3ページ目：ReoNaが日本武道館という約束の場所での“一対一”を振り返って今、想うこと／インタビュー

――「メメント・モリ」は毛蟹さんによるもの。毛蟹さんならではの曲で、どこか「怪物の詩」を彷彿させますが、その進化系と言いますか。そういったものも感じさせます。

ReoNa：全編（作詞・作曲・編曲）毛蟹さんによる楽曲は今までもいろいろなタイミングでお届けしていて。「怪物の詩」もそうですし「まっさら」だったり『月姫 -A piece of blue glass moon- THEME SONG E.P.』の楽曲だったり。その未来で、絶望系アニソンシンガーとしての原点であり、今だからこそ紡げるものがこの「メメント・モリ」です。

――＜空っぽな奥真ん中　息をしてる　それでもまだ真ん中　息をしてる＞という言葉には、「ANIMA」を通してReoNaさんが知ったという毛蟹さんの“魂観”のようなものも込められているような気がしました。

ReoNa：毛蟹さんにとっての生命に対する想いが、生きるものが＜やがて土に還るもの＞であることを忘れるな、というまっすぐなんだけど、まっすぐじゃないメッセージにつながっている気がします。

――個人的には「メメント・モリ」はライブで早く聴いてみたいです。冒頭の音もどうやって表現されるんだろう、と想像が膨らみます。

ReoNa：ぜひ楽しみにしていただきたいです。ReoNaのバンドのことだから、ライブで変化していくんだろうなと思っています。ただ音源に関しては毛蟹さんがプレイヤーとしても参加してくださっていますし、この音源にしかない雰囲気もあるんだろうなと。だからこそライブでは違った聴こえ方になるんじゃないかなと。

――マニピュレーターの篠﨑恭一さんがどこまでいじるのかも気になります。

――話がそれてしまいますが、篠﨑さんは表には出ないものの、ReoNaバンドの重要人物ですよね。

ReoNa：間違いなく、ReoNaのバンドのひとりです。篠﨑さんがいないと出ない音って山程あるんです。実はイントロのタイミングは篠﨑さんが図ることが多いんです。アコースティックライブのときは荒幡さん、CO-Kさん（”高慶”CO-K”卓史”）、ぐっさん（山口隆志）スタートもあるんですけど、ワンマンライブで音源通り歌わせていただくときは、呼吸のタイミングを見計らって音を出してくださっています。

――あの瞬間はとても緊張感があると思います。とても重要な役割を……。

記憶も命の形

――「SACRA」は澤野弘之さんが作曲・編曲を。作詞はcAnONさんで、「time」と同じクリエイターチームで作られた楽曲です。曲をいただいたときはどのような印象がありましたか。

ReoNa：今までのReoNaの楽曲になかったものをいただいたなという印象です。澤野弘之さんの持つ音色は幅広くあるので、受け取る前に想像をしていたんです。「澤野弘之さんとご一緒したらどんな音楽ができるんだろう」とわくわくしていました。実際に受け取った「SACRA」は儚く美しく、でも突き抜けるような力強さがあるお歌で。澤野弘之さんの中でもReoNaのことを考えてくださったのかなと感じました。

――ピアノの旋律からはじまるドラマティックな展開で、ReoNaさんならではの曲になっているなと思いました。私はラストの「VITA」から「HUMAN」にどうしても戻りたくなってしまうんです。

ReoNa：それはうれしいです。「VITA」と「HUMAN」は命のお歌で。さきほど「メメント・モリ」のときにお話した、命と器のイメージの中で……『ソードアート・オンライン Last Recollection』のお歌であり、ReoNaとしても紡ぎ続けてきた命の話でもあり。この楽曲を作っている中でイメージをしていたのが「2023年の春にリリースされるお歌」であるということでした。

はじめてお届けするのは日本武道館になるのか、と。不思議な感覚でした。ライブのことも考えながら、でもアルバムがリリースされるのはライブのあとなので、ライブのあとに受け取る曲でもあるので。

――日本武道館での「VITA」はそれこそ記憶に深く刻まれています。命の話というのは、さきほどおっしゃっていた通りずっと紡ぎ続けられてきたもので。「SWEET HURT」の取材のときに「私にとっての＜命＞は時間」とおっしゃっていました。そこの概念は今も変わらずですか。

ReoNa：変わらないです。ライブという空間も、人から時間という命をもらっている場所だと思っていて。自分自身にとっては、命は「残り時間」という感覚もあります。でも記憶も命の形だなと思っています。それと、「ないない」「シャル・ウィ・ダンス？」など、他者と触れ合うことでできる自分の形みたいなものも、命という言葉に紐付いてくるなと。

少し話がそれてしまいますが、小さい頃「人って死んだらどこに行くんだろう？」とよく考えていたんです。

――私も考えていました。そして今も考えることがあります。

ReoNa：考えますよね。＜世界が終わるのと　自分が死ぬのと　何が違うの？＞という言葉は『Last Recollection』の登場人物のドロシーちゃんのキーワードとなる部分でもあるのですが……

眠っているときは意識がないから、意識がない状態が続くんだろうな、でもその意識がないことすら分からない状態なのかな、とか、そういうことをよく考えていました。そう思ったときに、自分が世界を認識・観測できなくなるって、まさに「VITA」の歌い出しの＜世界が終わるのと　自分が死ぬのと　何が違うの？＞というか。それって私が死んだら私にとっての世界が終わってしまうから、その先では誰が見届けてくれるんだろう？というか。そのときは、自分という存在がなかったことになるのが怖かったんです。

