
5年間の歩みを糧に、理想の自分を追いかけて――声優アーティスト・岡咲美保さんが語る、節目を飾る3rdミニアルバム『MY ÉTOILE』への想い
アーティストデビュー5周年という大きな節目を迎えた声優・岡咲美保。ファンへの感謝を胸に制作された3rdミニアルバム『MY ÉTOILE』には、神前 暁(MONACA)、俊龍、唐沢美帆、本多友紀、一二三、真崎エリカ、笠井雄太(Elements Garden)ら錚々たる作家陣が参加。自身が作詞を手がけたリード曲「フローリア」や声優としての代表作『転生したらスライムだった件』が縁を結んだコミック版のコラボソング「らぱっぱ☆PARTNER!」など、彼女の多才にして多彩な一面が刻まれた一枚となった。未来の自分を見つめつつ「今」を大切にアーティスト活動を謳歌する彼女が本作に込めた想い、そして9月13日に控える記念ライブへの意気込みまで、たっぷりと語ってもらった。
5年間の活動を経て、「幻」だったアーティスト活動が「現実」に
──アーティストデビュー5周年、おめでとうございます! この5年間の活動は、ご自身にとってどんな時間になりましたか?
岡咲美保さん(以下、岡咲):自分の毎日の中に「アーティスト活動をしている自分」という存在が生まれて、音楽活動について考えている時間が当たり前になって、もう5年が経ったと思うと……最初は「幻」みたいな感じだったのが、この5年で「現実」になったような感覚はあります。アーティスト活動を始める前は抽象的なイメージしか描けなかったんです。「こんなライブをしてみたい」とか「こんな曲を歌ってこんな風に感動させてみたい」みたいなふわっとしかことしか見えていなかったので、ちょっと夢っぽい感じがしていて。そこから、実際にライブをさせてもらったり、いろいろなアーティストさんの活動を見ていくなかで、自分が何を武器にして戦っていくべきなのか、どういう手順を踏んでいくべきなのか、リアルな考え方が見えてきたように思います。
──今のご自身の「武器」を言葉にするとしたら何だと思いますか?
岡咲:私自身も全部を把握できているわけではないんですけど……でも、お客さんがやりたいことを叶えるのが好き、というのは自分の長所だと思います。もちろんアーティストとして自分の世界観を提示するやり方も素敵だと思いますけど、私はそれ以上に「みんなが喜んでいると嬉しいタイプ」なんですよね。みんなが喜びそうなことに対してはフットワークが軽くなって、新しい試みや演出も「やってみよう!」と気持ちになります。ファンの皆さんからの「おみほ(岡咲)のこんな曲を聴いてみたい!」という声があるからこそ、「私も歌ってみたいかも」と思っていろいろな楽曲を歌わせていただいているところがあるので。
──ファンの皆さんの言葉を大切にしているんですね。
岡咲:はい! 私のファンの方たちは、すごくイイんですよ(笑)。本当に良いエネルギーをくれますし、愛がいっぱいで元気なんです。活動を始めた頃は、「私がみんなのことを楽しませて最高の一日にしてあげなくちゃ!」という気持ちでステージに立っていて、今もその気持ちは変わらないんですけど、だんだんとパワーバランスが変わって、今はみんなのほうが私のことを楽しませるライブになってきて(笑)。なので私も「みんながさらに前のめりで楽しんでくれるためにはどうすればいいか」を常に考えている気がします。
──そんな岡咲さんの想いが詰まった作品が今回の3rdミニアルバム『MY ÉTOILE』。制作はどのように進めていきましたか?
岡咲:今回は5周年記念ライブに合わせた作品ということで、「どんな楽曲のラインナップで5周年を盛り上げていくか」が制作のとっかかりになりました。錚々たる作家の方々にご協力いただいたのですが、そのうちリード曲の「フローリア」を作詞してみないかとプロデューサーさんにご提案いただいたので、そこに私の5周年に対する思いやアルバムの軸みたいなものを込めようと思ったんです。その歌詞や「フローリア」を歌ってみた時の感覚、ミニアルバム全体の楽曲ラインナップを踏まえて、最後に『MY ÉTOILE』というタイトルをつけました。
──『MY ÉTOILE』の「ÉTOILE」はフランス語で“星”という意味ですが、どんな思いを込めて名付けたのでしょうか。
岡咲:このタイトルには「私の星」だけでなく「憧れ」みたいな意味も含まれていて。自分としては、5周年を迎えたからといって「大きくなったよ!」みたいな気持ちはなくて、「これからもずっと憧れを追いかけて走っていきたい」と思っているんです。なおかつ、その「追いかける憧れの対象」は、誰かではなく「自分の背中」であってほしい。私はライブをしているときも、ステージの上に「理想の自分」がいて私の一歩先を動いているような感覚があるんです。もっとさかのぼると中学生くらいの頃から「10年後の自分がタイムマシンに乗って今に帰ってきてると思って頑張ろう!」という気持ちで、未来の自分を信じて発表会やオーディションを乗り越えてきたくらいで。
──そんなに昔から「理想の自分」の姿を追いかけてきたんですね!
