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「色彩検定」アニメ配信記念|CloverWorks×山口つばさ×色彩検定鼎談

山口つばさ先生×CloverWorksのタッグで送る「色彩検定」アニメ、そのウラに迫る! 制作陣インタビュー模様をお届け

8月18日より、色に関する幅広い知識や技能を問う検定試験「色彩検定」を行う公益社団法人色彩検定協会(以下、色彩検定協会)から、2本のアニメ動画が公開されました。

それぞれ経歴の異なる2人の主人公が、「色彩検定」をキッカケに前向きに歩みだす姿を彩り豊かに描いたアニメとなっています。

キャラクター原案に漫画『ブルーピリオド』の山口つばさ先生を、アニメ制作に『約束のネバーランド』や『SPY×FAMILY』のCloverWorksを起用した豪華タッグによる制作が実現。

男性主人公を演じているのは山下大輝さん、女性主人公を演じているのは東山奈央さんというこちらも豪華声優陣にも注目です。

今回、アニメイトタイムズでは企画の仕掛け人である色彩検定協会、CloverWorksの色彩設定スタッフ、そして山口つばさ先生という様々な立場から「色」を扱うエキスパートたちにお話を伺いました。

また、インタビュー記念に出演声優の山下大輝さん&東山奈央さんのサイン入り色紙や色彩検定公式テキストが当たるプレゼントキャンペーンも実施します。

ぜひ、アニメ動画とあわせて最後までご覧ください!

色彩の楽しさをアニメ動画を通じて知ってもらいたい

──まずは皆さんがどのようなポジションで今回の動画制作に携わったのかをおうかがいできますか?

色彩検定協会・山中雄市さん(以下、山中さん):僕は今回の企画者とも言える立場です。色彩検定協会のひとりとして、皆さんに「こういうことをお願いしたい」と発注をさせていただきました。

山口つばさ先生(以下、山口先生):私はキャラクター原案を担当しています。『ブルーピリオド』を連載していることを受けて声をかけてくださったんだろうなとは思っていたので、『ブルーピリオド』の世界や、現実にいるかのようなキャラクターを描きたいなと思っていました。リアリティと漫画っぽさのワクワク感、どちらも大切にしたいと思っているので、そういう感じを出せたらいいなと。人に受け入れられやすいようなデザインにしたいと思っていました。

CloverWorks・山口舞さん(以下、山口さん):私は山口先生の原案を受けて、アニメ用に色を作っていく作業を担当しています。私の場合は、たくさんのスタッフさんにも着色作業をお願いしなければいけないので、キャラクター性が分かりやすいよう、色で表現する、というのも役割のひとつでした。

──では、本アニメ動画の制作に至った経緯や背景についておうかがいできますか?

山中さん:ここ5年くらい、色彩検定協会としてアニメやイラストに絡めた広告を打つことが非常に多かったんです。アニメやイラストの中で色彩は非常に大事な要素ですし、日本が誇る文化を大切にしたいという思いもありました。それに加えて、(色彩検定が)将来アニメやイラストの道に進まれることを考えられている方や、現役でお仕事されている方のお力になれたらと思っています。

私自身、(色彩検定協会の仕事を通して)アニメの影響力を肌で感じていたので、今回そのお力をお借りして、より多くの方に色彩の楽しさを知っていただけたらなということで、制作をお願いすることになりました。

──山口先生、山口さんは今回のお話をいただいたときにどのようにお感じになりましたか?

山口先生:私は出版社を通してご依頼をいただいたのですが、かねてより、色彩検定さんの存在は存じ上げていました。だからすごく光栄でした。

山口さん:私もCloverWorksのプロデューサーを通じてお話をいただきました。「アニメの色彩設計の経験者の方にお願いしたい」ということで。光栄なことだったので引き受けさせていただきました。

──山口先生とCloverWorksを起用された理由について、山中さんからお聞かせください。

山中さん:山口先生にお願いした理由からお話からすると、山口先生が手がけられている『ブルーピリオド』のアニメを拝見している中で、主人公の八虎くんの言葉に共感したことがきっかけです。八虎くんは、美術の世界に踏み込む前は特別な才能を持つ人だけが絵を描けると思っていた、と。でも実際に足を踏み入れてみると、そこにはいろいろな理屈があって、理詰めでも良い絵が描けるという考え方に変化していく。

