
実力派クリエイター・Nem×人気男性歌い手10名=“Nem's Garden”のコラボレーションアルバム『モラトリウム』リリースを記念し、Nemにインタビュー 「今回の作品は集大成的なアルバムになっているんじゃないかなと思います」
動画サイトを中心に活躍する実力派クリエイター・Nemと人気男性歌い手10名が手を取り合ったユニット“Nem's Garden”のコラボレーション・アルバム『モラトリウム』がリリースされる。
PointFive(.5)の1stアルバム『enhAnce』では“シザーハンズ”“サマーレイン”“SomaticDelusion”の3曲を、あさまっく1stミニアルバム『Gift』では“あやつりピエロの恋の歌”“サマーレイン”(Dancing Umbrella Edit.)(カバー曲)の2曲を提供──と、動画サイトの曲のみならず、多くの人気曲を排出してきたクリエイター“Nem”の、これまでに発表された楽曲のカバーと新曲を織り交ぜた今作。
一体どんな景色が見える作品になっているのか──これまでのキャリアも振り返りながらNemに話を訊いた。
『モラトリウム』
2011年6月15日発売 2625円(税込)
●バンドマンから人気クリエイターへ
――初めての取材なので色々とお伺いしていきたいんですが、Nemさんがネットで音楽を発信してみようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
Nem:ずっとボーカロイドの存在は知っていたんですよ。それこそ初音ミクが出る前から知っていて興味は持っていたんですけど、自分で音をあげようと思ったきっかけは──2009年にボーカロイドPたちが一挙に出るライヴがありまして……「ドキ生」っていうイベントだったんですけど(「ドキッ☆ボカロ曲だらけの生ライブ-Pもあるよ-」)、それの第一回のライヴを見に行ったことですね。めちゃくちゃお客さんが盛り上がっていて、このビックウェーブに乗るしかないなと。
――じゃあ、シーン自体に惹かれるところがあったんですね。「このビックウェーブに乗るしかない」と感じた、確信みたいなものがあったんですか?
Nem:お客さんがすげぇ温かいのが印象的だったんですよね。こんなライヴは初めて見たなって思うくらい感動して……。それでこういうシーンで音を発信してみたいなと。
――ではその頃から既に音楽は制作されていたと。
Nem:そうですね。曲を作り始めたのはもう10年前くらいで、学生時代から作っていました。
――当時はどんな音楽を作っていたんですか?
Nem:L'Arc-en-Cielが好きでああいう曲を作りたいなと思ってバンドもやってたんですよ。
――バンドご出身だとは聞いてたんですけど、L'Arc-en-Cielが好きだったというのは意外ですね。他にも好きなバンドはいました?
Nem:THE YELLOW MONKEYも好きでしたね。
――おお(笑)。でも、そういうバンドが好きだからと言ってなかなかオリジナルの曲は作れないと思うんですが、どういうきっかけでオリジナル曲を作り出したのでしょう。
Nem:……まぁ最初はヒドかったですよ(笑)。でも、このアルバムにも作りはじめた当時の音楽が入ってるんですよ。12曲目の“予感”(clear&nero)なんですけど、これは高校時代に組んでいたコピーバンドでライヴをすることになって、オリジナルを1曲やろうと。で、そのときに作った曲なんですよ。多少手を加えて、歌詞を変えて、今回収録しましたけど、ちょっと90年代臭がするんですよね(笑)。
――ああ、分かりますね。曲の後半のちょっとノスタルジックな雰囲気とか……。と、いうかコピーバンドもやられてたんですか?
Nem:やってましたね。L'Arc-en-Ciel、Mr.Children 、Hi-STANDARD、Slipknot……。
――随分幅広いですね(笑)。いわゆるJ-POPからパンクまで、さらには洋楽にも着手して(笑)。いまお話を聞く限り、かなり熱心にバンド活動をされていた印象があるんですけど、バンド主体ではなく、パソコンで音楽を作り出した根本的な理由っていうのは何になるんでしょうか。
Nem:バンド活動も楽しかったんですけど、作品としてもっと完成度の高いものを作りたくなったということが一番大きいです。やっぱり “音源”っていう形にするのが好きだったので、それでパソコンで音楽を作り出したんですよ。その当時に作ったのが13曲目の“さよなら”(あさまる)かな?
