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『マケイン』北村翔太郎監督が話題のシーンの数々を解説【連載 特別編】

マケインの空気感、世界観、そしてEDアニメーションにもこだわりが――『負けヒロインが多すぎる!』連載 特別編:北村翔太郎さん(監督)インタビュー

負けて輝け少女たち! マケインたちのはちゃめちゃ敗走系青春ストーリー TVアニメ『負けヒロインが多すぎる!』。

いよいよ文化祭の準備に突入した文芸部たち。その中で小鞠や温水が悩む姿が描かれていたが、はたして文芸部の展示は成功するのか? 

今回はキャストの連載インタビューとは別の特別編として、『負けヒロインが多すぎる!』の北村翔太郎監督に、これまでの話数を振り返っていただきました。キャラクターたちに感情移入して悲しくなったり、辛くなったり、でもそのすぐ後に笑顔になったり…。シリアスとコメディのバランスが絶妙な本作はどのように作られていったのだろうか。

 

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前回はこちら

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『負けヒロインが多すぎる!』の空気感、世界観はどう作られているのか

――原作を読まれたとき、どんな印象を受けましたか? 

北村翔太郎監督(以下、北村):第一印象は、懐かしさを感じるけど、あまり見ないタイプのライトノベル作品だなと思いました。僕ら世代でも馴染みのあるキャラクター感、ストーリー感なんですけど、それを逆に利用して、裏をかいていくというか。スタンダードを外しながら展開させていくけど、やっていることは実は王道でもある。今までやっていなかったところに切り込んでいく展開が面白かったので、アニメではそのあたりを面白く見せられたらいいなと思いながら読んでいました。

 

 

――今までになかったところというのは、ヒロインたちが、主人公のことを(恋愛として)好きなわけではないというところなどですか?

北村:それもありますし、振られちゃったあとをちゃんと描くところも新しいと思います。

――ちなみに、少し懐かしいライトノベルというのは、どのあたりをイメージしていますか?

北村:『涼宮ハルヒ』シリーズ、『とらドラ!』とかですかね。あの作品も、世に出てもう20年くらい経つんですよね。でも、アニメやラノベ好きの人の中では、今も強く印象に残っている作品なので、この作品も、そういう作品になればいいなという気持ちはありました。

――意外な展開をアニメにしたら面白そう、という認識だったのですね?

北村:楽しそうだなと思ったのと同時に難しいとも思いました。これまで、こういう漫画やラノベやアニメを見てきた人には、ある程度セオリーをわかっているから入ってくるけど、それがない人にも観てほしかったので、そのままやるというよりは、結構気を遣いながら進めていった感じはあります。

 

 

――その意味では、構成面で、最初の3話で負けヒロインを1話ずつ見せることで、この作品がどんなものなのかがわかりやすくなっていたと思います。

北村:原作第1巻の分の構成が一番難航して、原作とは順番を変えている部分があるんです。まず、この物語は温水くんの視点で進むところを印象付けたかったのと、ちょっとメリハリがほしかったんです。小説だと1巻通して読むけど、アニメだと1話ごとにオチや盛り上がりをつけなければならない。その場合、順番に負けヒロインが登場する構成がいいのではないかと思いました。具体的な構成案は、シリーズ構成の横谷さんに最初に案をいただいて、そこからみんなで詰めていきました。

基本的にアニメのサブタイトルは原作の章題からいただいているんですけど、第1巻ラストの「負けヒロインを覗く時 負けヒロインもまたあなたを覗いているのだ」というタイトルを見たときに、4話のラストは、ここで終わるのが綺麗だなと思いました。そこはコンテでもこだわったところで、実は温水くんも負けヒロインで、立ち位置として、ヒロインとくっつくポジションでも、ヒロインを見守るポジションでもないんだよというところを意識して作っていった感じはあります(笑)。

――4話で4人の負けヒロインが登場するという構成だったのですね(笑)。原作の雨森たきび先生は、どのようにアニメ制作に関わっていたのでしょうか?

北村:雨森先生は主にリモートで脚本会議に参加してくださっていたのですが、基本的に、我々の議論が煮詰まったときに、意見を伺ったりするような感じでした。なので、こちらである程度まとめていったものを、監修していただくような流れでした。

――それでも、直接その場で意見を聞けるのは大きいですね。

北村:それはとても大きかったです。

 

 

――先生がいる中で、物語をぎゅっと、アニメ尺に合わせて取捨選択をしていったと思うのですが、そこで大事にしていた部分はどんなところですか?