山口先生:はい。

山中さん:それって、色彩検定でも同じことが言えるなと。デザインや色彩(感覚)って「センスがある人や才能がある人のもの」と考えられている方は非常に多いと思うんです。でも良い色使いにはルールがあって、それを把握することで、色を操る能力を身につけることができる。そういう部分でご理解していただけそうだなと思っていました。

山口先生:それこそ原作には色のお話も出てくるんです。アニメだと尺的な問題で説明しきれていない部分もあるので、ぜひ原作も読んでいただけたらと思います。

山中さん:CloverWorksさんに関しては、CloverWorksさんが手がけられている『約束のネバーランド』のアニメや『SPY×FAMILY』のPVを拝見している中でクオリティの高いアニメーション制作をされているなと思っていました。また、原作を生かした作品づくりをされているという印象もありました。山口先生のキャラクター原案を生かした制作をしてくださるのではないかと思い、CloverWorksさんにお願いしました。

──山口先生やCloverWorksさんに対して、こんな感じのキャラクターにしてほしい、こんなアニメーションにしてほしいといった具体的な指示はあったのでしょうか。

山中さん:男性主人公に関しては「おとなしい、落ち着いた雰囲気を出してほしい」と言った記憶があります。そのほうがストーリー的にハマるというか。就活に悩んでいる中で、色彩検定に出会って、そこから未来につながっていく……といったストーリーを思い描いていたので、最初から明るいとギャップが出ないのかなと。

──先にストーリーがあってからのオーダーだったのでしょうか?

山中さん:そうですね。ある程度設定があった上でオーダーしています。実際受検者の方は20歳前後の学生さんが多いんです。その次にお仕事をされている20代真ん中あたりの方が多くて。それで年齢設定を考えていきました。また、(『就活編』、『私の仕事編』と)2話作るということが決まっていたので、まったく別の世界線ではなく、どこかでふたりのつながりを出して欲しいというお願いもしていました。

──さきほど学生の受検者が多いというお話がありました。アニメイトタイムズにも学生や社会人の読者が多いのですが、学生さんは3級を受けられる方が多いのでしょうか。

山中さん:はじめて色に触れられる方、学生さんはまずは3級を受けられることが多い印象があります。3級のテキストでは、色の三属性である色相・明度・彩度や基本的な配色のテクニックなど、色彩の基礎を学ぶことができます。そこから積み上げられていく方が多いですね。

──色彩設計さんや漫画家になりたいという方は、どの級を目指せばいいのでしょうか。

山中さん:それは2級ですね。2級ではより高度な配色技法や、照明についてなど、より実践的な話が出てきます。そこまで勉強していただけると色に対する知識が養われるので、ある程度自分で配色を作れるようになります。

──では、実際に山口先生から上がってきたキャラ原案、CloverWorksさんが手がけられた色合いを見て感じたことを教えて下さい。

▲男性主人公キャラクター原案

▲男性主人公キャラクター原案

▲女性主人公キャラクター原案

▲女性主人公キャラクター原案

山中さん:率直に「山口先生ならではのキャラクターだな」と感じました。特に男性主人公は(『ブルーピリオド』の)世田介くんっぽい雰囲気があるなと。少し暗めだけど、まっすぐな感じ。(男性主人公の背負ってるリュックの文字を見て)これって先生が考えてくださったんですか?

山口先生:そうです。色彩検定のホームページを見て、大事にされていることなんだろうなと思って。

山中さん:ああ、そうだったんですね。ありがとうございます。それがすごくうれしかったです。女性主人公は、特に目が山口先生っぽい感じがしました。また、髪にはグラデーションを作っていただいて。これがアニメでどこまで反映できるか難しいかなとも思ったんですが、しっかりと反映していただいて良かったなと思っています。また、『ブルーピリオド』を拝見していても思ったのですが、先生が考えられるキャラって実際に街にいそうというか。

山口先生:うれしい。

山中さん:先日、この女性主人公にめっちゃそっくりな方を見かけたんです。親近感を覚えました。

山口先生:そうだったんですね(笑)。

──制作にあたり、苦労した点や意識した点について、見どころも交えてお聞かせください。

山口先生:男性主人公から言うと、今風と言うと語弊があるかもしれませんが、熱血キャラクターというよりかは、どこにでもいそうな男の子像を目指しました。きっと、これからいろんなことを身につけて、色のことを勉強しながら世界が広がっていく人なんだろうなと思ったので、あえて色味を抑えめにして、(女性主人公と)対比的な感じにしました。