――じゃあ“予感”や“さよなら”も含め過去の曲も収録されたアルバムになっているんですね。
Nem:そうですね。だから今回の作品は集大成的なアルバムになっているんじゃないかなと思います。
Nem
あさまる
amu
clear
●10人の歌い手と作り上げた集大成的アルバムについて
――では『モラトリウム』のことも具体的に聞いていきたいんですけど、今回色々な歌い手さんとタッグを組んで制作されたアルバムになっていますが、こういう作品をリリースするきっかけは何だったんでしょうか。
Nem:ちょうど1年前にPoint Five(.5)の1stアルバム『enhAnce』がリリースされたのですが、この作品に曲を提供したことがきっかけで担当の方と知り合って。で、担当さんから「ソロ名義のアルバム出してみる?」という連絡がきたんです。最初はビックリしました。
――でも、やはり同時に喜びもありましたか?
Nem:そうですね、もちろん。
――では、まずどんなアルバムにしようと思いました?
Nem:コンセプトは最初から決まっていて、男性の歌い手さんを中心に僕の曲を歌ってもらおうと。今まで「歌い手のひとたちがボーカロイドの曲を歌ってCDにする」っていう作品はたくさんありましたけど、「クリエイターが核となって歌い手さんたちをプロデュースする」っていう作品はなかったので、そういうことをしてみたいなと。
――その構想はずっとあったんですか?
Nem:そうですね。人と作品を作っていくのが好きなので……。
――それは凄く難しい作業でもありますよね。
Nem:そうですね。凄く大変でした。まず、アポを取るところからスタートして……。
――でも、もともと面識のあるかたもいらっしゃいますよね? さきほどもおっしゃってましたけど、Point Five(.5)のアルバムに曲を提供されているご縁もありますし。
Nem:そうですね。Point Five(.5)のメンバーは面識がありました。中でもあさまるさんは、あさまっく(あさまる、じゃっくによるユニット)のアルバム『Gift』にも曲を書かせてもらったこともありましたし……。あと、clear&neroのCDにも、今回も収録されている“サマーレイン” を提供しているので面識がありました(今回のアルバムでは“サマーレイン”はGero&ふぁねるが歌い手を担当)。
で、Geroさんは“シザーハンズ”を歌ってくれているので、その繋がりで会ったことがあるんです(今回のアルバムでは“シザーハンズ”はふぁねるが歌い手を担当)。ふぁねるさんは会ったことはなかったんですけど、昔からふぁねるさんの歌は知っていたのでこの機会にぜひお願いしたいなと。
皆さんふたつ返事で「良いよ」って言ってくださって。こんなポンポン返事してくれるとは思ってなかったんですけど(笑)。
――理想通りに制作が出来たんですね。じゃあ、その方にあった曲を提供していったんでしょうか。
Nem:そうですね。このアルバムを作る時点で入れたい曲は大体頭のなかで決まっていたので、それをどの人に歌ってもらえば良いかなっていうことを考えて頼んでいきました。
――例えば、Nemさんからこんな風に歌って欲しいっていうリクエストみたいなものはあったんですか?
Nem:テキストにまとめて「こんな感じで歌ってください」っていうのは事前に送りましたけど、歌い手の人が自分で納得するうたが欲しかったので、基本的に歌いかたはお任せでしたね。
Gero
じゃっく
蛇足
nero
――では、制作にあたる上で特に難しかった点ってありますか?
Nem:……自分のスケジュール管理ですね(苦笑)。苦手なんですよ。かなりギリギリまでアレンジを詰めていました…。
――でも、ギリギリまで詰められていたこともあって、本当に綿密なアレンジが光ったアルバムになっていますよね。アルバムの前半はロックな印象が強くて。それこそ、バンド感が強いバック・トラックが多い気がするんですけど、これは意識されたんですか?
Nem:そうですね。前半はラウド、ロックな雰囲気の楽曲が多いですね。後半は聴いている人も疲れてくるんじゃないかなと思って、ゆっくりめの曲を。
――8曲目“名前をください”(Gero)あたりからミディアムな曲が多くなってきますよね。特に11曲目の“スターマイン”(nero)あたりからBPMがさらに落ちていくような気がします(笑)。
Nem:極端なんですよ(笑)。速いか遅いかしかないっていう。ミドルテンポがないんです。(BPM)120が無くて、70、80か、200みたいな(笑)。特に理由はないんですけど、もともとミドルテンポの曲は少ないんです。
――自然とそういう曲が増えていったんでしょうか。
Nem:そうですね。「人間が歌ったら映えるだろうな」っていう曲をピックアップしたので、選曲に関しては自然と。あと、僕のこれまでの集大成的な作品にしたかったので、昔作った曲も入れていきましたけど。
――いつも曲はどんな風に作っていくんですか?
