
【レビュー】『二哈和他的白猫師尊』の肉包不吃肉先生が描く中華BL小説『病案本』〈賀予×謝清呈〉運命的に交差していく2人の男の絡み合いに、どうしようもないほど狂わされていく
晋江文学城にて2021年8月より連載された中華BL小説『病案本』。2023年10月より日本語翻訳版『病案本 Case File Compendium』の連載配信がスタート。現在、日本語翻訳版の単行本が第4巻まで発売中です。(全8巻)
本作は、『二哈和他的白猫師尊』でも知られる人気作家・肉包不吃肉先生が綴るスペクタルサスペンスBL。主役カップリングは、大学生の賀予(ハーユー)×医科大学教授・謝清呈(シエチンチョン)。2人は、“患者と元専属医師”という関係にあります。
巨大製薬会社の御曹司であり、特殊な精神病を患っている賀予。彼の幼少の頃に専属の医師として賀家に雇われていたのが、13歳上の謝清呈でした。しかし、謝清呈はとある事情で賀予の主治医の職から離れた後、医科大学の教授に。19歳になった賀予は4年ぶりに謝清呈と再会し、ここから2人の関係が徐々に揺れ動いていきます。
過去に何があったのか、どこか険悪モードの賀予と謝清呈。日本語翻訳版の連載配信を追っていた私は、この相容れないように見える2人がどうにかなるなんてたまらないな……と昂り、彼らが抱える傷と秘密に触れながら瞬く間に『病案本』の虜に。
制御できない感情をぶつける賀予、対して精神的にも肉体的にも強靱で難攻不落の謝清呈に、どうしようもないほどに狂わされていきました。
賀予の熱狂的な視線と謝清呈の凍てつくような視線、美しい男同士が絡み合う濃厚な情景、散りばめられた伏線が繋がっていく興奮で息ができなくなるほど。読み進める度に激しく心が震えて、ページをめくる手が止まらなくなっていきました。
本稿では、私が『病案本』に夢中になった理由を語っていこうと思います。日本語翻訳版第2巻までの一部ネタバレを含みますので、未読の方はご注意ください。
『病案本』あらすじ
巨大製薬会社の御曹司である19歳の賀予(ハーユー)は、世界に4人しか患者がいない特殊な精神病を患っている。彼が幼少の頃、賀予専属の医師として賀家に雇われていたのは13歳年上の謝清呈(シエチンチョン)。謝清呈の妹、謝雪(シエシュエ)が滬州(こしゅう)大学芸術学部で教鞭をとることを知り、賀予は中国に戻り、滬州大学に入学した。
32歳になった謝清呈とは顔を合わせたくなかった賀予だが、謝雪の寮で4年ぶりの再会を果たす。何かと反発し合う二人だが、とある事件を契機にかつての医師と患者としての関係性を意識していく。新たな事件に巻き込まれる二人だったが、19年前の謝兄妹の両親の交通事故死の真相に迫り……。
(公式サイトより引用)
患者と元専属医師の関係〈賀予×謝清呈〉
賀予
賀予は滬州大学芸術学部の1年生、現在19歳。綺麗で上品な顔立ち。頭脳明晰な巨大製薬会社の御曹司ですが、賀家には一部の人間しか知らない秘密があります。
柔和な性格で優秀な子だと周囲から思われてきた賀予。実は、幼少期から世界に数件しか発症例のない「精神的なエボラ」と呼ばれる精神病を患っていました。カルテに記録として残されている患者はたったの4人。徐々に精神を崩壊させて、肉体を麻痺させていく病気で、ひとたび発作が起きれば発狂して血を好みます。
幼かった賀予は孤独と不安の中で成長。現在も精神病患者であることを笑顔の下に隠し、理性的な人間を演じ続けています。本当は傷だらけなのに“普通”を装い、人一倍努力して“優秀”を得たのです。
謝清呈
謝清呈は4年前まで賀予の主治医でした。現在32歳。彼もまた容姿端麗で、陶磁器のような肌を持つといいます。冷徹な雰囲気を纏い、精神的にも肉体的にも屈強ですが、どこか儚さも。度々咳き込みながらも煙草に依存しています。
謝清呈は21歳の時に賀予の父に招かれ、主治医として賀予のそばで数年間寄り添いました。誠意を持って治療にあたっていましたが、とある事情で賀予の主治医を辞めた後、滬州医科大学の教授に。