もう一方の女性主人公は、優しい雰囲気を持ちつつも、芯が一本ある感じを目指していました。色味自体は抑えめなんですが、男性主人公との対比を考え、髪の毛のグラデーションなど、要所要所で印象に残る色を入れています。アニメーションとして描くのは難しいだろうなとも思っていたのですが、駄目なら駄目と言われるだろうなと(笑)。

山口さん:(笑)

山口先生:それで一度投げてみました。でも想像以上に美しくしてくださって、とてもうれしいです。

──ではCloverWorksさんはどのようなことを意識されながら、制作に取り組まれたのでしょうか。

山口さん:山口先生のイラストを見たときに、まさに今お話されていたキャラクター性をイメージしました。アニメで色が変わってしまうと、イメージが全然違うものになってしまう可能性があるので、キャラクター性を崩さないように、アニメの色に落とし込むことを意識していました。服装は一見地味なイメージがあるんですけど、小物はおしゃれなので、本当は芯が強く、おしゃれなんだけど、いろいろあって疲れてしまって地味な雰囲気になってしまっているのかなと。本編の絵コンテも見てキャラクターの性格も鑑みつつ、色を明るい感じにして、と考えていきました。

──男性主人公、女性主人公以外の他のキャラクターのデザインに関してはどうでしょうか?

山口さん:他のキャラクターに関しては、CloverWorksから提案させていただきました。『私の仕事編』にでてくるデザイナーさんのほうは自信満々なイメージがありました。普段から強めな印象なのかなと思い、自分では着ないかもしれないなというような明るめな服を着せて、おしゃれな雰囲気にしました。また、『就活編』にでてくる職場の先輩は「チャラくしてほしい」というオーダーが監督からあったので、髪の毛を明るめにして、少し考えながら作っていきました。

──キャラクターの性格を考えながら作られていったんですね。

山口さん:そうですね。このキャラクターだったらどうするかな……と、自分がキャラクターになりきりながら服装や髪、小物などの色を選んでいきました。

──特に注目してほしい部分はありますか?

山口さん:最初と最後で、気持ちが変わったときの色の違い、みたいなところでしょうか。スタートは地味な感じですけど、色の知識を得て、いろいろな可能性があることを知って、後半になって明るくなっていく。その段階に注目していただきたいな、と思っています。

──山中さん、山口先生にも、見どころやこだわったポイントをおうかがいできればと思うのですが、いかがでしょうか?

山中さん:色彩検定について勉強してくださっている方が「これって"色彩検定あるある"だな」「あの広告嘘じゃなかったんだな」と思ってくださるように、できるだけリアルさを追求しています。例えば、『就活編』の書店に駆け込むシーン。最初に(監督から)絵コンテをもらったときに「新宿駅で降りて」……と書いてあったので、新宿駅周辺で色彩検定の公式テキストを扱っている書店さんを調べたところ、いちばん大きなところが紀伊國屋書店さんでした。それで紀伊國屋書店新宿本店に実際に行ってもらって、リアルに見せられるように参考写真を撮ってきてもらいました。

『私の仕事編』で言うと勉強しているシーン。そこに、配色カード(日本色研 新配色カード)という、色彩検定でよく使うカードが登場します。演習問題をするときにカードを切り取って貼っていくんです。だから色彩検定を勉強している方は、この配色カードがガタガタになっているんです。そういった細かいところも再現しています。色彩検定をこれまで受けてくださった方たちにも「あるある」と思ってもらえるように、というのは意識しています。

山口先生:いまのお話を受けて……電車の中で人物のスケッチをすることがあるんです。そういう部分がリアリティにつながっていたらいいなと思いました。(現実のあるあるを入れ込むという)意図していらっしゃる部分と、(キャラクターデザインに込めた)コンセプトが繋がるデザインになっていたら良いなぁと。

