映画
『ペリリュー ー楽園のゲルニカー』武田一義先生インタビュー

『ペリリュー ー楽園のゲルニカー』原作・共同脚本 武田一義先生インタビュー|「残酷だから見られない」を少しでも減らして、若い世代や子供にこそ見てもらいたい作品に

「ぜひ子供たちにも見てほしいと思っています」

ーー映画を見て印象的だったシーンやここを見てほしいという注目シーンがありましたら教えてください。

武田:監督がペリリュー島の自然、動植物の描写にすごくこだわられたんですよ。南の島であるペリリュー島の美しさや、綺麗な夜空、朝焼け、夕焼けといった24時間の移り変わり。そういった綺麗な島の様子が映画ならではと思っています。

そしてそんな綺麗な島だからこそ、凄惨な戦場というものがギャップとして際立つとも思いました。ぜひ美しいペリリュー島の様子を劇場で確認していただきたいです。

ーー原作漫画とストーリーが違う部分もありますが、原作ファンに向けて映画の注目ポイントがあれば教えてください。

武田:どうしても(2時間の尺に収めるために)ストーリーを削らなければならなければいけないところが出てきまして。どうやってそれを解決していったかというと、これは共同脚本の西村ジュンジさんのアイディアなんですが、本作は「田丸の主観的な話にしていこう」となりました。

田丸が見ていない部分については映画の中では極力描写をしない……例えばペリリュー島本部の玉砕であるとか、日本が敗戦していく様子は自ずと省かれていきました。原作では日本が敗戦したことが描かれた上で兵士たちのその後が続いていくんですけれど、映画ではそういった描写はなく、時間だけが淡々と過ぎていく。戦争が終わっているのか終わっていないのか……もちろん見ている観客は歴史を知っているので分かってはいますが、映画の中の田丸に寄り添って考えるとそんなことはわからない。一兵士の目線として見たお話が展開していきます。

また、たくさんお話を削っていったわけですが、できる限り、削らない努力をしたのはキャラクターです。原作から明確に削られたのはそれこそペリリュー島本部に関わる人とかくらいで、田丸の身の回りの人ではあまり居ないと思います。特に泉くんや、片倉、島田、小杉といった大事なキャラクターを削らずに物語を纏められたというのは、正直よくできたなと(笑)。

一方で島民のニーナとケヴィンのエピソードなど、削られたお話もありまして、アニメになるに際してキャラクターの体験する歴史が変わったキャラも居ます。ただ一つ心がけたのは、原作よりもよりひどい目に合う改変だけはしないこと。あるキャラクターは原作では亡くなってしまいますが、映画では生きて帰ることができたとか。ニーナとケヴィンについても、最初に島民が避難する時に一緒に避難できて戦争という恐ろしい思いをせずに済んだという風に、原作からキャラクターがより不幸にはならない形にしたいという思いがありました。

ーー原作を描くにあたって膨大な量の取材を行ったと思いますが、その際に印象に残っていることがあれば教えてください。

武田:ペリリュー島そのもののことで言うと、未だに不発弾が残っているんですね。取材をしていく中でも「こちら側は何があるかわからないから、この範囲を歩いてください」と示されているんです。そういった感じで、一度戦地になってしまった場所っていうのは、何十年たってもずっとそうあり続けるのが現実なんだなと、初めてペリリュー島に行った時に知りました。

ーー戦争というテーマを扱うにあたり、原作漫画、映画ともに、気をつけていたこと、心がけていたことはありますか?

武田:これは原作を描く時の話なんですが、戦争なのでどうしても残酷なことをどんどん描いていくことになります。ただ、それを作り手がフルスロットルでやると見る人はあまりにもキツくてしんどくなりすぎてしまう。なので、戦争であった残酷な事実を描かなければ意味がないから描いていくけれども、受け手がどこまで耐えられるかというのを常に慎重に考えながら表現していくということをやっていました。

それはアニメの方々も……自分とは線引自体は違うけれども、みなさん考えながらやってくださっていたんだなと感じています。

なぜそういった所に気をつけていたかというと、ひとりでも多くの方に見てもらいたいという思いがあるんです。特に若い世代、子供に見てほしくて、映画のほうもなんとか頑張ってPG12で収めました。小学生でも保護者の方が一緒であれば見てもらえる作品になっているので、ぜひ子供たちにも見てほしいと思っています。

ーー漫画・映画という媒体は若い方たちも触れやすいメディアかと思いますが、本作に触れる若い方たちへメッセージをお願いします。

武田:みなさん言われるまでもなく、戦争が悲惨なもので、いけないことだと分かっていると思います。ただ、そのディティールとか具体っていうものがどんな物なのかっていうのは、もしかするとそこまで知らないかもしれません。

普段そういうことを勉強する機会も少ないと思いますが、娯楽として摂取しながら自然と知ることができるので、この機会に原作漫画や映画を見ていただきたいと思いますね。

戦争モノなので、楽しいことばかりではない作品です。見ていて辛い気持ちになることもあると思いますが、作り手としては一歩勇気を踏み出して見に来ていただければ、その勇気に応えるだけの内容の濃いものを用意したつもりです。ぜひ劇場に足を運んでいただければと思います。

[取材・文・二城利月]

『ペリリュー -楽園のゲルニカ-』作品情報

ペリリュー -楽園のゲルニカ-

あらすじ

仲間の最期を「勇姿」として手紙に書き記す功績係――彼が本当に見たものとは?

太平洋戦争末期の昭和19年、南国の美しい島・ペリリュー島。そこに、21歳の日本兵士・田丸はいた。漫画家志望の田丸は、その才を買われ、特別な任務を命じられる。それは亡くなった仲間の最期の勇姿を遺族に向けて書き記す「功績係」という仕事だった。

9月15日、米軍におけるペリリュー島攻撃が始まる。襲いかかるのは4万人以上の米軍の精鋭たち。対する日本軍は1万人。繰り返される砲爆撃に鳴りやまない銃声、脳裏にこびりついて離れない兵士たちの悲痛な叫び。隣にいた仲間が一瞬で亡くなり、いつ死ぬかわからない極限状況の中で耐えがたい飢えや渇き、伝染病にも襲われる。日本軍は次第に追い詰められ、玉砕すらも禁じられ、苦し紛れの時間稼ぎで満身創痍のまま持久戦を強いられてゆく――。

田丸は仲間の死を、時に嘘を交えて美談に仕立てる。正しいこと、それが何か分からないまま...。そんな彼の支えとなったのは、同期ながら頼れる上等兵・吉敷だった。2人は共に励ましあい、苦悩を分かち合いながら、特別な絆を育んでいく。

一人一人それぞれに生活があり、家族がいた。誰一人、死にたくなどなかった。ただ、愛する者たちの元へ帰りたかった。最後まで生き残った日本兵はわずか34人。過酷で残酷な世界でなんとか懸命に生きようとした田丸と吉敷。若き兵士2人が狂気の戦場で見たものとは――。

キャスト

田丸均:板垣李光人
吉敷佳助:中村倫也

(C)武田一義・白泉社/2025「ペリリュー −楽園のゲルニカ−」製作委員
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