岡咲:そうやって「理想の自分」という想像を信じることで度胸をつけてきたところがあります。なので今回の『MY ÉTOILE』というタイトルには、自分との約束みたいな気持ちも込めていて。「私の星」というのは「いつか輝いている未来の自分」のことを指しています。
なのでジャケット写真も、あえて(正面と)目が合わないものを選ばせていただきました。私が見ているのは、あくまでも「理想の私」なので。目を合わせているカットも候補にはあったのですが、空想している私のほうが『MY ÉTOILE』らしいなと思ったんですよね。。
──いつか輝く未来の自分を憧れの対象にする。そのお話は、まさに今回のリード曲「フローリア」の歌詞に通じるものですよね。この曲は、数々のアニソンの名曲を手がけてきた神前 暁(MONACA)さんが作編曲を担当していますが、岡咲さんがご一緒するのは初めてですよね?
岡咲:はい。以前、レギュラー出演していたアニソンのラジオ番組(「LIVE DAM Ai presents ANISON INSTITUTE 神ラボ!」)の私がお休みした回にゲスト出演されたことがあったんですけど、お会いしてお話したのは今回が初めてでした。私としても憧れの作家さんでしたし、プロデューサーさんも「いつか神前さんに楽曲を書いてもらいたい」という思いがあったみたいで、5周年の祝福をテーマに多幸感を表現してくれるであろう作家さんということでお願いさせていただきました。集大成感のある曲でエモい気持ちにさせてくれることに関してはすごく信頼のあるのが神前さんだと思うので。
──ちなみに神前さんの書いた楽曲で思い出深いものを挙げるとすれば?
岡咲:神前さんといえば、私の中ではやっぱり『ハルヒ(涼宮ハルヒの憂鬱)』の楽曲たちです! 学生時代、軽音楽部で平野綾さんの「Super Driver」を歌ったりしていたので。あの曲、歌うのがめっちゃ難しいんですけど、大好きなので歌いこなせるように頑張っていた思い出があります。カラオケで歌っていても、いろんな曲のクレジットでお名前を拝見していたので、この業界に入る前から意識して聴いていた作家さんのおひとりです。
──今回、神前さんに楽曲制作をお願いするにあたって、何か伝えたことはありましたか?
岡咲:ただ「5周年やったね!」という感じにするのではなく、「これからも続いていくなかでの一つの“おめでとう”を確認し合える場所」という温度感を大切にしたい、とお伝えしました。すごく盛り上がるというよりも、じわーっと心に響く感じと言いますか、感謝や歓びの気持ちを日常的に噛み締められるような楽曲になればいいなと。ただ、基本的には自由に考えていただけた方が嬉しいので、そこまで細かいことをお伝えせず、お任せして出来上がったのがこの曲でした。
──楽曲を受け取ったときの印象はいかがでしたか?
岡咲:多幸感がすごくて「え、私、卒業しちゃうの?」と思うくらいでした(笑)。いろいろな気持ちが浄化されるような、すごく浄化力のある曲だと思ったので、これは「詞」が重要になるなと感じて。この感動的な曲にただ明るい歌詞をつけたらそのイメージが強くなりすぎてしまうので、それ一本にはしたくない。なおかつ、私は明るいメロディと切ない歌詞の組み合わせが好きなので、この曲のメロディにある哀愁の部分もしっかりと引き出せる歌詞を書こうと思いました。
──どこか切なさを感じさせつつ前向きになれる歌詞ですが、どのように組み立てていったのでしょうか。
岡咲:前回に作詞した「イエロー♡ビート」はアップテンポな曲調だったので、ノリノリで書いたんですけど、今回も楽譜を見ながら言葉をガチガチに当てはめていくというよりは、メロディを聴きながら自然に口ずさんだ言葉を大切に書いていきました。
でも、「フローリア」はメロディが綺麗で音符の数がそこまで多くない分、出てきた言葉を自然な感じで当てはめるのが難しくて。まずはサビのメロディを聴きながら、ここは「○○て」という同じ語尾で繰り返す感じでいきたいなと思って、フワッと出てきたのが“息を吸って”“また止まって”というフレーズでした。次に、そこに繋がるサビの頭の部分は、パッと聴きだと言葉の意味がよくわからなくて呪文っぽいけど、ちゃんと意味のある言葉にしたいなと思って。音の響き的には“フローリア”みたいな感じがいいなあと思って、何の知識もなく「フローリアっていう言葉あったりしないかな」と調べてみたら、実際にあったんです(笑)。
──アハハ。最初は音の響きで思いついた言葉だったんですね。
岡咲:しかも「お花が咲く」という意味があるみたいだったので、歌詞もこの「フローリア」を出発点に書き進めていくことにしました。ちなみに1番のサビの頭だけは“フローリア”ではなく“クオリア”という言葉を入れたんですけど、これはその時に読んでいた哲学書で知った単語で。例えば、人が赤いリンゴを見た時に、それがどれくらい赤いのか、心の中に浮かぶ主観的な感覚を意味する言葉なんです。私としてはこの曲の歌詞に、自己を見つめ直すような要素も入れたかったので、「自分の感覚だけに集中できる時間を大事にできたらいいよね」という意味を込めて入れさせてもらいました。
──哲学書を読んでいるとは意外でした。
岡咲:本当にわかりやすいイラスト付きの本だったんですけどね(笑)。でも、そういう本を読むのも結構好きなんです。自分の中でもやもやと考えていたことにも、先人の人たちが言葉にして名前を付けて学問にしてくれているのを知ると、安心できるので。
──そういえば最近はSNSで読書報告も頻繁にされていますよね。
岡咲:そうなんです! 週2、3冊、月10冊くらいのペースでいろいろ読んでます。読書は意外と性分に合っていて、すごくいいなと思います。
──歌詞の内容に踏み込むと、過去や思い出に囚われそうなところを振り切って未来を見つめるようなイメージが浮かびました。“明日になることを願っていい”というフレーズも印象的ですが、どんな思いで書かれたのですか?
