
「苦しいのにやめられない。むしろ苦しいからこそ向き合ってしまう」表現者の苦悩と葛藤を肌で感じられる作品──アニメ『ワールド イズ ダンシング』鬼夜叉役・花守ゆみりさんインタビュー
2026年7月2日(木)より放送開始となるTVアニメ『ワールド イズ ダンシング』。南北朝時代を舞台に、「なぜ舞うのか」という問いを抱えながら成長していく少年・鬼夜叉の姿を描く本作は、能という伝統芸能を通して“表現すること”の本質に迫る物語です。
放送に先駆けて、アニメイトタイムズでは主人公・鬼夜叉を演じる花守ゆみりさんにインタビューを実施。脚本を読んだ際に受けた衝撃や、鬼夜叉という人物との向き合い方、アフレコ現場で感じた表現者ならではの苦悩と喜びについて語っていただきました。
さらに「なぜ演じるのか」という問いを通して見つめ直した、声優というお仕事への想いにも迫ります。
「自分がここに呼んでいただけたこと自体が奇跡かもしれない」
──本作の脚本を読んで、どのような印象を受けましたか?
鬼夜叉役・花守ゆみりさん(以下、花守):私はこれまで能に触れる機会がほとんどなかったので、題材として実感を持って向き合えるだろうかという不安がありました。でも脚本を読んだ瞬間に「これは自分たちが日頃向き合っているものととても近い作品だ」と強く感じたんです。
能楽では「幽玄」という言葉がよく用いられます。目に見えないものや、この世には存在しないものの美しさを表現する芸術であり、私たち声優もまた、絵や文字の中に生きる存在へ声という形を与える仕事をしています。だからこそ近しいものを感じて「これは本気で向き合わなければならない題材だ」と改めて思いました。少し大げさかもしれませんが、雷に打たれたような衝撃を受けたことを覚えています。
──同じ表現者として共通点を感じられたのですね。
花守:そうですね。表現について悩み考え抜き、それを技術として昇華していくという点で能楽師の方々と私たちはとても近い場所に立っているのかもしれないと感じました。だからこそ、この作品と真摯に向き合い、自分なりの形としてしっかり残したいと心から思ったんです。
──アフレコに入る前には、実際に能をご覧になったりもされたのでしょうか?
花守:アフレコ前に観に行く機会はなかったのですが、作品に関わる以上、一度は実際に触れてみたいという想いはありました。私は残念ながらスケジュールが合わなかったのですが、石也役の土屋神葉さんや増次郎役の朴璐美さんたちとも「みんなで観に行きたいね」という話をしていて。実際に足を運ばれた方もいたと聞いています。
共演者の皆さんも含めて「実際に触れないと分からないものをできるだけ吸収したい」という想いを共有しながら作品に臨んでいた印象があります。
──鬼夜叉役のオーディションはいかがでしたか?
花守:最初に思ったのは「今の自分がこの役を本当に演じられるだろうか」という不安でした。鬼夜叉は物語の序盤で「なぜ舞うのか」という問いに悩みますが、私はすでに「演じること」の意味をある程度見つけてしまっている立場です。その状態から、一度原点に戻って彼の感覚をなぞれるのだろうかという葛藤がありました。
オーディション会場でも自分以外の参加者の方々から、これから新しく挑戦していこうとするようなフレッシュな空気を感じていて「自分がここに呼んでいただけたこと自体が奇跡かもしれない」と思ったんです。だからこそ自分が感じる「初めて多くのものに触れる少年」の姿を素直に表現しようと考えました。それが自分なりの鬼夜叉につながるのではないかと思えたことで、吹っ切れてオーディションに臨めた気がします。
鬼夜叉は最初から自分の形が定まっている人物ではなく、自分の中の「花」と向き合いながら少しずつ研ぎ澄まされていく存在です。その過程こそが彼の大きな魅力だと、オーディションの段階から感じていました。
──アフレコでの意識も「少しずつ研ぎ澄まされていく」だったのでしょうか。
花守:現場でも(黒柳トシマサ)監督や(長崎行男)音響監督からは、完成形よりも鬼夜叉と向き合う中で生まれる自由なお芝居を求められていると感じていました。「こういう感情だからこういう声になる」といった固定観念をできるだけ捨てて、本当に裸の状態で役に向き合おうと意識していました。
──経験や技術を活かすというより、一度手放してキャラクターに向き合ったのですね。
花守:自分が身につけてきた技術や経験を脱ぎ捨てるような感覚で鬼夜叉と向き合いました。それでもなお残るものがあるとしたら、それこそが私自身のオリジナルな部分であり、鬼夜叉を演じる理由として求めていただいた部分なのだろうと思います。
































