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TVアニメ『スーパーカブ』レビュー|「あの頃」へ帰る旅に出よう。

圧倒的没入感! 趣味系アニメの新しい形TVアニメ『スーパーカブ』で「あの頃」へ帰る旅に出よう。

私は『スーパーカブ』の「こだわり」を観た!

小熊の設定や絵としての演技も素晴らしい作品ですが、それを取り巻く、シナリオやセリフ、音楽、作画など作品を支える部分のこだわりによる世界観の構築が、詳細かつ丁寧です。より物語に没入させ、原点の気持ちを思い起こさせる工夫が施されています。

私がこの作品の主題として捉えている「小熊へのシンクロによる原点回帰」を支える部分は一体どこなのか、どんな工夫がされているのか。そしてどんなこだわりがあるのでしょうか。

ゆったりとした脚本、朝ドラのような演出

本作は原作小説『スーパーカブ』が存在します。この作品は女子高生の青春期というポップな題材をあくまでしっとりとした雰囲気で表現しており、TVアニメで監督を務める藤井監督も、インタビューでその点について言及していました。『スーパーカブ』の独特な空気感の演出をアニメシリーズでも心がけたそうです。

小熊の素朴な1日を、20分で濃密に構成、モノローグ(心の声)を劇中の冒頭と終盤に持ってくる朝ドラ的演出で、小熊の変化を表現するなど、より物語と私達の距離が近くなるような演出がされています。画面に関しても、1話ではカブと出会うまで色彩を落ち着かせ、出会う瞬間にほんの少しだけ彩度を挙げ小熊の心象表現に活用したりとこだわりが詰まっています。(インタビューはこちら

細かな演出を意識して視聴してみると、より小熊とのシンクロができる仕組みです。私も実際に画面上にあるこだわりを実感してより楽しく観ることができました。

細かすぎて伝わりすぎる「描き込み」

『スーパーカブ』は視覚的情報で与えるリアルさに凄まじいものがあります。カブ周りの細かい作画や、背景などの描き込みが非常に細かく、私がこの作品で最もグッと来たポイントでもあります。

当たり前かもしれませんが、まずカブの造形が挙げられます。小熊が乗るオーソドックスなカブはもちろん、カブ仲間の礼子の愛車ハンターカブも忠実に再現されています。カブの動きも良いですよね。ペダルの挙動や、マフラーの揺れなど細かなところもしっかり動きます。

パーツを寄りで写した精密なカットだけではなく、引きの画面では手描きも交え、背景の美術と共存するような工夫がされています。リアリティと、アニメーションとしての映像美、どちらにも配慮したカブ関連の表現が印象的です。

これだけでも大変なカロリーを要する画作りですが、カブだけではない背景美術の「描き込み」がまた細かく、作品のリアリティレベル向上の一助となっています。

1話からみることができる重要な背景が、「道路」です。バイクアニメなので車道をしっかり描かなければならないのはもちろんですが、簡単なようで難しい舞台です。

小熊の通学路にある住宅街の大きな十字路を俯瞰で写すシーンが度々出てきますが、しっかりと描き込みがされています。道路は単純に物が多いだけではなく、パースが狂ってしまったり、設備不足で道路としての役割を果たさないこともよくありますが、このシーンでは全く見受けられません。実在する場所を舞台に設定していることもあり精密に描かれています。

また欠かせないのが施設の作画です。まずは「スーパーむかわ」と「スーパーおの」の内装から。「スーパーむかわ」は2話で学校帰りにいつものレトルト牛丼を小熊が買いに行くシーンで初めて描かれ、その後度々描かれる場所です。「スーパーおの」はカブの部品を譲ってもらいに行く際に手土産としてお菓子を買いに行くシーンで訪れる場所です。

