声優
上坂すみれアルバム『20世紀の逆襲』レビュー、これは革命的挑戦だ

【レビュー】これは挑戦ではない、革命的挑戦だ。上坂すみれ2ndアルバム『20世紀の逆襲』を聴き終えて

2016年1月6日、上坂すみれの2ndアルバム『20世紀の逆襲』がリリースされました。オリコン週間ランキング9位を獲得した1st『革命的ブロードウェイ主義者同盟』からおよそ2年ぶりのアルバムです。

「20世紀」、そして「逆襲」。この単語から何を想像するかは人それぞれですが、ただならぬ予感だけは伝わってくるし、全18曲という大ボリュームっぷりからもやばみを感じます。ジャケットも美樹本晴彦、丸尾末広、BAHI JDといった有名作家とコラボした3パターンが用意され、その豪華さが伺い知れるところです。

というわけで、発売からずっとすみぺを聞いていたお目出たきすみぺ主義者による革命的レビューをお届けします。

■1. 予感02
作曲、編曲:R・O・N

本アルバムの開催と開幕を告げるインストゥルメンタル・トラック。完全なインストではなくボーカルがちらほら入っており、良い感じにすみぺの世界観を見せつけてくれています。特に冒頭の「最強だぜぇ」は何度聞いても最強なので何度も聞くべきそうすべき。

また、この曲で登場する言葉『革命的ブロードウェイ主義者同盟』はすみぺの1stアルバム。1stの1曲目も「予感」だったので、本曲では02となっているワケですね。良き演出。


■2. 20世紀の逆襲 第一章~紅蓮の道~
作詞、作曲、編曲:絶望ノ果てのクリシェ

逆襲の狼煙は上がりました。本アルバムのリードトラックとなる「20世紀の逆襲 第一章~紅蓮の道~」は、謎のサウンドクリエイター集団「絶望ノ果てのクリシェ」作となります。ネットで調べてもあまり情報が出ないマジで謎の集団です。

曲の方は非常に叙情的で、ギターロックにストリングス、ピコピコ感もたたえています。主旋律は中国楽器の胡弓が奏でており、雅びやかで前時代的なイメージを強く感じました。それらレトロ群に対してキャッチーなメロディーと近代的なパート構成が良きギャップとなっていますね。


■3. パララックス・ビュー
作詞:大槻ケンヂ
作曲:NARASAKI
編曲:Sadesper Record



ぶっちゃけこのトラックリストは読めた、それくらいジャストなタイミングでの「パララックス・ビュー」です。「紅蓮の道」のアウトロで落としておいてからのこのイントロ、このイントロよ!

本曲はアニメ『鬼灯の冷徹』のEDであり、すみぺの3rdシングルでもあります。やはりシングルらしい安定感ッ。「すみぺ×NARASAKI」はこれからも続けて欲しいと声を大にして言いたいです。

上記で紹介しておりますPVもかなりイっちゃってますので、ぜひご覧あれ。


■4. 冥界通信~慕情編~
作詞、作曲、編曲:和嶋慎治(人間椅子)

さぁ、わかりやすく人を選ぶ曲きましたよ。5thシングル「閻魔大王に訊いてごらん」のカップリングとして制作された「すみぺ×人間椅子」という禁断の組み合わせです。

なんといっても和嶋さんのゴリッゴリギターとすみぺの可憐な歌声の対比がたまりません! 和音階なリフに合わせて歌うすみぺ、そうこれが、これが聞きたかったんだよと。というかNARASAKI→人間椅子とかなんて贅沢な流れなんだ。間違いなく本アルバムのアガスポ(アガれるスポット)の一つです。


■5. 繋がれ人、酔い痴れ人。
作詞、作曲、編曲:吟(BUSTED ROSE)

この曲は本アルバムからの新曲です。吟(BUSTED ROSE)さんはアニメ『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』のOPを手がけたお人。音圧で攻めない余白のあるミックスが心地良い、しかしどこか懐かしが残るフューチャーレトロチューンですね。かなり好きな感触です。

全体的に早口めな曲なんですが、特にサビの早口部分は好きな人は絶対好きなパターンです、間違いないです。Aメロはメロディー、ベースライン共にあまり意識させず、Bメロは跳ね感マシマシで8小節をフルに使ったサビへのロイター板。そこから一気にE、D♯と安定したベース進行のサビに持ってきます。

トラックリスト的に見るなら、「パララックス・ビュー」→「冥界通信~慕情編~」と続いたメタル節を完ッ全にリセットしにきていますね。アルバムの多様性を示すチェンジャーのようなポジションの曲とも見られますが、こういったアルバムならではの曲は大好物です。大好物です(二回)。


