映画『シドニアの騎士 あいつむぐほし』吉平 "Tady" 直弘監督インタビュー | 『シドニアの騎士』が、アニメ監督を志すきっかけに

弐瓶先生の「10年後から始めたい」というアイディア

――劇場版が発表された際、監督は『シドニア』が監督を目指すきっかけになった作品だとコメントされていたと思うのですが、その経緯について教えていただけるでしょうか。

吉平：実は最初に『シドニア』が始まった時、僕自身は編集部門の管理職の立場にいて、作品にそこまで深くのめり込むつもりはまったくなかったんです。どちらかというと、TVシリーズを作るためのシステムやワークフローを構築するのが自分の役割だったのですが……気がついたら瀬下さんに毎日のチェックに巻き込まれ（笑）。

いつの間にか、自分が足りないと感じたらリテイクを出すようになり、編集も当初は別の方が担当されていたのですが、静野さんから指名を受けて担当することになって……どんどん自分のやりたい映像作りと、作品がリンクしていく喜びを感じられるようになっていったんです。

そこから第２期になった時に「演出をやってみないか」という提案をされ、それまでの自分のキャリアを棄ててでも、新しいチャレンジをしようと決断しました。

その後も、プロダクションの大変な状況と、もっといい映像を作りたいという想いから、「演出ではなく副監督をやらせて欲しい」と直訴することになるのですが、その頃にはこれからは編集ではなく、演出・監督業に人生を賭けていくんだという想いは固まっていました。

自分にとって、表現を追求することの魅力、視聴者の方に評価してもらえる喜びを教えてくれたのが、『シドニア』という作品なんです。

そんな作品の完結編で監督をさせていただけるというお話をいただいた時は、最高に嬉しい気持ちだけではなく、凄まじい重責もありましたが、それでもチャレンジしてみようと思えました。初めて演出を担当した時もそうでしたし、『シドニア』は自分を奮い立たせくれる作品でもあるんだなと改めて感じましたね。

【Blu-ray】TV シドニアの騎士 シドニアの騎士 第九惑星戦役 Blu-ray BOX

――今回は瀬下さんが総監督、原作の弐瓶先生が総監修としてクレジットされていますが、どういった話をされながら制作されたのでしょうか。

吉平：弐瓶さんがアニメ製作に積極的に関わっていただくのは、『BLAME!』からの流れでもあるのですが、今回は自分と瀬下総監督を含めた、３人での体制を強化していこうという想いがありました。弐瓶さんにはその中心となる基点として、作品の世界観や、この劇場版で何を表現したいのかという方向性を打ち出してイニシアチブをとっていただきました。

瀬下総監督には、脚本開発や初期のプリプロで、総監督が得意とするSFやミリタリー的なディティールに注力していただく一方で、自分は２時間のドラマの中で、さらにエンターテイメントとして感動してもらうにはどうすればいいか掘り下げていく……といったように、それぞれに役割を分担していくような形でした。脚本が固まったあとは、作品の演出が右往左往しないよう、監督である自分が中心となって制作を進めていきました。

――弐瓶先生から提案されたアイディアもあったのでしょうか？

吉平：最初にあったのが「10年後から始めたい」という提案で、これには自分も驚きました。けれどこれはすごく理にかなっていて、単純に原作の続きをそのままやるわけではないことを既存のファンに伝えると同時に、新兵たちがガウナとの初めての戦いを追体験することで、新しいファンの人たちにも『シドニア』の世界観を理解してもらうことができる。

その上で長道は今どうなっているのか……という導入も作ることができますし、本当に素晴らしい提案でした。その後すぐに弐瓶先生が10年後の長道の姿を描いてくださって、僕たちもびっくりしましたね。

――あの長道をみた時、本当に立派になったなぁと感じました。

吉平：原作から何かを変えるということは、我々にとっても勇気のいるチャレンジなのですが、弐瓶先生は、「漫画ではこうだったけど、今回の劇場版ではこうしたいんだよね」といって、原作に盛り込めなかった多くのアイディアを自ら積極的に出していただいていて。それを皆で話し合って、作品の中に落とし込んでいくという流れで作られているんです。

なのでクレジットでは総監修という形になっていますが、弐瓶先生も本作の制作の中心となって、ある意味総監督的な役割を果たしていただいたのかなと。そういう意味では、自分は二人の総監督に挟まれた、最高に幸せな立場だったかもしれません（笑）。