このスーパーの内装がまた細かい。商品のパッケージのデザインや、陳列棚のパース、棚に並べられているひとつひとつの商品ディティール、天井に敷き詰められた蛍光灯、鮮魚やお肉コーナーの壁にある謎のタイルデザイン、特売の黄色いポップ、田舎スーパー特有の謎の日別割引商品のチラシなどなど、もはや現実です。

さらに小熊が通う学校の図書室の描き込みも痺れました。こちらは3話で、小熊のヘルメットをPCで検索(礼子がバイク関連の商品をみたいだけ)する際に訪れた場所です。図書室もスーパー同様に、すべての本の背表紙が事細かく描かれていたり非常に丁寧です。図書委員が企画して掲示するような特集コーナーや、カレンダー、一部内装工事中の場所にかかっているブルーシート、こちらも蛍光灯、天井のタイル、カーテンレールなんかも描かれています。

正直、ここまでの描き込みが無くとも十分楽しめる作品です。かわいい女のコが3人も登場し、バイクに乗ったりタンクトップを着たりするんですよ? それだけでも十分すぎるにも関わらず、ここまで詳細に描かれています。造り手側の、アニメで徹底してリアルを描くという意思の現れでもあり、私達がどっぷりと『スーパーカブ』の世界へと入り込むことができる要因でもあります。私はこの画による世界観構築の魅力にハマり『スーパーカブ』を好きになりました。

耳でも楽しめる『スーパーカブ』

視覚だけでなく聴覚でも、世界観や雰囲気をたっぷりと表現している今作。しかし、その他のアニメーションや映像作品に比べて、BGMなどの使用は少なめです。楽しい雰囲気の時には明るくポップな音楽、ハードな展開のときは悲壮感溢れるピアノ曲などを選曲し活用するのが一般的ですが、『スーパーカブ』では基本的にBGMはオフです。

一方で、生活音や環境は言わずもがなのリアルさ、またカブ関連の効果音も徹底して再現に努めているそうです。ほぼ無音の中で現実と同じ様な音が散りばめられていて、そうかと思えば小熊の心情が変わるタイミングでピアノの音を入れるなどし、声、画、音の3つで演技を行っています。画面やセリフに派手さは無いものの、しっかりとキャラクターの心情に共感できるのは3つの合せ技でなされたものだということがわかります。

音楽といえば劇中で使われているクラシック音楽に反応する方もいるのではないでしょうか。1、2話ではドビュッシーの楽曲が使われており、小熊がカブに乗ってでかけているシーンで印象的な使われ方がなされています。藤井監督は、小説を読んだときからクラシックがハマるだろうと考えており、カブという誰もが知っていてこれからも語られるであろうバイクと、時代を超えて演奏されているクラシック楽曲の親和性に惹かれてのチョイスだと語っていました。

「スーパーカブ」の役割

本作に登場するカブにはいろんな役割が与えられています。小熊の人生を彩る相棒として、何も語らずとも機能しています。礼子によるカブ知識の暴走や、上記の細かな再現、小熊に大事にされているシークエンスなどによって、バイクファン、カブファンへのリスペクトにも溢れた存在でもあります。

またカブに対してのセリフも素敵です。「どこへでも行けるわ、だってカブだもん」、「カブの1速は、日本中のあらゆる坂を登るためにあるのよ」など礼子のカブ愛溢れるセリフが印象的。

数年前に大ヒットを記録した映画『風立ちぬ』では、戦争に使われる道具でありながら、美しく日本の叡智を集めた機体であった零戦をテーマにしており、飛行機としての性能の素晴らしさ、職人の技術力の高さを描いていました。使用法は忌むべきものですが、職人たちのかっこよさ、技術力の高さにどこか誇りを感じてしまう部分があり、そこが作品の魅力であり矛盾を感じるべき点でもありました。

礼子のセリフや、小熊をどこにでも運んでいくカブの姿、そんな「職人」に対する誇りを感じさせる役割も持っています。

あなたは『スーパーカブ』をどう楽しんでいますか? 

