
『カブト』の世界はこれからも続いていく――Vシネクスト『仮面ライダーカブト20th 天を継ぐもの』脚本・米村正二さんインタビュー
TVシリーズ放送から20周年を迎える『仮面ライダーカブト』の完全新作、Vシネクスト『仮面ライダーカブト20th 天を継ぐもの』が、2026年11月6日(金)より新宿バルト9ほかにて期間限定上映されます。
人間に擬態して侵略を進める宇宙生命体・ワームと秘密組織・ZECT、マスクドライダー(仮面ライダー)たちによる戦いは、人類の勝利に終わった……はずでした。人類とワームが共存する世界で、再始動したZECTの目的、そして「天を継ぐもの」は誰なのか? 加賀美新(演:佐藤祐基)、矢車想(演:徳山秀典)、風間大介(演:加藤和樹)ら、かつて激闘を繰り広げたあの男たちが、20年の時を経て帰ってきます。
今回は、本作の脚本を担当した米村正二さんのインタビューをお届け。20年ぶりの『仮面ライダーカブト』新作に対する思いや、加賀美新というキャラクターへの思い入れを語っていただきました。
※本記事にはネタバレが含まれます。未見の方はご注意ください。
米村さんにとっての『仮面ライダーカブト』とは?
──TVシリーズの放送開始から20周年という節目に、完全新作となるVシネクスト『仮面ライダーカブト20th 天を継ぐもの』の制作が決まった際の心境をお聞かせください。
脚本・米村正二さん(以下、米村):実を言うと、あまり「周年」というのは意識していませんでした。ただ、仮面ライダーシリーズが途切れることなく長く続いていて、映画やイベントなど、たくさんのお客さんが熱心に足を運んで愛し続けている姿というのは、一人の視聴者として客観的にずっと見ていました。というのも、実は僕、元々は東映さんと全く繋がりがなかったんですよ。
──そうだったんですね。
米村:始まりは2005年に放送された『Sh15uya』(シブヤフィフティーン)というドラマで、初めて東映さんと一緒にお仕事をさせていただく機会を得たんです。そのご縁や繋がりから、次は『仮面ライダー響鬼』(ひびき)の脚本を少しだけ書くことになって。そのすぐ後にプロデューサー陣から「次の新しい仮面ライダーのメイン(メインライター)をお願いしたい」と声をかけていただいた。それが『仮面ライダーカブト』だったんです。
──メインライターとしてのプレッシャーもあったのでしょうか?
米村:当然、歴史ある『仮面ライダー』のメインライターを務めるプレッシャーは凄まじかったですし、何より1年間という長丁場のテレビシリーズを書き上げるためには、精神的にも肉体的にも大きな覚悟が必要でした。しかしその一方で、当時僕は海外(アメリカ)の連続ドラマのような、壮大な群像劇やサスペンスの構成が好きだったこともあって、「1年間を通してオリジナルの物語を描くことができる」という期待感がありましたね。今思っても贅沢で、脚本家としてこの上ないほど幸せなことだったと感じています。
──これまで長年にわたり様々なアニメや特撮作品を手掛けてきた米村先生にとって、『仮面ライダーカブト』はご自身の中でどのような位置づけの作品になっていますか?
米村:僕のシナリオライターとしての仕事の歴史を振り返っても、大きな節目になりましたし、何より「すごく燃えた作品」です。当時は毎日が忙しかったですし、ギリギリの極限状態の中で、「どうすれば少しでも面白い話を、魅力的な展開を生み出せるのか」という作業を追求していました。あの1年間を最後まで頑張り抜けたことは、大きな財産になっています。
──「すごく燃えた」というのは、キャラクターや物語を作り上げていくプロセスに対してでしょうか?
米村:そうですね。『カブト』に関しては、準備段階から、プロデューサーの白倉伸一郎さんや武部直美さんと一緒に机を挟んで、主人公のキャラクター像や世界観、根幹のルール作りなど、時間をかけてじっくりと積み上げていくことができました。チームが一丸となって、ゼロから作品を作り上げていったという意味でも、僕にとっては特別に思い入れが深い作品なんです。
当時は、僕の友人でもある小林靖子(こばやし やすこ)さんや井上敏樹(いのうえ としき)さんといった素晴らしい脚本家たちがバリバリ活躍されていて、『仮面ライダーアギト』にしても『仮面ライダー龍騎』にしても『仮面ライダー555』(ファイズ)にしても、特徴のあるシリーズだったと思います。その中で、自分がメインライターを任せていただける以上は、「とにかく、どこよりも面白いものを作ってやろう!」という気概に満ち溢れていました。僕が「自分の思う最高に面白い仮面ライダーはこういう感じです」というビジョンを精一杯表現した。20年経ってもなお、それが視聴者の皆さんに伝わっているのだとしたら、これほど嬉しいことはありません。
等身大のヒーロー・加賀美新
──「天の道を往き、総てを司る男」である天道総司(てんどう そうじ)は、特撮ヒーローの中でも特異な主人公であり、「おばあちゃんが言っていた」から始まる天道語録も話題を呼びました。
米村:企画段階から「天道総司」という完璧超人なキャラクターが、僕たちの真ん中にドカンと存在していました。誰も追いつけない、すべてが完璧な天道がいる。だからこそ、その完璧さを際立たせるための存在として、天道とは真逆の性質を持ったキャラクターが必要不可欠だったんです。それが、人間臭く、努力型であり、けれどもその努力がなかなかすんなりとは報われない。そうした泥臭さを持ちつつも、絶対に諦めずに一生懸命に前を向いて進む「加賀美新(かがみ あらた)」でした。加賀美の不器用で真っ直ぐなキャラクター像を模索していく中で、ようやく『カブト』のドラマの歯車が噛み合い始めたんです。
──TVシリーズ当時、加賀美というキャラクターをどのように膨らませていったのでしょうか?