──山口先生も八虎のように、電車の中でスケッチされることがあるんですね。

山口先生:はい、やっていました。あと、これは「CloverWorksさんがすごい」というお話になってしまうのですが、キャラクター原案は好きに描いて、雰囲気を作って、実際のアニメで動かすときの不都合とかはお任せしようと思っていたんです。でもさきほど、実際に上がったキャラクターデザインを見させてもらったときに「あれ、私が描いたんだっけ?CloverWorksさんが描いたんだっけ?」と思ってしまうほど、色味や雰囲気を調整してくださっていて。あと、稜線(立体を形どる境界線)と言いますか。影が切り替わるときの境界線に、差し色として青を入れてくださっていて。そこはアニメに反映されないだろうなと思いながら描いていた部分だったんです。そういった自分のクセっぽさも、アニメーションに落とし込めると思ったからこそ、こういう部分も採用してくださったんだろうなと。(インタビュー現時点ではまだアニメが完成していないので)、これからどうなるのかが楽しみになりました。

山口さん:今山口先生がおっしゃっていた、(差し色の表現は)普段アニメではやらないことなんです。なので初めての試みでした。キャラクター原案を見て、非常に面白かったのですがアニメでは表現が難しいかなと思っていたら、キャラクターデザインの方がその部分を再現してくれて。キャラクターの原案に沿って色も作れたので、面白いことができるな、とワクワクしました。

──新しいことってワクワクしますよね。

山口さん:そうなんです。アニメの場合はたくさんの方々が関わっているので、難しいところもあるのですが、そこは挑戦というか。やりがいもありました。

色彩のプロたちは普段の仕事の中で色をどのように扱っているのか?

──ここからは皆さんの普段のお仕事と色の関わりについて教えて下さい。普段の仕事の中でどのように色を扱っているか、お一人ずつおうかがいできればと思います。

山中さん:とにかく色のズレに気を遣いながら仕事をしています。とりわけ試験問題を作るときは神経を遣っていますね。少しでも色がズレると、正解が変わってしまうんです。「色について勉強しましょう」と言っている立場なのに、色がズレていたり、おかしかったりしたら、困惑させることになってしまう。せっかく時間とお金とやる気を使って勉強してくださっているのに、違うことを覚えさせるわけにはいかないので、公式テキストや試験用紙の印刷も色にこだわっています。

──色校正(印刷・製本に入る前に印刷会社から校正を出して、理想の発色や明度に近づける作業)に力を入れられているんですね。

山中さん:僕らの場合、色校正を何度も出してもらっているんです。美術品や絵画の写真集も出されている出版社にお願いしているので、担当の方がものすごくこだわってくださっています。

──それだけ色のプロが揃っているという。

山中さん:そうです。また、発色は良く、それでいて書き込みもしやすいようにと、使用する紙にもこだわってもらっています。

──山口先生はどうでしょうか。

山口先生:漫画の場合、基本的にはグレーが多くて。色を使うのって表紙やカラーのカットのみで、言ってしまえばサブ的なところに入ってくるので、言葉にするのは難しいところなのですが……率直に言うと、色に関しては苦手意識があるんです。

──意外です。

山口先生:自信を持って言える部分だと、漫画の中ではグレーの部分に気をつけるようにしています。デッサンをするときも、紙の上に(グレーの色味が)乗っているだけでも印象が変わるので、スクリーントーンを重ねるときも注意しています。例えば、ドットのトーンだけではなく、砂目のトーンや、実際に紙に描いてスキャンして水彩っぽくしたもの、時にはザラザラとしたブラシを使用して、単純に濃い色にするだけではなく、ニュアンスがどう変わるか気をつけています。それが色のことと言って良いのかはわからないのですが。

──でも色の明度自体も大切な要素ですよね。全色ではなく、グレーだけで表現しなければいけないから、職人技でもあると思います。

山口先生:なるほど。グレーって、単純に白と黒を混ぜるだけではなく、黄色と紫を混ぜてもグレーになるんですよね。そういう意識というか。黒と白の重なり方次第で、人間の受ける印象って変わると思うので、そこは気をつけるようにしています。

──山口さんはどうでしょうか。

山口さん:アニメの場合は、漫画・小説の表紙やカラーページなどの、元のイメージを崩さないことを意識しています。ただ、先ほど山口先生がおっしゃっていたように、漫画の場合は(通常のページが)グレーなので、表紙やカラーイラストがないという場合も多いです。そういった場合は原作者の方から「現場で色を決めていいですよ」とおっしゃっていただくことが多いので、そのキャラクターの性格を考えつつ「ピンクの服は着ないだろうな」「青はどうかなぁ」などと考えながら作っていきます。アニメの場合は絵を見て楽しむ方が多いので、色のイメージが違うと、作品に集中できなくなってしまう可能性もあります。それはあってはいけないので、作品を見ていて邪魔にならない感じといいますか、視聴者の方が違和感を抱かないような色選びをする、ということを意識しています。色が目立ちすぎてしまうと、映像を見ている人は疲れてしまうと思いますので。特に映画の場合は長時間見られるので、色が単調にならないようにしつつ、色で目を引くようなシーンも作るようにしています。

──今のお話と少し重なってしまうところがあるのですが、色を扱う際に気をつけていることはありますか?