岡咲:誰もが、それまでの人生で積み上げてきたものはありますし、それが恋しくなる時もあれば「辛かったな」と思う時もそれぞれにあって。そこから未来が不安になったり、楽しみになったりもしますけど、実際にあるのは今のこの時間だけだと思うんです。砂時計のように時間が経過していく描写も書いたのですが(“逆さまの砂時計はいつしか 元の姿忘れてしまったみたいだね”)、恐れずに一歩一歩、今の自分の感覚に立ち戻って、今やりたいことや大事にしたい気持ちを大切にできれば、それが未来の自分に繋がるんじゃないかなって。
時間が過ぎ去ることや戻れないことに悲しみを覚えるよりは、まだ見えない未来の自分の背中を信じて、「今を生きる」というところに焦点を向けつつ頑張る。でも、目指す目的地にはちゃんと自分が立っていてくれる、という心象風景みたいなものを表現したくて。漠然とした自信、確証のない希望に支えられて今を過ごしていけたら、という思いを込めました。
──その後に続く“君と歩くから”の“君”というのは?
岡咲:これは“僕”の未来の姿としての“君”をイメージして書いていました。さっきお話した「オーディションを頑張っている時に思い浮かべる未来の自分」もそうですし、例えば、夜寝る前に「あの頃辛かったな」と思い出したとして、今の私がハグしに行ってあげるような感覚を、逆に持ってきた感じです。2番のサビの“駆け出してゆく 背中に 翼を授けられたら”という歌詞も、がむしゃらに走っている過去の自分に、未来の自分が「泣いてもいいんだよ」みたいな感じで教えてあげられたらいいのに、というもどかしさと自分への愛情を込めていて。
──この曲の歌詞は、自分に向けた言葉としての側面が強いんですね。
岡咲:自分に対してもそうですし、きっとみんなの中にも、あえて未来や過去の自分を今の自分と切り離して考えることで大事にできるものがあると思うんです。例えば子供が「いつか僕はスーパーマンになる」と言った時、今の「僕」と「スーパーマン」は乖離しているけれど、それを絶対的に信じられるのが子供だと思うんです。でも、大人になるといつしか「いやいや」ってなるところを、私は結構ずっと信じているところがあるので、そういう部分を表したかったんです。なので、みんなにも安心して自分を信じて歩んでほしい、という願いも込めた曲です。
──素敵な楽曲ですね。この曲のMVには、髪の長さやスタイリングの異なる2パターンの岡咲さんが登場しますが、それも「今の自分」と「未来の自分」を表現しているのでしょうか。
岡咲:そうです! まさに「今の私」がどうしようかな?って揺れているところを、「未来の私」が振り返って見つめていたりしていて、「フローリア」の歌詞をわかりやすく表現していただいたMVになっています。サビで歌っている髪の長い私が、今の自分が思う理想の私、「未来の私」という設定です。
──未来の自分を自分自身で演じるというのは、どんな感覚でしたか?
岡咲:不思議な感じでした。ドラえもんのひみつ道具に、自分の未来の顔がわかるカメラがあったと思うんですけど、そういう面白さもありつつ(笑)、結局それは想像でしかないので、その時の感情を表情に込めることを意識しました。「今の私」は不安を抱えつつも漠然とした未来に希望を持とうとしている表情。「未来の私」は「安心しておいで、大丈夫だよ」という慈愛に満ちた柔らかい表情。その違いを出せたらいいなと思って撮影していました。



