小さいころに考えていた「死ってなんだろう」「命ってなんだろう」「私ってなんだろう」といったものを、「VITA」の中で描いています。でも私が死んでも存在自体はないことにならないんだろうな、とは今は思えます。

――＜あなたの中に生きるなら＞、お歌も、想いもつながっていく。

ReoNa：自分自身が息絶えたあとだけではなく、今まで歩んできた中であった悲しい別れに対しても、その人の記憶は私の中にも在り続けているし、その人が作ったものも、つなげてくれた人も残り続けていく。それはすごくすごく思います。そういう意味でも、「VITA」は人間に寄り添った曲になったんじゃないかなと思います。そして……まだ私は、終われないので。

――その決意も含め、タイアップ曲でありながらも『HUMAN』というアルバムにも、そして日本武道館のステージにもぴったりの曲になりましたね。

まだまだ一対一の正解ってあると思うんです

――日本武道館の話に戻ってしまうのですが、私はまだ空間からログアウトしていないんですよね。

――本当に現時点でのベスト・アルバムのような濃密なステージでしたから。

ReoNa：そうですね。そこはセットリストを組む時に考えていたところで。それと同時に未来への期待も残したいなと思っていました。

――最新曲はもちろん、ラストの「Rea(s)oN」の＜それでもね、届くまで伝えたいよ＞という決意が滲んでいた言葉は未来への約束にもなったなと思っています。

ReoNa：「Rea(s)oN」で終わるということを考えるとリハーサル中もずっと緊張していました。この5年間ずっと一緒に歩んできた「Rea(s)oN」というお歌にはとても想い入れがあって。弾ききる、歌いきるところまでをちゃんとReoNaとして全うしないといけないという思いもありました。

――緊張しますよね。ちょっと余談になってしまうのですが、とても緊張するであろう空間だったはずなのに、ReoNaさんが堂々とあの空間を楽しまれていたのも印象的だったんです。でも当たり前ですけど……緊張はしますよね。

ReoNa：緊張しています。でもステージに立つ身としては、その日の大切な時間を私に預けてくださった以上、私の裏側とは関係なく、その日、最大限できるかぎりのことを最初から最後まで余すこと無くお伝えしたいと思っているので。これからもっともっと、緊張を感じさせられなくなればいいなと思っています。

――あれだけの人数を一対一に引き込むことって生半可な覚悟ではできないことで、いつもステージにいるReoNaを見ると背負っているものの大きさも感じさせます。

ReoNa：でもまだ……まだ、まだ、一対一の正解ってあると思うんです。楽曲が作ってくれるのか、私自身の成長の先にあるのかはわからないですけど、一対一という言葉をもっと本当にしていきたいなという気持ちがあります。

――それは今年やるであろういろいろなライブでそれは実現されていくんだろうなと。

ReoNa：「ReoNa ONE-MAN Concert Tour 2023 “HUMAN”」が控えているので。人生で2回目のアルバムツアー。実はライブでお届けしていない楽曲が『HUMAN』の中だけでもたくさんあるんです。私自身も、生のサウンドでこのお歌たちを紡げることが楽しみですし、皆さんの「楽しみ」に応えられるステージができたらいいなと思っています。

NHKみんなのうた、さらに“HUMAN”ツアーも

――“HUMAN”ツアーでは、Bandのメンバーが引き続き参加されるのでしょうか？

ReoNa：そうですね。基本的には同じメンバーなのですが、実は日によって“はじめまして”のドラマーさんである佐治宣英さんに参加していただきます。

――新しい仲間がReoNaチームに加わるわけですね。『HUMAN』をきっかけに、ReoNaさんの第二章がはじまっていくことを感じます。“応援者”ではなく、「背中を押さない」「手も引かない」、”代弁者”であるReoNaさん。その寄り添いによって、背中を押される人が増えているように思います。でもReoNaさんとしてはその思いは変わらずですか？

ReoNa：そうですね、自分自身としてはその思いは今も変わりません。

――そして、NHKみんなのうた「地球が一枚の板だったら」がNHK総合テレビ・Eテレほかにて、2023年4月～5月に放送されます。作詞・作曲は傘村トータ（LIVE LAB.）さん、編曲を小松一也さんです。今このタイミングではもうすぐですね。

ReoNa：小松一也さんは「ないない」「シャル・ウィ・ダンス？」でReoNaの音楽に新しいルーツやジャンルをくださって、音色の幅をぐんと広げてくれました。今回はその時ともまた雰囲気が違うというか。私の勝手な感想なんですけど、こんなにかわいらしくて、楽しげで、軽やかなメロディーなのに、切なさが入っているのに、ちゃんと絶望系を作ってくださっています。ぐっさん（山口隆志）がバンジョーを、室屋光一郎さんがフィドルを弾いてくださり、とても温かいお歌になりました。

もしも地球が一枚の板だったら。いわゆるシーソーのような形で、僕がいて、あなたがいて。バランスが取れてたのに、あなたがこっちに歩いてきてくれたから、地球が傾いてしまった。この中の「きみ」「僕」ってどういう存在になるのかな、と考えながらお歌を歌わせていただきましたし、受け取ってくださる方にもそういうことを考えてもらえたら良いなと思っています。

私も小さいころに「みんなのうた」をたくさん受け取ってきたので、年齢問わず楽しんでもらえるお歌になれば良いなと思います。

2nd FULL ALBUM「HUMAN」