山中さん:さきほどお話した印刷する色の正確さ、それとテキストにはエビデンスのある事だけを載せるようにしています。色は人によって見え方や感じ方が違うのが当たり前です。その中でもルールが定義されている事や、信頼できる調査や実験によって得られた結果があって、そういう内容だけしかテキストには載せないようにしています。例えば3級と2級では色の名前とその色見本を掲載していますが、これはJIS(日本産業規格)慣用色名として代表色が正確に決められている色のみを扱っています。また、テキストを作る際には専門家の先生や紙面作りのプロと何度もやり取りをして、より正確に内容が伝わるような表現を目指しています。

山口先生:自分よりも気をつけられている漫画家さんがたくさんいらっしゃるので、あまり強くは言えないのですが……原稿の話をするとしたら、さきほど話したグレースケールのバランス感という感じですね。カラーの場合は、デザイナーさんが入ることがあるので、そこで調整してくれるんです。だから好き勝手描いているところはあります。私はカラー原稿はアナログで描いているんですが、蛍光色は普通にスキャンすると出ないんです。「あとでなんとかしてくれるだろう!」とめちゃくちゃ使っていますね(笑)。

山口さん:私もさきほどの話の延長線上になるのですが、監督や演出家さんから「こういうふうにして欲しい」というオーダーを受けることがあるので、その期待に答えられるように、普段からイラストを見たり、景色を見るようにしたりしています。以前「夕方に、ビルなどの反射で地面の色が浮いて見えるときがある」というお話をうかがったことがあり、見に行ったことがあります。やはり実物を見ることも大切だなと思いました。

──色選びで難しいところや気をつけていることをうかがいましたが、逆に色選びの楽しさはどんなところにあると思いますか? 

山中さん:色彩検定協会の人間が言ってしまうのもどうかと思うんですが……自由に選べるところが色の魅力だと思っています。さきほど色名のお話をしましたが、色は無限大にあるので、色名は自分で作ってしまっても問題ないんですよね。それと同じく、色の組み合わせも自由に考えて良いものだと思っています。それが楽しいところなんじゃないかなと。実際、色彩の先生方は「好きに名前を付けちゃって良いんだよ」と口を揃えておっしゃるんですよ。その中である程度色の理屈を理解していると、より良い色選びができるんじゃないかなと思います。

山口先生:ずっとモノクロで描いているので、色を使うと「わ~楽しい!」って思います。逆もあるんですけどね(笑)。カラーで楽しいのは遊びのような部分を入れられること。今回のキャラクターの境界線の部分に入れた色もそうです。白黒でやるときもできるんですけど、より遊び感が出るというか。絵だからこそできる仕草にもつながりやすいのが色なのかなと思っています。

──逆もあるということでしたが、カラー原稿が続くと、モノクロ原稿に戻りたくなることもあるんですか?

山口先生:そうですね。カラー原稿を書き続けていると、自分が何色を描いているか分からなくなってしまうことがあって(笑)。あと色は自然光や(照明の)光によって見え方が変わるんですよね。自分も外が暗くなると、色が分からなくなってしまうことがあります。だから日が出ているうちにしかカラーができないんです。夜中にカラー原稿を描くと、朝見て「全然違う!」と驚くことがあります。そのあたりは白黒と違って気をつけなきゃいけないところだなと思っています。

──山口さんは色選びの楽しさについて、どのような場面で感じられますか?

山口さん:アニメーターさんから、「こういうイメージにしてほしい」と伝えられることがあるので、それを考えながら色を選ぶのは楽しいです。また、社内で他の人が色彩設計をやられたときに、自分とは全然違った色味で上がってくることがあって。アニメ業界はいろいろな方たちがいるので、自分とは違う色選びがされたものを見られることも、楽しさのひとつです。

おすすめの色彩勉強方法は?