Nem:僕の場合はタイトルから決めるんですよ。で、タイトルと一緒に歌詞のコンセプトを決めて、それを形にしていく感じなんですけど。
――“嗚呼、素晴らしきニャン生”(amu&みーちゃん)は、女目線の歌詞も入り込んできていて、かなりコンセプチュアルに作られている印象があります。
Nem:これはオスネコとメスネコの掛け合いの歌で。オスネコは自由主義の“夢を追って生きるぜ”っていうタイプなんですけど、メスネコは飼い猫で“飼われていたほうが安定していていいじゃない”っていう現実的なことをいうタイプで……。で、オスネコがメスネコを連れ出そうとするんですけど、そこには現実の壁が──っていう曲ですね。
――ラストの“あやつりピエロと君の歌”(あさまる&じゃっく)はいかがですか。
Nem:あさまっくのアルバムに提供した “あやつりピエロと恋の歌”のアナザーソングになるんです。これは良い曲になってますよ。人生が詰まった曲になってますね。
――歌詞が凄く良いですよね。
Nem:ありがとうございます。そう、歌詞が凄く良いんですよ。ぜひこれはじっくり聴いてもらいたいですね。
ふぁねる
みーちゃん
【蓮】
●ジャケットは村上ゆいちさんによる描きおろし
――では全曲聴かれてみた印象というのは?
Nem:……なんだろう……とりあえず完成してよかったなというのと、クオリティーの高い作品が出来て本当によかったなと。歌い手さん、ジャケット、マスタリング──本当に僕が好きな人たちにお願いしてやらせてもらったので、納得のいく仕上がりになりました。凄く満足していますね。
――ジャケットは村上ゆいちさんが担当されていますが、どういうイメージなんでしょうか。
Nem:この『モラトリウム』というタイトルは、モラトリアムとテラリウムを合わせた造語なんです。テラリウムというのは、は虫類などを飼う水槽や、水槽のなかにある環境のことを指すんですけど、そこでみんなが好きなことをして暮らしているっていうことを表現したジャケットにしたかったんです。
――それはアルバムのコンセプトと繋がってきますよね。
Nem:そうですね。Nem's Gardenという空間にみんなが住んでいて、好きなことをして住んでいるっていう。それを見事に村上さんが表現してくれました。
――でも5曲目の“ネバーランド”(【蓮】)は大人と子供の境目を表現したような楽曲で、そのコンセプトとはまた変わってくるのかなと思うのですが。
Nem:そうですね。これだけモラトリアムというテーマからは出ちゃっている感じがありますけど。これは学生時代……みんなが就職して落ち着きだしたころに作った曲で、夢か現実かっていうところに立たされる時期に書きました。色々な想いがこもった曲なので、ぜひ入れたいなと。
――でも、そういう曲も含めて、ホントにバラエティに富んだ集大成的な作品になっていますよね。
Nem:そうですね。バラエティに富んだ作品が出来たと思います、本当に。1曲、1曲世界観を大事に作ったし、1mmも妥協していないので、聴き込んでもらいたいですね。
――最後に聞きたいのですが──人気Pとして数々の名曲を世に送り出してきたNemさんですが、ネットではなくCDで音源が出るっていうのは、どんな気分ですか?
Nem:データで何でも聴ける時代ですけど、やっぱりモノには温かみがあるので凄く嬉しいです。CDを買って、開けて、プイレヤーに入れて、聴くって作業はやっぱり楽しいですし、特別な思いがありますね。パッケージも良いものになりましたし……。
昨日、ジャケットの作品を見せてもらったんですけど、かなり良い紙で(笑)。曲ごとに村上ゆいちさんのイラストがついているので、パッケージを含めて楽しんでもらえるんじゃないかなと。
<TEXT:逆井マリ>
『モラトリウム』
2011年6月15日発売 2,625円(税込)
>>ティームエンタテインメント
>>Nem's Garden特設サイト
アルバムに参加した人気歌い手たちの可愛いSDイラスト!





























































