“クラシックも『ドラクエ』も、100回聴いても飽きない音楽”。金管五重奏による歌劇『魔笛』＆『ドラゴンクエストIX』コンサートと、すぎやまこういち氏の会見インタビューをレポート！

　“すぎやまこういちと東京メトロポリタン・ブラス・クインテット 金管五重奏による歌劇『魔笛』＆『ドラゴンクエストIX』”が、2010年3月1日、東京・第一生命ホールにて開催された。このコンサートは、東京都交響楽団のブラスセクションの中心を担う5人が、第一部ではモーツァルトの歌劇『魔笛』を、第二部では『ドラゴンクエストIX』を演奏するというもの。今回公演前に行われたすぎやまこういち氏の会見と、コンサートの様子について紹介しよう。

●「彼らがどう編曲し、どう演奏するか楽しみにしてるんです（すぎやま氏）」

　コンサート前には会見の場が設けられ、すぎやま氏から直接話を聞くことができた。今回のコンサートはオペラとゲーム音楽の新鮮な組み合わせだが、すぎやま氏は全く違和感を感じなかったという。「こういう組み合わせは今まであまりありませんでしたが、違和感はありません。それは、演奏する彼らの意識の中で、『ドラゴンクエスト』もクラシックナンバーとして捉えられているからなんです」とすぎやま氏は語る。すぎやま氏の中では、歌が主役の歌劇とは違い、単体で音の主役となる『ドラクエ』の音楽は、バレエ音楽に近いものだという。金管五重奏による演奏については、「彼らは歌手に歌声という資質があるように、本当に素晴らしい音の色を持った、全国の音楽を学ぶ人が憧れるようなトッププレイヤーです。先程音合わせで聴いたのですが、金管楽器の『星空の守り人』も、とても楽しいですよ」とのことだった。

　すぎやま氏の話で興味深かったのが、クラシック音楽と『ドラクエ』の音楽の類似性だ。「クラシック音楽は最初は取っ付きが悪いかもしれないけれど、噛めばかむほど味が出るスルメのような音楽で、何回聞いても楽しめる。今日のモーツァルトも、全人類が200年聴いても飽きないんです。ゲームの音楽も何度も何度も聴くものだから、100回聴いても飽きないものでなければならない。そこはクラシックとゲーム音楽の共通点かもしれない。クラシックの交響曲を100回聴くのは大変ですが、ゲームでは100回は簡単に聞けてしまう。その分何度も没にしながらやっているので大変ですが、やりがいのある仕事です」。金管五重奏と弦楽四重奏といった演奏形態の違いについて問われても、まず最初にあるのはゲーム音楽であることを強調。ファミコン、プレイステーション2、ニンテンドーDSといったハードの特性や、音を鳴らすときにゲーム機から出すか、イヤホンで聴くかといったことを考えながらバランスを取っていくという。「楽器は違っても、メロディやハーモニー進行は共通です。その上で、オーケストラと金管五重奏、弦楽四重奏では味が違い、音が違ってきます。その色に合わせて、編曲は彼ら自身が表現したいことに合わせてやっているんです。交響組曲ではヴァイオリンのカデンツァがあったりするのを、この編成ではどうするんだろう？　こう来るのか！　と、僕自身、本当に楽しみにしているんです。楽しいよね！」と、本当に楽しそうに語るすぎやま氏の姿が印象的な会見だった。


●金管による名演奏とすぎやま氏のトークに鳴り止まぬ拍手！

　クラシックコンサートと言えば堅苦しい印象もあるが、第一部では、演奏する5人自身が大蛇のぬいぐるみを取り出したり、マントを羽織ったり、かつらで女装したり……と、『魔笛』のシーンを曲間に寸劇で表現するコミカルな演出を見せた。もちろん、演奏は国内トップクラスのクオリティだ。そして第二部では、『ドラゴンクエストIX』の名曲の数々を披露。曲間にはすぎやま氏自身がマイクを持って登場し、名調子を披露。メンバー5人をドラクエの職業になぞらえて紹介したり、「次の曲は“王宮のオーボエ”ですが、オーボエはいません。果たして金管五重奏で、どう表現するのか楽しみにしています」といった聴き所の紹介、果てはすぎやま氏が最新作のDS版『ドラゴンクエストVI』で隠しボスを2ターンで倒してしまい、もうやることがない、といった脱線まで多彩なトークを繰り広げ、人柄とウィットで観衆を楽しませていた。アンコールでプログラムになかった『ドラクエVI』の音楽や、アレンジしたフィールド音楽、妖精サンディのテーマなどが披露されると、会場は鳴り止まぬ大きな拍手に包まれていたのだった。

＜取材・文：中里キリ＞

>>すぎやまこういちの世界
>>キングレコード・すぎやまこういち氏ページ

歴代『ドラゴンクエスト』シリーズ楽曲の作曲を手がけてきたすぎやまこういち氏。

第一部『魔笛』では仮装や朗読を交えて演奏。

第二部ではすぎやまこういち氏が曲間でトークと進行を担当。

2010年2月24日には、東京メトロポリタン・ブラス・クインテットによる『東京メトロポリタン・ブラス・クインテット Plays すぎやまこういち Songs』（画像）と、金管五重奏による『ドラゴンクエスト』CD2枚が同時リリースされている。