──山口先生と山口さんにおうかがいしたいのですが、そもそもお二人は色彩についてどのように勉強されたのでしょうか?

山口さん:私はアニメの専門学校に通っていたので、学生のときも学びました。私が通っていたときは学校では色だけの授業というのはなかったので、独学に近い感じですが。学生のときは色選びが得意ではなかったので、会社に入ってから学んだことも多いです。

──独学というのは、例えばどういうところから知識を得られていたのでしょうか。

山口さん:アニメではいろいろな色が使われており、特にオープニング、エンディングは変わった配色が使われることが多いので、アニメのオープニングをひたすら見て真似していました。そういったことをやりつつ、自分の好きな色を確立していく……といったことをしていました。

──山口さんのお好きな色というのは?

山口さん:私自身はパステル系の色が好きです。「自由に塗って良い」となるとパステル系の色を選んでしまうのですが、アニメ的にはあまり映えないことが多いので、仕事のときはイメージに外れない色選びを重点的に意識しています。

──山口先生はいかがですか?

山口先生:最初に学んだのは……小さいころに絵画教室に通っていたんです。そこで絵の具セットを買ったんですが、赤・黄・青・白のみを使うというのがその絵画教室の方針でした。「赤・黄・青・白を混ぜればいろいろな色が作れるから」と。当時はそんなことができると思っていなかったので、「青と黄色を混ぜたら緑になるし、青と黄色と赤を混ぜたら茶色になるし、そこに青を多くすると黒っぽくなるんだ!」とすごく驚いて。混色の面白さをそこで学んだ感じでした。でも苦手意識はあるんですけどね(苦笑)。

──そこはおふたりとも(笑)。山口先生は東京藝術大学在学中に、色の授業というのはあったのでしょうか。

山口先生:色のことももちろん学びましたけど、感覚的に色を選ぶのが巧い人がたくさんいたので「あれに比べるとな」と。それであまり自信がないんですよね。(私も山口さんと同じく)漫画家になってから、人のイラストを見たことなどで学んだところもあります。

──おふたりとも、お仕事をされてからのご経験というのが大きいんですね。

山口先生&山口さん:そうですね。

──最近YouTubeや『ブルーピリオド』の影響から、絵に興味を持っている方が老若男女問わず増えている印象があります。実際、筆者の身の回りにも『ブルーピリオド』を読んで、美大に行くことを決心し進路を変えた子どもがいます。モチーフにもよると思うのですが、初心者でも分かりやすい色の選び方はありますか?

山口先生:それくらい自分のものにしてくださったのはうれしいです。「大丈夫かな」という気持ちもありますが(笑)。コツは、どうでしょうね。あくまで私の感覚なのですが……今って皆さんスマホを持っていて、写真を撮る機会が多いじゃないですか。例えば、Instagramの場合は、フィルターの色味は決まってしまっていますけど、その中でどんな色を選ぶか、というのも面白いんじゃないかなって。

最近、美容の世界でイエベ、ブルベ、とかもあるじゃないですか。本当にそれが正しいかどうかという話は置いておいて、解像度を高く色味のバランスを見た上で考えられていると思うんですよね。そういう感じで、絵以外のものもたくさん見る機会も多いと思うんです。自分がどれが好きか、どういう人の完成度の方向が好きか、考えてみるのも良いんじゃないかなと。それこそ、気になった写真をスクショして保存していけば、カメラロールがスクラップブックのようになると思うんですよね。気にしようと思えば、いくらでも色選びってよくなっていくのかなと思います。

山口さん:まさに私もお気に入りの画像、イラストを集めていました。そうすると自分の好きな色が集まりがちなんですよね。「青系が好きだな」と思ったときは、青系でまとめて、それをマネして青系のイラストを描いて。そこからバランスを見て「差し色を入れたら面白いかも」って、色を加えていきました。答えになっているかはわからないのですが、自分の好きな色から広げていくのが分かりやすいのかなと思います。

──好きな色からチャレンジしていくというのもひとつの手ですね。山中さんから初心者に色選びをアドバイスするとしたらどうですか?

