声優・楠木ともり 3rdEP『narrow』インタビュー｜これまでの楽曲の主人公が出会う？「narrow」の歌詞から生まれた、新たな流れ

同時に生まれたという対称的な2曲、そして年末のライブへの意気込みを語る

――続く「熾火」ですが、結構ぶちまけている曲ですよね。

楠木：これまでの表題に近いのはこの曲だと思います。3rdEPの制作に取りかかったときから曲が浮かばなくなってしまい、そんなときにレーベルの方から「楽曲制作の進捗はどうですか？」という連絡が来て、めちゃめちゃ追い詰められて、やばいかもってなったんです。このときはいろいろ重なって、精神的にも弱っていたときだったので、この気持ちをそのまま曲にすればいいやと思い書いた曲です。本当、ズタボロだったんです(笑)。

――でも、曲ってそういうものですから。衝動とかを歌にするというか。

楠木：始まりは、私の追い詰められた気持ちだったんですけど、そこからほかの曲同様に登場人物を新たに立てて、ネットで音楽や作品を作り出している若者を想像したんです。

会ったことがない人とも簡単に知り合えるような世の中になり、いい子でいなければいけないというプレッシャーも大きいと思うんです。そのいい子が爆発した瞬間に気持ちがどこに向かうのかと考えたら自分なのかなって。全部自己嫌悪に行ってしまうのかなと思ったところから生まれた歌詞なんです。

――〈才能ない 個性ない 必要ない〉ですからね。

楠木：自分に対しての劣等感、才能ある人をすぐに見つけられるような世の中なので、そういう人たちと比べて自分なんか！と思ってしまう。だから「Forced Shutdown」にも繋がるんですけど、そこで閉ざさなかった人の末みたいな曲です。今の世の中に向き合った人の、これはこれで別の強みになるのかなって。

――最後に〈私そこにいないわ〉って言うじゃないですか。ここで開き直りのような感じもして、ちょっと爽快みたいな感じもしました。

楠木：これは自分も感じることなんですけど、SNSって顔を直接合わせるわけではないから、自分の偶像が独り歩きしている感じで、「これ誰だろう？」って。自分ということになっているけど、周りのイメージで作られた自分と自分が一致しないなみたいな瞬間があるんです。

周りから見るとそこにいる存在だけど、自分とそれが一致しないのであれば、そことは切り離しちゃっていいのかなと思って。アバターみたいに、形はあるけど私自身の気持ちや思想はそこにはいないという意味で、ちょっと尖っている歌詞にはなりました。

ですので、人のイメージに囚われすぎず、ちゃんと自分で自分を見つけて、自分で羽ばたきたいという前向きなイメージも込めています。「Forced Shutdown」と違い、そこに向き合える強さがある子なので、気は強い気もしますけど、この曲でもキャラクターが勝手に動いた感じはありました。

――ただ、メロディとアレンジも尖っていたので、ガツッとハマっているというか。

楠木：激しくしたいというのがまずあり、荒幡亮平さんはTVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』で繋がりがあって、そこで素敵だなと思っていたんです。

今回は若い子が主人公で、社会に足を踏み入れかけているイメージだったので、みずみずしい衝動的な部分と、洗練されたオトナっぽさの両方が混じった感じにしたかったので、ロックサウンドなんだけど、ちょっとジャズテイストがほしいですとお願いしたところ、ものすごくカッコいいアレンジが届いたので、何も言うことはなかったです。

――タイトルの「熾火」(おきび)は知っていた言葉なのですか？　調べてみたらぴったりな印象でしたが。

楠木：父に歌詞を見せて、「タイトルが全然思いつかない」と相談したときに父が出してくれた父の好きな単語なんです。意味を聞いても、炭の内側で炎をあげずにオレンジで燃えている部分のことだったので、内に秘めた熱いものがあるこのキャラクターとも重なり、採用させて頂きました。父はボキャブラリー豊富なんです(笑)。

――改めてクリエイターに響く楽曲でした。誰もが周りと比べて感じることですからね。

楠木：もともと自分の気持ちから生まれた歌詞なので、私もこういう気持ちになるし、自分の気持ちにいちばん近い曲かもしれません。だからこそ、これをライブで歌ったときに嫌味に聴こえるようになったら、ステップアップしたことになるのかなって思います(笑)。

――そんなこと思ってないだろ！みたいな(笑)。でもずっともがいていてほしいですが(笑)。そして、すでに発表している「タルヒ」が本当に素晴らしい曲で、歌詞もメロディもアレンジも、すべてが良いと思います。

楠木：EPの作業は最初に「タルヒ」に取り掛かり、1番を書いて、その後が書けなくなったときに、先程の催促の連絡が来たんですよ(笑)。「タルヒ」が書けないと落ち込んでいるときに「進捗いかがですか？」が来て、「熾火」を作ったから、両曲とも振り切れたんですよね。

