81ACTOR'S STUDIO講師・中尾隆聖さんから教わった「学び」を原紗友里さん、米内佑希さんが語る　「ウェイトの時間を大事にしろ、という言葉は養成所時代だけでなく、現場に出てからも活きました」【短期連載 第2回】

マイク前の世界を大切にすること

――米内さんと原さんが、今でも現場で大事にしている教えは他にありますか？

原：私たちがヘッドホンをつけて、中尾さんの演技や発声を聞くという授業をやったことがあって。普段は生声なんですけど、マイクを通すとどう声が聞こえるのかを体験する授業なんです。

私たち声優は現場で全力でやるけれども、届ける時は必ず機械を通してお客さんに声が届くわけであって。「それを意識しなさいよ」と教えてくださったのがすごく印象に残っています。かつ、その時、サービスもいっぱいしてくれて、ばいきんまんとかやってくれました（笑）。

中尾：（爆笑）。遊んでたのかも。

原：みんな「可愛い！」って大盛り上がりでしたよ。でも、そういう真面目なお話のあとにキャラクターの声を聞いたので、より「これだ！」と実感できました。テレビで聴いている声だと。

中尾：一番難しいところでもあるし、教えてあげられない部分でもあるんです。マイクの世界観と言いますか。スタジオに実習に行っても、自分の声がどう聞こえているのかまでは聞く機会はありませんから。

だからひとりひとりにヘッドホンを渡して「実際はこんな声で聞こえてますよ」と。でも、これをやっちゃうと声が出せなくなっちゃう子もいるんだよ。

原：それもわかります！　音量を調整してもらえることに気づいてしまうんですよね。「向こうが音量上げてくれるから良いじゃん」ってならないために普段のパワーのレッスンがあるんだなと。

中尾：ある程度基礎ができるようになってからじゃないとね。いきなりスタジオでやってしまうと、ボソボソ喋りになっちゃう。それでも良いんだけど、それだけじゃ駄目なんだよね。

原：声を出せる人がやるから凄いんです。「幅が広いからこそ出せる厚みがあるんだ！」ってあの時感じました。

中尾：そうそう、そうなの。声の幅が広い人であれば、余裕を持ちながら繊細な芝居ができる。いつもは私だけが、ヘッドホンでみんなの声を聞いているんだけど……確か「養成所のみんなと私たち（プロの声優）の違いはなんですか？」と聞かれた時があったのかな。

みんなと違って私たちは絶えずヘッドホンを持っている。自分の声がマイクにどう入っているのかわかる。それがわかるまで、また大変なんだよね。それはマイクと口の距離感にしてもそう。

今はミキサーさんが調整してくれますけど、マイクと口の距離って誰にも教えてもらえないですから。台本上に「マイクとの距離5cm」なんて書いているわけじゃないし。

原：そうですね。

中尾：それをどうやるのかは役者の自由ですから、そこは命をかけて。他の人はマイクから遠いけど、僕は近いほうが良い、とか思えるくらいになれないと。例えば、僕の好きな役者さんの塩沢兼人さんなんかはマイクにベッタリで、ボソボソって喋るんですよ。

当時は「コレで良いの？」なんて思っていたけど、これがオンエアを聞くと実に良いんだよね！　そういう自分のスタンスを持つ役者もいるので、一概にどれが良いとは言えないけれど、マイクと口の距離感、マイクを通した声の世界観が大切であることを養成所の授業の後半に時間があったら教えるんだけど……それは伝わりづらい部分でもあるよね。

米内：すごい話で驚いています。僕の時は、時間がなかったんですね……。

原：（爆笑）。やってないんだ！　ラッキー！

米内：うらやましい（笑）。今からでも教えてほしいですが、こうやってお話を聞くだけでも学びになります。

――原さんは実際に現場に出て、実際の声とオンエアとの声とで違いを感じることもあったのでしょうか。

原：放送を見ると自分の想像と全然違うんですよ。時には「もっとできたのにな」って思うこともあります。長い期間レギュラーで出演させてもらったある作品の後半で「最後のセリフ、エコーかける予定だったんですけど、すごく良かったのでそのまま使います」って言ってもらえたことがあって。

米内：え〜！　素敵！

原：すごく嬉しかったです。今までと同じであればエコーを掛ける予定だったと伺いました。そくらい、ミキサーさんが求めていたものと私のイメージがピタッと合ったんだなって。「これがマイクの前ってやつか！」となりました！

米内：マイクと一つになれたんですね。凄いな。

中尾：いい話。なかなかそう言ってくれるミキサーさんもいないですし、長期に渡る作品だったことも要因なんだろうね。すごく貴重な体験だと思うよ。そういうことを言われると嬉しいよね。難しいところなんだけど。