山中さん:色相とトーンの考え方さえ覚えれば、色を選びやすくなるんじゃないかなと。色彩検定のテキストにも掲載されている内容でいうと、例えば「トーンオントーン」という考え方があります。私の今日の格好もそれを意識しているのですが、同じ色相でまとめて、明度差で変化をつけています。そういう風に色相とトーンに落とし込む意識をすれば、一見複雑に見える色をわかりやすくとらえることができるんじゃないかと。

──知識を得たり、理解を深めたりすることで、色を選びやすくなるということですね。色選びにおける色彩検定の役割についてもおうかがいしたいのですがいかがでしょうか。

山中さん:色彩を専門に扱った書籍は意外と少ないんです。あったとしても、大学の講義で配られるような難解なもので、読むには少しハードルが高い印象があります。色彩検定のテキストは、誰でも分かりやすいように図版もいっぱい使ってまとめているので、受検までいかずとも、参考書としてテキストを使ってもらえたらうれしいなといつも思っています。これから色の勉強をしたいという方が読むと、色の見方、解像度が上がると思います。Twitterなどを見ていると「色彩検定を勉強してまわりの見え方が変わった」という声があって。日常生活でも役立てていただけるのではないかなと思っています。

また、既にデザインのお仕事をされていたり、色に携わっていたりする場合は「勘や経験に頼っている」という方も多いと思うんです。それを言語化できるようになるというか。さきほど山口舞さんがおっしゃっていましたが、お仕事にはいろいろな方が携わるので、共通言語があったほうが分かりやすいんじゃないかなと思います。例えば「この色を濃くして」と指示したときに、明度を落とすのか、彩度を下げるのか……人によって変わると思うんです。それを「彩度はこれくらい下げて、明度はこれくらい上げてね」って具体的にお話できるようになると、スムーズにお仕事を進めていただけるようになると思うので、知識を確認しなおす形で使ってもらえたらすごくうれしいです。

──実際にお仕事をされている方はもちろん、そうではない方も色の知識を得ることで日常生活に彩りが出るというか。

山中さん:そうですね。例えば普段の服選びも見方が変わると思います。見方が変わる、ってすごく大切なことだと思うんです。色彩検定をきっかけに変わってもらえたらうれしいです。

──今回のお仕事を経て、皆さんの中で新しく得た発見や気付きはありましたか?

山口さん:さきほどした話と被ってしまうのですが、差し色を入れる表現が初めてだったので、すごく楽しかったです。差し色は絵を動かすにあたって、バランスをとるのが難しいことが多いのですが、今回はうまく表現できたと思うので、注目してほしいです。

山口先生:これを描いた上で、という話とは少し違うかもしれませんが……『ブルーピリオド』でアニメ化をしてもらったときとは別の形でキャラデザや色彩設定ができて。関わる人が変わると、汲み取ってくださる部分も変わるんだなという面白さがありました。また、色彩検定の方たちがどういう思いで作られているか、そういった目的意識を知れたこともすごく面白いなと思いました。

──現場によって違いがあるんですね。

山口先生:違いましたね。この差し色は汲み取ってもらうつもりで描いてなかったんです。それを汲み取ってもらえたことはうれしかったですね。

──最後に、動画に対するコメントをいただけたらと思います。

山中さん:豪華なメンバーでこういった短編動画を作らせてもらうのは初めての試みです。今動画は制作中なのですが、とても良いものになると思います。細かいディティールもぜひ楽しんでいただければと。本当に私からは(お二人に対して)ありがとうございました、という言葉しかないです。

山口先生:まだ本編が完成していないので動画に関してはまだなんとも言えないところなのですが、私は美大に行っていたので、すごく身近な内容に感じています。そこに携われたことがうれしいですし、そういう(色彩を勉強されている)人たちが描かれるアニメーション自体が興味深く面白いです。(制作チームで)多くのすり合わせがあったわけではないのですが、携わった方たちが同じ方向を見て作っていったような感覚がありました。お勉強的な部分だけじゃなく、自分の視野が広がるツールのひとつとして、楽しんでもらえるようにと皆さんが作っていったんじゃないかと思っています。

山口さん:絶賛作業中なのですが、良いものを作る予定です。それを見て、色彩検定やアニメ、色彩に興味を持って、なにかにチャレンジするきっかけを与えられるような作品になればいいなと思っています。

[編集・二城利月、取材・文:逆井マリ]

インタビュー参加者プロフィール

山口 つばさ
東京都出身。東京藝術大学絵画科油画専攻卒業後、アフタヌーン四季賞2014年夏のコンテストで佳作受賞。
2016年に新海誠監督の作品『彼女と彼女の猫』のコミカライズでデビュー。
2017年6月から「月刊アフタヌーン」で『ブルーピリオド』を連載中。

