
変わっていたかもしれない夏油の行く末。でも"闇堕ち"だとは思わないーー『劇場版総集編 呪術廻戦 懐玉・玉折』夏油 傑役・櫻井孝宏さんインタビュー
問題児二人。ただし最強。
ーー作品を見返してみて、キャラクターや物語について、新しい発見や気付きはありましたか?
櫻井:夏油がポンコツチックなことをしてしまうのは本作だけですよね。拙さや未熟なところも含めて学生らしくて、冒頭のやり取りでそれを見せてくれる。そういう夏油をやれるのはやっぱり楽しいんです。
彼はややこしいので悶々とすることもあって。複雑で面白いキャラクターだから、当然やりがいもありますし、とても良い役をいただいたなと思うんです。でも、素の彼に直接触れている感覚を味わえるのは、この時代ならではなので楽しんじゃいました(笑)。
五条とバスケしながら、ちょっと口論になっちゃって一触即発になったり。「悟、よくないよ」って言葉遣いについて助言するような日常。危なっかしい五条とは違って常識的といいますか、優等生っぽい一面が夏油にはありますよね。五条とつるむと問題児なんでしょうけど(笑)。
ふたりの凸と凹が上手く噛み合ってますよね。五条は五条で、夏油に判断を委ねているところもあって。彼自身の力が大きすぎて、わからなくなってしまっていると思うんですね。そういう部分が噛み合っているというか、ふたりだから、最強なんだと思います。
ーー夏油あってこその五条。
櫻井:お互いそうだったんじゃないかな。あのふたりのノリが悪ガキっぽくて好きです。最強って言葉がもう、不良のチョイスというか(笑)。確かに、最強なんですけどね。
同じ時代に、あのふたりが高専に在籍していること自体が奇跡ですし、運命。ただ、その歯車が徐々に噛み合わなくなっていくのは切ないです。これまでの物語を踏まえて、本作を見ると冒頭から切ない……。
オープニング映像のキラキラはアニメならではの面白い表現ですが、改めて見るとかけがえのない時間なんだなと。
ーーあまりにも短い青春でした……。
櫻井:そうですね。夏油にフォーカスしてみると、彼はずっと孤独を抱えていて、彼にしか見えない現実があったわけです。
五条に何度も投げかける「呪術は非術師を守るためにある」という言葉は、自問自答というか、ほぼ自分に言い聞かせているようなもの。そういう葛藤の中で、あくまで青春の1ページとして彼らの生活が描かれています。彼の内情や複雑な世界を我々は俯瞰しているわけですね。彼らを見ていて思いますが、やっぱり悩みますよ。10代って。
ーーしかも彼らはかなり特殊な10代です。
櫻井:夏油の場合は、高専で術師として生きている10代。しかも、特級と呼ばれている、ある種選ばれた人間です。でも、高い能力はギフトとも言えるし呪いとも言える。
私が印象的だったのは、夏油が感じる呪霊の味の描写です。あれ本当に嫌な気持ちになりました(笑)。味覚って人間にかなり影響を与える部分じゃないですか。
ーー……美味しくないご飯って嫌ですよね。
櫻井:その通りです。たった一回の食事があまり美味しくないだけで、人間って嫌な気持ちになるじゃないですか。
ーーテンションは下がってしまいますね。
櫻井:もちろん、呪霊を取り込むだけが彼の苦しみではないですが、そういう細かいところを拾っていくだけでも、彼が苦しくなっていく気持ちが少しわかるなと。
そんな中で、夏油にとってみれば五条の存在が支えになっている部分もあります。対等と言いますか、丁々発止のやり取りができる親友がいるというのは大きい。でも、五条はどんどん強くなっていくし、それに比例するように彼にとって嫌なことが雪だるま式に大きくなっていく。自分だって殺されかけますし。
そして、天内理子の死。やはり大きな分岐点のひとつですよね。非術師のためにあれ、と覚悟し生きてきた彼が、甚爾に負けて「俺みたいな猿に負けた」と言われてしまう。
他にも灰原の死や、七海の変化。九十九の台詞が背中を押すことになってしまったりと、諸々が積み重なって夏油は道を違えることになる。村の事件で表出していますよね。
でも、我々はその夏油の行く先を知っているじゃないですか。もし天内が生きていれば、彼の行動や結果が変わっていたかもしれない。だから、私としてはどうしても「あの時こうだったらな……」と思ってしまうんですよね。今、異世界転生のブームもありますから、色んな夏油を見たいなと思ったり。
ーー10代には厳しすぎる環境ですよね。
櫻井:私たちとは違う当たり前の中を生きていますからね。とはいえ、苦しいだろう、辛いだろうなと同情するのも違う気がしています。覚悟を持って生きた結果であって、個人的には"闇堕ち"だとは思っていません。
ーーなるほど。
櫻井:あくまで、これまでの道とは違うところに行こうとしただけ。術師のほうが弱い立場にあるかもしれないとか、今までの価値観が揺らいでしまうことが起きています。
守るべき存在だった非術師に向かって「猿め」と呟くシーンがありますが、あれは甚爾からの刷り込みなんじゃないかなとも思います。
このフレーズは夏油の語彙じゃないような気がして、きっと甚爾に言われた言葉が彼の中に残っていたのではないかなと。これは芥見先生に聞いてみないとわからないことですが、そう思ってしまいました。




















