米村:完璧すぎる天道だけでは、物語のスケールは保てても、視聴者が等身大の気持ちで入っていくのが難しい。加賀美がいて、彼が壁にぶつかり、泥をすすりながらも立ち上がってくれるからこそ、天道の持つ完璧さもより引き立ちます。加賀美の存在があって初めて、この作品のドラマとしての深みと厚みが生まれているんです。
──加賀美新がなかなかライダーになれず、変身を「焦らす」展開が続きましたね。
米村:ガタックに変身するまでは、結構な時間をかけて長引かせました(笑)。でも、あえてすんなりと仮面ライダーにさせずに、彼が「やれそうでやれない感じ」「あと一歩なのに届かないもどかしさ」を丁寧に描いたことが、彼の魅力をより大きく膨らませたと思います。
キャラクターにリアルな20年の経過を滲ませたかった
──ここからは『仮面ライダーカブト20th 天を継ぐもの』のお話を伺います。今作のストーリーを構築していくにあたり、どのようなことを話し合われたのでしょうか。
米村:プロデューサーの白倉伸一郎さんや武部直美さん、東映ビデオのプロデューサー・中野剛(なかのつよし)さん、そして僕の4人で集まって、何度もディスカッションを重ねました。そこで白倉さんから「昔のキャラクターたちのノリのままで、当時の若い姿やテンションをなぞるのはやめよう」という方針が出たんです。キャラクターにも、現実と同じ時の流れをリアルに経過させようと。20年の歳月を経たからこそ滲み出る「人間のリアルな変化や重み」を軸にして、大人の物語を作っていこうという話になりました。
──時の流れを止めずに、彼らもまた20年間をリアルに生きてきた大人として描いたと。
米村:そうですね。20年という変化のドラマを掘り下げていく過程で、サブタイトルの『天を継ぐもの』というワードが最初からポッとあったわけではないのですが、自然とテーマが「次の世代へ、その尊いバトンを繋ぐ者たちの物語」という方向にシフトしていきました。
──加賀美新は今作では一人息子を育てるシングルファザーになっています。脚本上で彼の変化を掘り下げていかれたのでしょうか。
米村:先ほどもお話ししたように、『仮面ライダーカブト』というシリーズは「加賀美新という青年がヒーローへと成長していく物語」でした。そんな彼が20年を経て親になり、一生懸命に息子を育てているけれど、思春期の息子にちょっと小馬鹿にされて冷たくあしらわれたり、親父として空回りしたりしている。そういう真っ直ぐな姿は、書いていても愛着が持てましたね。
──矢車想についてはいかがでしょうか?
米村:実は、キャラクターの中で動かし方に一番頭を悩ませたのが、矢車さんだったんです(笑)。矢車想と影山瞬(かげやま しゅん)のコンビ「地獄兄弟」は、テレビシリーズが終わった後も、別のシリーズにゲスト出演したり、様々な形でファンに愛され続けていたようです。今回の20年後を描く映画の中で、果たして「当時の地獄兄弟のままで最初から出すべきか否か」という点で葛藤しました。でも、改めて矢車のこれまでの軌跡を見つめ直した時に、最初に登場した時の「パーフェクトハーモニー」を謳うエリートなリーダー像から、すべてが瓦解してマイナス思考へと落ちていく。あの落差の激しい振れ幅こそが矢車さんという人間の最も面白い部分であり、最大の魅力だなと気づいたんです。
なので、矢車に関しては、あのテレビシリーズの切ないラストを一度経て、矢車さんがもう一度「プラス思考」に立ち戻らせました。そのうえで、またしても転落していく。その「矢車想の持つ、人間としてのすべての面白さ」を贅沢に詰め込んで描こうと。
──風間大介に関しては、かつて行動を共にした記憶喪失の少女・ゴン(演:馬場ふみか)との切なくもほろ苦い人間ドラマが描かれていますね。
米村:風間大介はテレビシリーズ当時、井上敏樹さんがメインとなって作り上げたキャラクターでした。なので、僕としては動かすのが少し難しいと感じる部分もあったんです。ただ、20年という過酷な歳月が経った時に、大介が昔と全く変わらないメイクアップアーティストのまま活動しているというのも、大人のドラマとして面白くないなと。
現代ならではの世知辛いリアリティとして、大介がSNSで炎上してしまい、業界から完全に干されてしまって生活に困窮しているという、厳しい状況をあえて作りました。一方で、彼を語る上で絶対に欠かせない記号は、やっぱりゴンですよね。そこで今作でも、ゴンをもう一度登場させるのですが、彼女は現在、大介とは全く対照的に人気女優としてスポットライトを浴びている。かつての大人の大介と、幼い少女だったゴンの立場が逆転した状態で再会したらドラマが生まれるんじゃないかと思いました。
大介は元々、自分のことを「風」と自称していますからね。風に吹かれるまま、一つの場所に留まらずに漂う物悲しさや切なさ。それは、彼が豊かな時代を過ごしていた頃から心に宿り続けています。だからこそ、大人になった二人の再会には、ほろ苦い空気感が生まれるんでしょうね。


