 
山口 舞
CloverWorks所属。
『その着せ替え人形は恋をする』で初めてTVシリーズの色彩設計を務める。
おもな参加作に、『くノ一ツバキの胸の内(色彩設計)』『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-(仕上げ検査)』などがある。
 

山中 雄市
色彩検定協会の広報担当。大阪府出身。
筋トレとモノクロ写真が好き。

サイン色紙&色彩検定公式テキストプレゼントキャンペーン実施

アニメ動画公開を記念して、作品に出演する山下大輝さんと東山奈央さんのサイン色紙と色彩検定公式テキスト(計4冊)のセットを、抽選で5名様へプレゼント!!

キャンペーン概要
期間:2022年8月25日(木)12:00 ~ 2022年8月31日(水)23:59
景品:・声優2名のサイン入り色紙
   ・色彩検定公式テキスト4冊セット
当選人数:5名様

応募方法
①『色彩検定協会』公式(@shikisai_kentei)のTwitterアカウントをフォロー
②『アニメイトタイムズ』公式(@animatetimes)のTwitterアカウントをフォロー
③キャンペーンの投稿をリツイートして応募完了!!

結果発表
当選者には『アニメイトタイムズ』公式Twitterアカウントより、DM(ダイレクトメール)にてご連絡をさせていただきます。
なお、当選発表は、上記のご連絡で以て代えさせて頂きます。

応募規約
・本キャンペーンへの応募は、応募方法に基づいた投稿がなされた時点で、本ページに記載の各内容及び応募規約に同意したものとします。
・抽選対象は、お1人様1回応募として扱います。(同一アカウントから複数回、または、複数のアカウントからの応募があったとしても、お1人様1回の応募として取り扱います。同一の方が複数当選した場合は、片方を取り消させて頂く場合があります。)
・景品の発送先は、日本国内の住所に限ります。
・景品の交換・返却・修理などはお受けできません。
・当選資格を第三者に譲渡・売却することはできません。
・景品を第三者に譲渡・売却することはできません。
・株式会社アニメイト(以下、当社)は、応募者の個人情報を、当社のプライバシーポリシーに基づき取り扱うものとします。
・当選した賞品の配送は弊社指定の運送業者からお送りいたします。
・商品の発送後、景品の受け取りができない場合は当選無効となります。
・リツイートの状況(コメント内容・アカウント名を含む)が以下に該当する場合は、抽選の対象外となる場合があります。また、当選後に以下に該当する事由が認められた場合は、通告なく当選を取り消させて頂く場合があります。
・本キャンペーン期間中から賞品配送完了までの間において鍵付きのアカウントまたは凍結などの理由で連絡が取れなくなったアカウントより応募があったもの
・本キャンペーン期間中から賞品配送完了までの間において応募条件を満たさなくなったアカウントより投稿されたもの
・その他、当社とDMによる必要十分な連絡が取れないアカウントにより投稿されたもの
・当社が指定した本キャンペーンの応募期間外(本記事、および別途Twitter等での応募告知による)に投稿されたもの
・当社に提供した情報に虚偽又は誤りがあるもの
・本応募規約に反するもの
・その他、当社が適切ではないと判断するもの

免責事項
・サイン色紙の裏面には転売防止のため当選者様のお名前をスタッフにて記載致します、ご了承ください。
・本キャンペーンは、事前に何らの通告なく、延期・休止・中止する場合があります。
・当社は、本キャンペーンの延期・休止・中止を含めた、いかなる原因による、結果的損害、付随的損害、直接的損害、間接的損害を問わず、この一切を免責されるものとします。
・応募者は、自己の負担と責任において本キャンペーンに応募するものとします。
・本キャンペーンへの応募に関して第三者との間に何らかの問題や紛争が生じた場合は、応募者本人の責任と負担にて解決することとし、当社は、その原因及び当事者の如何に依らず、ないし結果的損害、付随的損害、直接的損害、間接的損害を問わず、この一切を免責されるものとします。
・本応募規約並びに応募要項に定める当社の免責規定については、その損害発生に直接的に起因する事由が当社の故意または重過失による場合には適用しないものとします。

ショートアニメ「色を知るたび、世界が広くなる」特設サイト

色彩検定協会公式HP

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