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『攻殻機動隊 SAC_2045』神山健治&荒牧伸志インタビュー

『攻殻機動隊 SAC_2045』神山健治監督&荒牧伸志監督インタビュー|『攻殻機動隊』とは何なのか? “攻殻”を“攻殻”たらしめるためのメソッドとは

ジョージ・オーウェルの『1984年』が見せてくれる今の世界の姿

――今回は、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』の世界観を取り入れていますが、その理由は?

神山:初めは、今の時代において退廃的な社会やディストピア感にファンタジーを感じていたんです。現実が息苦しいから。10〜20年前は現実が豊かすぎて、しんどいと言っていたのが、今では「そんなにいい時代があったの?」っていうくらい現実が厳しい。

その中で、美しいファンタジーも見たくない、絵空事の中でいい思いだけするのもリアルを感じない、というところから、ジョージ・オーウェルの『1984年』を今読んだらどんなふうに見えるだろうと考えたのが最初だったんです。

でも、当時読んだ時とは全く違う感じに読み取れたんです。それは『SAC_2045』を見てもらって皆さんに感じてもらえればいい部分ですけど。

こんなにスタンダードな、色んな時代に何度もこれを元にした映画や小説が出た作品が、こんなにも読み替えられる時代が来たのかというのがちょっと新鮮な驚きで。これをそのまま入れてみようと。

最初は、作品を作る上でのサブテキストくらいのイメージでシナリオライターにも「読んどいて」って言ったんですけど、読んでいくうちにだんだん違うものが見えてきたんです。

――今のお話のつながりで、ある話数のサブタイトルも関連してくると思うのですが、いかがでしょう?

神山:あれには色んな意味を込めているので、間違いなくその一つだと思います。郷愁というのもテーマに組み込まれていて、脚本を書いているうちに世代ごとに感じ方が違うなと思えてきたんです。

若い人の方が、無自覚に郷愁を求めているのかなと。年を取ってくるとですね、もう郷愁だらけになってくるのであんまりいらないんですよ(笑)。

自分でも不思議だなと思ったけど、20代の人の思い出といったら高校生時代以下くらいしかないのに思い出の話をしたがるんですよね。自分もそうだったし。

でも、おっさんになってくるとね、もう……。

荒牧:20年経とうがそんなに郷愁じゃないので(笑)。

一同:(笑)。

荒牧:最近じゃんって思っちゃう。

神山:そうなんですよね。なので、そういう行動はファンタジーとイコールというか。今はもう手に入らないものなのか、もしくはそれを経てもう一度咀嚼しなおすことで今のヒントを得ようとしているのか。逆に、ヒントがあったのになという思いにふけるのか。

そういう見え方してくるんだけど、もしかしたら若い人がわざわざちょっと前のことを振り返るのは、そこに何かを感じる、そこに答えがあるんじゃないかと思ってるのかなと。

未来に希望を持てない中で、そこにヒントがあるような気がして、郷愁を持ち出してみました。

――その他にも、難民問題を含め現代社会のテーマが描かれていましたが、そのあたりはどう考えられていたのでしょうか?

神山:絶対にその言葉を使わないで、それを書こうと思ってやっていて。それは、“シンギュラリティ”です。

AIと比べて人間のほうが進化が追いつかなくなっている中で、強制的な進化というものが訪れるんじゃない? っていう期待もあれば不安もある言葉ですよね。まぁ案の定、最近は使われなくなっている言葉なんですよ。

なので、「それを描こうとしていても、その言葉を使ったら負けだよね」っていうことで。

――そして、そこには今作で登場する新たな支配種“ポスト・ヒューマン”が絡んでくると思います。そういうAIの知能が人間の知能に勝つという時代が訪れたときに社会はどうなると思いますか?

荒牧:漠然とした話ですけど、やっぱりテクノロジーの進化はわかりやすいんですけど、人の意識の進化ってもっと複雑で大きなことが起きるんじゃないのかなって予感があるんですよ。

神山:シナリオを書いていて、本当にそう思いましたよね。

荒牧:その価値観が本当に今変わりつつある感じがして、今まさにそこなんじゃないかなって思いますね。

神山:『1984年』って、共産主義への恐怖から描かれたわけですけど、全く違う風に読み取れるんですよ。トランプさんが大統領になった後に読むと。

もちろん、単純にその通りに読んだ人もいるでしょうし、そういう時代が来てしまったっていう読み方もできる。でも書かれた当時には、あそこで描かれているものを良いものだという読み解き方は不可能だったと思うんですよね。

この小説に登場するテレスクリーンって今で言うとインターネットですけど、テレスクリーンは恐ろしいよねとか、もちろんそういう側面はあったとしても、現在はネットを負の要素として捉えている人って圧倒的に少ないわけじゃないですか。

そこを一つ取ってみても、これは僕らが思っていたよりも、はるかに人間の意識のほうが大きく変わっているんじゃないかなと。よく言われるのは、新しいテクノロジーってSFの中では大体人間の敵なんですよ。それももしかしたら、間違いかもとかね。

荒牧:ターミネーターの戦っている相手がインターネットですからね。それは勝てないよねって、なるわけですよ。

神山:悪の象徴だったわけですけど、今だったら『ターミネーター』シリーズのスカイネットはインターネットのことですから「良い奴なんじゃない?」みたいな感じもするし(笑)。

荒牧:(笑)。だから今、そういう意識の転換が起きてると思うんですよ。

神山:それがどういう風に作用していくんだろうなみたいな。シミュレーションというわけじゃないけど、脚本開発している中でそんな疑問が湧いたりしてきて、そこを描いてみようということですね。

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