北村:基本的にマケイン3人の振られたあとの向き合い方を描くことで、キャラクターを掘り下げていこうと思っていたので、ストーリーラインに合わせてコメディを入れていくような形にしているんです。なので、コメディのためのコメディにならないように、というのは意識して、取捨選択をさせていただきました。

原作の文量がすごく多いので、アニメではこのやり取りがないんだと思われる方もいると思うんですけど、基本的にはお話の流れに合わせて、入れられるギャグをコンパクトにしつつ、なおかつアニメだからできる表現を入れたりしていきました。ただ量が減るのではなく、別の楽しみ方ができるように、というのは意識してやっています。

――物語を大事にしつつ、マケインたちの感情のラインをとても丁寧に拾っていっている印象がありました。原作通りに詰め込むのではなく、アニメならではの景色や校舎の描写を効果的に挟むことで、この世界の空気感を作ることにも成功していると思いました。あと、3回繰り返したりするのも、アニメならではのギャグですよね(笑)。

北村:それも鉄板ですけどね(笑)。雨森先生や編集部の方も、こちらのアイデアを採用してくださるので、どう膨らませていくのかという部分は、かなりこちらに任せてくれていたんです。でも、キャラクター性だったり、作品の根本的な方向性に触れるかもしれないときに意見を求めたら、答えてくださるので、任せてもらいつつ、コミュニケーションを取りながら進めていくことが出来た現場だったと思います。

 

 

――そのほか、全体的なところを聞いていきたいのですが、まず、キャストの決め手となった部分を教えてください。

北村:いい意味でクセが強くて、(キャラに)ハマっている方を選ぼうというのは考えていました。ストーリー的にしっとりした部分とギャグに振り切った部分があるので、いろんなことができる方、という基準で選ばせていただきました。なのでディレクションも、クセが強いというか、印象に残るように、という意識でしていたんです。特にマケインの3人は、だんだんキャラクターが転がっていって、第5話や第6話くらいには、バチバチにハマってきてくれたな、と思っています。

――第5話の八奈見の面白さと、第6~7話の檸檬のしっとりさ、それ以降の小鞠など、クセが強いけど、本当に合っていますよね。

北村:あまりない切り口の作品なので、役者さんも演技をしながらキャラや作品の世界観を掴んでいくという感じだったと思うんです。用意されたものをやればいいというより、針の穴を通すようなニュアンスを求められることが結構あって、八奈見であれば、第4話の後半を乗り越えたからこそ、第5話のあの感じが出てきたのかなっていうのはあります。

――あの泣きのシーンがあったからこその「浮気だよ!」だったのですね(笑)。あれは何度見ても爆笑してしまいます。

北村:役者さんに対しても、各スタッフに対しても、面白ければやってオッケーみたいなところで、楽しみながらやっているところはありますね。

 

 

――続いて背景美術なのですが、ロケハンに行かれた良さが、すごく出ていると思いました。

北村:ちょうど夏の季節にロケハンに行けたので、そのあたりを拾いながら作ることができました。今回、ビジュアルボードという形で関わっているメインスタッフにもロケハンに行ってもらっているんです。その目的としては、季節感とか空気感を感じてほしかったからで。

キャラクターの気持ちに入っていくにあたり、懐かしさを感じてもらったり、キャラクターの気持ちにリンクしたような時間の雰囲気や季節感を出したいと思ったんです。特に夕方の色や入道雲の表現がそうなんですけど、ストーリーの心情に合わせた画を作るため、ロケハンをもとに、ビジュアルボードを用意し、そこから美術さんに描いてもらったりしています。

――美術だけでなく色彩面での夏の表現も素晴らしくて、肌色が日差しの強さで色が飛んでる感じもいいなと思いました。

北村:色彩設計の村上さんに各シーン細かく調整していただいています。誰もが見たであろう夏の気分と、そこで生きているキャラクター、というのを表現したかったんです。そこで起こる笑いあり、涙ありの物語を楽しんでもらいたいと思いました。

――うたたね歌菜さんの劇伴も素晴らしいのですが、ピアノをメインに、学校で聴こえるような音を意識している印象がありました。

北村:作曲家さんが決まる前の段階で、楽器の構成としてピアノと管楽器、要するに吹奏楽部の音を中心に作っていきたいなと思っていました。そのほうが、高校生の等身大の感じがするし、スケールが大きすぎず、かつキャラクターたちの心情に寄り添えるラインになると思ったので、そのあたりが強い作曲家さんにお願いしたいと思い、うたたねさんにお願いすることになりました。

 

 

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