私はカブと小熊の静かな日常を見ていくうちに、自身の「何かを好きになった」感覚を思い出しました。自分の行動範囲が広がったり、憧れのものを手に入れた時のあの感覚です。その感覚は歳を重ねるごとに色あせていくかもしれません。同時に「何かと出会うこと」自体も新鮮さを失っていくかもしれない。だからこそ『スーパーカブ』を見て、再認識した感情を大切にしていきたいと思います。

「アニメを楽しんで観ること」というのは簡単なようで難しいことです。実際に、昔は好きだった物にいつの間にか興味を失ってしまっていた。なんて経験が誰にでもあると思います。

私は確かにアニメが好きですが、それだけではありません。文化的にも社会的にも重要な役割を持つものだと思っています。だからこそアニメを観ること、語ることをやめたくないのです。そのために、より楽しく、より好きになれるような見方や方法を自分なりに作って行きたいと思います。

ここまでは私なりの『スーパーカブ』の楽しみ方でした。あなたは『スーパーカブ』を、そして自身の好きなものをどう楽しんでいますか? きっとあなたにしかできないやり方があるはずです。それは他人と比較する必要はまったくなく、どんな形でも素晴らしいはず! 

これからも長く続いていくであろう、小熊とカブの関係のように、好きなものを大切にしていけたら些細な日常でさえも輝き続けるのではないでしょうか。

[文/ヨウイチロウ]

TVアニメ『スーパーカブ』作品情報

放送情報

AT-X:毎週水曜日 23:00~23:30
リピート放送:毎週(金)11:00/毎週(火)17:00
TOKYO MX:毎週水曜日 25:35~26:05
テレビ愛知:毎週木曜日 26:35~27:05
KBS京都:毎週水曜日 25:35~26:05
サンテレビ:毎週木曜日 25:30~26:00
BS11:毎週金曜日 25:00~25:30
山梨放送:毎週金曜日 25:00~25:30

配信情報

<地上波先行配信>
dアニメストア:毎週水曜日 23:30~
※放送・配信日時は予告なく変更になる場合がございます。予めご了承下さい。

作品紹介

「私には何もない。と思っていた。」

ひとりぼっちの女の子と、世界で最も優れたバイクが紡ぐ、友情の物語。山梨県北杜市の高校に通う女の子、小熊。両親も友達も趣味も無い、何も無い日々を過ごす彼女だが、ふと見かけた中古のスーパーカブを買ったことで、ちょっとずつ短調な毎日が変わり始める。

角川スニーカー文庫にて刊行中のライトノベル『スーパーカブ』は4月よりTVアニメ放送開始!

メインスタッフ

原作:トネ・コーケン/イラスト:博(角川スニーカー文庫 刊)
監督:藤井俊郎
シリーズ構成、脚本:根元歳三
キャラクターデザイン:今西亨
色彩設計:大西峰代
美術監督:須江信人
美術設定:多田周平
ボード制作:横山淳史
背景:草薙
3DCG制作:スタジオKAI
3DCG制作協力:TypeZERO
2Dデザイン・特効効果:チップチューン
撮影監督:浅川茂輝
撮影:Raretrick
編集:齋藤朱里
音楽:石川智久・ZAQ
音楽制作:バンダイナムコアーツ
協力・監修:本田技研工業株式会社
制作:スタジオKAI
製作:ベアモータース

メインキャスト

小熊:夜道雪
礼子:七瀬彩夏
恵庭椎:日岡なつみ

公式サイト
公式ツイッター(@supercub_anime)

原作ノベル情報

角川スニーカー文庫『スーパーカブ』(KADOKAWA刊)
著者:トネ・コーケン イラストレーター:博
第1巻~第7巻まで好評発売中!

コミカライズ情報

「コミックNewtype」(KADOKAWA)にて好評連載中。
原作:漫画:蟹丹 原作:トネ・コーケン キャラクター原案:博
第4巻まで好評発売中!

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