■6. すみれコード
作詞、作曲:松永天馬
編曲:アーバンギャルド

「パララックス・ビュー」のカップリング曲。元来は宝塚用語で「清く正しく美しく」の理念にそぐわぬ禁止事項を指す言葉です。が、歌詞に「33回転」や「45回転」といったレコードに関する単語が放り込まれているので、すみレコードのダブルミーニングでもあるのでしょう。

4つ打ちが気持ち良いまさしくアーバンな曲で、「繋がれ人、酔い痴れ人。」からの流れが素晴らしくマッチしていますね。曲自体もゆったりしているので本アルバム前半部の休息地点という感じです。鼻歌で歌う時は回転数間違わないよう気をつけたい。


■7. TRAUMAよ未来を開け!!
(作詞:サエキけんぞう、作曲・編曲:窪田晴男)

4thシングル「来たれ! 暁の同志」のカップリング曲で、「TRAUMA」はトラウマと読みます。すみぺ曰く「インテリ文系っぽい歌」とのこと。

曲もかなりひねくれた構成で、AメロBメロはドミナントセブンスが随所に目立ちます。サビも定番コード進行に回帰するわけではなく、なんならちょっとハズした感があるくらいです。構成からしてインテリが伝わるなぁという印象。

しかし、このハズしが次曲への大いなるフリとなるのであった…。


■8.  Inner Urge
作詞・作曲:松浦勇気
編曲:橋本由香利



全国666万人のペロリストの皆様、おまんたせいたしました。アニメ『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』のEDで、歌詞もそんな感じのアレみが強い異彩を放つ一曲です。おいインテリどこいった。

わかりやすいディスコチューンなので問答無用でアガれる楽しい曲ですね。特に「S・O・X!!」連呼の部分とかはね、なんかこう、良いですよ、深くは言いませんが。ライブでの盛り上がりもバッチリ確約です。


■9. 無限マトリョーシカ
作詞:谷山浩子
作曲・編曲:Леснойпутешественник

「来たれ! 暁の同志」の通常版のみに収録されたカップリング曲。作曲は謎のロシア人、リェスノーイプチシェーストヴニクが担当し、作詞にはすみぺが敬愛する谷山浩子さんを迎えた異国的雰囲気の強い一曲です。

「コロブチカ」や「カチューシャ」を想起させるロシア民謡的な曲調が特徴で、アコースティックなサウンドも谷山さんの紡ぐ世界観とよくマッチングしています。ディスコチューン、民謡と随分な流れですが、このギャップ混淆っぷりが「上坂すみれだなぁ」と思ってしまうのもまた事実。


■10. 無窮なり趣味者集団
作詞:上坂すみれ
作曲・編曲:エンドウ.(GEEKS)

「パララックス・ビュー」通常版のカップリング曲。混淆とか言っておきながらまさかのロシア繋がり。ギャップなんてなかったんや…。

詰まるところ上坂式産革命歌なんですが、あえて一言言うならば歌詞の中にある「脳髄」という単語、これ。夢野久作、オーケンで育った文学サブカラーならば「脳髄」という単語に多くの意味を見出すのは確定的に明らか。よってすみぺと脳髄が結びつくのは必然なんです。脳髄はモノを思うに非ずッ!


■11. 来たれ!暁の同志
作詞:及川眠子
作曲・編曲:岡部啓一



随分とメジャーシーンから離れてしまったので、このあたりで4thシングルをぶち込んでくるのもまた必然の流れ。ユーロビート風の疾走感あるアゲアゲサウンドでリスナー同志諸君の団結も、より一層強固となることうけあいです。

ちょうど10曲目の「無窮なり趣味者集団」が良い具合にいろいろとリセットしてくれており、本曲から後半戦リブートといった雰囲気を感じますね。ぶっ通しで聞いてると「Inner Urge」で上がったテンションも落ち着いてくる頃なので、ユーロビート的な盛り上がり方は新鮮味があります。


■12. 20世紀の逆襲 第二章~蠱惑の牙~ ★
作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ

第一章、紅蓮の道に続く第二章という位置付けの曲で、同じく絶望ノ果てのクリシェによるものです。

パッと聞いた感じ、Sound Horizonっぽいなと思いました。その理由は語りパートがあるおかげなんでしょうけど、物語性の強いパート構成や長尺といったものも要因としてありそうです。これまた好きな人はグッと好きになれそうな曲ですね。


■13. 閻魔大王に訊いてごらん
作詞:RUCCA
作曲・編曲:岩橋星実(Elements Garden)



5thシングルにしてアニメ『鬼灯の冷徹』新作OADのED。MVには『鬼灯の冷徹』内で閻魔大王を演じている長嶝高士さんがゲスト(というには主要過ぎる立ち位置)として出演されています。

非常に好きな構成の曲で、しっとりした入りからハードロックへの転換、何よりわかりやすいD→E→F♯進行がアニソン的で耳に馴染みやすい。ギターリフも素直でカッコよく、バンドカバー映えもしそうです。

