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映画『薄墨桜 -GARO-』小林靖子インタビュー

映画『薄墨桜 -GARO-』脚本家・小林靖子さんへインタビュー ――TVシリーズを壊すことなく描かれた、愛憎の物語

2018年10月6日より、新宿バルト9ほかにて全国公開がスタートする『薄墨桜 -GARO-(以下、薄紅桜)』。本作は、人気特撮『牙狼〈GARO〉』のTVアニメ第2弾にして、2015年10月より放送されていた『牙狼 -紅蓮ノ月-(以下、紅蓮ノ月)』の劇場版作品です。

脚本を務めたのは、『仮面ライダー龍騎』や『進撃の巨人』など、特撮、アニメにて数多くの人気作品を手がけ、またTVアニメ第1弾『牙狼〈GARO〉 -炎の刻印-』のメインライターを務めた小林靖子さん。アニメイトタイムズでは、そんな小林靖子さんにインタビューを実施。『薄墨桜』の物語を作り出す上で意識したことや、『牙狼〈GARO〉』という特撮に対する考え方などについて伺いました。

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TVシリーズに囚われない新しい物語

――本作『薄墨桜』の企画に、小林さんが関わることになったきっかけはなんだったのでしょうか。

小林靖子さん(以下、小林):私は、プロデューサーの丸山さんから直接お話をいただきました。その時点で東北新社さんとは、映画をやる、ということに決まっていたようでした。

やらせていただくことになったとはいえ、私はTVシリーズの『紅蓮ノ月』には関わっていなかったで、全然わからないところからスタートでしたね。ただ、その辺は監督の西村(聡)さんも把握してくれていて、打ち合わせの段階で、あまりTVシリーズは意識しなくてもいいです、という風にいっていただきました。「新しい平安の牙狼〈GARO〉に挑戦しよう」ということだったんだと思います。

――右も左もわからないところからスタートだったようですが、小林さんは『薄墨桜』をどんな方向にもっていこうという意識で書き始めたんですか?

小林:「意識しなくてもいい」といわれても、會川(昇)さんと井上(敏樹)さんの二人が作ったシリーズなので、そこを壊すつもりはなかったです。TVシリーズのどの時系列に置いてもいいように、レギュラーの三人(雷吼(CV:中山麻聖)、星明(CV:朴璐美)、金時(CV:矢島晶子))には手を加えず、ゲストを入れ込んで物語を回すことにしました。京が舞台ということで、最初に思い浮かべたテーマが“桜”でした。そのアイディアは、最後まで変わりませんでしたね。

――本作では明羅(CV:田中敦子)と時丸(CV:東啓介)という新キャラクターの物語が中心で、主人公である雷吼(牙狼)があまり前面に出てこない構成になっていたのには理由があるのでしょう?

小林:それは、書いているうちに自然とそうなったというか(笑)。雷吼たちになにか解決しなくてはいけない要素を与えてしまうと、それだけでTVシリーズに抵触してしまいますからね。雷吼と星明はもちろんですけど、金時だってスピンオフ(【BD/DVD】BOX2特典、新規EP「刻蝶」)も作られているから下手に弄れないし。そんな風に考えていった結果、いつの間にか今回のような構成になっていました。レギュラーの三人を使って、この世界観の中の新しい物語を作った結果、明羅と時丸が生まれたという感じですね。


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大きな業と陰我を背負った理由

――この物語を描くうえで意識したポイントはありましたか。

小林:さっきもいったように自然とそういう物語になったので、初めから意識していたことは特にないんです。そもそも、最初に考えていた内容と完成した脚本ではだいぶ違っていたんですよ。

――そうなんですか?

