
『ウマ娘』世界のスピード感を解剖。そして情熱とこだわりを込めて“10-FEETなりのスピード感”を表現――アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』第2クール OP主題歌「スパートシンドローマー」担当・10-FEETインタビュー
BPMの速さだけじゃない、“10-FEETなりのスピード感”とは?
――では、楽曲制作についてお聞きします。コメント動画で、『ウマ娘』音楽担当の方からのオーダーは「スピード感、疾走感がイメージ・キーワードとなってます」ぐらいざっくりしたものだったと話していました。そこからどのようにイメージを膨らませていったのでしょうか?
>>>アニメ『ウマ娘 シンデレラグレイ』第2クールOP主題歌アーティスト:10-FEET コメント動画
TAKUMA:オファーをもらって、まず作品を見ました。一通り触れてからやりたいなと思って、『シンデレラグレイ』だけでなく『ウマ娘 プリティーダービー』のTVアニメシリーズとかいろいろ見て。さらにゲームを始めたら、楽しくて曲作りを忘れてしまって(笑)。これは逆に危ないと思って我慢しました。たまにガチャをやって、ちょっと中断して曲に戻って……という感じでしたね。
(第1クールのオープニング主題歌を担当した)[Alexandros]は友達やから、彼らの曲作りの経緯も調べて、オープニング映像やSNSで公開されていた[Alexandros]とウマ娘の映像も見ました。それに対するファンの人たちの想いを感じたので、一瞬「そういう風な曲を俺らも作ったほうがいいのかな」という考えが頭をよぎったんです。
でも、“スピード感(疾走感)”だけのざっくりしたオファーをいただけたところに、すごい愛と情熱と「一旦任せましょうよ」って心意気を感じたから、そこに僕らも本気で向き合いたいと思いました。
――あえて細かい指定をしなかったのは心意気であり、信頼の証だと。
TAKUMA:そうですね。“スピード感=BPMが速い曲”っていうのは、一番シンプルでわかりやすい表現ですけど、僕らは普段「スピード感のある曲を作ろう」ってときに、そういう手法だけでやらないので。『シンデレラグレイ』を見て感じた、自分たちなりのスピード感はこれだっていうものを強く信じてやることが、心意気に応えるべきやり方なのかなと思いました。
へそ曲がりな意味じゃなくて、例えばすごくスローな曲になったとしても、「これはすごいスピード感なんだよ」と自分たちが信じたら、それをやらないといけないんじゃないか。過去の曲を持ってきて「これみたいな曲」というオーダーなら話は別ですけど、そうじゃないならこれまでのイメージを参考にしつつも、自分たちなりのやり方をするべきだと。
――今回の曲でいう“10-FEETなりのスピード感”とは、具体的にどういうことでしょうか?
TAKUMA:『ウマ娘』の世界の中で描写されているスピード感って、走っているところはめっちゃ速いけど、心理描写はめちゃくちゃスローなときがありますよね。実際に動きをスローで映しているときもあれば、メンタルというか集中力を描写しているシーンでは1秒を1分とか2分ぐらいかけて表現するとか。それって超スローな表現なんやけど、グワー!っと全力で走っているままの描写として伝わりますよね。それをいかに曲で表現するか。そこにチャレンジしたいと思ったんです。
――レース中にモノローグが入ることも多いですからね。
TAKUMA:でも、それってわかりやすいスピード感じゃないから、「いや、こんなのスピード感じゃねえよ」と言われるかもしれないし、「マッチしてないわ」と思われる可能性もある。だけど、「こういうのが求められているんですよね」と合わせにいくのではなく、「僕らが『ウマ娘』を見て感じたスピード感ってこれなんです」ってところで勝負したい。ひょっとしたら大コケするかもしれないけど、そういうオファーだと感じたんです。ざっくりしたオファーは、イメージと全然違う曲が来る可能性もあるわけじゃないですか。それに全力で応えるためには、まず「僕らが信じているものはこれです!」と提示しなきゃいけないと思いました。
専門的なことをいえば、ドラムパターンでのいわゆるハーフリズムのシェイク――「ズン・タン・ズズタン」って半拍を食う表現なんですけど――それによってスピード感が出たりするんですよ。わかりやすくスピード感が出る速いリズムではなくとも、そこにめちゃめちゃ情熱とこだわりを込めて全力で応えているつもりです。サビでは「ズーカズッカ ズーカズッカ」とウマ娘の走りを連想させるようなリズムと音でスピード感も出していて。逃げや先行、差しといったいろんなスタイルのウマ娘がいて、どこでスパートをかけるかで勝負が決まるような世界でもあるから、そこも描写したい。そういったことをいろいろ考えて作りました。
――キャストの人たちも、走っているときの気合の声とモノローグでのセリフの違いについてよく話しています。それは曲の緩急にも繋がりますね。
TAKUMA:そういう感覚で僕たちも作りたかったんです。
――リズムを叩き出す上で、KOUICHIさんはどう試行錯誤されたのでしょうか?