そして制服すみぺが可愛い。ペチコートはこれくらいが適量なんです。


■14. 罪と罰 ‒Sweet Inferno-
作詞:RUCCA
作曲・編曲:岩橋星実(Elements Garden)

先ほどの「閻魔大王に訊いてごらん」のカップリング曲。カップリングとは思えぬメジャー感で、バトル系アニメのOPとして起用しても全く違和感が無いほど王道的なアニソンとなっています。

アルバム通しで聞くとアニソン的なアニソン(こう表現してもきっと伝わるはず)が続くので、非常にテンションの高いゾーンですね。なんか「来たれ!暁の同志」以降前半部の2倍くらい聞きやすい気がするんだけど気のせいかな。


■15. 全円スペクトル
作詞・作曲・編曲:吟(BUSTED ROSE)

はい、本アルバムで一番好きな曲です。「繋がれ人、酔い痴れ人。」と同じく吟(BUSTED ROSE)さんによるもので、こちらも新曲になります。こういう疾走感溢れる曲はほんとに好きです。

細やかなビートがまるで走っている情景を想起させますが、吟(BUSTED ROSE)さんのツイート曰く「駅まで走って汽車に乗って都会に向かう歌」とのこと。やはり走るというキーワードは盛り込まれていた! 文明が押し寄せるレトロ世界を駆ける少女の姿が見える、見えるぞッ!


■16. 革命的ブロードウェイ主義者同盟(INST piano solo ver.)
作曲・編曲:遠山明孝

1stアルバム「革命的ブロードウェイ主義者同盟」内収録の同タイトル曲のピアノインストバージョンです。原曲も素直なB♭M7→C→Dmという動きなので、ゆったりとしたピアノアレンジになるとよりいっそう叙情的です。

また、この曲はB♭M7から始まるのですが、前曲「全円スペクトル」がE♭M7で終わるので、ルート音が五度関係となり、すっごく綺麗に繋がって聞こえるんですよ。もうめちゃくちゃエモいです。完全にうっとりできます。

せっかくなので原曲の方もドウゾ。




■17. ツワモノドモガ ユメノアト
作詞:椎名可憐
作曲・編曲:牧元芳朗(STRIP)

ペロペロディスコチューン「Inner Urge」のカップリング。あの曲の裏面とは思えない叙情的さとドラマチックな展開が特徴です。ピアノインストの次がこの曲というのがニクい配置っすよ…。

トラックリスト的にも本アルバム自体の大詰めを予感させますが、私はアルバムの暮れとは叙情的であって欲しいと思っています。殊更に声優のアルバムはそうであってほしいと思うのは、僕自身の声優アルバム原体験が堀江由衣の「Sky」や「楽園」に因るものだからかもしれません。こう、解放感や余韻で満ちたいんですよね、最後は。


■18. 20世紀の逆襲 第三章~絶境の蝶~ ★
作詞・作曲・編曲:絶望ノ果てのクリシェ

「紅蓮の道」、「蠱惑の牙」から続く逆襲シリーズ最終章です。逆襲シリーズのサブタイトルは全てすみぺ自身が名付けられており、この「絶境の蝶」は過酷な未来が待っているということを示したかったとのこと。

曲自身も大団円という感じではなく、まだ終わらない、苦難は続くぞというメッセージを感じます。歌詞もさることながら、ラスサビのドラムパターンの変化は恐ろしいものが追い立てて来るような感じです。曲最後の和音もなんだか恐慌的ですし、アルバムの最後なのにこのバッドエンド感よ。

しかしこれは2ndアルバム。1stとは異なる面を、挑戦的で深みがあることを示すにはこのようなエンディングも当然かもしれません。

アルバムとしては「ツワモノドモガ ユメノアト」のようなピアノ余韻系で終わるパターンももちろんありますし、なんならそっちの方が馴染み深いところですが、そうせずにもう一度テンションを上げて、押してきた。そこに『20世紀の逆襲』の意味と役割を感じたというと大げさかもしれませんが、そんな具合です。


以上、上坂すみれ2ndアルバム『20世紀の逆襲』のレビューでした。一言ではまとめられぬほどジャンルレスな世界観が詰まった一作です。

その表現の全てはすみぺ自身の「趣味への深い造詣」があるからこそ成立するもので、「上坂すみれ」という人物の魅力、特異性にも通じます。ロリータ趣味、共産趣味、サブカルチャーといった個々の要素として列挙するのは簡単ですが、それらを包括したある種チグハグな表現性こそ唯一無二のキャラクター性。上坂すみれにしかない「謎の引力」です。

とにかく、「上坂すみれ」という表現者が持つ多くの属性が詰まった名盤です。ぜひお聞き下さい。


[文=ヤマダユウス型]


>>上坂すみれ 公式ホームページ
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