小林:「桜を使ってなにかしようとしている陰陽師」という部分だけが決まっていて、ドラマの部分は稿を重ねていくうちに少しずつ固まっていったんです。最初はもっとスケールを大きくして、「時空を越えて戦う」というアイディアもあったくらいで(笑)。

一同:(笑)。

小林:『牙狼〈GARO〉』シリーズは陰我(人前が持つ心の闇)の物語なので、「桜を使って火羅(ホラー)を呼び出す」というのを基本の路線は変えずに「どんな陰我を桜に乗せていくか」ということを何度もスタッフと話し合いました。

――その結果、彼らが大きな業を背負うことになってしまったわけですね。

小林:その辺りも、二転三転した部分ですね。最初はゲスト主役の明羅にドラマを動かす要素を肉付けしていったんですけど、その役目は時丸に任せたほうがより明羅の気持ちに動きが生まれるんじゃないかということになっていって。ただ、そのままだと物語が弱いというか、ぬるくなっちゃうなと感じたので、ね。

――明羅が火羅(ホラー)に取り込まれるシーンはゾッとしました。あそこから物語の色が一気に変わったようで。

小林:稿を重ねて出来上がったシーンですから、それまでの過程で足りなかったものがすべて詰まっています。最初は時丸だけが取り込まれる、という内容だったんですけど、それだと物語がいまひとつ締まらなくて。アクション面での決めシーンはあるんですけど、感情の部分がどうにも物足りなかったんです。『牙狼〈GARO〉』ですから火羅(ホラー)に取り込まれるのが相応しいと、これは本当に最後の方で決まったことですね。

とはいえ、ただ取り込まれただけでは段取りにしか感じられませんし。そこで(藤原)道長(CV:堀内賢雄)との対比を持ってくることにしました。

▲明羅(CV:田中敦子)

▲明羅(CV:田中敦子)

――人の業の深さに迫っているというか、小林さんの脚本らしさがにじみ出ているラストだったというか。その辺りは、狙って書いたわけではないんですよね?

小林:結末の部分を狙ったつもりはないです。ただ、『牙狼〈GARO〉』ですから、陰我はしっかりと考える必要がありました。時丸を作ったとき彼はもっと陰我まみれで、一番初めは餓鬼丸という名前だったんですよ(笑)。

――それは、随分とあんまりな名前ですね……(笑)。

小林:それくらい業を背負わせることを考えていたんですけど、段々と変化していって、一旦餓鬼丸が消えるぐらいまで陰我を削ぎ落としたこともありました。『牙狼〈GARO〉』らしいウェットな感情のドラマを描くなら、この物語が相応しいと思ったんですよ。

▲時丸(CV:東啓介)

▲時丸(CV:東啓介)

 

正義のヒーローを正しく描く

――レギュラーキャラの雷吼は正義感のあるストレートなヒーローとして描かれている一方で、姉妹と因縁のある道長は随分と悪意に満ちた人間として描かれているようでしたね。

小林:道長のことは悪として描いたつもりはないんですよね。ただ、あの当時の政治家としては当然というだけであって。彼に対比する明羅にしても、彼女のおこないは正義ではないんですよ。大勢の市民を巻き込んでしまっていますからね。誰が正しい、という部分にはあまり重きを置いていません。ただ、雷吼だけは純粋に正義の存在として描いたつもりです。

▲雷吼(CV:中山麻聖)

▲雷吼(CV:中山麻聖)

――小林さん的には、善と悪だとどちらが描きやすいんでしょう?

小林:あまり意識したことはないですね。ただ、道長というキャラクターはいろいろやりようがありましたね。なにをいわせても大丈夫というか、面白い台詞を作りやすかったです(笑)。

キャラクターと物語にぴったり台詞がはまると気持ちがいいんですよ。監督をはじめスタッフがノッてくれて、声優さんが魂を込めて演じられる脚本を作れると嬉しいですよね。

――『牙狼〈GARO〉』はもともと実写の特撮ドラマ作品ですが、他の特撮ヒーロー作品と違うなと思うところはありますか?

