
天野とのやり取りで塔子の「棋士らしさ」が見えた第10話。続く梨田との“デート回”では「普通の女の子らしさ」が見られる!?|アニメ『笑顔のたえない職場です。』角館塔子役・松井恵理子さん×原作・くずしろさん対談インタビュー
第3話の「双見先生も天才ですよ」は、“本心がぽろっと出た”感覚を意識
──塔子さんは『永世乙女』とのクロスオーバー的なキャラクターとなりますが、そういった面で気を付けていることはありますか?
くずしろ:(『永世乙女』で)描けない要素を描く、みたいな感じです。『永世乙女』ほどバチバチした塔子や、彼女が抱えるつらさはあまり描かない。あくまでも『えがたえ』の主人公は双見なので、そこに良い影響を与えられたり、かけ合わせて面白くなる塔子の要素を描くように、混ざらないように気を付けています。仮に『えがたえ』に『永世乙女』の塔子が来てしまうと、双見が喋れなくなっちゃうと思うので(笑)。
松井:ピリっとしてるからですね(笑)。
双見先生も(塔子さんとは)別のプロフェッショナルではあるので、(棋士のことを)分かりすぎていないからこそ甘えられる部分もあるのかなと。ファミレスのシーンのように、ちょっと弱音をはいたりするのも、「なんかつらいよね」を共有できる仲間のような雰囲気があって。その職業のことを分かりすぎている人だと「何言ってんの」と言われたり、逆に相手があまりにも寄り添ってくれて、自分がみじめになっちゃうこともあると思うんです。双見先生は塔子さんにとって、実家のような感覚があるのかなぁと思いました。
くずしろ:本当にその通りなんです。双見も塔子も「才能」という言葉や具体的な数字に振り回される実力主義の世界にいるのですが、やはりそれぞれがちょっと違う。共有できる部分とできない部分があるからこそ仲良くできているし、あんな愚痴も言い合えるんだと思います。
以前、『永世乙女』の監修の香川愛生先生がタイトル戦に出られるときに、見学に行かせてもらったことがあるんです。対局が始まる前の瞬間、カメラの後ろから棋士のおふたりを見させていただいたのですが、普段私とお話ししてくれるようないつもの香川先生じゃないし、その場の空気が重すぎて……。10分いただけで「もうここにいたくない」となるくらいでした。
部屋から出るときにはもう、まるで終日歩いたかのように足がむくんでいて。「塔子がいるのはあんな世界なのか……!」と。私には理解できない、恐ろしいところに塔子はいるんだなと思いました。塔子のそんな一面を、双見は多分まだ知らないんですよね。
──分かりすぎていないからこそ、先ほど松井さんが仰っていた「実家のような感覚」につながるのでしょうね。
松井:リフレッシュできていると思うんですよね。対局していないときも棋士の方って勉強しないといけないし、おそらく生活の中に(将棋が)たっぷり組み込まれている。双見先生との時間って、将棋を完全に切り離すわけではないけれど、ふわっと頭の中がリセットできるような時間なんだろうなと感じました。
ただのクロスオーバーではなく、世界が共有されていて、よりキャラクターの理解が深まるといいますか。「こういう一面もある」「じゃあ、もしかしてこういう人なのかな」なんて考えることもできるし、セリフの一つひとつに対して「じゃあ今は、こんなテンション感かな」と考えるのが楽しい人だなと思います。
──双見とのやり取りで言えば、第3話で塔子が「双見先生も十分、天才ですよね」と言ったシーンが特に印象に残っています。
松井:「天才」という言葉が、良くも悪くも引っかかるんです。世の中には色々な天才がいるけれど、やはり「努力していない天才」はいないなと、自分が生きてきた中でもそう思って。
塔子さんもたくさんの天才を見てきたと思いますが、その上で「自分が天才かどうか」に関しては、あまり自信がないタイプだと思うんです。もちろん一般の方から見たら塔子さんは天才だと思いますが、棋士の世界には「もっと上がいる」ことを知っているんだろうなと。
声優にも少し通ずるところがあるんです。自分が持って生まれた声だったり、演技の感覚だったり……現場で聴いていて「わあ、すごいな」とか「このセリフをそういう風に表現するんだ」とか。あのとき双見先生が発したある種の“衝撃感”を、(塔子が)感じた瞬間だったのではないかな、と思います。
──そんな塔子を表現するために、実際にはどのようなお芝居をされたのでしょうか。
松井:あのシーンは「誰かに言う」というより「本心がぽろっと出ちゃった」ようなニュアンスがほしいなと思っていたので、自然とトーンが落ち着いた感じになりました。
元々塔子さんは、物事を冷静に分析する観察眼があるんだろうなと感じていたんです。「この人ってただ優しいだけじゃなくて、やっぱり普段いろいろ気にしなきゃいけないところに身を置いているんだ」と、あのセリフの中でぽろっと出てくると素敵だなと思って演じていました。