ガッときたマイナスな気持ちを「熾火」に、自分頑張っているなって温かい気持ちを全部「タルヒ」に乗せて、自分の中に存在する両方の主張が、2曲に込められたので良かったです。

――「タルヒ」は、実は難産だったんですね。

楠木：温かい曲が全然作れなかったのと、初めてテーマをちゃんと設けて書いていたので、なかなか最初はその環境に慣れなかったんです。2ndEPの直後で気持ちが切り替えられていなかったこともあったと思います。

でも、そのときに感じていた辛いなって感情に、自分で肯定してあげたいみたいな気持ちがそのまま「タルヒ」という曲になったのかなって。

――「タルヒ」という言葉もいいですよね。

楠木：冬のEPだったので冬のワードを調べていったときに、つららの垂氷という単語が出てきて、面白い言葉だと思ったんです。つららって温められて冷やされてを繰り返して大きくなるというのが、書きたい歌詞に重なる部分があると思ったし、つららという言葉に私は肯定的な要素を感じたんです。

さらに調べると、満ち足りる日のタルヒという意味も出てきて、同じ言葉で繋がりそうなものが出てきたと思い、テーマはこれにしようと思いました。

――完全に後者から生まれたワードかと思っていたので意外でした。でも、すごく肯定できる曲になって、はっきり言って名曲だと思います。

楠木：うれしいです。この曲も、実は「sketchbook」の主人公の曲なんです。絵を描く子がいて「タルヒ」のリリックビデオに恩師が出てきているんですけど、その恩師から受け取った手紙の内容というイメージでした。

「タルヒ」の歌詞自体は恩師の言葉なので、スッと、おとなっぽく寄り添ってくれるような。「あなたは大丈夫よ」ではなく「あなたなら大丈夫よ」って、信頼をしてくれているような、自分に自信が持てるニュアンスがある寄り添い方にできたらいいなと思って書いていました。

――自分が経験していないと言えないような言葉ですしね。そして、やぎぬまかなさんのアレンジも素晴らしくて。

楠木：これは編曲をお願いした段階で「私にお願いするということはシューゲイザーですか？」とやぎぬまさんに言われたので、「その通りです」と。その中でもドリームポップにしたいですという話をして、このアレンジが上がってきました。

でも、最初にデモを聴いたとき、少し温かい印象があったんです。もう少し冬要素を入れたいと思ったんですけど、聴いているうちに気に入ってきてしまって、そのまま本作業に入ってもらいました。今回のEPは、いろいろお願いはしているけど、細かいところはだいたいお任せしている印象があります。やっぱりアレンジャーさんの個性が出ていて面白いです。

――メロディや歌詞に、十分楠木さんらしさがあるので、良いと思います。「sketchbook」と「タルヒ」を続けて聴くと、開けた感じがしていい流れになりますよね。「narrow」もそうですが、歌詞の物語が、実は繋がっているということは、もしかして［初回生産限定盤A］のBDに収録される朗読とライブを交互に行った『Tomori Kusunoki Story Live 「LOOM-ROOM #725 -ignore-」』から考えていたことだったのですか？

楠木：これまで公表はしていなかったですが、“LOOM-ROOM”が、登場人物をキャラクターとして掘り下げていくプロジェクトの第一弾であり、その後にオープンしたサイト“correlatlas.com”も、そういう動きを表しているものなんです。

「タルヒ」に関しても、「sketchbook」と同じ主人公かも？と気づいている人もいれば、微妙にビジュアルが違うかもしれないという人もいたので、聴く人によっていろいろな可能性が広がっていったらいいなと思います。

――考察がはかどるし正解もないというか。その人が想像したものが正解のような形になればいい気がしますね。そして年末にはライブも決定しました。

楠木：きっと皆さんの満足できるセットリストになると思います。配信ライブだと、配信ならではの演出を意識していましたが、メジャーデビューしてから、有観客でワンマンライブをするのは初めてになるので、今回は純粋にライブを楽しんでもらえるものにしようかなと思っています。私の音楽が好きな方は集まっていただけたらうれしいです。

［文・塚越淳一］

「narrow」CD情報

初回生産限定盤A

4,950円(税込)

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初回生産限定盤B

4,950円(税込)

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フォトブック盤

2,640円(税込)

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通常盤

1,650円(税込)

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特典

・アニメイト特典：アナザージャケット(アニメイト ver.)

※特典は無くなり次第、終了とさせて頂きます。ご了承下さい。

・封入特典：ライブチケット先行申込み用シリアルナンバーチラシ(初回)

※特典は無くなり次第、終了とさせて頂きます。ご了承下さい。
※初回仕様がなくなり次第終了とさせて頂きます。ご了承下さい。
※発売日が異なる商品やお取り寄せ商品とまとめ注文されると、出荷時点で初回仕様および初回特典をご用意することができない場合があります。ご注意ください。

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