
CD「安彦良和 アニメーション作品 音楽集」発売に寄せて――安彦良和が自作品の音楽を回顧する【インタビュー】
アーティストへの拘り~『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』
ーー総監督を務めた『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』では、当時とは音楽を取り巻く環境も大きく変わっていたかと思います。
安彦:全部で主題歌が6曲あって、これは自分が監督として、レコーディングから何からけっこう注文を出させてもらった。だから、どれもすごく思い入れがありますね。今回収録されている3曲以外にも、森口博子さんの「宇宙(そら)の彼方で」も良かったし、正直言うと、もっと入れて欲しかった(笑)。
ーー今回のアルバムは、網羅するのではなく俯瞰するのが企画のコンセプトだそうです。
安彦:確かに挿入歌も含めるとかなりの曲数があるから、あれもこれもになってしまうよね(笑)。「風よ 0074」なんか終わり歌なんだけど、ほとんどBGMなんだよね。べったり本編にくっついているけど、歌は「あっちいけ」ではない。まさに映像と音楽が一心同体になったと思っている。
ーーハモンが歌った劇中歌「Don't Say Good bye」もかなり尺を取っていましたね。
安彦:あれも好きなんですよ。劇中で2コーラス歌わせていて製作部長の富岡秀行から試写の後で「長過ぎるよ」と言われたから「あれでいいんだよ」と返したけど(笑)。あそこはクラブ・エデンが閉店してネオンが消えるまで流すことに意味があるんですよ。
ーー『THE ORIGIN』の音楽は主題歌、挿入歌、劇伴と全て服部隆之さんが手掛けています。
安彦:あの方は祖父が服部良一、父が服部克久の音楽一家で、超が付くほどのサラブレッドでしょう。しかもお嬢さんもヴァイオリニスト(※服部百音さん)として活躍しているよね。
ーー服部さんの印象は?
安彦:テレビで見て知っているだけだけど、お父さんの服部克久さんはとてもダンディな方だったでしょう。それに対して、隆之さんは割とどっしり構えたいいおじさん(笑)。でも、話を聞くと、やっぱりサラブレッドの雰囲気がある。遺伝子は強力だなと思いましたよ。こちらの注文もイヤな顔ひとつせずに聞いくれて、それはとても有難かったですね。
ーー今回の収録された「By Your Side」、「I CAN'T DO ANYTHING -宇宙よ-」、「破線の涙」についてのエピソードがあればお聞かせください。
安彦:「By Your Side」は、澤田かおりさんが、スタジオで「どういった気分で歌えばいいのかしら?」と質問してきて、傍らにいた今西(隆志)さんを指さして「あれをランバ・ラルと思って」なんて(笑)。
ーー(笑)。
安彦:でも、そこがやっぱり主題歌の難しいところだよね。島津亜矢さんも同じようなことがあって、スタジオで「歌詞の意味が分かりません」と言われたのが記憶にある。彼女はとても想いをこめて歌い上げる人だから宇宙がバックのエンディングソングで迷ったんだろうね、それに対してなんて言ったんだったかな……。そう、戦場で大勢人が死んでいくことに対して慈母の気持ち、大きな母性で包み込んでほしい。そういった話をした。彼女がカヴァーしたホイットニーやアレサ・フランクリンを聴いていても感じるけど、背景をきちんと把握して、そこで初めて歌に想いをこめることできるんでしょうね。
ーー島津さんの起用は意外性がありました。
安彦:そもそも島津さんは僕がお願いしたんですよ。最初は周囲から「え、演歌歌手ですか?」なんて言われたけど、ただの演歌歌手じゃないんだよって。島津さんはNHKのBSの番組で、和服を着て『海鳴りの詩』を歌ってたんだけど、その後で突然、「To Love You More」を歌い出して「こんな人がいるんだ!」と衝撃を受けたんですよ。それまで特に知っていたわけじゃないんだけど、CDを買ったり、どんどんファンになってね。だから、演歌の島津さんじゃなくて、洋楽カヴァーの島津さんに歌って欲しかった。服部さんにも「ホイットニー・ヒューストンに書くつもりで書いてください」とお願いして、出来上がったのが「I CAN'T DO ANYTHING -宇宙よ-」なんです。
ーー出来上がった楽曲についてはいかがですか?
安彦:作詞の渡辺なつみさんも英語詩が巧みな方で、服部さんの曲も良かったんだけど、やっぱり日本人の曲なんですよ。最初は「大丈夫かな?」と不安もあったけど、スタジオで島津さんが声を出した瞬間、「あ、これはいけるな」と一気に不安が払拭された。服部さんも「一発OKでいいんじゃないか」って顔をしていて、気に入った様子が伝わって来た。本当に素晴らしい歌唱力でしたよ。
ーー山崎まさよしさんの「破線の涙」についてのエピソードはありますか?
安彦:あの方は服部さんと親しいんですけど、何より飾らないあの人柄でしょう。レコーディングは夜遅くて、しかも海外から戻ってきた後だったにも関わらず、サラッと歌いあげて「じゃあ!」みたいな感じ。非常に鮮やかでしたね。僕としても、あの声で締めるのはいいなと思いましたよ。
ーー先ほど「風よ 0074」へのお話がありましたが、他の主題歌の使い方についての拘りがあればお聞かせください。
安彦:『THE ORIGIN』は再編集してへ長編サイズにしたんだけど、歌が全部で6曲あるから、3本に再編集するとなると、終わり歌がダブるんですよ。それで使わないか挿入歌にするかの二択になった際に、「I CAN'T DO ANYTHING -宇宙よ-」は挿入歌として使うことにしたけど、これがまた実に合っているんですよ。宇宙での戦闘で、夥しく人が死んでいく中、非情にもこの歌が流れるというね。これだったら島津さんも良く分かってくれたんじゃないかなと思った。ここは是非音楽を気にして観返してもらいたいけど、あいにくソフトになってない(笑)。Blu-rayで出して欲しいよね。
ーーそれはファンのひとりとしても是非実現してもらいたいです(笑)。
安彦:もともと原作コミックも3部構成にしているし、3部構成だと観やすいんですよ。第1章と第2章を続けて観て「風よ 0074」が流れるのもいいんだよね。
ーー色々と振り返っていただきましたが、最後に今回リリースされた「安彦良和アニメーション作品 音楽集」についての思いをお聞かせください。
安彦:昔の作品は忘れちゃっていることが多いけど、聴き返すことでいろいろ思い出した。それは自分だけじゃなくて、ファンの方もそうなんじゃないかな。最初の『ガンダム』の頃はまだレコードの時代だったけど、それがCDの時代になり、現在は配信が主流になっているけど、一方でレコードのリバイバルやCD回帰なんて話も耳にするし、是非、大勢の方にこのアルバムを聴いてもらえれば嬉しい。僕としても、先ほども話したように、まだまだ入れたい曲、聴いてもらいたい曲があるので、次の機会に繋がることを期待しています。
[インタビュー/トヨタトモヒサ 編集/小川いなり]
安彦良和 アニメーション作品 音楽集
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「描く人、安彦良和」関連リンク
https://www.mbs.jp/yasuhikoten/
https://shoto-museum.jp/exhibitions/210yasuhiko/






































