“誰かを肯定できる力”を贈りたい。今欲しい言葉を詰め込んだ、伊藤美来さんの4枚目のアルバム「This One's for You」インタビュー

みっくの吸う息から始まる4thアルバム。それぞれの曲に込められた“ギフト”

──アルバムは“ギフト”がテーマになっているということですが。

伊藤：タイトルが『This One's for You』で、テーマが“ギフト”になるんですけど、アルバムを作るにあたって、どんなテーマにしようかと考えているとき、私が今一番欲しいものは何だろうと考えたんです。そこで、今私が欲しいのは、優しい言葉だと思ったんですね。「あなたは大丈夫だよ」「そのままでいいよ」と言ってもらいたいなと思ったので、そういう「誰かを肯定できる力」を届けられるアルバムを作りたいなと思って、“ギフト”というテーマはどうですかと提案しました。

それに“ギフト”には、天賦の才能という意味もあって、そこから紐付けていって、自分自身が持っているものは、すでに与えられている“ギフト”だし、絶対に誰かに感情とか何かを届けられているはずなんですよね。それに私自身もいろいろなものをもらっている。みんながそれぞれ、もらう側であり届ける側でもあるよねっていう意味になればいいのかなと思いました。

──才能という意味ですと、人それぞれ、誰しもが持っているものですからね。

伊藤：それを見つけられないという人がほとんどなのかなって思うんですよ。私自身もそうですし。でも、小さなことでも自分を認めてあげられるような“ギフト”になればいいのかなと思って、アルバムを作っていました。

──自分の良さって、自分では気づかないかもしれないですね。

伊藤：自分では一生見つけられないかもしれない（笑）。あなた、これがいいよ！と言われて初めて気づくことなのかもしれないですね。これが自分は得意なのかもって。

──伊藤さんは、特徴的な声だと思っていますよ。

伊藤：えー！　うれしいです！　ありがとうございます。そうだったらいいな……。

──歌にせよ、声にせよ、すぐに誰だかわかるのはすごい才能だと思うんですよね。

伊藤：確かに特徴があると言ってもらうことは多いですね。でも実は自分ではあまり意識したことがなくて、声に関しても、友達に特徴的だねって言われたこともなかったんですよ。だから声優になれると思っていなかったというか。声優になりたいからオーディションにチャレンジしたんですけど。

今は、すぐに誰の声かわかるって言ってもらえます。私もそれはポジティブな意味で捉えていますし、嬉しいです。でも声優をやられている方は皆さん、声の才能を持ち合わせた上で、プラスαで輝くものがある人が多いのだろうなって思っています。

──ちなみに、他に「これは才能かも」って思うことはありますか？

伊藤：え……何だろう。協調性？はあるかもしれないです。あると信じて生きてます（笑）。

──どういう場面で感じるのですか？

伊藤：合わせたいとかではなく、わりと何でも受け入れられるんですよ。たとえば「これ食べたい！」「これしよう！」って言われても「いいよ！」みたいな。どれでも楽しめちゃうんです。

──それは才能かもしれない。ではアルバムの話ですが、今回もいろんな楽曲というギフトをいただいたとは思うのですが、1曲目の「laid back」は、シングル「パスタ」のカップリング曲でもある「傘の中でキスして」の栗山健太さんと田中ひなのさんによる楽曲で、恋愛寄りの歌詞で、おしゃれサウンドが印象的でした。

伊藤：本当におしゃれサウンドですよね。この曲が1曲目に来るのが、アルバムにとってもすごく意味があるなと思いました。

ディレクターさんが「今回のアルバムは、みっくの吸う息から始めたい」と言ってくれたのが最初だったんです。『This One's for You』というタイトルやジャケットを見ると、パーン！と賑やかに始まりそうな雰囲気を醸し出しているんですけど（笑）、1曲目はあえてしっかり、歌詞と音がスッと入ってくるメロディ感の曲にしているんです。

ここでアルバムを聴く準備というか、こういう感じでこの作品を聴けばいいんだと感じ取ってもらえるような始まりになったんじゃないかなと思います。

──ボーカルも、ものすごくリラックスした歌声ですよね。

伊藤：これを歌うときは座って歌っていたんですけど、近さというか、距離感みたいなものはすごく意識していて、語りかけるように、私の声でしゃべっているくらい自然なところで出る声質にしています。だから、ずっとふにゃんとなりながら歌っていました（笑）。

