
照明ひとつとっても、古い屋敷とはいえ現代の建物として使われているなら、照明にはLEDも入っているかもしれない。そのうえで、画面全体は暖色系を中心に統一し、鬼龍院家の歴史や格式を感じさせながら、柚子が実際に暮らす場所としての温かさも出せるようにしています。世界観として美しく見えることと、そこで人が実際に暮らせることのバランスは大切にしました。
僕は実際にあのような屋敷で暮らしたことはないので、考えていくとわからないことが多いのですが(笑)。畳の部屋へ行くときにスリッパを履くのか、廊下は板張りでいいのか、照明や空調はどうなっているのか……。スタッフの間で細かいポイントを「ここはどうしますかね」と話しました。
──玲夜が柚子のために用意した部屋についても、こだわった部分はありますか?
大宮:柚子が鬼龍院家で暮らすことになった後、使用人が豪華に整えた部屋がありますよね。あの部屋については、「女性がぱっと見た瞬間に、かわいいと思える部屋とはどのようなものだろう?」と悩みました。
原作でもかわいらしい部屋として描かれているので、それを色や家具によってどう表現するのか。僕だけでは判断が難しかったので、最終的には美術監督の力にかなり助けていただきました(笑)。
──柚子の部屋以外にも、部屋や空間づくりで印象に残っている場面はありますか?
大宮:第11話に登場する、10年前の柚子や花梨の実家ですね。花梨がまだ瑶太に見初められる前に暮らしていた家です。
経済的に少し厳しい家庭の生活感を、画面のなかでどのように表現するかは難しかったです。家具などを増やせば生活感は出ますが、物が多すぎるとキャラクターが画面のなかで埋もれてしまいます。
そこで美術監督と相談しながら、家具の配置や使われ方によって、柚子や花梨たちが実際にここで暮らしていると感じられる空間を目指しました。物を減らしながら生活感を出すにはどうすればいいのか、かなり考えました。

