くずしろ:素晴らしい解釈です。私は描いたときそこまで考えていなかったなと(笑)。本当に棋士の先生って天才しかいない、天才が集まって、ド天才のド天才だけが生き残っていくみたいな世界なので、多分「異質な人」がすぐ分かるんだろうなと思います。下積みに努力があったとしても、何か突出している人を見つけるのが早い。塔子は努力型の人で、多分自分が「天才」と言われるのはあまり好きではないんですよね。
松井:(頷いて)そんな感じがします。
くずしろ:「私を天才と称するなら、あなたもそうでしょ?」と、ふと言ってしまった感じがあったと思うので、まさに松井さんの解釈通りですね。
松井:よかったです(笑)。「天才」って言うのは簡単だけど、言われても信じられない……「天才」って一番信じちゃいけない言葉だと思うんですよね。
自分もこのお仕事をさせていただく中で、ファンの方に「本当によかったです!」と褒めていただくこともあるのですが、嬉しい気持ちとともに、いつもどこか自信はなくて。アフレコやライブを通して「もっとできたんじゃないか?」という気持ちがあるので、みんなが甘やかしてくれる言葉にあまり甘えないようにしなきゃ、と自制心を持った上で「ありがとう」と思っています。
くずしろ:(松井さんのお芝居に対して)素晴らしかったです。
松井:ありがとうございます。先生に「任せてよかったです」と言っていただけるのが、この仕事をやっていて一番嬉しい瞬間です(笑)。
第11話は塔子と梨田のデート回!? 梨田はまるでワンちゃんのよう
──収録現場で印象に残っていることを教えてください。
松井:ずっと楽しかったです! 女の子がいっぱいの現場で、ずっとお喋りしていました。作品のこともたくさんお話しできましたし、特に梨田さんがぶっ飛んでいたので、その話が多かった気がします(笑)。
本当にタイトルの通り、ずっと笑っていて、楽しかったので、最終回のときに「寂しい!」「終わらないでほしい!」「一生やっていてほしい!」って思っていました(笑)。この短いアフレコ期間で、本当に双見先生たちの仕事場にいるような空気が、我々の仕事場にも流れているのは稀有なことだなと思います。「誰かと話す」というより「みんなで話す」ことが多い現場だったので、作品に通じていていいなと思いました。
──先生はその様子をご覧になっていかがでしたか?
くずしろ:いつも楽しそうにお喋りしているなと(笑)。「現場が楽しかった」と言っていただけるのが私も嬉しいです。皆さんが空気を良くしてくださったからこそ楽しい現場になったんだと思います。
松井:作品がとてもあったかくて、可愛くて、原作のテンポ感やナチュラルさがアニメでもそのままだったからこそなのかなと思います。「漫画家」というあまり知らない世界のお話ではあるけれど、お仕事ものだからこその共感もあって。「こういう風に思っちゃうことあるよね」みたいなリアクションから会話が広がったりもして、ファミリー感が形成されたなと思います。
──そんな『えがたえ』において、塔子を殿堂入りとした場合の松井さんの推しのキャラクターを教えてください。
松井:難しいな、みんないいんですよね……!
でもやっぱり梨田さんですかね! あの人はちょっと面白すぎます(笑)。あとは第11話が塔子さんとの“デート回”なので、意外と関わりが深いんですよね。
普段面白い人だなと思っていたのが、11話を経ると「可愛い人だな」となるのが愛おしいなと。小林ゆうさんの演技も最高ですし。塔子さんと梨田さんの二人はアクが強くて(笑)。そんなコンビ感みたいな空気も好きですね。
──これまでの話数でも、時折梨田さんが「塔子さん!」と呼ぶシーンがありましたね。
松井:そうなんですよ。多分塔子さんは梨田さんのことをワンちゃんだと思っていて(笑)。最初は警戒しているけど、懐いたらめっちゃ甘えてくれる、そういう素直なところが可愛いなと思います。
──改めて、アニメならではの魅力はどんなところでしょうか。
松井:原作の個性豊かなキャラクターたちに声が付くことによって「やっぱりこの人、こういう人だったんだ」「こういう解釈もあるのか」と、皆さんが想像していた通りだったり、逆に予想外な発見があったりすると思います。
漫画そのままのあったかい雰囲気はもちろん、キュンとしたり、ドキっとしたり、いろいろな感情が観ていて湧き上がってくるのではないかなと思うので、そこを楽しんでいただけたらと思います。
──先生はアニメで動いている塔子さんを見て、いかがでしたか?
くずしろ:塔子は笑顔のパターンが多いので、そこが可愛らしいなと思いました。デート回は特にそう思いましたね。あとやっぱり声が付くと本当に可愛いんですよ……!
松井:塔子さんがもともと可愛いからですよ!(笑)
くずしろ:漫画では画面のパワーとして「可愛い」が求められるので、シチュエーションなどでどんどん可愛さを足していく手法を取るのですが、それって結構分かりづらいこともあるんです。「これが本当に可愛いのかな?」と迷いながら描いている部分もあるので、声が付くと「これが正解!」ってなりますね(笑)。



















