──素敵なアレンジはどうでしたか？

伊藤：大人っぽくていいですよね。おしゃれで楽器もすごく近い感じがしました。しかもすごく豪華に感じたので、そこも1曲目としていいなと思っています。

──いつも生楽器の音にこだわっていると思うんですけど、いつか生バンドでのライブも観てみたいです。

伊藤：いつかバンドでライブができるよう、もっとビッグにならなければいけないですね！（笑）　でも、そのくらい毎回音作りはこだわって、豪華にしてもらっています！

──2曲目の「ユニットバス」は、声もがらっと変わって、切ない成分を出しながらもフラットな感じで歌っているなと思いました。

伊藤：これは作詞・作曲をしてくれているゆいにしおさんと話をして、「感情を入れるというよりも、諦めて淡々としている女性の気持ちで歌ってほしい」と言っていただいたので、淡々とした感じを意識して歌っています。そのほうが聴いている側としては感情的になるというか、余計に切なくなったりすると思うので。

──終わりが、カセットテープが止まるような感じになっていたのは？

伊藤：なんかリセットされているような感じというか。これが現在進行系の話なのか、過去のことを思い出しているのか、受け取る側によっても違うと思うんですけど、カチッと止まったことで思い出を一旦しまう、みたいな雰囲気が出ていると思うんです。終わらせてまた次に行くみたいな。このあたりは、女子のカラッとしたところがちょっと感じられるのかなって思います。

──別れの曲だけど、男性からすると、なかなかドキッとする歌詞ですしね。

伊藤：長年一緒にいたりすると、こういうこともあるのかなって。女性に限らず男性にとっても、こういう別れはツラいことだけど、それも最終的には自分を成長させる“ギフト”になっているという曲ですね。

──ちなみにゆいさんは、どんな方なのですか？

伊藤：私より年下なんですけど、すごく大人っぽいんですよ。この歌詞を見ていただければわかるんですけど、すごく大人っぽい歌詞を書かれるし、見た目も大人だし、しゃべっていてもしっかりしている。そして、おいしい“めんべい”（明太子風味のおせんべい）を差し入れてくれました。

──もう伊藤さんより若い世代が出てきているんですね。

伊藤：もうキラキラしていて、才能しかないんですよ！　このあとの「気づかない?気づきたくない?」を作ってくれた竹内アンナちゃんも年下ですし、才能の塊だ！って驚きます。年下の女の子に曲も詞も書いてもらったので、それをしっかり表現せねば！と思っていました。いやぁでも、未来は明るいですよね（笑）。

──「気づかない?気づきたくない?」はライブでも披露しましたけど、カッコ良かったですよね。

伊藤：曲がまずカッコいいんですよ！　それでいて歌詞はとってもかわいい女の子の気持ちが散りばめられている。ラップ部分では韻を踏んでいたり、アンナちゃん節がギュッと詰まった楽曲なので、ライブで歌ったときは、すごく気持ちが良かったです。ラップはあまり歌ったことがないんですけど、歌えているような気持ちになっていました（笑）。ライブでやると気分が上がる曲ですね！

──英語のラップから入って、日本語になっていきますけど、全部英語ラップの曲も聴いてみたいです。

伊藤：実はその案もあって、いつかやらされるんじゃないかと思っています（笑）。

──4曲目の「Oh my heart」も英語が多い曲ですが、こちらは力強く歌っていましたね。

伊藤：この曲のほうが言葉が詰まっていますね。レコーディングでは、ディレクターさんに「とにかくセンス！」と言われていたんですよ（笑）。自分が思うカッコよさ、この歌詞にある強い気持ち、負けない気持ちを出そうと思って歌っていたと思います。

──そこが、アタック強めの声に込められていたんですね。

伊藤：そうかもしれません。誰かを引っ張ってあげられるようなイメージで歌ってほしいというのがあったので、私の出せるカッコ良さ、リズム感を意識して歌いました。