小林:主人公にあまり悪い要素はつけられない、というところですかね。戦隊やライダー(※)の主人公だとちょっと影があるダーク感じが似合うんですよ。『牙狼〈GARO〉』も場合はもっと清く正しい存在、という印象があるかなと思います。

※:小林さんは『星獣戦隊ギンガマン』、『未来戦隊タイムレンジャー』、『仮面ライダー龍騎』、『仮面ライダー電王』、『侍戦隊シンケンジャー』、『仮面ライダーオーズ/OOO』、『特命戦隊ゴーバスターズ』、『烈車戦隊トッキュウジャー』、『仮面ライダーアマゾンズ(シーズン1、2)』でメインライターを担当。小林さんの作品では、主人公や物語の核となる存在に過酷な運命や設定が与えられていることが多い。

――清く正しいヒーローだと、ある意味で薄っぺらな存在になってしまう危険性もありますよね。

小林:それも、極めてしまえばキャラが立つんですよ。『牙狼〈GARO〉』の主人公ってまさしくそれなんですよ。彼らって自分を滅するぐらいにストイックな人間ばかりじゃないですか。

――とことん振り切って正義の味方をしている存在ですよね。

小林:だから、辺に影のある側面を持たせるとかはしようと思わないんですよね。雷吼に対しては特にその考えが強くて、彼にはヒーローらしいかっこいい要素を盛り込みました。遅れて駆けつける、とかね(笑)。

一同:(笑)。

小林:そういうヒーローらしい要素を正しくかっこよく書くと『牙狼〈GARO〉』場合、燃えるシーンになるんですよ。雷吼にはそっちに振り切ってもらいました。

逆にいえば、だからこそ雷吼は、道長と明羅の会話に入っていけないんですよ。ダークな面を持ち合わせていないので理解できないし、理解したらいけないんです。それだとただ居るだけの存在になってしまうので、違う側面で彼のキャラを立たせるために、ヒーローらしさに振り切る必要があったわけです。例えば、道長に煽られるようなことをいわれても、雷吼はそれを背中で受け流してしまうとか。

▲星明(CV:朴璐美)

▲星明(CV:朴璐美)

――ご自身が脚本を書いて、それが映像になったわけですが、実際にご覧になって気に入ったシーンはありましたか?

小林:どのシーンも西村監督の演出が見事だと感じましたが、強いて上げるならやっぱり雷吼の登場シーンはかっこよかったですね。それから、明羅が増悪に顔を歪めるドアップのシーン。あれにはビックリしました。脚本を書いた段階では、表情があんな風になるとは思ってなかったですから。西村監督が気合を入れて演出してくれたおかげで、凄まじい顔になっていましたから……。

――確かに、あのシーンは印象的でしたね……。

小林:声優さんも魂を込めてアフレコしてくれて。見事に噛み合っていて、流石だなと感じました。

――それでは最後に、読者へのメッセージをお願いします。

小林:TVシリーズを楽しんでいただいていた方もそうでない方も、新たな『紅蓮の月』の楽しんでいただけると思います。そして、『牙狼〈GARO〉』ファンの方にも、こういう『牙狼〈GARO〉』もありかな、と感じていただける作品になりましたので、アニメだからと嫌煙していた方にも、軽い気持ちで劇場に足を運んでいただけたらと思います。

 
 

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公開情報

劇場版『薄墨桜-GARO-』は新宿バルト9ほか全国公開中!

CAST

雷吼:中山麻聖
星明:朴璐美
金時:矢島晶子
明羅:田中敦子
時丸:東啓介
藤原道長:堀内賢雄
藤原保輔:浪川大輔
源 頼信:野村勝人
稲荷:鵜殿麻由
天狐:中田譲治
梟師(たける):関智一

STAFF

原作:雨宮慶太
監督:西村聡
脚本:小林靖子
メインキャラクターデザイン:桂正和
アニメーションキャラクターデザイン:横山愛・海老原雅夫
美術監督:橋本和幸
撮影監督:魚山真志
色彩設計:堀川佳典
CG監督:高橋将人
編集:神宮司由美
音楽:高田龍一・MONACA
音響監督:久保宗一郎

劇場版『薄墨桜-GARO-』公式サイト
http://garo-usuzumizakura.com/

 

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