KOUICHI:レコーディングで「自分の感じた通りに1回叩いてみて」と言われたんで、いろんなリズムで何パターンも叩いてみました。どうやったら遅くてもスピード感が出ているように叩けるやろ?と思って、単純にスピードが速いテンポとか、ほんまにいろんなパターンを試しましたね。いまのサビのパターンは勝手に出てきたっていうか、こういうのは面白いやろなと思ってやったら意外にハマったんです。
――NAOKIさんは、ベースラインで意識されたことはありますか?
NAOKI:KOUICHIが話したように、特にサビにおいてはドラムが何パターンもあって。いまのパターンを聴いたときに、確かにレースで走っているっぽいリズムだなと感じたんですよ。そこからベースラインで考えたのは、疾走感がありつつウマ娘(や競走馬)が跳ねているイメージというか。そういう“跳ね”のイメージを意識してプレイしました。
印象的なフレーズに込められた、オグリの“悔しさ”
――歌詞も気になるフレーズが多いのでお聞きしたいのですが、〈月背負う星のグレイなプライド〉はやはり“カサマツの星”と呼ばれているオグリキャップをイメージされたのでしょうか? それとも考えすぎ?
TAKUMA:そこは残念ながら、シンプルにオグリのイメージです(笑)。ひねっていなくてすいません。それ(カサマツの星)もありますし、僕は朝練というかまだ暗いうちに走って練習しているときの風景に月を感じ、髪飾りにも月の色を感じたんです。そうやって、1人で目標に向かって孤独な環境で積み重ねていくオグリの姿や風景が頭にあったから、それをそのまま歌詞にしたくて。ただ、みんなにはみんなのイメージがあるだろうし、あまり具体的にはせずみんなと共有できるような表現にしたつもりです。
――そうだったのですね。イントロや曲中で繰り返される〈悔しい悔しい悔しさ悔しいよ〉もインパクトがあります。ここにはどんな想いを込めたのでしょうか?
TAKUMA:僕から見て、オグリってあんまり悔しがりそうにないキャラだったんですよ。でも、しっかり悔しがっている。最初は悔しいという感情に気づいていなかったけど、途中でやっぱ悔しがるし、「悔しいの嫌やな」となっていくところが重要というか、それを見られたことが嬉しかったんですね。全然悔しそうに見えない人も、絶対に悔しいんだと。それってめっちゃ重要やなと思ったので、変な目立ち方をしてしまうかもしれないけど「悔しい」と連呼しました。
――正直、歌詞を見るまでは「悔しい」だとは思いませんでした……。
TAKUMA:英語のラップのフックっぽくも聴こえるし、「結晶」のところも勝ちを決める「決勝」に聴こえる。歌詞をじっくり見ないと、パッと聴いた感じではわからんっていうのも音楽的でいいなと思ったんです。「これなんて歌ってんの?」って言われてもいいんじゃないかなと。それって、オグリキャップの中に垣間見えた悔しさと、見え方の分量が似ているなと思ったから、これいいなと思ってやりました。
KOUICHI:僕も最初聴いたときは、「悔しい」とは聴き取れなかったです。「『悔しい』って言ってるんやけど」とTAKUMAに言われて、「あ、そうなんや」って(笑)。メンバーですらそう思ったってことは、リスナーの方には絶対わかんないですよ。
――聴き取れないけど、なにか格好いいこと言っている、ぐらいの認識でした。
NAOKI:ちょっと英語っぽいですからね。逆にさっきの「グレイなプライド」の方は、オグリじゃなかったらなんなんやろうってのがあったので、そこは確認せずともそうなんやろうなと(笑)。
KOUICHI:そうなんやろなっていうのは散りばめられていますよね。
――ちなみに、「ウマ娘 プリティーダービー 6th EVENT The New Frontier 秋公演」DAY2でオグリキャップ役の高柳知葉さんが「スパートシンドローマー」をカバーされたのは、ご覧になられましたか?
TAKUMA:いや、見てないんですよ。めっちゃ見たいっすね。カバーしてもらえて嬉しいです。
――スタッフに聞いたところによると、高柳さんは〈悔しい悔しい悔しさ悔しいよ〉の歌い方に悩まれていたそうです。
TAKUMA:そうなんですね。イメージ的には「キャッシュキャッシュ〜」とか「決勝」と歌うようにするとそれっぽくなるかもしれないです。
――言葉を立てすぎないのがコツなのですね。当初はタマモクロス役の大空直美さんと2人で歌う予定だったそうですし、DAY1では高柳さんと[Alexandros]とのコラボもありましたから、いつか10-FEETとのコラボも見てみたいです。
TAKUMA:めっちゃ楽しそう!

















