両親を事故で亡くしており、当時の謝清呈はまだ未成年でしたが、親切な人の助けを借りながら大黒柱として妹の謝雪の面倒を見ていました。謝雪はそんな兄を尊敬し慕っています。
賀予×謝清呈
物語の序盤、賀予の想い人は謝雪として描かれていますが、本作の主役カップリングは〈賀予×謝清呈〉。2人は13歳差で、攻めが賀予、受けが謝清呈です。
端正な顔立ちの賀予と謝清呈。特に目元が印象的で、賀予は杏眼、謝清呈は桃花眼。そして、賀予は189cmと高身長。謝清呈も華奢というわけではなく、身長は180cmあります。筋肉も程よくついていて、均整の取れた肩と背中、すらりとした上半身のライン、細い腰、白い首……相当魅惑的な体の持ち主ですが、本人はまさか自分が抱かれる側になるなんて思いもしなかったでしょう。
目を引く『病案本』日本語翻訳版の装画、挿絵は、大人気イラストレーター・yoco氏が担当しています。こちらの装画からも漂う2人の色香。第1巻と第2巻の賀予と謝清呈をよく見ると、それぞれ唇に“血”が付いているんですよね。
並べてみても視線は合わないのに、唇には揃って血が付着している。この表紙にも2人の本質や関係性がよく表れていて、静かに潜む狂気にゾクゾクしてしまいます。
賀予は手を差し伸べてくれた謝清呈を忘れたことがなかった
賀予と謝清呈はそれぞれ傷を覆い隠しながら生きています。賀予は何でもないように振る舞うので、本音で話さない。一方で、謝清呈は体裁を気にしないので、誤解されても本当のことを話さない。そのため、2人はなかなか理解し合えずにいました。どことなく、似たところもあるんですけどね。
賀予は謝清呈を憎んでいるように見えますが、その心情は複雑なもの。賀予の精神を掻き乱す原因の多くは、謝清呈にあると言えます。謝清呈の言葉一つで、時に大型犬のごとくブンブンと尻尾を振り、時に絶望の暗闇で彷徨うことも。
単に好き嫌いで片付けられるものではなく、賀予の記憶を辿ることで、彼にとって謝清呈がいかに特別な存在なのかが見えてきます。というより、孤独で不安な幼少期にこんな人がそばにいたら、確実に依存してしまうだろうとさえ思います。
幼少期の賀予にとって謝雪は心の拠り所だったと言えますが、精神病患者を生身の人間として扱ってくれる謝清呈の“医療理念”は賀予の生きる道しるべとなり、謝清呈がくれた“血の通った言葉”は救いに。
それなのに、謝清呈の態度は冷たくて、あくまで“患者と医者”という線引きをしています。ついには賀予の前からいなくなってしまい、賀予が必死に縋ろうとも引き留めることができませんでした。
賀予は出会った当初から、謝清呈が纏う消毒液の匂いが嫌いだったといいます。だけど、手を差し伸べてくれた彼のことを忘れることはなかったのです。
再会後、運命のイタズラなのか、賀予と謝清呈は様々な事件に巻き込まれることに。謝清呈が追い込まれた時、今度は賀予が手を差し伸べるんですよね。私はこのシーンが好きなのですが、謝清呈は信じると言ってその手を取ります。
きっと賀予は心臓が飛び跳ねるほどに嬉しかったことでしょう。謝清呈はこの時の賀予に心を動かされており、賀予に歩み寄ろうともしていました。
謝清呈は、鉄の鎧を何重にも纏っているかのような秘密を抱える人間です。謝清呈の思想や生き方に関しても、やはり過去が明かされる度にその理由が裏付けされていくようでした。
事件に関わる過程で謝清呈の過去が浮かびあがるのですが、賀予にとって信じがたい事実も明らかに。謝清呈に裏切られたと絶望し、自分を支えてくれていたものは全て崩れ落ち、賀予の精神は崩壊していきます。
しかし、目に見えていることや耳にしたこと全てが、“真実”だと言い切れるのか──。2人のラブストーリーにはいくつもの精巧な仕掛けが設置されているので、このミステリーを読み解きながら激しく心を震わされていくのです。
立場的にも恋愛には程遠い間柄にある賀予と謝清呈ですが、こうしたなかで精神の真髄まで切り込みながら、拗れた2人の関係の変化が説得力を持って描かれていきます。





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